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村娘だけど実は勇者の転生者でした  作者: 空豆だいす(ちびだいず)
異世界に飛ばされたけれど私は元気です
132/155

異界化新宿駅 F5(置いてけぼり)

前の話に続いて胸糞注意です!!

 実際、置いてけぼりにするのは無理だった。

 まあ、文句を言わないグループには手籠めにされて精神的・肉体的な被害を受けている人たちがいるため、行軍が遅くなってしまうのは仕方がなかった。

 というか、ついにはリーダー気取りで仕切りだし始める。

 一部の感化された人たちがそのおばさんを支持してしまうので、あたしたちの気力はどんどんと削れていった。


「……」


 あたしがイニシアチブを取るべきなのだろうけれども、あたしと蘭子がオバサンと敵対関係になってしまった以上、コントロールはできなくなっていた。

 朋美や吉岡さんが説得を試みるも、オバサンは聞く耳を持たない。

 結果、声の大きいオバサンに、集団のイニシアチブを取られてしまったわけである。


「さあ、行きましょう!」


 オバサンは、どうやら待機せずに階段に向かうことにしたようだ。

 テンタクルのような、対多数が得意な魔物に遭遇したらどうするつもりなのだろうか?

 まあ、あたしたちが対応せざるを得ないだろうけど。


 案の定、魔物と遭遇するとおばさんがうるさく命令を出してくる。


「さあ、レスリング部のみなさん、倒してくださいね!」

「えぇ……」

「何よ、文句があるっての?」

「……」


 当然ながら、全体のモチベーションは下がる一方である。

 だが、倒さなければ命はないので戦わざるを得ない。

 なので、あたしたちが出ようとすると、オバサン連中が止めに入る。


「生意気なガキがでしゃばるんじゃないわよ」

「ちょっと、どういうつもり?!」

「そっちがどういうつもりなのよ? 大人に口答えするガキには何もさせません!」

「親の顔が見てみたいわ」

「……」


 本当に、彼女らはどういうつもりだろうか?

 吉岡さんはじめ、レスリング部のみなさんは確かに強いけれども、実際強敵を倒せているのは吉岡さんだけである。


「せめて、支援魔法だけでもかけさせて」

「はぁぁぁぁ??? そんなもの、彼女たちには必要ないでしょう? それに、アナタ、さっきから大人を舐めすぎ!」

「きゃっ?!」


 あたしが吉岡さんたちにせめて《光鎧(ライトアーマー)》とか筋力を上げる魔法をかけようとしてもこの様子だ。

 というか、突き飛ばされてしまったし、自分でも思っても見ないかわいい声が出てしまった。


「もう! このガキを生贄にしましょ」

「いや、さすがにそれは……」

「鈴原さんに口答えするんですの?」

「いや、さすがに生贄って……。その子が中心となって私たちを助けてくれたんだし……」

「んまあああああ! クソガキを擁護するってことはアナタもクソガキに違いないわ!」

「うわっ! 何するの?!」

「ふざけんなババア!!」


 蘭子があたしを擁護してくれた女性に対して拘束しようとしたオバサン連中に殴りかかろうとするも、止められてしまう。

 どうやら、オバサンに感化された連中の中にも力のある女性がいたらしい。それも数名。


「ふん、そいつらを縛って、目立つところに放置しておきなさい。私たちが逃げるための生贄にするのよ」


 さすがのあたしたちでも、殺すつもりがない相手で、しかも複数人に取り囲まれてしまえばどうすることもできない。

 あれよあれよという間に、あたしと蘭子、朋美と擁護してくれ女性は縛り上げられて放置されてしまったのだった。

 他の女性たちは集団の方が安全と判断したのか、申し訳なさそうな顔をしつつもあたしたちを助けるでもなく置いて行ってしまった。


「……」

(なんなのあの人たち)


 あたしたちは結構がっちりと拘束されて、壁に貼り付けにされていた。

 武器も取り上げられ、猿ぐつわもかまされているのは、魔法の発動を妨害するためだろうか。


「大丈夫? らんちゃん?」

「……殴ってよかったのなら、あんな連中に捕まらなかったけどね」


 蘭子はにらみつけるも最後まで暴力は振るわなかった。


「エリちゃんも大丈夫?」


 あたしは朋美にうなづく。

 あたしは後ろ手でルーン文字を描いて、魔法を発動させる。そもそも、魔法の名称を言わなくても発動できるのがルーン魔法だしね。

 まずは、安全のために《聖域(サンクチュアリ)》を、次に、意外とがっちりと縛られている拘束を解くための魔法を発動させて、あたし自身の拘束を解く。

 ブチブチっと縄が切れ落ち、あたしは猿ぐつわを解いた。この縄、どこで手に入れたんだろうか?


「みんなの分も解くね」


 あたしはそう言うと、3人の拘束を解く。


「ありがとう。それにしても、本当に魔法が使えるのね……」

「まあ、異界(ダンジョン)限定だけれどね。巻き込んで申し訳ないです」

「いや、大丈夫。あんな理不尽な人たちの行いが許せなかっただけだし」


 この利発そうな女性は、見た目は20代前半だろう。ポニーテールをしており、普通の格好をしている。


「あ、自己紹介がまだだったわね。私は酒井よ。助けてくれてありがとう」

「酒井さん、ですか。私は佐川、こっちが紀里谷さん。で、石橋さんです。よろしくお願いいたします」


 朋美が代わりに紹介してくれたので、あたしと蘭子は頭を下げた。


「それにしても、中学生なのに強いのね。私もけっこう皇居ランとかして体力を作ってはいるけれど、敵わないわ」


 あの、悪辣なオバサンと違って、いい人そうである。まあ、あの理不尽な悪意ある集団から勇気を出してあたしをかばってくれたぐらいだから、当たり前か。


「いえ、かばってくれてありがとうございます」


 あたしは改めてお礼を言った。


「それにしても、あのオバサン、どういうつもりなんだ? あーしらを放逐して、このダンジョンを攻略できると思ってるのかねぇ?」

「吉岡さんさえいれば問題ないと思っているんじゃないの? あの人だけ規格外だったし」

「あー……。で、盾突くあーしらを排除して、自分の手柄にしたかった感じかな?」

「いや、たぶんあのおばさん、私たちが気に食わなかったから排除したかったんじゃないの? 言動が意味不明だったし、私と吉岡さんが説得しても効く耳持たなかったし」


 朋美の指摘に、あたしたちは納得するしかなかった。


「まあ、考察しても仕方がないわよ。早く追いつかなきゃ」


 酒井さんがそう提案するけれども、あたしは首を横に振った。


「いや、追いつく必要はないわ。どっちみち、追いついたところで同じことが起きるだけですしね」

「……確かに」

「それに、吉岡さんたちレスリング部の人たちはともかく、あたしたちを見捨てた人たちを助ける義理はないわ」


 あたしは別に聖人君子ではない。あたしたちを排除した以上、彼女らはゴブリンに並ぶ敵でしかなかった。


「うーん……」

「少なくとも、あのオバサンの仲間連中は助ける気はないってことです。全員顔は覚えましたしね」

「まあ、あの人たちは仕方ないか」


 酒井さんも、あのオバサンを見捨てることには同意してくれたようだ。


「しばらく休憩したら、先に進みましょ」


 こうして、あたしたちは助けた人たちと別れて異界(ダンジョン)を攻略して脱出することになったのだった。

本当に怖いのは人間ということですね。

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