異界化新宿駅 F5(ストレス)
胸糞注意です!
人間の悪役を出しておきたいなと思って出しています。
その後、あたしたちは順調に探索を終えて、地下4階まで到達した。
このころには、助けた人たちのストレスが溜まっており、不安と不満が爆発寸前の様相を呈していた。
「ちょっと! 痛いじゃない!」
と、金切り声を上げる人もいれば、移動中に誘導するあたしたちに突っかかってくる人も出てきた。
「なんで中学生の言うことを聞かないといけないのよ!」
実際に先陣を切って戦っているのはあたしたちだし、こうでもしないと安全に脱出をすることができない。
ただ、あたしたちでもこの異界が何階構成になっているかは把握できてなかった。
魔法でも、全体探知をできるのは今いるフロアのみになっており、どうやら魔術的にも独立しているように感じる。
「……いいかげん、ああも突っかかられるとこっちまでストレスたまるわね」
蘭子がキレそうになっていた。
蘭子は元不良なだけあって、凄味があるのか蘭子がひとにらみすると黙ってしまうが、それでも黙るだけで不満は解消されないようである。
あたしたちと女子レスリング部のみなさんのおかげで、安全が保障されてしまったからだろうか?
女子特有のぎすぎすした人間関係が、まだ脱出できていないのも関わらず構築されつつあった。
「ねぇ」
「なにかしら?」
不満を持つグループとそうじゃないグループの2つに分かれており、そのうちの不満に思っているグループの一人が休憩しているあたしに声をかけてきた。
「なんであんた、休憩しているの? 強いんだったらさっさとこの変な空間から私たちを脱出させなさいよ!」
金切り声がうるさい。
顔を見ると、かなり化粧が濃く見える。
確か、助けた人の中でもいの一番に逃げてた人だったように思う。
「いや……」
「中学生だからって私たちを舐めてるの?! あんたたちの仕事は私たちを無事外に送ることでしょう? だったら休んでる暇なんてないでしょ? それに、あんた気に食わないのよね! 何その態度! 中学生だからって私たちを馬鹿にしているわよね! 安全に移動するためにって何時間も放置してそもそも危険なんかなくて遊んでるだけなんじゃない? あーやだやだ、どうして私たちがこんなガキのいうことを聞かないといけないのかしら? 私が力があったらすぐにでもここから脱出するのにね!」
「……」
「なんか言ったらどうなの?!」
「おい、オバサン!」
この人が不満グループをあおっているんだろうなというのがよくわかる。
こんな大人、助ける必要があるのかと一瞬脳内をよぎる。
蘭子が胸倉をつかまなかったら、まだ攻略しきっていないこのエリアのどこかに放り投げてもよかったと思ってしまった。
「エリやあーしたちがあんたらのために、安全を確保しているってわかって言ってんだよな?」
「な、なによ……!」
「あーしらは命がけでやってんのに不満をだらだらだらだらくっちゃべりやがって! それも、一番頑張ってるエリに!」
不良っぽい蘭子には詰め寄られて閉口する弱い人間なんだなと思うと、あたしは興味を無くす。
「いいよ、蘭子。そんなどうしようもない人に時間を使うだけ無駄」
蘭子のおかげで怒りがスッと引いたあたしは、蘭子を止める。
「エリ……」
「おばさん、もう勝手にして。ほら、外は安全なんでしょう? あたしたちより先に階段降りて、先に行っていいから」
「……!」
「おばさんが言ったんでしょう? すぐにでもここから脱出するって」
「ふざけるんじゃないわよガキの風情で大人の私に口答えするとか、親御さんはどういう教育をしているのかしらね?」
「いいから、出て行って」
「はぁ? ガキが大人に何粋がっているの?! あーやだやだこんなクソガキの言うことなんてみなさん聞く必要ないですよ!」
そういって、不満を言うグループはあのおばさんを中心に部屋から出ていく……かとおもったら、出ていかなかった。
実際、襲われてるところを発見して助けたわけだから、本心では外はまだ危険だと理解しているのだろう。
ただ、そんな相乗りはあたしが許しても蘭子が許すはずがなかった。確かに、外はテンタクルやゴブリン、ピンクオーク、その他女性を食い物にする魔物が抽出されたうえで跋扈している危険空間だ。
そこに放り出すということは、殺すということと同意義である。
「なんで出ていかない?」
「ヒェッ」
蘭子が胸倉つかんでおばさんを追い出そうとしている。
「なんであーしたちに相乗りできると思ってるんだ?」
「な、なによ……」
「できると思ってんのかって聞いてるんだよ!」
「なによ! わざわざ危険を排除させてやってるんだから、大人に文句言わないでよ!」
「何様だ、アンタ?」
「ガキはおとなしく大人の言うことを聞いていればいいのよ!」
「……」
あまりにもあまりな言動に、蘭子はドン引きしてしまう。
おばさんの周囲にはそれに賛同しているように見える。
「そうだそうだ!」
「不良だからって、私たちの命をなんだと思ってるんだ!」
「義務を果たせ!」
なんだこいつら。
「えりちゃん」
と、あきれていたら、吉岡さんが話しかけてきた。
「申し訳ないけど、彼女らはこの階において行こう。どうやら彼女たちにはあたいらの助けは不要みたいだからね」
要は、見捨てるということである。あたしとしては異存はないし、そもそも、階はクリアしているんだから、追ってくるならば確かに安全だろう。
それに、どのみち追いかけてきそうである。というか、ついてきそうである。
しかし、本当にどういう神経をしているのか、あたしには理解できなかったし、こういう大人になりたくはないなと感じた出来事だった。