中学校野球地方大会 予選Bブロック試合
中学校野球の全国大会は高校野球ほど有名ではないけれども、見ている人は見ているらしい。
シーナ時代のあたしでも、あまり気にしてなかったように思う。まあ、中学校の時は帰宅部だったみたいだし。そういうわけで、野球部の応援に行くのも実際初めてだったりする。
「てか、あたし、何気に中学校の野球部のほとんどが軟式野球だってこと自体初めて知った気がする……」
全国中学校体育大会の一環で実施され、8月中旬に高知県の安芸市で行われる全国大会に出場するために、各都道府県でブロックに分けて行われる地方予選の結果を受けてトーナメント表が作成されるらしい。東京は4チームずつの10ブロックに分けて予選を行い、ブロックで勝ったチームが地方トーナメントに進出、優勝チームが全国大会に出る流れのようである。
「……まあ、部外者だしあってるかはわかんないけどね」
とにもかくにも、十代のチームの全国大会を賭けた試合である。
軟式野球のルールはわからなくても、十代がボールを打ち返して勝てるように応援するのがあたしたちの役目だった。
野球場は都内といっても23区外の野球場を使うみたいで屋根はない会場だった。
選手宣誓が終わり、試合が始まる。観客席は応援団っぽい人たちや、父兄やマニアといった人たちぐらいしか集まっておらず、結構閑散としていた。
「あんまりお客さんはいないのね」
「まあ、地方大会だしね。そもそも、軟式野球だし、あんまり人気はないのかもね」
「そうなんだ」
とはいっても、使っているボールが違うだけで野球には変わらない。
4回で最終回になり、相手よりも1点でも多く得点していれば勝ちなので、みんな気合が入っているように見える。
とはいえ、1回表では十代のチームは守備で、十代の守備はライト。そこまで出番はなく、相手チームのフライをキャッチして終了。1回裏は攻撃側になるものの、3者凡退でチェンジ。2回表で2安打の末3塁まで許すものの、なんとか1失点で抑える感じで2回裏になる。十代の出番だった。
「じゅうだあぁぁぁあああい!!! がんばれえぇええぇぇぇぇええええ!!」
朋美が声を張り上げる。
あたしたちも負けじと応援をする。
「十代!!!!」
「頑張りなさいよ」
あたしたちの声援に気づいてか、十代は照れくさそうにこっちに手を振ってくれた。
1投目……ボール。十代はバットを振らずに冷静にボールを見ていた。
2投目……ストライク。結構低い位置でボールが横にカーブしたように見えた。十代も気づいてバットを振ったけれども当たることなくキャッチャーのミットみボールは吸い込まれていった。
3投目……ボール。十代がボールを回避したので、結構近い位置だったのかもしれない。
4投目……カキーン!っと小気味いい音を立てて十代がボールを打ち返した!
「やったああぁあぁー!!!!!」
「打ったわね!」
十代が打ったボールは伸びて、フェンスの外側に消えていった。ホームランだった。
「ナイスぅ!」
「結構球が伸びたわね」
「細身でも4番打者を任されているだけはあるということね」
ホームベースに戻った十代を仲間のメンバーがほめたたえる。
これで1対1になり、振出しに戻ったわけである。
その後、次の打者が1塁に出て、それぞれが1ヒットをしてさらに2点を獲得してこの回は終了した。
完全に勝利の流れが十代達のチームに来ていることがわかる。
「きゃあああぁあぁぁああぁああああ!!!」
朋美が今まで見たことないくらい狂喜乱舞している。いやまあ、十代が活躍しているのは全然あたしとしても自分事として嬉しいんだけれどね?!
その後も順調に推移していき、次の十代の出番が来る頃には勝ち確定な点数を取り、2-7で勝利したのだった。
次の試合の間、あたしたちは十代に声をかけに向かう。
「おお、来てたか」
「来るって言ってたしね」
「大活躍じゃない!」
「まあ、相手は格下だったしな。負けるわけにはいかないんだよ」
「そうなんだ。どちらにしても、十代のホームランで流れが変わったと思うし、良かったと思うわよ」
「まあな」
十代が異界探索での戦闘であれほど活躍できるのも、このポテンシャルが基礎となっているからなのだろう。軟式ボールとはいえ、かなり速いスピードで飛んでくる球を真正面から的確にとらえて、真芯で打つという芸当を考えれば下地としては十分だろう。そして、十代は戦いに関するセンスがあるのだ。
あたしは十代の活躍をたたえながら、そんなことを考えていた。
それから、もうひと試合ありあたしたちは十代と合流して電車で帰ることになった。
十代は人気者で、マネージャーの女の子からも結構声を掛けられていたけれどね。
その様子に、朋美が頬を膨らませてムスッてしているのが面白かった。
野球に関する内容が正しいか不安だったりする。。。
学校名やチーム名については言及しないことでぼかすことにしました。