急な謁見2
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「その物怖じをしない性格、ますます気に入ったぞ、エリシア」
王様はそう言うと豪快に笑う。何を気に入られたのか本当にわからない。あたしは練習の成果を遺憾なく発揮しただけである。別に物怖じしない性格ではない、単に今肝が据わっているだけである。きっとあたしは何が起こったのかわからないような困惑の表情を浮かべていたはずである。逆に王様はニッコニコと笑いながら、あたしに提案をしてくる。
「せっかくだ。先日異世界から勇者を召喚しただろう? ノーウェル」
「はい、お父様」
「エリシアと勇者たちを引き合わせるがよい。そうさな、共に訓練をさせるのもありだろう。良いかな、エリシアよ」
「え、あ、はい」
訓練は嫌であるけれども、この王様に逆らうのはもっと嫌である。まさに「YES」か「はい」か「ごもっとも」状態である。単純にいきなり名指しされて「はい」と言ってしまっただけとも言えなくも無いけど。
「ノーウェル、引き合わせるのはいつが良いかな?」
「明日でもかまいませんよ。訓練をさせるならば早目が良いかと思います」
「そうか、では任せた」
王様は満足したようにそう言った。どうせ、前世のクラスメイトだし、勇者様と会うのは良いけれども一緒に訓練は気が重い。まあ、いきなり召喚されて魔王を倒してくれなんて言われても困るわけだけれどね。
「せっかくの謁見だ。我輩に聞きたいことは無いのかな?」
王様はニコニコしながらあたしを見てくる。そう言うならばせっかくだし、聞いてみようかな。実際のところ、気になるところもあるし。
「お……陛下、あたしは『世界を救う存在』としてここに呼ばれたと考えています。ですが、あたしは何から世界を救えば良いのでしょうか?」
女神様からあたしは直接聞いているので知ってはいるけれども、どこまで知ってるのかについては依然不明なままであった。なのでこう言う公的な場で直接聞いた方が手っ取り早いかなと思ったのだ。
王様はあたしの質問に、「ふむ……」と言うと、腕を組んで少し考える。
「良いだろう。預言者ディアロスよ、説明をしてくれ」
王様がそう言うと、預言者ディアロスと言う人物が出てきた。彫りの深い顔をした爺様で、長いローブを着込んでいる。目つきは鋭く、悪の魔法使いと言われても納得してしまう容姿である。そして、一番の特徴はその長い耳である。その長さに垂れてしまっているが、フードを被れないのはそれが理由だろう。あたしの中でこの人の種族をエルフ族と勝手に認定した。
ディアロス爺様は王様に恭しく敬礼をすると、あたし達の方を向いた。
「ふむ、《英雄》【聖剣の鞘】、【魔女術】、【勇者になる運命の者】、エリシア・デュ・リナーシスか」
一目であたしの隠匿したスキルまで当てられてしまい、あたしは固まってしまう。と言うかおい待て、【勇者になる運命の者】とはどういうことだ。
「エリシアは知っていると出ているが、まあ良い。王も公表すべきだと決めたのだろう。ならば私が発表するのもまた運命よ」
ディアロス爺様はクツクツと笑うと、水晶玉を取り出す。そして、魔力を水晶玉に流し込んだ。すると、声が聞こえてきた。頭の中に聞こえてくるような声である。
【魔の神が蘇るため、供物を求めんとする】
【魔の王はそれを捧げる者なり】
【その数40】
【40人の勇者を集めよ】
【さもなくば全ての人の世は消えて無くなるだろう】
その言葉に謁見の間は一気に静かになってしまった。まあ、そりゃそうよね。邪神が復活して、魔王が40人出現するなんて言われたら。
「と言うことだ。その様子だとエリシアはやはり知っておったか」
あたしの顔を見てそう判断する王様。え、そんなに平然としていたかしら。まあ、知っていたから驚きは少なかったけど。とりあえず否定はしておこう。
「いいえ、初めて聞きました」
シレッとそう言う私にやはりニヤニヤあたしを見る王様。チラッとティアナを見ると、顔が青ざめていた。ああいう顔をすべきだったのかと、あたしは納得した。それは知っているがゆえに青ざめるなんてことは出来なかったのだ。
「預言者ディアロス、下がって良い」
「はい、失礼します」
まあ、あたしも思ったよ。たくさんの魔王が出現するって。でも、40人かぁ。一人1殺の計算かしら。あたしが魔王を倒せるとは思わないけど。
「エリシア、他にあるか?」
「じゃあ、召喚された勇者様の数は40ですか?」
あたしの質問に、ノーウェル様が答えてくれた。
「いいえ、35名でしたわ」
35名、確か女神様が言ってたのは40人召喚がされていたはずである。一体何がおきたのか、気になるところではある。あたしの疑問を感じたであろうノーウェル様はこう続けた。
「異界人は愚かでしたと、申し上げておきますわ」
あたしは《異界人》と言う侮蔑を込めた言い回しに、戸惑いを感じた。勇者様ではなく、《異界人》である。まあ、これに関して聞くのはヤボなので、置いておくとしよう。あんまり厄介ごとに首を突っ込んでも損なだけである。すでに女神様から超弩級の厄介ごとにに強制的に首を突っ込まされているのだ。これ以上増えても面倒なだけである。
「ありがとうございます」
あたしはそう言って、ウィータさん仕込みの礼をする。それに、ノーウェル様はにっこりと笑って礼を返してくれた。
「エリシア、他に質問はあるか?」
「うーん、これ以上はありません」
「そうか」
王様は満足げにうなづいた。それを見て家臣の人がこう宣言する。
「エリシア、ティアナ、両名ともご苦労であった。陛下から本日は場内に泊まることを許可されている。本日は下がってよい」
「はっ!」
おっさんはそういうと、あたしたちを連れて謁見の間から下がることになった。
謁見の間から出ると、あたしとティアナは足が笑い出す。お互いに抱き合いながらその場にへたり込んでしまった。
「ききききき、緊張したね!」
「そ、そそ、そうだね、エリシア!」
「ティアナ殿は緊張したように見えたが、エリシア殿はとてもそうは見えなかったのだが」
おっさんはそういうと、安心したように一息ついた。
「まあ、なんにしてもこれで一安心だな。今日はゆっくり休むと良い。沙汰は明日、連絡が来るだろうからな」
そう言うと、おっさんはあたし達を残して去っていった。あたし達はと言うと、待機していたメイドさん部隊に連れられて部屋に戻って行ったのだった。
部屋に戻って、メイドさんにドレスを脱ぐ手伝いをしてもらっている最中だったけれど、あたしは自分のしていた手袋の手のひらの部分と、ドレスの腋の部分がぐっしゃりと濡れていて恥ずかしい気持ちになったのは言うまでも無かった。
「ふぅ……」
着替えも終わり、メイドさん達が立ち去ったのち、ようやく一人の時間になった。あたしの置かれている状況が目まぐるしく変化しており、あたしはただ流されている現状であった。それこそ、エルウィンさんの言っていた選択の余地なんて無いほどに目まぐるしい。
あたしはゴロンとベッドに横になる。部屋着ではなくドレス姿だが、まあ良いだろう。
改めてとんでもない事態になってしまったなとつくづく感じてしまう。
今の時間は時計を見ると4時半を指している。寝るには早い時間だし、疲れているとはいえ、頭はバッチリ冴えている。
うーん、……どうしようかな?
聞いた話では会食の時間である6時までは自由時間だそうだ。1時間半と言う中途半端に空いた時間をどうしようか手持ち無沙汰である。
コンコンッと扉がノックされた。と同時にエルウィンさんが入室してきた。
「失礼するよ、エリシア」
「エルウィンさん」
エルウィンさんは近場の椅子に座る。
「陛下との謁見はどうだったかな?」
「そりゃあもちろん緊張したわ。本来ならあたしが会う事はないはずの人だしね」
あたしに前世がなければ、ただの村娘で終わってたはずである。いや、天使様の話ならばあたしはそもそも流れたんだっけか。
ただまあ、あんな威厳たっぷりな人の前に出て緊張しないほうが人間としてどうかしているとは思うけれどね。
「陛下は【アスガディアリティナ】に選定されたお方でもあるからね。ただ、緊張していたとは言えあそこまで胆力があるとは思わなかったよ」
エルウィンさんは驚いた様子でそう言う。
ちなみに、【アスガディアリティナ】とはこの国の創生神話に出てくる現存する国宝の聖剣である。カリバーンと同じ王を選定する機能を持つ剣らしい。この剣の選定を受けたものが、次期王となるとかなんとか。
「そうかしら? あたしとしては緊張でガチガチだったんだけれど……」
「それは側から見てても伝わってきたよ」
エルウィンさんは苦笑しながらそう断言した。実際、脇汗がすごかったもんね。あたしもドレスを脱いでてびっくりしたもの。
「それでも、堂々と陛下と会話をしていたのを見て、《英雄》とはこう言うものだなと改めて感じたよ」
「むぅ……あたしだってなりたくてなったわけじゃないし」
「女神様の祝福とは往々にしてそう言うものだよ。そして、その祝福を受けた以上は恥じない行いをするべきだしね」
ノブリスオブリージュと言うものだろうか?
あたしは貴族でもなんでもないので、関係ないけれど……。
「……エルウィンさんは、ご自分の祝福に恥じない生き方をしているの?」
「そうありたいと思って行動しているよ。実際、この国でも貴族の腐敗と言うものは存在するしね。私はそれを正したいと考え、行動しているのさ」
「ふーん……」
ご立派な人である。顔もイケメンだし心までイケメンときた。さぞかしモテそうである。
「エリシアも、祝福に恥じないような選択をしたらいい」
「現状、選択の余地が無いけれどね」
「それも選択の一つだよ。ただの少女であるエリシアには《英雄》なんて重たい使命だ。背負いきれなくなったら、いつでも私に相談するといい」
「……うん」
あたしはエルウィンさんの真摯な瞳に、頰を火照らせながらうなづくしかなかった。
普通の村娘が王様と謁見してここまで堂々としているのはおかしい。