痕跡
あたしは、朋美に持ってきてもらった道具を使い、消した魔法陣に上書きを行う。【門】を消すのは魔力がなさ過ぎて不可能だし、異世界転生を望む魂との癒着が激しくて、それが困難にしていた。だから、正しい魔法陣を描きなおし、【門】を封印する必要があるのだ。
「チョークでよかったの?」
「うん、全然大丈夫」
魔法陣をチョークで上書きし、現場検証で用いられている人をかたどった白線を除去する。
生贄になっちゃうから邪魔なんだよね。
血をふき取るために部屋も掃除をしてからの魔法行使になる。
「……よし」
あたしは、門を固定化する内容と、その門を固く封印する内容を魔法陣に記載する。
消すことができないならば、あやふやな状態にするのではなく固定化したうえで封印するのが一番安全である。
「じゃあいくわよ、みんな、ちょっとどいてね」
あたしが言うと、みんなが魔法陣から離れてくれる。
空中に木刀でルーン文字を描く。ルーン魔法は文字さえ描ければ発動するのがポイントだ。
「《封印》!!」
あたしが魔力を魔法陣に流し込むと、あやふやな感じだった【門】が固定化され、鎖が【門】に巻き付いて封印をすると、魔法陣に溶けていく。
「……」
あたしがその様子を見ていると、不意に【門】が叩かれた。
ドンッ!! ドンドンッ!! ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンッッ!!
「な、なに?!」
「扉が叩かれてるってこと?!」
その執拗なノックに、あたしすらも恐怖を感じてしまう。
というか、【門】の向こう側から漂う気配に、あたしは恐怖のあまり腰を抜かしてしまった。
魔法はすでに執行されてしまったので、やすやすと封印は解けるはずもないのに、【門】の向こう側の存在に恐怖してしまったのだ。
「なに? なんなの?!」
「向こう側のなんかやばい奴がこっちに来ようとしてんのか?」
その場にいる全員がおびえていたと思う。十代もバットを握りしめていたけれども、恐怖していた。
そして、【門】のほとんどが魔法陣に埋まりそうなとき、声が聞こえた。
「あと少しだったのに……」
そう言い残して、【門】は封印された。
全員が唖然とする中、あたしは声の主に驚愕するしかなかった。
だって、【門】の向こう側から自分の声が聞こえてきたら、困惑するしかないだろう。
【魔物エリシア】が残りの欠片であるあたしを捕まえに来ていたのだ。完全になるために。
・・・・・・・・・・・
正気に戻ったあたしたちは、教室を後にすることにした。
【門】が封印されたと同時に、今まで外の光景が見えなかった窓が夜明け前の光を受け入れ始めたのだった。異界化は解かれた。
ただ、勝利の余韻はなく、全員がへとへとになっていた。
教室を出るとき、不意にあたしは気になることがあり、振り返る。
異界化が解かれ、もとの教室に戻った3-Cに、小さいけれども魔力を感じたからだ。
「エリ?」
「蘭子、先に行ってて。ちょっと気になるものがあるの」
「じゃあ、教室前で待ってるわ」
「ありがと」
魔力の痕跡はあるが、微かにと言った感じだった。
だけれども、確かに【門】とは異なる魔力の痕跡を感じることができた。
「これは……」
その痕跡の元は、教壇の下にある石ころだった。
丸く、綺麗な石ころだけれども、微かに魔力を感じる。
おそらく、調査の時に残っていたのは、ただの石ころだと思われて見過ごされたからだろうか?
この石ころは、なんだかあたしにとって必要になる気がした。このあたしは元の世界に未練はないけれども、あたしにとって重要なものだと直感が働く。
「……変なの」
青く透き通った魔石。そんな印象だ。よく見ると、模様が入っていることがわかる。
それは、あたしの世界でよく使われている魔術の文様であった。
「なんでこんなものが教壇の下にあったのかしら?」
あたしは、あたしの世界の痕跡をポーチに入れると、みんなを追って教室を後にしたのだった。
幼馴染と出会う展開はもうちょっと後になります。
というか、展開が大幅に変わるので、以降は削除します。
よろしくお願いいたします。