晄ヶ崎
晄ヶ崎は一見すると普通のベッドタウンである。
晄ヶ崎から区内に通勤している人も多く、晄ヶ崎から立川駅まで一本で行ける。中央線とは別の線になるため、乗り換えがちょっと歩く点が難点だといえるが、住みやすい街に変わりはなかった。
ただ、今現在は明らかに空気がおかしかった。
「さて、エリちゃん、らんちゃん、さっそく学校にいっちゃおうか?」
朋美がそう聞くと、蘭子は腕時計を確認する。つられてあたしも確認すると、まだ11時ぐらいだった。
「そうね、学校の様子見て、そっからカラオケでもしよっか! ……なんか感じ悪いし立川に戻ってから遊んでもいいしね」
あたしはうなづいた。
「そうね。今回は下見だし、そんなに気負っても仕方ないしね。立川で遊びましょ!」
そういうわけで、あたしは当たり前のようにバス停に向かう。
36番の西鉄のバス停で待っていれば、都立高校前まで行けるはずだ。
「……? エリってここに来たことあったっけ?」
「無いけど」
「スマホも見ずにまるで分ってるかのようにバス停に向かったから」
蘭子にそう言われて、そういえばそうだなと感じた。シーナの記憶があるとはいえ、まるで日頃の習慣のように都立高校前行きのバス停に向かうのは、変である。
そもそも、ようやくバスに慣れてきたあたしが、初見の土地で地図アプリも見ずにどこで待てばいいのかわかっているのが変なのだ。もしかして、シーナの習慣?
「……まあ、事前にしらべてたしね」
あたしはその言葉で誤魔化すことにした。
バスで移動している最中は、普通にガールズトークに花を咲かせていた。
朋美や蘭子が中学校でどういう生活をしているのかとか、施設外の友人との関係はどうだの、そういう普通の話で盛り上がる。あたしからは特に話すことはないけれども、話を聞いている分には楽しいので普通にリアクションをしている感じだ。
そうこうしているうちに、都立高校前に到着する。
窓の外から見ても、校門前には黄色いテープが張られており、警察官が見張りをしていることがわかる。
「ここが、晄ヶ崎都立高校ね」
蘭子がそういうと、あたしも都立高校を見る。そこには、なつかしさというか郷愁というか、そういう感情と、【門】のそばであるためか重圧を感じていた。
「まだ、解体されてないんだね」
「確かに、工事がある場合は周りに囲いができるものね」
朋美と蘭子がそういう。
確かに、新宿でも工事中の場所はどこ会社が請け負っているとかそういう記載の書かれた看板や建物を囲うような板、そして鉄製の足場が設置してあるものだが、都立高校跡にはそれがなかった。
つまりは、現状解体工事のめども立っておらず、閉校になっているにもかかわらず放置されている状態であったと推測できる。
「蘭子、晄ヶ崎高校が閉校になったのっていつだっけ?」
「2か月前ぐらいね」
「じゃあ、まだ解体業者の選定中かなのかな?」
「そこまではわかんないわよ」
あたしたちが、そんなことを話していると、警備をしていた警察官っぽい人が話しかけてきた。
「君たち、何してるの?」
「え、どうしたんですか?」
「いや、君たちわざわざ廃校になったこの学校跡地に何の用かなと思ってね」
「友達が行きたかったって話を聞いて、どんな感じになっているのか様子を見に来ました」
「……? なんで?」
あたしの言い訳に首をかしげる警察官。
「どちらにしても、立ち入り禁止だよ。ニュースで聞いているかもしれないけど、ここで異世界転移なんてできるわけないからね」
あたしたちを排除しようとする警察官。
「あ、すぐ帰るんで、写真だけ取っていいですか? 友達が見たいと言ってたんで」
「……」
警察官は困った顔をすると、こう答えた。
「1枚だけだよ」
「ありがとうございます」
朋美は警察官にお礼を言うと、スマホを向ける。
あたしも、意識を高校に向ける。
3-Cの位置は正確にはわからないけれども、【門】の位置は感じ取れた。そして、あたしはスキルで【門】の解析を行う。瘴気が漏れ出しており、かなりまずい状態でありそうなこと、こちらから【門】を開くためのエネルギーが十分であることが分かった。
細かい構造に関してはさすがに直接見てないのでわからなかったが、力の流れや瘴気の具合から見ても間違いなさそうであった。
「エリちゃん、何かわかりそう?」
「うん、【門】の状態は、誰かが後ろから押せば開きそうな状態になっていると思うわ」
「……たしかに、裏路地とかに入った時に感じるヤバい空気がこの学校に漂っているわね」
魔術の素養のない二人ですら感じられるほど、やばい状態なのは事実だった。
写真を撮ったので、仕方なく、警察官に促されるままに学校跡地を後にする。
「で、どうするよ?」
あたしたちは近くにあるサイゼに入ることにした。
そこで、今後のための策を練ることにしたのだ。
「実際、あの場所を見てヤバいってのはよくわかったわ。エリはあれをどうにかできるの?」
「……できないことはないかな。まだ開いていない以上は鍵をかけるぐらいはできると思う」
根拠は【魔女術】であるけれど、言うことはできない。
ただ、魔法を発動させるための魔力が圧倒的に不足してる以上はそれしか出来ないと言うのが正しいのだ。
「でも、直接【門】に接触する必要があるから、侵入しないとダメね」
「なるほどね」
簡単な話だけれども、見張りがいる以上は難しいだろう。
せめて見張りがいなければ簡単なのにと思う。
「ま、今日は様子見だし、次来た時はちゃんと計画立ててやろっか」
「そうね」
蘭子の言葉にあたしはうなづく。
「必要そうな写真は何枚か撮影できたしね!」
撤退を促された時に、周辺の撮影は朋美がばっちりしていた。なので持ち帰って検討ができるわけである。
「それじゃ、立川に戻ってカラオケ行きますか!」
下見が終わったあたしたちは門限まで遊んで帰ったのだった。
次回から通常ラインの改稿になるかなと思います。