潜入計画
あたしたちは立ち話もアレなので、談話室に移動する。
少し長い話になりそうだったしね。
「で、どこから話せばいいのかしら」
「そうだね、エリシアさんが焦っている原因について知りたいかな」
小南がそういう。
そういえば、口にして説明をしていなかった。
「わかったわ。簡単に言えば、晄ヶ崎都立高校の3-Cがあった場所に、地獄みたいな世界とつながる門、みたいなものが出現する可能性があるの」
「地獄みたいな世界とつながる門?」
「……ファンタジー小説みたいな」
あたしはうなづく。
そもそも、状況の理解は求めていない。それぞれがわかるように解釈してもらえるのが一番だと思うからだ。
「で、この門を開くためには、縁と門を開くためのエネルギー、すなわち魂が必要になるわけね。【縁】は晄ヶ崎都立高校の3-Cでは異世界と繋がったことと、あたし自身。そして、【エネルギー】は自殺者の魂ということになるわ」
「なるほど、F〇teの魔術的な感じでいえば、【異なる世界と繋がった場所】だから晄ヶ崎都立高校の3-Cというわけだ」
小南が物分かりがよくて、ちょっとびっくりした。
「そういうわけ」
「じゃあ、縁のもう一つに挙げた【エリシアさん】というのはどういうことだい? もしかして、地獄にはエリシアさんと縁のある誰かがいるわけかな? 決戦魔術英霊召喚にも英霊を召喚するには英霊と縁がある聖遺物が必要だしね」
「……え、もしかしてこの世界にそんな魔術があるの???」
「ないわよ!」
「小南くん、FG〇にはまってて、関連アニメや考察動画を見漁ってるからね」
「そ、そうなんだ? まあ、あたしの魂と関連のある悪いものが地獄にいて、そいつがやってくると思えば話は早いかな?」
「なるほどね。前世の縁とかそういうものがあるのかな? おもしろい」
「面白いじゃなくて、そいつがこっちに来たら迷惑だから、【門】が開く前に止めたいって話をあたしはしたいのよ」
実際、【魔物エリシア】は魔王に匹敵する強さを持っていることは確信できる。【勇者エリシア】でさえ、自分でいうのもなんだけれど、とんでもない強さなのに、それが地獄の怪物を蹴散らして生存しているのだ。あたしの持っているほぼすべてをさらに地獄で鍛え上げたものが来るならば、それはもう魔王が現代社会に召喚されるに等しいだろう。
こっちの世界の神様は何をやっているんだという話である。
「で、その【門】があると仮定して、どうやって塞ぐの?」
朋美の疑問に、なぜだか得意げに小南が答える。
「魔術的に考えるならば、【門】を開くためのエネルギーを別のものに使うか、そもそも【縁】があるエリシアさんを【門】に突入させるかのどちらかが一番簡単な解決方法だろうね」
「ちょっと、小南!」
「も、もちろん、エリシアさんに犠牲になってほしいわけじゃないさ! ただ、一番簡単に思いつくのが2つだったわけでね……」
「まあ、だいたい合ってると思うけれど……」
あたしは小南の推測に若干あきれながら肯定する。
「ただ、実際に【門】を見てみれば、別の方法を思いつくかもしれないのよ」
あたしのスキルである【魔女術】はこの世界でもちゃんと発動することは証明済みである。制限がかかっているのは他のスキルだけである。ならば、魔法の一つである異世界に繋がる【門】も、解析することができるはずだ。あたしだって死にたくない。勇者としての矜持だとかそんなものはあたしにはないけれども、生きていたいという願望はある。
だからこそ、無茶は承知で【門】を封じる必要があるのだ。それがただの時間稼ぎに過ぎないとしても。
「なるほどね。じゃあ、晄ヶ崎高校に侵入する必要があるわね」
蘭子の言葉にあたしはうなづく。
「周辺は警察が見張りを立てているとおもうから、見つからないようにしないといけないわね」
「それで、エリちゃんの不調が改善するならば、試してみる価値はあるわね」
「まじか」
「興味深いし、僕たちも同行しよう。十代にも声をかけておくよ。彼は話を聞いたらノリノリになるだろうしね」
「まじか」
輝明が「まじか」を連呼しているけれども、あたしはみんなの優しさに嬉しくなってくる。
十代が部活から帰ってくるのを待っている間、あたしたちは晄ヶ崎高校に侵入するための情報収集を行うことにした。
今日は土曜日。
それも、まだ午前中である。
輝明と小南は得意のパソコンで調べる係、あたしと朋美、蘭子で現地視察を行うことにした。
「まあ、よく考えたら、立ち入り禁止区域に侵入って実際ワクワクするよな。侵入するためのツールとか無いかさがしてみるわ」
「僕は魔術的な観点から考察と調査を行うよ」
「じゃあ、あーしたちで現地調査すっか。二人ともそれでいいよね?」
「うん」
あたしたちはうなづいた。
というわけで、あたしたちはいつものように変装し、着替えて街に繰り出すことにした。
晄ヶ崎都立高校は【児愛の家】からドアTOドアで1時間、中央線で乗り換えていく必要がある。
東京都心部に比べれば田舎だけれども、あたしの感覚でいえば十分都会である。閑静な住宅街に利便性の高いように大型のショッピングセンターがあり、バスがちゃんと運航している晄ヶ崎に、あたしたちはやってきたのだった。
「晄ヶ崎駅って結構遠かったね」
「まあ、中央線から乗り換えるから仕方ないわよ。基本的に23区内しか行かなかったしね」
「……」
晄ヶ崎駅に到着してから、あたしは胸のざわつきが一段と強くなったのを感じた。
今回は実際に高校跡地には侵入せずに様子見だけだけれども、【門】が近いからか何か不穏な空気も感じていた。
それは、あたしだけじゃなかったようだ。
「それにしても、なんか空気悪いわね~。立川だと結構区内よりもきれいな空気だなって感じたのに、不思議」
「改めて、エリちゃんの言ってることが正しい感じがしてくるね……」
実際、耳をすませばサイレンの音が聞こえてくるし、良くないものがすでに漏れ始めているのかもしれなかった。
「なんにしても、まずは【門】を見に行かないと始まらないわ」
手持ちに武器は存在しないし【聖剣】も無いから不安だけれども、あたしたちは晄ヶ崎を散策することにしたのだった。
間を書いてて思うのが、当時の自分は第三章書くのはあまり乗り気じゃなかったんだなと感じますね。
早く終わらせたかった感が出てるのがわかります……。
たぶ、、ボリュームは普通に跳ね上がると思うので、もう少々改稿をお待ちいただければ幸いです。