団結
追記部分どんどん長くなっちゃってますね。
せっかく出したネームドキャラを使わないのはもったいないので、その辺を変更してます。
ちなみに、こっちのエリシアはフェルギンで体験した経験に関する記憶は持っているけど、体感とかそういうものがごっそりと抜け落ちてて、実感がない状態という感じです。
話の内容は基本的に変えないと思いますが、ギミックとかは思い出しながら書いているので大きく変わる場合があるのはご了承ください。
輝明の部屋に行くと、中から音が聞こえてきた。
すごく懐かしい気がするのは、きっとスマブラをしているからだろうか?
エリシアとしては確かに聞き覚えのない曲だけれど、シーナの記憶から懐かしいと感じるのだろう。
「輝明くん、小南くん、いいかしら?」
朋美がノックすると、しばらくして扉が開く。
「何?」
出てきたのは輝明であった。
名前の漢字のわりに、根暗で引っ込み思案だなという感想である。
「輝明くんってパソコン詳しいでしょ? エリちゃんが悩んでることがあるから、教えてほしいことがあって」
「パソコンの使い方? 学校で……ってエリシアさんは学校行ってなかったっけ」
最初、怪訝そうな顔をした輝明だったが、あたしのことだとわかると少し顔を赤らめつつも後頭部を搔きながら部屋から出てくる。
「エリシアさんが男子を頼ってくるなんて、珍しいこともあるもんだね」
と、言って小南も一緒に出てきた。
どうやら、二人の興味がわいたらしい。
「えっと、不眠症の件、かな? なんだったら僕らが調べるよ?」
「それは助かるわ。そう、不眠症の件になるわね」
あたしが答えると、輝明はうなづいた。
「オッケー、調べてみるよ」
「輝明、エリシアさんは最近心療内科に行ったから、【不眠症】を調べても意味ないと思うよ?」
「あ、そっか。何調べればいいのかな? 特に役に立ちそうなことってなさそうだけど……」
あたしは、調べてほしいことを答える。
「《高校生集団失踪事件》について、何か知っていることはないかしら?」
あたしの言葉に、輝明と小南は顔を見合わせた。
「《高校生集団失踪事件》ってちょっと前に起こった、いわゆる【クラス異世界転移】のこと?」
「え、そう呼ばれているの?」
蘭子はちょっと引いた顔をしている。
一般的には、異世界転移なんて本来ありえないことである。
いや、あたしの世界では勇者召喚のことなんだけれどね。
それこそ、こちらの漫画の世界やオタクの世界の話であって、一般的には夢物語、ファンタジーのお話だ。
「まあね。《高校生集団失踪事件》の直後とか集団自殺があったりしたけど、知らない?」
「あ~、あったわねぇ。あの高校に侵入して、事件の場所で連続して自殺するっていう事件。あの事件のせいで晄ヶ崎都立高校って閉校になっちゃったのよね」
晄ヶ崎都立高校……。
聞き覚えがある。
あたしが発見された場所だし、シーナが通っていた高校だと記憶している。
閉校してしまったという話を聞いて、あたしはなんだか寂しい気持ちになった。
「そうそう、偏差値が53の高校だったから、志望校の一つだったんだけどね」
輝明は残念そうにそう語る。
「……その、連続自殺について何か知ってるかしら?」
「あんまり話したい内容でもないんだけど……」
「お願いしてもいいかしら?」
あたしが輝明に聞くと、答えてくれる。
「わかったよ。えっと、1クラス全員が行方不明になったわけだけど、【クラス単位異世界転移】があったっていう人が出てきたんだよね。確か、Twitterかな?」
「ついったー?」
「SNSの一つで……」
「いや、たぶん聞いてもあんまりわかんないわ。話を続けてくれないかしら?」
「あ、うん、ごめん」
輝明は軽く謝ると、続きを聞かせてくれる。
「で、一部では【俺も異世界転移したい】って人が出てきてね。異世界転移オフみたいなことを始めたんだよ。で、休校中だった晄ヶ崎高校の3-Cだったかな、その部屋で集団練炭自殺をしたのが始まりなんだ」
なんて自分勝手な連中だろうと、あたしは思った。
そもそも、勇者召喚も大概自分勝手ではあるけれども。
死ねば異世界転移できるなんて、異常な考えだとしか思えなかった。
「異世界で生まれ変わりたかったのかしら?」
「だと思うよ。そこから、自殺サークルだの別の異世界転生希望者だのが晄ヶ崎高校で連続自殺をしてから、閉校が決まったというわけ」
「なるほどね」
「属性も、一般にNEETや無職と呼ばれる人が多かったって話も聞くし、本格的に社会問題になる前に閉校したって感じだったね」
いま、あたしの世界にいる雄大たちにとっては残念な知らせだろう。
帰るはずの学校は消滅してしまっているわけだから。
あたしだって、なんだか寂しい気持ちがするのだ。
「……なるほど」
非常に面倒なことになったものだと感じた。
魔法的にも、確かに異世界転移が起こった場所は意味が発生する。
自殺は何の意味もないのは確かだけれど、その空間に漂う魂を供物にすれば、別世界の扉を作ることができるだろう。
あたしならたぶんできてしまう。
そしてきっと、【魔物エリシア】もそこからあたしを取り戻しに来るのだろう。
「エリ、どうした?」
「……いや、本当に余計な事をしてくれたわね」
おそらく、閉校になった現在も自殺者がいるのだろう。
そして、あたしがあの夢を見た日……【魔物エリシア】とつながった日、その魂は足りてしまったのだ。
本当に、余計なことをしてくれたものである。
「どういうこと?」
「……どう説明したらいいかわからないわ」
「???」
「だって、常識的に考えれば荒唐無稽なことだもの」
「エリちゃん?」
「せっかくだし何を思いついたのか説明してほしいかな」
「……話したらきっと、あたし中二病って思われちゃう」
実際、年齢的には中学校二年生であることに違いはないけれども。
「え、よっぽど荒唐無稽なことを思いついたんだ?!」
「うん、だって、魔法なんて皆信じないでしょ」
あたしがそういうと、全員がぽかんとする。
「……いや、今のエリが切羽詰まっている様子をみるとやばそうなことはわかるわ、よくわかんないけど」
「魔法は確かにファンタジーの世界の話だけどね」
「とにかく、話してみて?」
あたしの様子を見て、話は聞いてくれるようであった。
「……わかったわ」
あたしは、みんなにあたしの見解を述べることにした。
その前に、前提として見せるべきものがある。
「今から、魔法を見せるわ」
あたしはそう言うと、あたしの体内の魔力を練る。
確かに現代日本には大気中に魔力はほとんどない。
ただ、自分の体内の魔力は別だった。フェルギンにいたころのように派手な魔法は使えないけれども、マッチ程度の炎を出すことは、そこまでむつかしい話じゃない。
「《火》!」
掌に炎がともる。
理が違うので、詠唱はいらなかった。
あたしの【魔女術】はまだまだ健在のようであった。
魔法の解析・作成・出力に関する権能であるチートスキル【魔女術】は、現代日本でも問題なく使えるよう、スケールダウンした魔法を使えるようにしていた。
「えっ?! なにこれ?!」
「すごい! 手品?」
「手品にしては、ライター程度だけど……」
それぞれ感想を言う3人。小南くんはびっくりして目を見開いていた。
「まあ、使えるようになったのは最近なんだけどね」
「魔法というよりも魔術って感じもなんだかするけど、すごいよエリシアさん」
とりあえず、これであたしの話を受け入れてもらえる下地はできただろう。
あたしは信じてもらえそうな範囲でこの街に迫っているであろう危機を説明することにした。