異世界の都会で遊ぶ
大幅に内容を追加して、朋美と蘭子に関する内容を増やしました。
もう少し現代社会にもまれるエリシアの内容を追記していきます。
「それじゃ、そうと決まったらエリ。ついてきなさい」
蘭子はそういうと、あたしを園から連れ出すために、手を引いてくる。
ただ、朋美は不安を口にする。
「らんちゃん。やっぱり許可はもらったほうがいいんじゃないかな?」
「どうして?」
「エリちゃんって、一応、高校生集団消失事件の関係者なんでしょ? たまにマスコミっぽい変なおじさんが待ち伏せしていることもあるし、出かけることぐらいは伝えておかないと、トラブルに巻き込まれたときに対応してもらえないかもしれないし」
朋美って結構考えている女の子のようであった。
「……そうね。ともの考えも一理あるわ。だったら、変装していくのはどうかしら?」
「変装?」
「そう。ウィッグを被って、服装も今の感じじゃなくってガーリーな感じに雰囲気を変えてみたらわからないかもしれないわ」
「ウィッグってある?」
「あたし、一応持っているわよ」
ウィッグは黒髪のものを買ってもらっていた。
1月ほど施設にこもっていたとはいえ、病院や警察には同伴して外出する必要があったため、買い与えてもらったのである。
「あー、確かに! たまに外出していたものね!」
「うん。病院とか警察とかいろいろとね」
「なら、服装はとものものを借りればいいかしらね。ともとエリって背格好は近いし」
「いいよー。じゃあ、許可を取ったら着替えようか!」
「そうね」
あたしたちはさっそく、純一園長に許可をもらいに行く。
担任の先生でも問題ないかなと思ったけれども、園長先生が責任者なので園長先生に許可をもらうのが一番だと判断したのだ。
「失礼します」
「佐川さんかな? どうぞ」
園長室の扉をノックすると、純一園長の声が聞こえてきた。
園長は各書類の整理をしていた様子で、あたしたち三人の様子を見ると手を止めてこっちを見てくれた。
「で、何か用かな?」
「エリを連れて外で遊びたいんだけど」
「いろいろとあると思うんですけど、エリちゃんってもう1か月も園から出てないので、一緒に遊びたいなと思ったんです」
「なるほど」
純一園長は優しげな声音でうなづくと、あたしを見る。
「エリシアさんはどうしたいのかな?」
あたしとしては、出れなくても仕方がないと考えていた。
ただ、蘭子や朋美ともっと遊びたいなと思っていたのも事実だった。
元の世界に戻れなくて早1か月。何か重要なものがなくなったあたしはこの世界でエリシアとして生きることに違和感を感じていなかった。
だからこそ、一番仲がいい蘭子や朋美と仲良くしたいと思うのは人情だと思う。
「あたしも、蘭子や朋美と一緒に遊びたいわ。みんなが中学校に行って、その中でリハビリするのも飽きてきたし」
1か月間、あたしのしていたことはリハビリだった。
思っていた以上に筋力が無くなっていて、歩けはすれども半月は車いす生活をしていたほどであった。
病院に行っていた理由も、リハビリに関して検診を受けるためであった。
今ではようやく、以前の感覚と今の感覚のすり合わせが終わり、一人でまともに動けるようになったけれどね。
「なるほど、リハビリの経過も順調だし、佐川さんと紀里谷さんがついているなら問題ないかな」
純一園長はあたしをみるとあたしの顔を覗き込む。
たぶん、あたしの意思を確認したいのだろうと感じた。
「一応注意事項だけど、エリシアさんはまだ体調が戻っていないんだ。そこは二人が面倒を見るんだよ」
「わかりました」
「わかっているわよ」
「それと、夕方には必ず帰ってきなさい。エリシアさんの体力を考えてあげてね」
「そうね」
「わかりました」
園長の注意事項を聞いていると申し訳なく感じる。
主にあたしの体調に関して気を使ったものだったからだ。
あとは、怪しいところに行かない、変な人についていかないなんかの注意事項について説明を受ける。
「……それと、エリシアさんはそのままの格好でいくのかな?」
園長がそう尋ねてきたので、朋美が答える。
「いえ、ウィッグを被って、私の服を貸す予定です。体系的には私とあんまり変わらないので」
「なるほど、それはいいアイディアだ。ついでに、いろいろと必要なものを買ってくるといい」
園長はそういうと、2万円をあたしに手渡してきた。
「あ、ありがとう……?」
「これで、服を買ってきたらいいよ。UNICROならある程度揃えられるはずだからね」
「えぇ~! それはずるくない?」
「……わかりました。紀里谷さんと佐川さんにも1万円ずつ渡します。レシートは必ずもらって、私に渡してくださいね」
「はーい」
園長は蘭子と朋美に財布から1万円ずつとりだすと、二人に手渡しする。
「それでは、失礼します」
「ありがとね、園長!」
「ありがとうございました」
「いやいや、気を付けて行ってらっしゃい」
あたしたちは園長室を後にした。
「それじゃあ、許可ももらったし、おめかしして出かけましょ!」
「そうね」
朋美の言葉に、あたしと蘭子はうなづいて、あたしたちは着替えに向かった。
黒髪ロングのウィッグを被り、カラーコンタクトで虹彩を黒に変える。
朋美のガーリッシュな服装を借りる。
鏡を見たら、あたしの認識ではどこにでもいそうな女子中学生という風貌に変装できていた。
「ずいぶんと印象が変わるわね……。エリって容姿も整っているから、もう少し地味目にしても映えるかもしれないわ」
「確かに……。スタイルもいいし、将来はモデルとかできそうだね!」
「そ、そうかな?」
「うん、きっとそう!」
「あたしとしては、ランコもスタイルいいからそういう仕事に向いていると思うわ」
「……まあね」
朋美の話題をそらすためとはいえ、蘭子がけっこうスタイルとかを気にしているのは知っていた。
あたし以上に16歳とは思えないスタイルをしているので、スカウトされていそうな気もする。
ただ、施設育ちということでお金は出せないので、それで断られているのかもしれなかった。
「それじゃあ行こうか!」
黒髪のウィッグを被り、蘭子に化粧をしてもらい、すっかりエリシアの見た目から日本人の女の子のような姿になったあたしは、朋美の言葉にうなづく。
「わかったわ」
あたしたちはこうして、池袋と呼ばれる都会まで電車で向かうことになった。
電車なんてあたしの世界には存在しないけれども、さすがに知識としてはあった。
「うわぁ……」
電車の止まる駅と呼ばれる場所は巨大な総合施設のような場所だった。
あたしの世界ではこんな巨大な施設、ギルドの施設程はあるだろう。
そんなあたしを不思議そうに見る朋美と蘭子。
「え、もしかしてエリって駅が珍しいとか?」
「これが駅?! ……実際目にすると大きいわね」
「いやいやいや、エリちゃんってどこ出身なの?!」
「……あー、思い出せたら苦労はしないわ」
あたしは、さすがに異世界から来たとは言えずに誤魔化す。
言っても誰も信じてもらえないのだから、いうだけ無駄と言うやつだ。
「エリちゃんはそういえば一部の記憶が無いんだったっけ、ごめんね」
「気にしないで。……どうやらあたしは相当田舎にいたのでしょうしね」
東京は、フェルギン王都をも超える都会だった。
病院にいたときも箱のようなエレベーターには驚かされたし、これがカガクの発展した世界なんだと驚く以外になかったことを思い起こす。
道は黒いアスファルトで舗装されていてほとんどボコボコしていないし、車も何度か乗車したけれども、フェルギンの馬車と比べても揺れないし快適だった。
それに、あたしたち3人の非力な女の子が襲われないほどの治安の良さも驚きである。
あたしはこの世界に来てから驚いてばかりであった。
「え、えっと、池袋に行くには電車に乗ればいいのよね? ……どうやって乗るのかしら?」
あたしの質問に、嫌な顔一つせずに答えてくれる朋美。
SUICAと言うカードを購入してお金をチャージしてもらう。
ここも、驚きポイントなんだけれども、あたしはそれをすんなり受け入れていた。
あたしの世界では《紙幣》なんて認められないからね。
金本位体制と言うやつがあたしの世界の貨幣の特徴だった。
「これから中央線に乗って新宿まで行って、山手線に乗り換えて池袋に行くのよ」
「は、はぁ……」
乗り換え……と言われてあたしはシーナの知識を思い出す。
イメージは、定期便でリフィル王国の城下町まで向かった時だろうか?
定期便は確かに馬車でも乗り換える必要があったので、それと同じなのだろう。
「……すごいわね、カガクって」
「化学のテストで満点とっているエリちゃんがそれ言う?」
「まあ、よく考えたらすごいわよね。エリの出身がド田舎なら、東京に出てきた時の驚きは想像できるわ」
とにかく、あたしにとってこのカガクの発達した世界と言うのは便利ではあるけれども不慣れな世界であったのは間違いなかった。
電車に揺られ、新宿駅で乗り換えてあたしたちは池袋に到着する。
完全にあたしにとってこの世界は異世界に違いがなかった。
「ここが池袋……」
新宿駅と言うのもまるでダンジョンの迷宮のようだったけれど、池袋駅も大差ないと思えるほど迷宮だった。
慣れている朋美や蘭子が居なければ、迷子になってしまう自信がある。
「あ、やっぱり池袋は初めてなんだ?」
「あーしも初めて来たときはこんな感じだったと思うし、こんなもんでしょ」
あたしは二人に手を引かれて池袋を散策する。
サンシャイン通りで買い食いをしたり、あたしの服を選んだり、ゲームセンターでプリクラで写真を撮ったり、カラオケをしたりと言った感じだ。
終始あたしは二人に振り回されるばかりで、ついていくだけでも精いっぱいだった。
「ふふふ、どうだった? エリちゃん! 楽しかった?」
「え、ええ。なんて言うか、すごく新鮮だったわ」
「エリはきっと今まで遊んでこなかったんだね。これからもあーし達と遊んだらいいんじゃね」
「そうだね! エリちゃんは磨けば光るだろうし、もったいないもんね」
ん? なんて言うか二人の話はかみ合っているようでかみ合っていない気がした。
なんと言うかフィーリングで話しているという感じである。
「なんかありがとうね、あたしのために」
「良いって! 私たちも好きでやってるしね」
「うん、まだ一か月だけど、うちら同じ施設の仲間だしね」
にっこりと笑う朋美に、ニッと笑う蘭子。
初めての異世界の都会で、あたしの知っている15歳よりも幼い同い年の女の子たちと遊ぶのは新鮮だったし、驚いてばかりだったけれども楽しかったのは間違いなかった。
シーナの記憶に頼りつつ、なんとかうまくごまかしてあたしは朋美や蘭子たちといろいろなことをして回った。
これがこの世界の15歳のスタンダードなのかな? なんて思いつつ、あたしは普通にこの世界を満喫していたのだった。
……だけれども、あたしはどうやったら元の世界に戻れるのかと言うことはずっと頭の中に残りっぱなしであった。
だから、帰る途中に見かけたテレビで、あるニュースを見たときに、つい反応してしまったのだった。
『──ここで次のニュースです。複数人の男性が國立高等学校の、高校生集団失踪事件のあった教室で集団自殺を図る事件がありました。主催した無職、氷室正太郎容疑者43歳は病院に搬送され一命をとりとめましたが、死者13名、重体が3名という悲惨な集団無理心中事件となりそうです』
……どうやら、《高校生集団失踪事件》……異世界転移の起きた教室で無理心中を図った連中がいたようであった。
「どうしたし?」
蘭子に声を掛けられる。
「いや、なんと言うか物騒だなって思って」
「あー、巷じゃ『クラス異世界転移』って呼ばれているあの事件関連ね。一ヶ月も経っているのにまだ信じている人がいるのね」
あたしはわかっている。
間違いなく國立高等学校の何処かの教室で『クラス異世界転移』が起こったのだ。
あたしがこっちの世界で発見されたのも、あの学校の教室だったと聞いているし、間違いなくあそこにはあたしが帰還するためのヒントが隠されているのだろう。
なら、あたしがあの学校に行きたいと思うのは必然であった。
「ねぇ、國立高等学校ってどこにあるか知ってる?」
「知っているけれど、受験はもうちょっと先だよ? まだ5月だしね」
「じゅけん……?」
朋美がうなづいた。
「そうそう、中学校卒業したら高校に通う子が殆どんんだけれど、高校に入学するためには受験って言うテストを受ける必要があるの」
学力試験と言うことだろうとあたしは納得する。
ギルドでも冒険者になるためにはその力を示す必要があるし、そんなものなのだろうなと思った。
そこまで思いついて、あたしは別に受験したいわけではないんだけれどなと思った。
「えっと、あたしは別に進学したいわけじゃないわ」
「そう? まああーしは行けるところに行くだけだけれどね」
それから、あたしたちの話題は高校はどこに行くのかと言う話に移ってしまった。
あたしとしては、もう少し國立高等学校について情報を集めたかったのだけれども仕方がないのだろう。
そんな感じで、あたし達は【児愛の家】への帰路についたのだった。
とりあえず、現代編の方針は今までスルーしてきたTS要素と元の世界に帰還する事への葛藤を主軸に書いていこうと思います。