異世界にて
病院を退院したあたしは《クルマ》に乗せられて、児童養護施設……孤児院に入ることになった。
いわゆる外国人のあたしをなぜ日本の児童養護施設に入れるのかと言うと、あたしが戸籍の無い児童であるためらしい。
ニホンではどうやら15歳は成人ではないようである。
いやまあ、シーナの記憶を辿ればそうらしいのだけれどね。
学園なんてフェルギンだったら王都にしか存在しないし、ただの村人であったあたしには無縁の存在だったからね。
ともあれ、あたしは孤児として児童養護施設に入ることになってしまったのだった。
「君がエリシアちゃんだね」
入院生活で警察の事情聴取をさんざん受けていたあたしは、ニホン語での会話がだいぶできるようになっていた。
「はイ、エリシア・デュ・リナーシス、デす。ヨろシクオ願いシまス」
この孤児院……児愛の家の園長である石橋 純一さんがにこやかに挨拶を返してくれる。
「ふむ、よろしく。私は石橋純一だ。みんなからは園長先生って呼ばれているよ」
「ワかりマシた。ジュにチエンチョー」
まだニホン語に慣れていない。
イントネーションが変なのだろうか?
ただ、発音ができてないだけで、ヒアリングに関していえば問題なくできていた。
あたしの置かれている状態はだんだんと理解できて来た。
警察……漢字は確かこんな感じでよかったわよね? に事情聴取を受けている中でいろいろと情報を得ることができたのが大きかった。
事情聴取とリハビリのおかげで入院が長引いたんだけれどね。
あたしからは、異世界に召喚されて勇者として戦っているって本当のことを頑張って伝えたのだけれど、結局信じてもらえなかった。
ただ、あたしはどうやらシーナや雄大たちが転移して翌日に発見されたらしい。
「今日から【児愛の家】で暮らすことになった、エリシア・デュ・リナーシスちゃんだ。みんな仲良くしてやってくれ」
あたしは15歳のクラスに配属された。
と言っても、5人しかいないんだけれどね。
「よろしくね、エリシアちゃん」
ティナのように明るい表情をした女の子、佐川 朋美。
「へぇ……なんか人形みたいだな」
生意気な感じがする少年は、加賀美 十代。
「……」
あたしをちらっと見ただけの根暗そうな少年は、時山 輝明。
「ふーん……。まあいいわ、よろしく」
女王様っぽい女の子は紀里谷 蘭子。
「うーん、なんで外国人がこの孤児院に……? いやまあ、よろしく頼むよ」
とてもじゃないけれど子供っぽくない少年は笹川 小南。
この個性豊かな5人の15歳の少年少女が新しくあたしに与えられたものだったらしい。
「ミナさん、よろシくお願イしまス」
あたしはたどたどしい日本語と笑顔で答えたのだった。
そのまま、あたしは中学生扱いとなるようで、日本語の勉強と並行してあたしは学生として【児愛の家】で中等教育を受けることになってしまった。
しばらく使っていなかったのであたしはだいぶ、シーナの記憶から学んだことを忘れていたけれども、既視感を感じるしそんなに難しい問題ではなかったので成績は優秀な方になってしまった。
あたしはしばらくの間、【児愛の家】から外に出ることを制限されていたので、【児愛の家】で1月を過ごすことになってしまった。
まあ、あたしとしても見知らぬ街を探検したいと思うほど愚かではないからね。
その頃には日本語もダルヴレク語と同じ程度には話すこともできるようになっていた。
その間、女神様から一切の連絡がなかったことは非常に気になった。
あたしはどうしたらいいのだろうか?
脳内では、三宅や広瀬を倒さなければならないとは思っているけれども、あのあたしの心の奥底に眠っていた憎悪はかけらも感じることができなかった。
この1月であたしは、自分が無力なただの子供になっていることを実感していたのだった。
【魔女術】や《勇者》のジョブはいまだに保持しているように感じるけれども、一部機能が使えなくなっている。
そして、《英雄》のジョブやそれ以外のすべてのジョブはあたしの憎悪とともに消失しているようであった。
あと、聖剣もあの時……あの城のバルコニーに落としてしまったのか存在を感じることもできなかった。
「エリちゃーん、何しているのー?」
朋美があたしに話しかけてきた。
後ろには蘭子もついてきていた。
「……日課のお祈りよ。気にしないで」
本当は、女神様とコンタクトが取れないかと思って試していただけだ。
「エリちゃんは熱心だね。それよりも今日は何して遊ぼうか?」
「私はカラオケに行きたいわ。ってエリは外に出ちゃいけなかったわね」
「そうね。仕方がないわね」
朋美と蘭子がうなづいた。
「エリちゃんは外に出たいと思わないの?」
「そうよ。エリもウインドウショッピングとかするべきだわ。ずっと【児愛の家】に引きこもっているなんて、体に悪いわよ」
あたしも馬鹿ではない。自分が外に出れば騒ぎになるであろうことは、例えばテレビと言う科学技術で作られた映像水晶のようなもので流れているニュースを見れば、理解できてしまうものだ。
もう、あたしがこっちに来てから1月も経つというのに、相変わらず高校生集団失踪事件の検証ニュースが報道されているし、【児愛の家】の近辺でカメラを持った人物を見かけたこともある。
輝明がそういう本を見せてくれたけれども、あの事件は世の中では【クラス異世界転移事件】と呼ばれているらしい。
ネットも情報収集のために教えてもらって使えるようになったけれども(保育士さんにはすごい怪訝な顔をされたけれど)、「あの事件は異世界の存在を明らかにするものだ」とか「転移した連中は今頃異世界ハーレムで戻ってくるつもりはないよ」と言った言論が流れている。
そして、あたしのことも噂になっているらしい。「異世界から逆転移してきた女の子がいるらしい」と言うことだそうで。
それを懸念して、あたしは【児愛の家】からの外出を認められていないのだろう。
「とはいっても、あたしはこの家から出ちゃ行けないらしいからね。仕方がないわ」
あまり外に出て問題を起こしてもどうしようもない。
この日本では、あたし個人の力なんてたかが知れているのだ。
動体視力や戦闘の感覚は体に染みついたままだけれども、それに身体がついていけない。
みんなが中学校に行っている間あたしは保育士さんの手伝いをしたり、筋トレやランニングを【児愛の家】から出ない範囲でやっているけれども、能力は元の1%にも満たない状態だ。
ステータスを確認できるならば、あたしのレベルは3~5あたりじゃないだろうかと推測する。
低学年の男の子と力比べをしたときに押し負けた時は愕然としたわね。
「エリってば物分かりが良い子過ぎるわ」
「蘭子ちゃんは遊びすぎだけれどね。この間も先生に怒られてたじゃない」
蘭子は髪の色を染めており、あたしのイメージする中学生とは確かに違う印象を受ける。
どちらかと言うと、不良とかに近いだろう。
金髪にメッシュの入った長髪の中学生は遊んでいると思われても仕方がない。
蘭子がどうして児童養護施設に預けられているのかは気になりはするが、あまり愉快な話ではないだろう。
「ま、仕方ないじゃない。友達と遊んでるんだしね」
「ふーん、……まあいいけれど」
ジト目で蘭子を見る朋美は何かを知っているのだろう。
あたしとしては関与する気はないけれどね。
「とにかく、エリはこの家の外に興味はないの? 私たちが連れて行ってあげるわ」
ドヤ顔でそういう蘭子。
もちろん、興味がないわけではない。
この【児愛の家】だけでも多くの不思議を感じられるし、あたしの世界にはないことで溢れている。
魔法がなくっても魔法があるのと同じような生活を送れるのはなかなか不思議な感覚だった。
とはいっても、村での生活の方が不便であることは言うまでもなかったけれどね。
「……そうね」
あたしは二人の顔を見る。
この一月の間それなりに仲良くなったからこその誘いなんだろう。
正直、二人と一緒に遊んでみたいというのはある。
なので、あたしは二人の案に乗ることにした。
「それじゃあ、お願いしてもいいかしら。三人で行動するならば大丈夫だろうしね」
あたしとしても、高校生集団失踪事件が起きてから1月後の世界の様子を見てみたかったしね。
あたしの返答に蘭子と朋美は嬉しそうな顔をする。
ふたりともあたしと遊びたかったようであった。
なんか色々書こうとしたら、よくわからない感じになったのでまとめちゃいます。
エリシア:Lv130→3
ジョブ:《勇者》Lv42→1
スキル:【魔女術】Lv20
あと、憎しみや悪意といった感情が完全にリセットされてます。
エリシアちゃんはもともと、椎名くんの記憶から日本語をある程度知っていたので習得は早い方でした。
児童養護施設に来てからは何をしていたのかと言うと、主に保育士さんのお手伝いと筋トレをしていました。