プロローグ
新章突入です!
一部現実の地名が出てきますが、基本的には架空の地名になります。
ご了承ください。
落ちていく。
落ちていく。
落ちていく。
落ちていく。
どれぐらい落ちただろうか?
それもわからないぐらいに落ちていた。
どこに落ちるのだろうか?
黒い腕があたしに纏わりついて、どこかに引き摺り込もうとしている。
あたしはどうなってしまうのだろうか?
不意に、光が見えた。
あたしはその光に手を伸ばして──
──あたしは目を開けた。
「──ハッ!?」
伸ばした手は天井に向いており、全身は冷や汗で濡れていた。
「ハァッ、ハァッ、ハァ……」
天井は見たこともないくらい真っ白で、周辺は鉄のレールに白いカーテンがぶら下がっている。
「え、こ、ここはどこ……?」
見覚えのない風景だった。
いや、正確には"エリシア"として見覚えのない風景だった。
体を起こすと、テンテキ……だったと思う……が打たれていることに気がつく。
右腕を少し動かすと針が入っているせいでチクリと痛む。
針には半透明のやわらかいチューブと、逆流しないような措置がされた装置が取り付けてあり、先をたどると鉄製のハンガーにつるされた透明な袋に透明な液体が入っているのが見える。
テンテキの液体が入った袋を見ると、記載されている文字はかつて夢でシーナの記憶を見た通り、ニホン語であった。
正確に言うならばEnglishにニホン語が併記されているという感じだ。
どう言うこと?
頭の中が混乱する。
あたしは確か、邪神と遭遇してどこかに連れ去られたはずだった。
一体何が起こったのか、あたしは整理するために自分のプロフィールを思い出す。
あたしはエリシア・デュ・リナーシス。【レアネ・フェルギリティナ】の名前は捨てた。
すでに滅ぼされてしまった村の【リナーシス村】出身で、魔王を倒すために異世界から召喚された勇者の転生者だった。
あたしの持つチート能力は【魔女術】と言う能力で、魔法を解析したり、魔法を作り出したりを自在にすることができるチート能力だ。他にも、魔法の詠唱を省略したりもできる。
そんなあたしは勇者として、魔王を2体倒した……そこまでは覚えている。
そう、だからこそ、シーナの記憶にあるニホンの……病院の病室にいる意味がわからなかった。
ぺたぺたとあたしの体を触る。
腕を動かすのも億劫だったけれども、確認しないといけなかった。
どこもおかしいところはない。
あたしの体だった。
あたしは、上体を起こすと、酷く重たく感じた。
非常に動きにくい。
まるで、体中に重りをつけられたかのように、思うように動けなかった。
不意に人の気配がして、そっちの方を見ると、黒髪で頭頂部が若干寂しい、茶色のコートを着た人と、藍色の黒いツバのついた帽子に、同じ系統の色合いの軍服のような服装をした人が数人部屋に入ってきた。
『おお、ようやく目が覚めたか』
え、何語を話しているんだろうか?
不意に訳の分からない言葉を言われて困惑し、そしてそれがニホン語であった事を思い出していた。
『お嬢さん、我々は警察のものだ』
そう言って、懐から手帳のようなものを取り出して、見せつけてきた。
彼の顔写真と、なんと読むのかわからない文字で書かれた……おそらく名前だろうか? 他にも色々と情報が載ったそれをあたしに見せつけてきた。
『……と言っても、わかっていなさそうな顔をしていますよ?』
『ああ、高校生集団失踪不明事件の重要参考人だが……やはり外国人だしな……』
難しそうな顔をして頭を掻きながら、一部聴き慣れない言葉で何かを話す人達に、あたしは訝しむしかなかった。
「えっと、質問していいかしら?」
あたしがそう言うと、軍人さん達は驚いた。
『え、な、何語?!』
『英語ですらなかったぞ! ロシア語か?』
あー……やっぱり通じないらしい。
あたしは、いくらシーナの記憶があるからと言っても、ニホン語をちゃんと喋れるわけではないのだ。
なので、片言になってしまうが、仕方がなかった。
『アー、シツモン、ダイジョブ?』
思った以上に発音がやばいなと思うあたしであった。
それに軍人さんが反応する。
『お、日本語がわかるのか! それは良かった。あー、はろう、ないすちゅーみーちゅー?』
『澤田部長、それ英語ですよ』
サワダブチョウと言うのか。変な名前だななんて思いながら、あたしはもう一度聞いてみる。
『アー、シツモン、シテイイ?』
『お、おーけーおーけー』
首を縦に振ったと言うことは、了解したと言うことだろうか。
ならば、あたしは確認する必要があった。
『ココハ、ニホン、トイウ、クニデ、アッテマスカ?』
『ん? そりゃお前さん、当たり前のことじゃないか』
「そ、そんな……! い、いったいどういう事なのよ!」
何を当然な事をと言った感じの顔で、軍人さんはそんな事を言う。
だけれども、あたしにとってその事実は衝撃的だった。
あたしはどういうわけか、シーナの生きていた世界に戻ってきたらしい。
それも、あたし……エリシアのままでだ。
『とりあえず、君の身元を照会したいんで、名前を教えてもらってもいいかな?』
『ミモト……?』
中途半端に言葉が理解できるけれども、所々聞き慣れない言葉がある。
《ミモト》を照会って、ミモトってなんだろうか?
『ああ、君がどこ出身で、両親が誰なのか、という事だよ』
なるほど、《ミモト》と言うのは身元という事なのかとあたしは納得する。
この人達はおそらく、騎士団か何かなのだろう。官憲と言った方がいいかもしれなかった。
『エリシア、エリシア・デュ・リナーシス。ナマエ』
文法がダルヴレク語と異なるので、若干話し言葉に慣れなかった。
『エリシア・デュ・リナーシス、ね。オッケー、それじゃあ照会を頼むよ』
『了解しました!』
サワダブチョウがもう一人の男性ににそう指示をすると、敬礼をして、その指示を出された人が退出した。
『それじゃあ、事情聴取をさせてもらうよ。お嬢さん、日本語はある程度通じるみたいだからね』
こうして、あたしはニホンの官憲の人達に色々と質問をされるのだった。
──質問を受けていく中で、わかったことが色々とあった。
あたしがいる場所は《ケイサツ病院》と言う、官憲が管理する病院施設らしい。
あたしの状況は、集団失踪事件の現場に突如出現したために身柄を拘束されたらしかった。
集団失踪事件……つまり、シーナ達勇者があたし達の世界に転移させられた事についてだろう。
あたしがニホンに転移してからすでに2日が経過していたようであった。
『それじゃあね、エリシアさん。また明日も話を聞かせてくださいね』
そんな感じで官憲……ケイサツの人たちはあたしが居る病室を後にしたのだった。
改めて、あたしは現状を確認する。
この世界は何というか、マナを感じることができなかった。
すなわち、魔法を使うには大掛かりな儀式や生贄が必須になるということを意味している。
だから、【魔女術】は何の役にも立ちそうになかった。
そして、あたしは自分の腕をみる。
筋肉でがっしりとしていた腕は、まるであまり運動していないかのように細っそりとしていた。
腹筋も筋肉は少なくなっており、ぷにぷにしている。
……シーナの記憶にあるこの世界の標準的な女の子の筋肉量しか無いようであった。
あたしはどうやら、この世界に来て弱体化しているようであった。
胸が小さくなったのも、大胸筋が無くなったせいだろう。
測ってもらった感じだと、Cカップに戻っていた。
それから、あたしの身元は不明で(そりゃ、あたしは異世界人だしね)年齢が15歳ということもあって、児童養護施設に預けられることになった。
どうやら、事情聴取は終了したらしい。
その間、あたしはだいぶ日本語を話せるようになり、この異世界でエリシアとして生きていくことになってしまったのだった。
書け次第投稿しますが、更新日時は不定期でやっていきます。