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村娘だけど実は勇者の転生者でした  作者: 空豆だいす(ちびだいず)
冒険者だけれど村娘に戻れるか心配です
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エピローグ

 あたしたちは、戦いが終わり、転移の間に集合していた。

 エルフの兵士たちは士気が著しく落ちているが、どうしたのだろうか? 

 あたしたちが戻ってくると、安どした様子で迎えてくれた。


「お疲れ様です、ベネットさん。魔王はどうなりましたか?」

「ああ、無事に討伐できたよ。ただ、お姫様は……」


 ベネットが背負おうとしたがひどく拒絶反応を見せたため、あたしが背負っていたのだけれども、アクレンティア姫様は酷い状態だった。

 あたしが回復魔法を使って回復を試みたけれども、どうにも呪いみたいなものも付与されており、完全には回復しなかった。

 下半身はあのでかいマラで貫かれたせいかズタズタになっていたけれども、あたしとシアの回復魔法のおかげである程度は奇麗にすることができた。


「……」


 お姫様は感情をなくしたように、なにも反応しない。

 唯一反応するのは、男性に触れられた時だけであった。


「……うう、おいたわしい……。とりあえず、この場所で休息をお願いします」

「えぇ……さすがにお風呂に入りたいんだけれど……」


 サシャが文句を言うと、エルフの兵士は言いにくそうな表情をする。


「どうした?」


 ヴィリディアが聞くと、言いにくそうに答える。


「いえ、現在我が国は国民の半数近くが溶けて消えてしまい、国王陛下や大臣の方々まで行方知れずとなってしまわれたのです。現在非常に混乱しておりまして、戻るのは推奨できない状況となっております」

「溶け……消え……?!」

「……あの魔法の効果ね、きっと」


 また、多くの人たちの命を救えなかった。

 それは仕方がないともいえるし、あたしたちに頼るのが遅かったエルフ側の失態ともいえる。

 だけれども、お姫様がこんなことになるなんて、あたしとしては悲しかった。


「ならば、儂らはここまでとしようか」


 ヴィリディアがそう断言する。


「そもそも、儂らは行方不明になっていた冒険者の捜索が目的だ。被害者らは全員魔物にされてしまったと報告せねばらないからな」

「そうですね」


 カイニスほか弟子たちは同意する。

 アルフレッドは、複雑な表情をしていた。


「エリシア、俺はまだ修行中の身だ。だから、これは返しておく」


 渡されたのは、あたしの聖剣だった。


「へっ、あ、うん、それだったら仕方ないわ。ありがとう」


 あたしはアルフレッドから受け取ると、あたしの中に戻す。

 それに、アルフレッドは驚きの表情をする。


「なるほどね、【聖剣の鞘】と言うのはそういうスキルだったんだね」

「あたしとしては、女神さまに押し付けられたものだし、戦いさえ終わってしまえばいらないんだけどね」


 本当に、ケリィのせいで過酷な人生を歩むことになってしまったものだと改めて思う。

 いや、そもそも、あたしがシーナの生まれ変わりな時点で対して違いはなかったな。

 まあ、そのケリィもあたしが生け作りにしてやった。

 アルフレッドはドン引きしていたけれどね。

 本当に生きたまま生け作りにしてやったのだ。気絶も絶命も、あたしが魔法で許さなかった。

「殺してくれ」なんて懇願してくるものだから、嫌がらせでこのまま野ざらしにしてもよかったのだけれど、アルフレッドの判断で完全にこの世から消滅させたので、復活することはないだろう。


「……エリシア、自分を大切にしてほしい。エリシアに何かあったら、また俺が駆けつける」

「……うん、お願いするわ」


 あたしは何だか気恥ずかしくて、そっぽを向いた。

 そんなやり取りをしていると、エルフの侍女さんが駆けつけてきた。


「まあまあまあ! 姫様! おいたわしや……」

「私たちが姫様の介抱をいたしますので、こちらにあずけていただけますか?」

「あ、はい」


 あたしは背負っていた姫様をエルフの侍女さんに渡す。

 姫様は本当に無抵抗で引き渡されてしまった。

 それにしても、なんだか全員が若い気がする。


「別れの挨拶は済ませたか?」

「はい、師匠!」


 ヴィリディアがあたしに近づいてきた。


「お嬢ちゃん、あまり無理はするなよ。これでお前さんは2体の魔王を滅ぼしたことになるからな。予言では40体だったか? 魔王に蹂躙されている国はお嬢ちゃんのことが喉から手が出るほどほしくなるはずだ」

「……あたしは教会の敵ですよ? 一応」

「関係ないさ。実際、世間の評価ではお前さんは魔王キラーとなるわけだな。ほかの異世界から召喚された勇者も公式には3人が魔王を討伐したとされているしな」

「そうなんですか?」


 それはあたしが知らない情報だった。

 いや、ここのところそれを気にしている暇はなかったんだけれどね。


「ああ、ユウダイが南の魔王の一人オーバーロードを討伐したらしい。ほかにも、街に戻ったら調べてみると良い」


 雄大君がようやくと言うことは、やはり魔王が徒党を組んでいるというのは厳しい状況に違いなかった。

 あの、勇者の中で一番強かった雄大君ですらこれだけ時間がかかっているのだ。

 きっと、厳しい戦いに違いなかった。


「それじゃあな」


 そうして、《英雄》、《剣聖》ヴィリディアとその弟子たちと別れるのだった。


「エリちゃん、良いの? 愛しのアルフレッドを引き留めなくて」


 ニヤニヤしながらあたしにそう尋ねてくるサシャ。


「愛しの……いや、否定できないけど、アルフレッドが強くなりたくて師事しているならば、あたしは止めることはできないわよ」

「でも、エリ名残惜しそう。追いかける?」

「いやいやいや、かっこよく去っていったんだから、そのままのが良いわよ。それよりも、ひと眠りしたいわ」


 あたしは部屋に入ると、パーテーションで区切られた医療室のベッドの上に横になった。

 とにかく、疲れてしまった。

 鎧も外さずに横になっていると、あたしの意識はあっという間に眠りに落ちていったのだった。




 リフィル王国南部に存在するエルフの国ドウリエッタは壊滅的打撃を受けた。

 人口の半分近くが物理的に溶けて消えたのだ。

 それは国王や国の重鎮ですら抗うことができずに溶けて消えた。

 残ったのは比較的若いエルフばかりとなってしまったこの国は、もはや国として成り立つことは難しいだろうと思われた。

 また、姫君であるアクレンティアは女性器に著しい損傷を受けており、二度と子供を宿すことができなくなってしまった。

 心的外傷後ストレス障害によって、男性に対するトラウマを植え付けられた彼女は、物を言わぬ人形となってしまったのだった。


 そして、さらに悪いことに生命力の低い人間から溶けて消えてしまった関係か、被害にあった女性もほとんどが溶けて消えていた。

 残った女性もゴブリン害のせいか、男性を拒否しており、被害にあわなかった女性をカウントしても8割が男性と言うのが現状であった。

 これからは、この国を再建するのかそれとも、流れ出てほかのエルフたちと合流するのかは彼ら次第だろう。


 また、中途半端ながら呪いが発動しており、エリシアの見立てではこれからのエルフは千年も生きる長寿の生命体ではなく、人間より少し長生き程度の寿命になってしまったようであった。

 それが全世界に生息するエルフに該当するのか、この国のエルフのみなのかは調べてみないとわからないことであった。


 エリシアたちは早々にエルフの国を去ることになった。

 どうあれ、彼らの目的を果たすことはできたが、一番重要な事……依頼人の身の安全を守れなかったことが大きかった。

 いくら、エリシアたちが最善を尽くしたとしても、世の中結果がすべてである。

 世間から見れば、エリシアたちは依頼に失敗したと見做されてもおかしくなかったのだ。


 ただ、もともとが実績を積み上げてきたベネットたちの報告により魔王案件となったことで、人間側では話が変わってくる。

 もともとシヴァにより大きな被害を受けていたリフィル王国は、魔王を討伐した報奨金としてベネットたちのパーティに賞金を与えることになったのだった。


 こうして、ベネットたちはエリシアを含めても一生遊んで暮らせるだけの大金をリフィル王国から受け取ったのだった。




 と言うわけで、あたしたちはリフィル王国の王都に来ていた。

 普段の様相とは違い、ベネットやジェイルはタキシードを、サシャ、シア、あたしはドレスを着て、王都でパーティに参加していた。

 魔王討伐記念パーティと言うことらしく、前回のシヴァの分も合わせてと言うことらしい。

 それもこれも、パーティを開けるまで国が回復し、復興が進んだということなのだろう。

 喜ばしいことであった。


「ああ~……慣れないわ」


 あたしは久しぶりに開かれたお貴族様のパーティに疲れ果てていた。

 ベネットさんたちのパーティはすっかり、勇者のパーティ扱いだった。

 貴族の娘たちがこぞってイケメンのベネットさんを取り囲んでしまい、サシャが悔しそうな顔をしていたのは面白かったけれども、そのあとサシャも貴族の子息に取り囲まれてまんざらでもない顔をしていたのは面白かった。

 あたしは、とにかく男は苦手なので、うまく立ち回ってサシャに押し付けていたんだけれどね。

 ダンスも、あたしは逃げていた。

 そんなこんなでベランダまで逃亡していたのだった。


「いまだに男性に対するトラウマが刻まれちゃっているわね」


 正直、手袋越しとはいえ手を触られるだけでも悲鳴を上げてしまうのだから、あたしの男性嫌いも改善の見込みはなさそうであった。

 ベネットさんやジェイルさんならば、握手までなら平気なんだけれどね。


「お嬢さん」


 不意に声を掛けられて、あたしは驚く。


「な、なによ……ッ!」


 あたしが振り向くと、そこには平凡な男がいた。

 いや、顔を正しく認識できなかった。

 顔がゆがんで渦を巻いているように見える。

 その異様な雰囲気に、あたしは聖剣を構えた。


「お前は何者だ!」

「ふふ、そうか、僕がわからないか、ふふ」


 話し方もイントネーションも歪んでいる。ただ、ダルヴレク語を話していることだけは認識できる。


「君の憎悪に何度もアクセスしているんだけれどなぁ。やっぱり、女神が邪魔しちゃってるのか」

「な、なにを……?」


 こいつは一体何を言っているのだろうか? 

 あたしは嫌な予感がして、後ずさりをしていた。

 あたしは直感で、こいつには勝てないと判断していた。果たして、それは正しかったのだけれど。


「いやぁ、君の憎悪はまさに、魔王に匹敵するからね! スカウトしようと思ったのだけれども、今ではそれも薄らいでいる。君自身が作ったあの魔法のせいだね」

「は、はぁ?! あ、あんたはまさか?!」


 邪神?! 

 なんであたしの目の前に現れたというのか?! 


「そう、君たちが邪神と呼ぶ存在。僕自身は自分を世界の自壊システムだと自称しているんだけれどね」


 認識疎外のせいか、顔ははっきりとはわからないけれども、そいつは笑っているように見えた。


「あ、あたしに一体何の用なのかしら?」


 あたしの声はきっと、震えていたように思う。


「ふふ、もちろん、スカウトにだよ。だけれども、そのままでは君は魔王になることができない」

「あたしはそんなのになるつもりはないわ!」

「だから、君に試練を課すことにしたんだ」


 話を聞かない質らしい。

 あたしが聖剣の切っ先を向けていても、平然としている化け物が目の前にいた。

 そんな化け物が右手を挙げて指を鳴らす。

 パチンっと。


「え!」


 一瞬にして、あたしの足元の空間が消え去った。

 どこにつながるかわからない、空間の裂け目のような穴が、あたしの足元に出現したのだった。


「──ッ!」


 あたしは、なすすべなく落ちてしまった。

 魔法も発動しようと試みたが、発動しなかった。


「君を地獄に案内しよう。そこで生還できれば、君はきっと素晴らしい魔王になるだろう!」


 邪神の声がひどく耳にこびりついていた。

これにて第二章の終了です。

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