夢の旅路
僕は夢を見る
深い深い水底に沈むように、夢を見る。
遠い遠い旅路のように、僕の意識は夢に落ちていく。
そこは水族館だった。螺旋状に建てられた水族館。下へ下へ降りていく水族館。
狭い水槽の中、数多の魚が泳いでいる。そこには弱肉強食なんて存在しない死のない世界。
下に降りていくたびに、僕の身体は溶けていく。自我は溶け、無になる。
鮫が泳ぐ、エイが泳ぐ。鰯が群れる、鮪が泳ぐ。
魚は泳ぐ、僕を置いて。
魚は群れる、僕を見て。
過去も未来もないこの水族館の中で、僕だけが過去も未来もある。
魚の虚ろな目は、僕を見ている。限りのある命である僕を見ている。それは好奇心か、羨望か、それとも失望なのか。
僕にはわからない。僕だけが人間であり、魚ではない。
僕の血肉になる魚。水槽を見る僕は、殺戮者。
チョウチンアンコウが僕を照らす。僕を惑わす光。
この水族館の中で、僕だけが観測者。命を知っているv唯一の存在として、今日も僕は魚を観る。