2017年 詩集
「言葉を赦してほしかった」
言葉にならない想いを
代わりに唄ってくれる
それは繊細で
触れればはらはらと崩れ落ちそうで
だから僕は包み込んだ
柔らかな絹の布で
一欠片も残さず
一欠片も零さず
君は言葉を話さない
君の「やさしさ」が邪魔をするから
だから僕はその「やさしさ」を
憎むことにした
君は言葉を話せない
だから代わりに唄い続ける
その唄をどうして僕は
嫌うことができるだろうか
君は言葉を赦さない
それが人を傷つけるから
だから僕はそんな君を
可哀想と呼びたくなかった
愛していると叫びたかった
「一人残された君とのお盆」
ちりんちりん
風鈴の音
離れていかないように
包み込んでぽっけに入れた
家の庭で
線香花火を灯した夜
君は「安っぽい」って
残念そうにしていたね
でも僕は
大勢の祭り会場で
もみくちゃにされて
君がよく見えないものより
こうして
小さな庭で 小さな花火で
ふたりきりで思い出話をするのが
とても優しい時間だったよ
だからさあ
そんな泣きそうな顔をしないで
夏の終わりを嘆かないで
またもう一度会えるから
またこの時期になったら
ここに会いにおいでって
残酷なやくそくをして
君の背を見送って
僕はそらに還った
「一風変わった日」
「食欲の秋」なんて
隣ではしゃいで お菓子を食べる
「ハロウィンだ」なんて
手を差し出して お菓子をねだる
「太るぞ」なんて
からかってみると
頬を膨らませて
腹パンをかましてくる
本当は
コスプレはいいと思うのだ
だけど渋谷の街は歩かなくていい
僕の膝の上にいればいい
そうしていつもと違う君を見て
その時は君の好きなマカロンを
僕が君に食べさせたい
それくらいはしてみたい
いつもは素直になれなくて
いつもは意地を張ってしまう
だからこそ こういう時くらい
甘いことをしてもいいかな なんて
そんなことを考えながら
僕はマカロンのレシピを調べて
財布を持って
材料を買いに スーパーへ向かう
「君は夢のように」
とん
暗転して 放り出される
地面から離れた足
「まって」 「いかないで」
遠い遠い夢は
叶うことを知らない
そうして忘れ去られていく
それは僕らも例外ではなく
夢のようにふわふわで
夢のようにあたたかで
夢のようにやさしくて
夢のようにきらきらで
「ずっと一緒にいよう」って
指切りをしたはずなのに
いつしかそれは片手だけ
夢の手はいなくなってしまった
本当は今も繋がっているはずの
小指に巻かれた赤い糸は
いきさきを忘れて
彷徨い続けている
「まって」と叫んでも
僕の声は届かない
それがどうしてだか
僕は知らない
君は夢のように
跡形もなく消えてしまった
「自信家」
「なんでもない」なんて
涙目になりながら 立ち去る
「まって」とは言わない
それは君なりの愛情表現だから
時間が経てば
いつか寂しくなって 恋しくなって
「やっぱりかまって」って
僕の袖を引くのでしょう?
それまでは僕も寂しいけれど
いつもよりかわいい君を見るためなら
そんなの屁でもないし
プラマイゼロどころかプラスだらけだし
何よりそういうことを考えていると
本当は寂しいはずなのに
口元はにやにやしちゃって
なんだか気持ちが悪いかもね
きっとこのことを君が知ったら
顔を真っ赤にして怒るのだろうな
それもまたかわいく思えてしまう
僕も僕で重症だなあ