#2 バカなこと言ってんな
高校に入学して、新しく友達もできた。
性格的には全く違う俺達だが、意気投合したんだ。
神崎達とこのまま青春突っ走ろうぜ!って
思えるまでいったのに・・・・・・。
それなのに・・・・・・。
「この仕打ちはないんでないんかい。
おやっさん」
「誰がおやっさんだ、伊勢崎」
「くーらーたー。だってよー。
入学して早々実力テストってなんだよ!」
「中学でもあっただろ」
あったけど、あったけども!
たとえ、夢だとしても高校ではないと
思いたかったんだよ、俺は。
昨日の実力テストの返却の為に、今日の
授業はほぼ自習。・・・・・・という名の復習タイム。
テスト赤点者には課題も出された。
・・・・・・俺と植村が今泣きを見ている。
「おら、植村もだらけてんじゃねぇ」
「・・・・・・わかんねぇよ、英語」
「ホント、なんだってんだよなぁ!」
「・・・・・・うるっせぇよ、伊勢崎ぃ」
ドスの効いた声のした方を振り返ると、
無表情の神崎がいた。
寝起きのせいだからなのか、いつもの
鋭い目つきが二割増になっている。
神崎自身に睨んでいる自覚はないらしい。
だが、こっちからしたら睨んでいるように
見えるから、正直めちゃくちゃ怖い。
「黙って課題をやれ」
「だって、わかんねぇんだもん!」
「もんじゃねぇよ、男がやっても可愛くねぇ。
つか、倉田に聞くなり野上に聞くなり
できるだろうが。
そんな簡単な事考える頭もなくなったのか?
そこまでくると、脳みそ鳥以下だぞ?お前」
・・・・・・なんだろう、神崎に言われるとなんていうか。
・・・・・・こう、いつもの倍傷つくというか、
なんか心の奥深くに突き刺さる感じ?
めちゃくちゃ痛い。これはもう抉られているのではないのだろうか。
あ、やばい。俺、今なら泣けるわ。
「神崎、ストップ。このままだと伊勢崎泣く」
「野上〜……ッ!」
野上、俺は信じていたぞ。お前ならきっと助けてくれるに
違いないと思っていた。正直、意外だったが。
助けてくれたことには変わりない。感動に浸っていると、
神崎と植村が哀れんだ目で俺を見ていることに気づく。
倉田も呆れたというように額に手を当てている。
なんだよ、お前ら。まるで、俺が残念な奴みたいじゃないか。
「伊勢崎」
「ん?」
「ハンバーガー2つでいいよ」
「……野上、お前」
「何?」
「……見返り狙いか‼︎」
「うん」
……否定しないんだな。しかも、即答ときた。
まるで、天国から地獄だ。そして、不意打ち。
ダメージもデカい。……そうか、だから神崎達哀れみと呆れの目で
俺を見ていたのか。もうダメだ、立ち直れない。
「野上が見返り求めずに助けるなんて、年2.3回あるかないかだぞ」
「倉田……、そういうのはもう少し早く言ってくれ……」
俺のガラスでできたハートが壊れる。
いや、割れる。
「いっそのこと砕け散るか?」
「玉砕は勘弁してください!」
「感情の上がり下がりが激しい奴だな」
「ほら、手伝ってやるから早く終わらせろ」
「……神崎、お前何点だったのよ
「あ?満点だけど?」
なんてこった。いや、わかっていた。わかっていたが、こうも
当たり前だろ?的な口調で言われるともう言葉もない。
……バケモンか。
「手伝わねぇぞ、コラ」
「あーッ!すみませんでした‼︎」
神崎は読心術でも会得しているのだろうか。
もうここまでくると、神崎って奴はハイスペックの塊だな。
「手を動かせ、伊勢崎」
「はい、スンマセン」
神崎と倉田がスパルタながらも丁寧に教えてくれたおかげで、
なんとか課題を進めた。そして、ギリギリ時間内に課題を終わらせることができた。
疲れた……。頭を使うとホント疲れる。
授業終了のチャイムが鳴り、俺は机に突っ伏した。
「あー……、終わった……」
「お疲れの所悪いが掃除だ」
「えー……」
少し休ませてくれてもいいじゃないか。滅多に使わない頭を使って、
こっちはもうヘトヘトなんだぞ。
「休憩したいー、疲れたー」
「そんなのは重々承知だ。だからって、掃除サボれるとは思うなよ?」
「ちぇー」
「置いてくぞ」
「ちょ!待って!」
早くしろー、なんて言いながらさっさと歩く4人の後を慌てて追いかける。
少しは待ってくれよ、なんて心の中で思いつつ俺はやっと4人に追いついた。
「そういや、場所どこなん?」
「……化学室」
神崎がすっごい嫌そうな顔をしながら言った。うわぁ、厄介な所に
当たったなぁ。化学室は使用後、独特な薬品臭が残っているから苦手だ。
まぁ、神崎は俺達より鼻が効くためかもっと嫌なんだろうけど。
そんなことを考えているうちに目的地に着いた。
「よし、お前ら。覚悟はいいか」
植村は、ドアノブに手をかけて俺達の方を見る。俺達はコクリと頷いた。
まぁ、神崎は渋々と言った所だけど。それを確認してから、植村はドアノブをゆっくり回し
勢いよく開け放った。
「南無三‼︎」
開けた瞬間だった。
「「ゔッ‼︎」」
ドアを開けた瞬間に、中から強烈な刺激臭が目と鼻をもろに攻撃してきた。
「く……ッせぇ‼︎」
「なんだ⁉︎この匂い⁉︎」
「神崎、大丈夫か?」
「……ムリ」
そう言った瞬間、神崎の身体が揺れた。
もろに壁にぶつかるかと思ったが、後ろにいた倉田によってまのがれた。
「……しっかりしろよ、大丈夫か」
「悪ィ……、外の空気吸ってくる……」
神崎はふらふらとした足取りで、ベランダへ向かった。
本当に辛そうだったから、今はそっとしておこう。
だが、俺は少し違和感を感じていた。
倉田の神崎に対しての接し方が、いつもと少し違うように感じた。
いや、倉田が神崎のことを気にかけているのはいつものことだが……。
なんというかこう……。俺は掃除をしながら倉田をちらっと見る。
いやまさかな……。
「何か言いたいことがあるなら早く言え、伊勢崎」
「え‶⁉」
「視線がうるさい」
どうやら視線でバレていたようだ。俺は覚悟を決めて先程感じた
違和感を倉田に尋ねることにした。
「なぁ、倉田。変なことを聞くんだけどさ。倉田と神崎ってそういう関係
だったりすんの……?」
「なんだって?」
「だーかーら!お前と神崎はデキてるのかって!」
「「……ハ?」」
俺の発言に倉田だけでなく、植村達も反応した。植村は持っていた黒板消しを
落とし、野上はちりとりを落として固まった。倉田はというと、目を見開いて
俺を見たまま固まっている。俺達の間に沈黙が流れる。
「バカか」
「あだっ!」
沈黙を破ったのは神崎の声と俺の後頭部が叩かれた音だった。振り向くと
呆れた表情をした神崎が立っていた。叩かれた所が地味に痛い。
「神崎、完全復活デスカ……」
「お蔭様でな。で、伊勢崎」
「……ハイ」
「さっきの回答だが俺と倉田は幼馴染だ。小さい頃から一緒なんだよ」
「そうなの?」
「そうだ」
神崎にそうキッパリ言われては俺はもう何も言えなかった。
でも、さっき本当にそう見えなかったんだよ。
「神崎、これ飲むか?さっき、自販機で当たったんだ」
「あ、マジ?この紅茶好きなんだ、サンキュ」
倉田と神崎の今のやり取りを見てると、なんか不思議と
そんなもんなのかと納得してしまった。ん?今……。
「イセ、どした?」
「いや、神崎が今ハルさんの動作に少し被った」
俺がそう言うと同時に神崎はぶっ!?と、飲んでいた
紅茶を盛大に吹き出した。背中を倉田にさすられながら
息をゆっくり整えている。
「お前、それなんの冗談だよ……」
「なんで、呆れんだよ!」
「そりゃ、当たり前の反応だって」
「植村まで!?」
「今のは伊勢崎が悪いな」
なんで、俺がこんなに言われなくちゃならないんだ。
ただ、思ったことを素直に口にしただけなのに。
「俺が悪いのかよ〜」
「うん、仕方ないね」
「伊勢崎さ、ついこの間ハルを見たからじゃねぇの?」
「それに隣が白椿女学園だしねぇ」
俺の目の錯覚なのだろうか。たしかにふと、神崎の動作が
ハルさんの動作に少し被ったように見えたんだけどな。
「気のせいだったのかな……」
「おい、伊勢崎ー」
「いつまでお前そこにいんの」
「え?」
よく見ると掃除はとっくに終わっていて、神崎達はもう
ドアの方へいた。え、行動早くないですか?てか、俺
いつまでほうき持ってんの。俺は、慌てて掃除用具入れに
ほうきを戻してドアの方へ急いだ。
「悪ぃ、考え事してた」
「何、好きな子でもできたか」
「出会いがないのにできるわけないだろ」
「ハルに一目惚れした奴が何言うか」
神崎に爆弾を落とされた植村がうぐっ、と言葉を詰まらせたから
笑ってしまった。確かに、出会いがないから好きな人は
できない。当たり前のことだよな。
「とりあえず、教室戻ろうぜ」
「あぁ」
俺は先に歩き出した4人を見てふと思った。俺達は出会ってまだ
数週間しか経っていない。神崎や倉田みたいに幼なじみでもなく、
俺と植村みたいに同中の奴らだけじゃない。ほとんどが初対面の
奴らばっかり。それなのに、今はこうして5人で集まって
つるんでいる。世の中、何が起こるかわかったもんじゃない。
「なぁ」
「ん?」
「どうした?」
「これから3年間よろしくな」
俺がそう言うと、4人は目を見開いて固まった。
……なんで固まってんだよ。これじゃ、まるで俺が
おかしいこと言ったみたいじゃないか。頼むから
なにか反応してくれよ。
「イセ、今更何言ってんだよ」
「え」
「伊勢崎、それ当たり前だって」
いや、実際そう思ってんの俺だけだったらどうするよ。
俺、悲しくて泣くよ?多分。
「俺は正直、あまり関わりたくなかったがな」
ほら見ろー。倉田はそう言うと思ってたよ。ホント、
俺悲しい。
「だが、今はそう思っていない」
「へ?」
「倉田は言葉が少ない」
俺は倉田がまさかそういうと思わなかった。ヤバい、
なんか嬉しい。でも、ラスボスはいる。チラッとラスボスを見る。
「3年間?伊勢崎、冗談だろ?」
「神崎……?」
「バカ言うな。これからずっとだろうが、バーカ」
「神崎…」
「おら、さっさと教室戻んぞ。で、ハルん所行くぞ」
そう言いながら俺達の前をスタスタと歩く神崎。
俺達は顔を見合せてから吹き出した。神崎がまさかそんな風に
言うと思ってもいなかった。俺はてっきりお前らと3年間
一緒にいるのなんてごめんだ、くらい言われるのを覚悟
していたのに。
「置いてくぞ」
「植村の想い人ん所に行くぞ」
「おい!」
俺はコイツらとこれからと馬鹿なことしてくんだなぁ、
とか思ってしまった訳ですよ。柄にもなく、あんな
しんみりとしたことを考えてさぁ。そう思いながら
歩いていると、いつの間にか四季屋ののれんをくぐっていた。
「いらっしゃい!」
「よっス」
「あ、あおちゃん!倉田さん達も!」
「ども」
「ど、どもっス」
「なんで、吃るのさ」
顔を赤くして野上に詰寄る植村を見てハルさんは笑ってた。
その隣で神崎もどことなく口角を緩ませていた。それは、
男の俺でも綺麗だと思うくらい。
「なぁ、神崎」
「ん?」
「俺、お前に会えてよかったわ」
「なんだよ、急に」
バツが悪そうに顔をしかめて、俺を見る神崎。それをハルさんが
見て笑っている。まぁ、これはたしかに俺も笑ってしまう。
「何笑ってんだ、ハル」
「いい友達できたね、あおちゃん」
「ハル、あのなぁ」
「妬けちゃうなぁ!」
「おい、ハル」
暖かい目で見るハルさんに神崎もどうやら照れているらしい。
「あお、説得力ないぞ」
「あおちゃん、顔見てから言おうね」
「顔?」
「顔赤いよ?」
「ハ……ッ!?」
急いで鏡を見る神崎。確かに若干顔が赤い。そんな照れること
ないだろうに。
「ハル、お前さ。人のこと見すぎ」
「あおちゃんのことは倉田さんと同じくらい
わかってるつもりだよ」
「倉田くらいってなんだよ……。てか、倉田。お前、
今あおつったべ」
「あ」
いつも以上にワイワイガヤガヤと話する俺達。それにしても、
今日は色々あったなぁ。神崎のレアな表情も見れたし。これは
ハルさんのおかげでもあるけど。
「伊勢崎さん、今日あおちゃん何かありました?」
「あー、俺がしんみりしたこと言ったら意外な反応された」
「え?」
「これからもずっとよろしく、みたいなね」
「あおちゃんが?」
ハルさんの表情を見ると予想外だ、という表情をしていた。
ハルさんがそんな表情をするのだから、あの発言は相当
レアだってことか。うわぁ……、すげぇ。
「あたしからも、あおちゃんをよろしくお願いします」
「……ハールー」
「ラジャ!」
「ウス!」
倉田と野上もこくりと頷いていた。神崎は再びバツの
悪そうな顔をしていた。たまにはそんな扱いもいいんじゃ
ないか?俺程じゃないし。
「神崎ー、今更撤回はなしだぞー」
「しねぇよ」
その言葉を聞いて俺はニッと笑った。今なら、神崎にどんなに
冷たい言葉を投げられてもなんとも思わない。ジッと神崎を
見てたら引っぱたかれた。地味に痛い。俺はこの賑やかな
時間を過ごしながら思った。俺達の青春はまだ始まったばかり。
これから、俺達5人はここで青春を謳歌する。このまま、俺達は
何が起こるかわからない未来へ前進あるのみ。