森(フォレスト)
《マナ姫、先程の老人の言われた通り、そのハンターに会う方が良さそうですね。まずはここから東の町に向かい、ハンターの手がかりと装備を整えましょう。この町では装備品は手に入らないでしょうから》
《そうですね、これ程人々が貧困ならきっと装備品は難しいでしょう。戦火から離れた町なら、手に入るかも知れませんね》
マナとフィンは港町から東に向かい、街道を進み町を目指した。
マナはフィンに言われ、力を使い過ぎないように、日中は盲目のまま、夜中はフィンの力を使い街道を進んだ。
ユリシス様から頂いた杖は、錫杖にもなり盲目のマナには快適な杖だった。
杖は魔力を後押しする作用があるのか、マナが使う治癒能力も普段より疲労感を抑えられた。
それに手伝ってくれるフィンが、細かな気配りをして、マナがこの世界に馴染むように、補佐してくれているのが嬉しかった。
彼はマナが知る屋敷のどの武人より強く、そして沢山の知識を持っていた。
一度、フィンに何故皇子なのにそんなに武技が出来るのかと尋ねたら、彼は真剣な眼差しで答えた。
《私はドラゴン族を守る為、皇子なのですよ。皇子に産まれた瞬間私には彼らを守るべき使命があるのです。皇子だからと言って守られるだけが、私の役目ではありません》
《そうですね、不躾な質問をしてごめんなさい。でもフィン様、貴方がそうして守っている方達も、貴方を守って居てくれているのです。くれぐれも貴方自身も、無理はしないで下さいね》
《有り難うマナ姫。今迄そんなふうに言ってくれた方は貴女一人だ……有り難う》
その日からフィンはマナを愛するようになり、マナもフィンに惹かれて行った。
東の町カルサスに辿り着いた2人は、町の人からハンターについての情報を手に入れた。
彼はサリアスと言う青年だと言う、普段は赤宮の近くの森の奥に住んで居て、この町にもたまに訪れるようだ。
《マナ姫、取り敢えず明日一番で森に向かって見ましょう》
《えぇ、フィン様。サリアス様とおっしゃられるお方、お話しを聞いて下さると宜しいのですが…》
《そうですね、取り敢えず森に入る準備は怠らないように、装備品を整えましょう。森には強力なモンスターも多いですし、貴女の防具もこの町でなら手に入るでしょう》
《はい、お任せします。宜しくお願いします》
それから数時間装備品を整え2人はカルサスの町を後にした。
暫く歩くと右手に、フォレストと呼ばれる森の入り口が見えて来た。
《マナ姫、あれがフォレストです。入り口が見えて来ました》
《何て巨大な森、目の見えない私にも威圧感が感じられます。本当にこんな森にサリアス様は居らっしゃるのかしら…》
マナは微かな不安に身震いをおこした。
《大丈夫です、町の方もサリアス殿は凄腕のハンターだと申していました。きっとこの森でも生きていける強い方なのです。姫の事は私がお守りします。心配しないで下さい》
フィンはマナ姫の手を握り、姫の震える身体を抱きしめた。
《はい…。フィン様》
森に入ると獣やモンスターが次から次へと現れた。
目の見えないマナには厳しい戦いだったが、フィンの協力で何とか森の奥にある山小屋のような場所を発見出来た。
しかし、ジリジリと回りを囲むモンスターの気配は強まるばかりだった。
《マナ姫、あそこに山小屋があります。急いで下さい。きっとあそこにサリアス殿がおられる筈です》
《ハアハアハア…。待って下さい。息が…》
《後ろにモンスターが迫っています。あのモンスターは今迄で一番強い。恐らく建物にはテリトリー外なので入れない筈です、頑張って下さい!!》
《...はい…ハアハア…あっ!!》
マナ姫は足元にある木の枝に躓き、身体から崩れ落ちるように倒れた。
そこへ後方からやって来たモンスターが拳を振り上げ、マナに向かって振り下ろした。
その瞬間、一筋の光がはじけ、マナの目の前のモンスターに無数の矢が突き刺さった。
モンスターは雄叫びのような悲鳴をあげそのまま粉々に砕け散った。
《マナ姫大丈夫ですか!?お怪我はありませんか?》
《えぇ、大丈夫ですフィン様。あの方に救われましたわ》
フィンはマナが指し示した方角を見ると、小屋の方から1人の若者がこちらに向かって歩いて来た。
《きっとあの方がサリアス様です。フィン様、さぁ参りましょう》
マナとフィンはサリアスに近寄りお礼をいい、彼の小屋で今までの経緯を話した。
サリアスは話を聞いた後、暫く黙り込むとこう切り出した。
《アルサス王にお会いするのは恐らく難しく無いと思われます。私は彼とは友人でもあるので、只今日はもう日が暮れて来ました。粗末な我が家ですが一晩こちらでお泊まり下さい、翌日私が赤宮まで案内します》
《有り難うございます、サリアス様。宜しくお願いします》
客間に通されたマナとフィンは、旅の防具品を取り去り暫しの休息を手に入れた。