帰順
《しかし、文献の最後にこう書いてありました。ワンダーはワンダーによって死せる事は可能だと…》
《!!!!!!》
《そうですマナ姫。私は貴女に殺して貰う為、この世界に貴女を呼び寄せたのです。私はもう…元の世界も…私の命さえ…どうでも良いのです…どうでも…》
《そんな…、私には貴方を殺す事など出来ません。どんなに貴方が憎くとも人の命を奪う権利など、どの方にも無いのです》
《私は長く生き過ぎてどこかおかしくなっているのかも知れません。この国の魔法は気力を使います。ワンダーさえ気力を使い過ぎると精神に負担がかかるのです。私も最初の頃は治癒魔法でこの国の人々を治療して過ごしてました。精神に異常をきたすまでは…、意識を失い気づいた時は1つの町が崩壊してました》
《…………》
《助けて下さいマナ姫、私にはこの方法しかとるすべが無かったのです》
《サリアス様…貴方はこの国を愛しているのですね、このまま貴方がいれば、この世界が貴方の手によって滅びてしまうから…》
《もう…私には…この世界を愛しているのか…違うのかさえ…分かりません》
サリアスはもうマナに目さえ合わせる事が出来なかった。
《分かりました、私が貴方を元の世界に戻します。貴方がこの世界で起こした戦争は私がきっと納めます。私もいつか精神が病んで、ワンダーを呼ぶ事になるかも知れません…、でも私にはフィンやこの世界の魔法とは別の力があります。貴方程孤独では無いかも知れません…》
《ありがとう…ありがとう》
サリアスはマナに跪き涙を流し頭を下げた。
装着を解いたマナの横にフィンが姿を表した。
《マナ姫…》
《ごめんなさいフィン様…、私はこの方を罰する事が出来ません。幾千の亡くなられた方に私は何も出来ない。私もこの方と同じワンダーです…私もいつか…》
《貴女は絶対そうならない‼︎私が守ります!!私が貴女が力を使わないで過ごせるような世界を作り上げます。だからマナ姫、私と供に生きましょう》
マナはフィンに抱きしめられながらそっと彼の手を握りしめた…。
数日後…ディスヴィアス山脈の頂上に扉が出現した。
サリアスはマナにより扉の彼方に消えていった。
彼の顔は穏やかに光の渦に消えていった。
アルサス王とフィン王子は和解と戦争締結の約定を交わし、戦争は終結したかと思われたが、一度芽吹いた種族間の争いは終わる事無く、小競り合いは数百年続いた。
しかし、マナはフィンと供に根気よく種族間の遺恨を取り除くべく尽力した。
そして、その数年後とうとう惨劇が起こってしまった。
人間族とドラゴン族が戦争を始めたのだ。
始まりは人間族がドラゴン族の力を恐れ、仕掛けた戦の為である。
マナは気力を使いドラゴン族を守護し戦い続けた。
余りにも長い戦争でマナは少しずつ精神が疲弊していった…。
ある日、マナとフィンが連れ立って国を出て、ユリシス女王に会いにエルフの国を訪れた時だった。訃報が届いた。
人間族の奇襲でアーロン王が亡くなった知らせだった。
急ぎ国に戻った二人が見た物は凄まじい戦火の後だった。
寝込みを襲われたのだろう、魔法で捕縛され焼かれたドラゴンの死骸が四方に散りばめられていた。
《こんなに小さなドラゴンまで…、私達が守っていた者は何だったの…》
マナは涙を流し、傷ついたドラゴンに治癒をおこなった。
しかし、ドラゴンは目を開ける事は無かった。
《フィン…ごめんなさい…私はもう、この世界を許す事が出来なくなりそうです。このままでは彼らは貴方まで殺してしまう…。そうなればこの世界を…私が破壊してしまいます。そうなる前に私はワンダーを呼ばなければ…》
《マナ…。私も貴女と供に罪をかぶりましょう。私を装着して下さい。出来る限り貴女の力が暴走しないよう守ります、ワンダーが現れるその日まで…》
《ありがとうフィン。お腹の子をアーロンお父様にお知らせ出来なかった…。お父様は何ておっしゃったかしら…》
《きっと喜んでくれたさ。数百年振りの直系の子供だ。マナ…暫く結界を張ろう君が出産してワンダーを呼べば、君はもう意識を保て無いだろう…。私は君に装着されたまま君を最後まで見届ける…今度装着された時きっと君はもう意識は無いかも知れない…でもきっと君を守るよ》
《...フィン…。ありがとう。そして、ごめんなさい…サリアス様…この世界を守れなかった…》
マナはゆっくりとフィンを装着したまま眠りに着いた。
彼女は数年後出産をし、その衝撃で国を1つ滅ぼした。
気力を消耗したマナはワンダーを召喚するすら出来ず、フィンが結界を貼り何とか彼女を閉じ込めた。
やがてマナは数百年後にワンダーを召喚する事に成功した。
《竜巳…竜巳…私の声が聞こえますか…?…私は…マナ…この世界の創造主です。あなたを呼んだのは私です。あなたに私の頼みを聞いて貰いたいのです!》