第7話 機動部隊最後の日
「…報告は以上です。日向長官」
戦艦『紀伊』の長官室である。
インカム型の通信機に話しながら日向はノートパソコンで何かを作成していた。
「そうか、2042年からか…目が覚めたなら扱いは丁重にな」
「はい、しかし、どうしますか?2042年の世界に戻すことは実質不可能です」
「んー…、そうだな、とりあえず紀伊で面倒見るしかないんじゃないか?最終的に
日本に頼ることになるだろうが…さすがに『独立機動艦隊』でアメリカと戦ってくれなんていえないしな」
「分かりました。士官用の個室をあてがいます。面倒はとりあえず私が」
「悪いな古賀」
「長官のわがままに振り回されるのはなれてますから」
プツっと言う音と共に通信が切れる。
日向はやれやれと思いながらパソコンのあるものの作成に戻る。
「そろそろ、アメリカ艦隊が艦載機を飛ばす時間ね恭介」
「そんな時間か?」
前からの声に日向は顔を上げるとソファーに座りこちらを見ている少女に目を向ける。
「ま、私の敵じゃないけどね」
と、少女は言った。
12〜13くらいだろうか?まるで日本人形のような長い黒髪に気の強そうな印象を
受ける黒い瞳を日向に向け微笑んでいる。
「そりゃな。『紀伊』様に適う船は現時点では存在しないからな」
と日向はうなずいた。
すると少女は少し不満な表情を浮かべ
「恭介?あなたには私を真名で呼ぶことを許可したはずだけど?」
睨みつけるような目。日向は笑いながら
「ハハハ、言ってみただけだって凜に勝てる船は存在しないさ」
と日向は言うと少女…凜は満足げにうなずくと立ち上がり日向の方へ来てパソコンを
覗き込んだ。
「何作ってるの恭介?」
日向はキーを操る手を止める。
「ん?俺達が現れたことにより起こりうる歴史の変化のシュミレートだよ」
「シュミレート?」
凜が聞き返した。
ここで彼女の説明をしておこう。彼女の名は『紀伊』。この船に宿る艦魂である。
認めた相手にしか呼ばせない彼女の真名は『凜』。
艦魂とは軍艦やそれ以外の全ての船に宿る守護神のような存在である。
ほとんどの人には見えないが霊感が強いものやその船に深い愛着を持つもなどには
彼女は見えるのである。
「例えばガタルカナルの攻防戦だな。これはアメリカ軍の奇襲で始まった戦いだけど
…」
ピーピー
「ん?どうした?」
日向は話を中断しインカム型の通信機に手を置いた。
説明を途中で中断されたことに怒りを感じた凜が接続を切ろうとしたので慌てて日向は
手でそれを制すと凜は不満げにはしていたがうなずいた。
日向は通信を聞いた後立ち上がった。
「んじゃ、行ってくるよ凜」
「いってらっしゃい」
と凜は言うとソファーに横になり目をつぶってしまった。
目をつぶってても勝てるということだろうか…
日向は苦笑しながら艦橋に向かい歩いていった。
「捉えたぞジャップ!」
空母エンタープライズ艦橋でスプルーアンスは拳を握り締めて叫んだ。
「攻撃隊を出します!」
「ああ!ジャップ艦隊に目にものを見せてやれ!」
事前の打ち合わせ道りに艦載機による航空攻撃。太平洋艦隊は航空攻撃終了しだい
真珠湾に撤収する予定だった。
日本艦隊を撃滅できるならそれに越したことはないが今回の攻撃はかなり無理を
押しての攻撃である。
大統領がなんと言おうとスプルーアンスは無理だと判断したらすぐに撤退するつもりだった。
今回の目標はただ一つ。
日本艦隊の旗艦を沈めることこの1点にある。
旗艦を沈めれば大統領に対しても言い訳が成り立つからだ。
F4Fワイルドキャット戦闘機に守られながらSBDドーントレス急降下爆撃機が
エンタープライズ、ホーネットから発艦していく。
第1次攻撃部隊である。
それが飛び立つとエレベーターから第2次攻撃隊の出撃の準備があわただしく行なわれていく。
攻撃隊が日本艦隊がいる方角に飛んでいくのをスプルーアンスは黙って見つめていた。
彼の嫌な予感は未だ消えていなかった…
「機動部隊から航空機多数発艦を確認!」
というCICからの報告を聞き日向は艦橋にやってきた。
すでに艦橋では古賀参謀長や他の参謀達も集まっている。
その中に山本、黒島の姿もあった。
「私達のことは気にせず指揮をとってくれ」
と、黒島に言われ日向は中央の椅子に座った
。
「すでにアメリカ艦隊全艦船に対してミサイル攻撃が可能な状態です。
ご命令を長官」
古賀に日向は一瞬顔を向けてから
「よし、ハリアーを出せ。目標はエンタープライズとホーネットだ。雑魚に構うな」
「ハリアー発艦します!」
航空参謀の木下の言葉通り『紀伊』後部飛行甲板からジェット噴射で垂直に舞い上がったハリアーは次の瞬間後部のジェット噴射が行なわれたかと思うとあっという間に空の彼方へと消えていった。
「続けてシースパロー準備!敵が50キロを切った時点で発射だ!」
「了解!」
日向の命令により次々とCICで命令が実行に移されている。
アメリカ艦隊が喧嘩を売ろうとしているのはとてつもない化け物なのだ。
「これが、未来の戦争か」
と山本はつぶやくように言った。
エンタープライズ、ホーネットから発艦した第1次攻撃隊は一路日本艦隊を目指して
飛行中であった。
そんな時遥か前方から何かが飛んでくるのが
第1次攻撃隊を指揮するハリー=ボーマン大尉には見えた。
「なんだ?」
機銃の安全装置を解除してボーマン大尉は目を凝らした。
次の瞬間ものすごい速度で何かが第1次攻撃隊の上を通過していった。
続けてキィイイイイという音が後からボーマンの耳に届いた。
「な、なんだ!?」
慌てて後ろを振り返ってみるがそれはもう小さな影となり消えつつあった。
そして、その方向はエンタープライズを旗艦とする太平洋艦隊がいる。
「!?」
ボーマンは慌てて無線に手を伸ばした。
スルプーアンスの嫌な予感は的中した。
敵、航空機高速で接近中と報告を受けたスプルーアンスはそのレーダーに映る
敵の速さに仰天した。
「なんだこいつは!」
と、スプルーアンスはうなった。
見る見るとそのレーダーに映し出される点はこちらに近づいてくる。
「対空砲火だ!」
スプルーアンスは怒鳴った。
その瞬間だった。ズズウンという爆発音がしスプルーアンスは参謀に押し倒された。
続けてエンタープライズにも振動と爆音が轟いた。
1発は甲板の方から。そして、もう1発は艦橋の下部の甲板に直撃し爆発が置き
スプルーアンスの意識は途絶えた。
スプルーアンスにとっては訳のわからない状態では会ったがハリアー攻撃隊は命令通り
空母を狙った。
10機のハリアーはそれぞれミサイルを発射する。
「ぶっ潰せ!」
ハリアー攻撃隊隊長、小川大尉の怒鳴り声と共にミサイルは発射された。
まず爆発を起こしたのはホーネットだった。
第2次攻撃隊発艦のため飛行甲板に出されていた航空機が吹っ飛び爆発し
さらにミサイルがホーネットの艦橋に直撃した直後、大爆発をおこして
ホーネットは爆沈した。
無論エンタープライズも無事ではすまない。
同じように飛行甲板に直撃し爆発を起こすがミッドウェー海戦で航空機を多数喪失し
第2次攻撃隊を出す余裕のないエンタープライズは轟沈だけはまぬがれたが傾き始めていることから沈むことは免れない。
「あいつらぁあああ!」
エンタープライズ、ホーネットの上空で敵航空機を警戒していた制空隊のF4Fワイルドキャットは自分達の空母が破壊されたことに怒りをあらわにしてハリアーを叩き落そうと
猛然と攻撃を開始した。
「なんだ奴らは!」
しかし、性能が違いすぎる。
ワイルドキャットの最高速度が515キロ、そして、ハリアーの最高速度はマッハ2を越える。
速さではまったくお話にならないのだ。
ハリアーが反転して突っ込んでくる。
さらに何かが発射された。
ロケット弾か?とワイルドキャットのパイロット達は思い回避行動を取ろうとしたが
ミサイルは軌道修正して全てのワイルドキャットを吹き飛ばした。
太平洋艦隊は旗艦に被弾し上空を飛び交うハリアーが放つミサイル攻撃に
大混乱に陥った。
その頃、第1次攻撃隊も悲惨な運命をたどっていた。
「な、なんだ…これは」
ボーマン大尉は唖然とした声で言った。
第1次攻撃隊は連合艦隊を確認することすら出来なかった。
白煙を吐いて飛来したロケット弾のようなものにボーマン大尉のワイルドキャットを除く全ての航空機をばらばらに消し飛ばしたのである。
今、ボーマン大尉はたった1人で大空を飛んでいるのであった。
米太平洋艦隊壊滅す
ご意見・感想お待ちしております。
当初、私は艦魂を出す予定はありませんでした。
しかし、周りの人たちに出してほしいといわれだしてみましたがいかがでしょうか?だめだといわれても
もう、引き返せませんが…
次回更新は8月17日になるかと思います。
もしかしたら早くなるかもしれません。
次回予告 今回からは艦魂紀伊こと凛が予告を行います。
凛「相手にならないわね。私の姿を確認させてから潰してあげてもよかったけど弱いんだからその価値のないか…次回予告?ああ、そういえば恭介がやれっていってたわね。この私に命令するなんて何様のつもりかしら?まあ、いいわ。次回はあの資料室に隠れてた
少女の正体が分かるみたい。じゃあ、また」
以上!紀伊こと凛様でした!