第46話 祖国のため
尾張が離脱を始めた頃、アメリカ機動部隊の司令であるランカスター少将も選ばなければならなかった。
尾張の通信によればこの海域にモンスター戦艦が3隻向かっていると言う。
勝ち目はない。
そうランカスター少将は思った。
戦艦は航空機には勝てないと誰かが言っていたがそれは間違いだとランカスターは思いはじめていた。
彼は噂と信頼できる筋から聞いていたのだ。
真珠湾をたった1隻の戦艦が5000の航空戦力と渡り合い、基地と航空戦力を壊滅させて無傷で離脱したこと。
そして、オアフ島攻防戦では再び別の戦艦に奇襲を受けてぼこぼこにやられたという。
そのモンスター戦艦が3隻…
先程まで尾張が戦っていた戦艦と空母はどうやら撤退したらしいが新たなモンスターが現れる。「ランカスター司令、私は尾張と新たに現れた日本の戦艦と共にイギリスの亡命を助けるべきだと思います」
参謀長が言った。
「…」
ランカスター少将も本音はそうしたいと思っていた。
しかし、この状況でそうすれば敵前逃亡にならないかと心配しているのである。すでにランカスターは軍規を破ったかもしれない。
だが…
命令を遵守し全滅するか…あるいは明日の反撃のために撤退するか…
ランカスター少将はしばらく目を潰っていたが決意しして目を開けた。
「よし!責任は私が取る。全艦隊に伝達せよ。これより我が艦隊は日本艦隊と共にスコットランドランドへと向かいイギリスの亡命を支援する。尾張にも通信だ!貴艦隊との随行を許されたしとな」
「イエッサー!」
通信兵が走っていくのを見ながらランカスターはこれで私は司令ではいられんなと思いながら目を閉じた。
「艦長!アメリカ機動部隊から通信です。貴艦隊との同行を許されたしとのことです」
「よし!了解と送れ!その後艦隊の編成を組み直せ!しんがりは尾張と三笠がつとめる。三笠にも通信だ」
「はっ!」
椎名は思った。
アメリカは味方についたがイギリスはどう動くか…
日本ではないから玉砕はないと願いたいがと椎名は思った。
チャーチルは戦線をこれ以上維持することは困難と判断した。
そして、尾張からもたらされたモンスター戦艦3隻の接近の情報。
さらに先程アメリカの機動部隊からもモンスター戦艦の接近の情報が入った。
両艦隊はスコットランドへ向かっており脱出の船の護衛を引き受けるらしい。
チャーチルは決断せねばならなかった。祖国に骨を埋めるつもりで最後まで戦うかあるいは反撃のために涙を飲むか…
「総理閣下…」
参謀総長が声をかけてくる。
「うむ…分かっている。ロンドンを…いや、グレートブリテン島を放棄する。イギリス全艦隊はスコットランド各地の港での撤退を支援せよと伝えろ。ドイツ艦隊が追ってくるならこれを死守するんだ。私はオーストラリアへ亡命して政府を作る。そして…」チャーチルは全て己の独断だと心に刻みながらその言葉を口にした。
「日本艦隊と協力してことに当たれ。それと日本艦隊へ通信を。我々は日本と講和を申し込む用意がある。そのためオーストラリアまで貴艦隊の護衛を頼みたいとな」
「総理閣下!それは…」
参謀総長が驚いた顔で言った。
「もっとはやく気づくべきだったのだ…日本は敵である我が国に戦艦を送り支援してくれている。真に組むべきはアメリカではなく日本だった…アメリカは日本と戦うのではなくドイツと全力で戦うべきなのだ」
「確かに…」
参謀総長が言った。チャーチルはうなずくと
「よし、ではナチを止める部隊だが…」
「私がのこります」陸軍長官が進み出た。
「なんだと!」
予想外の人物にチャーチルは仰天した。
「ナチの侵攻軍をロンドンで死守して時間を稼ぎます」
「君は死ぬつもりか!」
チャーチルが言うと陸軍長官はにこりと笑った。
「そのつもりはありません。時間を稼げたら降伏しますよ」
「君…」
チャーチルは涙ぐんだ。
「すまん」
チャーチルは頭を下げた。
「いいのです。総理閣下は必ずイギリスを取り戻してここへ戻ってきてください。そして、一緒にアフタヌーンティーを楽しみましょう」
「うむ、必ず」
チャーチルはうなずいた。
絶対に帰ってきてやると心に闘志をもやした瞬間だった。
「さあ、お急ぎください」
兵に促されてチャーチルは地下司令室からでていく。
チャーチルが振り返ると陸軍長官が敬礼していた。
「偉大な勇者に敬礼」
チャーチルが言うと参謀総長を始めとした兵達が敬礼した。それは永遠に続くかと思われたがチャーチルは敬礼をやめると行くぞと兵達を促した。
ロンドンに残る兵達は死を覚悟しなければならない。
しかし、志願という形で残された兵は実に陸軍だけで3万が残りパイロット達も残る4分の1が志願で残ったのである。祖国を守るため…そして明日への希望を繋ぐため…
「椎名艦長!チャーチル首相から通信です。日本との講和を望みオーストラリアまでの護衛を要請してきています」
椎名はうなずいた。
「そうか…講和は日本政府がすることだがチャーチル首相をオーストラリアまで届けないことには始まらん…よし!護衛を承諾すると送れ!」
「はっ!」
「イギリス艦隊は?」
「亡命艦隊の援護につくそうです。ロンドン防衛は志願兵が時間を稼ぐと…」
「…」
椎名は少し考えると
「敵未来戦艦が戦闘海域に入る予想時間は?」
「後、3時間程です」
微妙だな椎名は思った。しかし、護衛を任された以上追ってくるなら尾張と三笠が戦うしかない。
ようやく講和の糸口が見えたのだ。
チャーチルをここで死なすわけにはいかない。
「ハリアーは何機残ってる?」
「残り6機です。出撃可能なハリアーは4機のみです」
霧島が答えた。
バッヘムとハリアーの性能はバッヘムが上だった。
バッヘムと戦ったハリアーが4機出撃できるならまだいいほうだと椎名は思った。
「烈風は?」
「上空で制空任務についています。10機がロンドン上空で交戦中」
「よし」
椎名はうなすくと
「烈風を後30機ロンドンへ向かわせろ。撤退の支援をさせるんだ」
「はっ!」
三笠は分かりやすく言えば航空戦艦である。
未来でも試作で小数しか作られなかった第6世代の戦闘機である烈風を搭載しており搭載数は60機と戦艦の類にあてはめるなら多い。
烈風の性能は雷神、神雷、ハリアーを大きく上回る戦闘機だった。
それを三笠に集中配備したのは始めの目的が造船所の破壊という広範囲の目標だったのとそのあまりの高性能ゆえにパイロットを選ぶ戦闘機だったのが原因である。
椎名の命令を受けた烈風は編隊を組みバッヘムやメッサーシュミットが暴れ回るロンドンへ向けて音速を越える速度で消えて言った。
凛「戦争は辛いわね…未来ある若者が散っていく…」
明「このロンドン防衛戦は後のイギリスでは伝説になる防衛戦らしいわ」
撫子「イギリスの皆様は講和を申しでてくれました。これでアメリカの皆様も休戦に応じて頂けるといいのですが…」
星菜「微妙…」
凛「それにしてもなんかすごいわね…イギリスの亡命を助ける艦隊が今はまだ敵であるアメリカを含めた日英米の連合艦隊だなんて…ある意味最強艦隊?」
明「ドイツに未来戦艦がいなければね…」