第3話 激突!日本戦艦部隊VS『紀伊』
時刻は夕刻。オレンジ色の光が世界を覆うこの時間、日本連合艦隊全艦船に乗る
兵士達は緊張に包まれていた。
戦艦『大和』右舷にある機銃の要員である小西1等水兵は仲間の兵士達と共に
水平線を見つめていた。
無論、機銃に座り、いつでも撃てる状態は取っているが上官の工藤兵曹によれば
まず、主砲を撃つとのことであった。
主砲を撃つ場合機銃要員は艦内に退避する。
主砲を撃つ場合爆風などがすさまじいためだ。
ならば先に退避させておけばよいのではと小西は思うのだが
口には出さない。
そんなことを口に出せば殴られるからだ。
その時である。
「ん?」
「どうしたんだ小西?」
小西が妙な声を出したので同じく機銃要員である芹沢一等水兵が訪ねた。
小西は水平線を指差しながら
「いや、何かが…」
ビービー
光った気がしてと言おうとした小西の言葉はけたたましい警報によりさえぎられた。
「主砲発射の合図だ!」
誰かが言った。
訓練を受けた兵士達は一糸乱れぬ動きで艦内へと走る。
扉に入る寸前小西は振り返ってみると遥か水平線からこちらに向かう巨大戦艦を見た気がした。
「来たな!」
連合艦隊旗艦、『大和』では見張りから敵戦艦接近の報告を受け射程に入るのを今か今かと待っていた。
ちなみに大和の46cm砲の射程は3万5千を越える。
しかし、山本の指示で斉射は2万を切ってからということになった。
すさまじい速度の戦艦…
個々に撃ったのでは当たらないと山本は考え全艦一斉射撃による飽和攻撃で敵戦艦を
沈める方法を取ろうというのである。
時刻はすでに太陽が沈みかけている。時間をかけるわけには
行かなかった。
ろくなレーダーを持たない連合艦隊は夜戦に持ち込まれることをなんとしても避けねばならなかったのである。
山本の直感もそう告げていた。
「敵戦艦『大和』の射程に入りました!」
砲術長が大和艦長高柳を見て言うが高柳艦長は
「駄目だ!まだ、撃つな!距離2万を切った瞬間まで待つのだ」
そうこうしている間にも敵戦艦との距離は縮んでいく。
見る見る大きくなっていく船影を見て山本は血が騒ぐのを感じた。
長年忘れていた感覚である。
そして、全艦の緊張が頂点に達したまさにその時、その瞬間はやってきた。
距離が2万を切った。
「撃て!」
思わず山本は叫んでいた。本来なら艦長である高柳の言葉であるのだから
自分で言って山本は驚いたと後に語った。
ともあれ山本の叫びと共に全戦艦が同時に火を噴いた。
すさまじい爆音とすさまじい閃光が辺りを包み敵戦艦を死へと追いやる
砲弾を放った。
終わったと誰もが思った。
まるで、巨大な火柱が上がったかのように横一列に戦艦の主砲が『紀伊』に向かい
放たれた。
連合艦隊との距離が縮まってはいたため速度を33ノットにまで落とした『紀伊』艦長
日向は怒鳴った。
「取り舵一杯!」
ぐぐぐ、と巨大な船体が曲がる。
「ミサイルロックオン!」
「よし!撃て!」
CICからのスピーカーの言葉を聞き日向は怒鳴った。
さすがに笑みは消えている。
突如『紀伊』から炎が上がった。
いや、ミサイルが放たれたのだ。
『紀伊』のイージスシステムは30の敵を同時にロックオンすることが出来る。
放たれた瞬間ミサイルがまるで火柱のように紀伊を包み込む。
空中で大爆発が起こった。
「やったか!」
大和艦長高柳は怒鳴った。
前方は煙がものすごく何も見えない。
27の戦艦の主砲の斉射である。そんなものを食らって生き残れる戦艦など…
いや、物など存在しない。
黒煙が謎の戦艦がいた場所を包んでいる。
誰もが緊張した様子でそれを見ていた。
生き残れるはずがない。
理屈では分かっていてもなぜか安心できなかった。
山本五十六も同様だった。
誰もが動作を止めて黒煙を見つめる。
数分が経過し黒煙が晴れていく。
「そ、そんな馬鹿な!」
砲術長が悲鳴を上げた。
黒煙が晴れたそこには謎の戦艦が堂々と止まりこちらに主砲を向けている。
奴は化け物かと誰もが思ったが生きていると分かった以上戦わなければならない。
なぜか止まって絶好の的となっている謎の戦艦に再び27の主砲が向けられる。
しかし…
「山本長官!敵艦より通信が!」
その時、通信長の声が山本や高柳の攻撃命令をさえぎった。
山本は驚いた顔をしたが
「何だと?なんと言っている?」
「これ以上の連合艦隊との戦闘は我は望まずと…」
「勝手なことを!」
攻撃を中断させてから高柳艦長は憤激した。
「向こうから攻撃をしてきたのではないか!長官!攻撃を続行しましょう!あのふざけた戦艦を海のそこに叩き込みましょう!」
「いや…」
山本はうなずかなかった。
それによく考えてみれば向こうはただ、接近してきただけなのだ。
もちろんそれ自体が戦闘行為と取ることはできるが戦闘を望まないというならば
これ以上の戦いは無益である。
それに27の主砲をどう潜り抜けたのかも大いに興味があった。
しかし、まずはやるべきことがある。
「通信長。敵艦に…いや、不明艦に通信を、貴艦の所属と艦名を述べよと」
通信士が不明艦に無線でそれを伝えると返事はすぐに返ってきた。
「我は紀伊」
「紀伊?聞いたことのない戦艦だが名前からして日本の名のようだが…」
しかし、山本の頭には紀伊という戦艦が作られているという話も就航したという
記憶もない。
「それで所属はどこなのだ?」
通信士に高柳艦長が聞くと通信士は再び通信を再開したようだった。
そして
「所属は日本といっています。しかし、大日本帝国ではなく日本と
言っています」
山本は黒島と顔を見合わせた。
通信士がさらに続けた。
「詳しい状況説明及び本艦の目的を話したいため大和への乗艦を求めてきています」
「許可しよう」
「長官!?」
高柳が仰天した声を上げた。
山本は高柳を見ると
「不満かね?」
「あ、いえ…長官がそうおっしゃられるなら私は…」
それ以上山本は高柳艦長に何か言うことなく通信士に許可すると伝えるように
言った。
そして、それに対する返答は
「感謝いたします。プロペラのついた飛行物体でそちらに着陸しますので撃墜を
控えていただきたい」
と返答があった。
無論、山本は許可しこうして紀伊と日本連合艦隊との戦いは終わりを告げたのである。
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