第31話 時を越えた再開
時は少し戻りアメリカ太平洋艦隊が壊滅して1月と立たない時期のことである。
アメリカホワイトハウスで対面したルーズベルト、キング長官はそのあまりにとんでもない
提案にど肝を抜かされていた。
「なんだと?もう1度言ってくれ二ミッツ」
キングが言うと二ミッツはうなずき
「日本のハワイ攻略作戦はおそらくそう時間はかからないでしょう。ハワイに合衆国海軍全艦隊を集結させてほしいのです」
「馬鹿な!」
キングは首を横に振った。
「そんなことをすれば欧州戦線が維持できなくなる」
「ドイツなどイギリスに任せればよいと思います。今、我がアメリカ合衆国の脅威となっているのは日本だけです。ドイツはアメリカ本土上陸作戦など考えていないでしょう。
合衆国海軍全艦隊でハワイに押し寄せる日本の攻略部隊を撃滅し、日本本土を直撃するのです」
それはあまりに無謀すぎる作戦だった。
何が彼を駆り立てたのか…
「しかし…」
ルーズベルト大統領が言った。
「その策はあまりに危険な策だ。もし、アメリカが1時的とはいえ欧州から軍を引き上げイギリスが落ちれば取り返しがつかないことになる」
「では、日本にアメリカ本土に押し寄せれてもよいというのでしょうか大統領?我らの祖国を
ジャップの薄汚い足で踏みにじられてもよいというのですか?イギリスを守ってもアメリカ本土がジャップに侵攻されれば意味はありません」
「まあ、待て二ミッツ」
キングがとりなした。
「お前の言いたいことは分かった。ハワイにはさらに増援を送ることを約束しよう。
欧州戦線よりも優先的に戦力を太平洋に回すようにしよう。よろしいですか大統領?」
「仕方ないな…」
ルーズベルト大統領もうなずいた。
チェスター=二ミッツは太平洋艦隊司令長官である。
彼は日本海軍の化け物戦艦の脅威を目の当たりにしているのである。
その彼が言うのだからその2艦の化け物戦艦の脅威はとんでもないものなのだろう。
「やはり私の案は駄目でしょうか?」
二ミッツはなおも食い下がろうとする。
「それは出来ないよ二ミッツ長官」
ルーズベルト大統領は車椅子をぎしりと揺らして言った。
「未確認だが君の言う化け物戦艦がドイツにも現れたのだ」
「なんですと!?」
二ミッツは仰天した。
「我が合衆国海軍はまだ、接触していないがイギリス艦隊の1部が全滅に等しい損害を受けたらしい。報告ではその戦艦は単艦で誘導式のロケット弾を放ち、命中率は100発100中だったという」
「紀伊だ!」
二ミッツは思わず叫んだ。
キングはうむとうなずき
「その可能性もある。だが、ハワイ攻略作戦を考えているであろう日本がわざわざイギリスに戦艦を送ると思うか?それに日本はドイツと手を切った」
「すると?」
二ミッツが言うとキングはうなずいた。
「ああ、ドイツが建造したと見るのが妥当だろうな。これで分かったかね?欧州から兵を引き上げるなどとんでもないのだ」
「分かりました…」
二ミッツは引き下がった。
ルーズベルト大統領は満足したようにうなずくと
「二ミッツ長官、君には引き続き太平洋艦隊司令長官を務めてもらう。意義はないな?」
「はい…」
二ミッツは力なくうなずいた。
「それでプレゼントというわけではないのだが君にいい話がある」
「それは?」
二ミッツが聞き返すとルーズベルト大統領は微笑んだ。
「喜びたまえ先ほど我が合衆国のジェット戦闘機が初飛行を成功したという報告があった」
「おお!」
二ミッツの顔がぱっと明るくなった。
「それでいつハワイにそのジェット戦闘機は配備されるのです?」
「そうだな。来年の3月には配備がすむだろう」
「なんですって!」
一気に二ミッツの顔が曇った。
「それでは間に合いません。日本艦隊の侵攻はそれよりおそらく早い」
「そうはいってもな長官。パイロットの育成もしなければならないし量産する時間もいるのだ。
君は現状の戦力で日本艦隊を迎撃してくれたまえ。何、空母の増産の数は莫大だ。レシプロ機だが新型の戦闘機や雷撃機も次々とハワイに運び込んでいる。負けはせん」
ぽんとキングは二ミッツの肩を叩いた。
「分かりました。私の命に代えましてもハワイは死守します」
二ミッツはしぶしぶながらも引き下がるしかなかった。
それはハワイ攻略作戦の数ヶ月前の出来事であった。
さて、再び時は12月に戻る。
戦艦大和は50ノット速度で沖縄に向けて航行中であった。
そして、ミサイルを運びこんだ後太平洋へと戻りいよいよハワイ攻略作戦が開始される。
まず、日本軍の占領目標はミッドウェー島である。
ミッドウェー島は小さな島だが飛行場があり真珠湾のあるオアフ島まで2100キロという距離である。
ここさえ取れば『神雷』の航続距離でも往復が可能になる。
もしも、真珠湾を攻略できなかったらその攻撃が重要となるがそれは許されない。
ドイツのイギリス侵攻のことを考えれば短期決戦で決めなればならない。
多少強引にでもハワイを落とさなければならないのだ。
そう、時間がないのだ。
日本軍にはタイムリミットがあるのであった。
しかも、そのタイムリミットがいつなのかが分からないので始末が悪かった。
大和の艦長室で有賀 幸作は椅子に座ると履いていた草履を脱いで薬を取り出した。
それは水虫の薬である。
有賀艦長は史実でもそのため艦内でも草履を履いており今回の大和の中でも彼は草履なのであった。
薬をあけるがそれは空だった。
「そうか、確か切らしていたか…」
有賀は新しい水虫の薬を取ろうと机の引き出しに手を伸ばしたが
「どうぞ、幸作様」
スっと白い手が有賀の前に出された。その手には新しい水虫の薬が乗っていた。
「ありがとう撫子」
有賀はお礼を言うとその薬を受け取った。
「いいえ、お役に立てて光栄です」
そういって彼女は静かに微笑んだ。
彼女は着物を着ており美しい女性だった。
年は20代といったところだろうか?
彼女の名は『大和』、真名は『撫子』という艦魂であった。
有賀は初めて機動戦艦となり出港を待つ大和に乗り込んで艦長室にいた彼女と会って始めは
驚愕したのだが豪胆な正確の有賀は彼女が人間でないことを瞬時に見抜き
大和に宿る精霊のような存在だということを彼女から聞くと納得したのである。
彼女は美しい。決して光り輝くような豪華な印象を受ける見た目ではなかったが
あえて言うなら彼女はまさに日本の女性の理想『大和撫子』であった。
有賀は薬を塗り終わると薬を机の引き出しに入れた。
「聞いてもいいか撫子?」
有賀が言うと撫子ははいと手を前にそろえて言った。
「君のような存在はまだいるのか?」
撫子は再びはいとうなずくと
「多くの艦魂は目覚めることはありません。ですが私にも理由は分からないのですが
何かの理由で目覚めた艦魂は他にもいるかもしれません」
有賀はほぅと言ってから
「では、君のような存在が見えるものは他にいるのか?俺だけが見えるのだろうか?」
「艦魂が見える条件というのも私にも分かりません。ですが艦を愛さない方には絶対に見えないと思います。幸作様は大和を愛しておられますか?」
「もちろん」
有賀は言った。
有賀は始め自分が大和の艦長にと言われたとき驚愕したものだった。
家族にも『男子の本懐これに勝るものなし』という手紙を送ったほど大喜び
したのである。
もっともこの数ヶ月いた沖縄の訓練は精神的に地獄だったが…
それに有賀は機動戦艦の艦長として独立機動艦隊司令長官の日向に呼ばれて独立機動艦隊の
設立理由と未来のことを聞いた。
始めは驚愕して沖縄特攻で自分が艦長だったことを聞き自分は大和と運命を共にしたと聞いた
後、涙が出た。
日本は戦争に負け未来の日本は滅びる。
では、何のために自分たちは戦っているのだと…
だが、日向からそのための独立機動艦隊だという話を聞き闘志を燃やしたものである。
そして、今有賀は思うのであった。
その日本が負けた時の自分は撫子に会ったのだろうかと?
会っていれば自分は撫子が1人で死ぬことを許せずに運命を共にしたのではないかとも思えるのである。
そして、それは当たっていた。
無論公式な記録になど残っているはずはないが史実の有賀は無論大和の艦長の義務も理由の一つだったが撫子を1人で死なせることが出来なかったのである。
今の有賀にも撫子にもそんなことは分かるはずもなかったが2人は時を越えた再会であったのだ。
「どうかなされましたか幸作様?」
撫子は薄く微笑んで有賀を見る。
それは陽炎のように消えてしまうような儚げな美しさだった。
「い、いや。なんでもない…」
有賀は少し顔を赤くして顔を背けていけないと思い始めていた。
まさにその時だった。
ピーピーと有賀が耳につけていたインカム型の通信機が鳴った。
「なんだ?」
有賀は出ると参謀長の声が聞こえてきた
「有賀艦長、まもなく沖縄です。入港準備に入ります」
「分かった」
有賀は立ち上がると艦長室を出た。
後ろからいってらっしゃいませという撫子の声が聞こえたので有賀は
「あ、ああ、いってきます」
とまるで新妻に見送られるように艦長室を出て行ったのであった。
撫子「皆様始めまして。私は大和の艦魂、撫子と申します。どうぞお見知りおきください」
凛&明「…」
↑
なんとなく声が出ない
撫子「凛様と明様もこれからよろしくお願いしますね」
凛&明「あ、は、はい!」
作者「ふふふ、これで撫子様に守ってもらうから吹き飛ばされなくなるぞ」
↑
無論小声で
星菜「お姉さま!」
↑
撫子に飛びつく星菜
撫子「あら?どうかしたんですか?」
星菜「撫子のことお姉さまって呼ぶ」
撫子「ええ、構いませんよ」
↑
にこりと微笑む撫子
凛&明「くっ…この人は侮れない…」
エリーゼ「…」
↑
じっと撫子を見ている。
作者「えっと…なにやら変な空気が渦巻き始めましたから今回は私が…」
星菜「予告はお姉さまのもの」
ダダダ
↑
早業でバルカン砲の弾が作者を打ち抜く
作者「ぐふ!」
↑
一時死亡
撫子「あら?いけませんよ星菜」
星菜「うん、ごめんなさい」
↑
すりすりと顔をつけて撫子に甘える。
撫子「あらあら?次回予告ですが申し訳ございません。聞く前に作者様が仮死されてしまいましたので…。ご意見・感想お待ちしております」
星菜「お姉さまに対する感想は大歓迎…」