表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
315/316

第301話 絶望と最後の希望

「・・・」


パキっと言う音を立てて黒く炭化した木が砕けたのを見て彼女は息を吐いた。

彼女の周りには焼け落ちた家々。

火は消えていたが人々は崩れ落ち、泣きながら呆然としているもの。疲れ果てたように座り込むもの。誰かが死んだのか名前を叫ぶ者・・・

広島、呉。

連合艦隊の一大拠点があるこの町も先日、ドイツによる空襲にさらされ少なくない被害を被った。

ドイツの空襲は散発的だがやってくる相手には必ず無人戦闘機ヴィゾフニルが随伴し、その猛威を奮っている。

本土の戦闘機隊は果敢にドイツを迎え撃ち撃退していたがそれも完全な撃退は出来ていない。

彼らがやってくるのは今や、ドイツの属国と化したロシアからである。

出撃地点となっている基地は判明しており、その基地への攻撃を提案するものも少なくはなかったが撃ち落とされたゼンガーの捕虜からの情報でそれは意味のないことだと理解できた。

なぜなら、ゼンガーの航続距離は20000以上を誇り、ドイツから日本への直接の爆撃が可能だからだ。

ならば、ヴィゾフニルは?

これの基地攻撃も困難だった。

まず、ヴィゾフニルはほとんど、レーダーに捕えられない。

アイギス搭載機ほどではないが人と言う存在を排除したヴィゾフィニルの形状は究極のステルス性を備えたものだった。

さらに、垂直離陸可能という点も大きく、滑走路が必要ない。

整備が必要となれば補給を繰り返しながらドイツに戻ればいいというわけではないがいずれにせよ整備する場所は存在しているはずだ。

ドイツ本国ではこのヴィゾフニルの増産が進められており来るべき決戦にはそれも相手にしなければならない。

その話を聞き、更にこの場にいる絶望に満ちた日本人達。

状況は絶望という言葉がはまりすぎるほどはまる。

少女は静かに涙を地面に落とし空を仰ぎ見た。


「もう・・・駄目なのかもしれない・・・」


昭和19年8月2日、全ての機動戦艦を失い絶望的な戦争を続ける大日本帝国と連合国。

あるものは、絶望し。あるものは最後まであがくために今日という日を刻んでいく。

ぐっと、手に持つお守りを握り少女は・・・近江の艦魂、零は大好きだったあの人の名前を呼んだ・


「淳一さん・・・」



                  †

                  †

                  †


「今回は呉か・・・」


その報告を受けた連合艦隊司令長官、山本五十六は言った。

呉が再びゼンガーによる空爆を受けたのだと


「それで?そちらはどうなっている? 顔も出せずにすまんな・・・」


書類から目を離して部屋の隅にいたその艦魂に山本は言った。

現在、連合艦隊司令部は陸に上がっており旗艦というものが存在していない状態で山本も艦魂と出会う機会を減らしていた。


「・・・」


彼女はあることを言った。

その言葉は山本の顔に驚きを浮かび上がらせる。


「すぐに防衛の強化を・・・」


「・・・」


静かにその艦魂は目を閉じ首を横に振る。

無駄だと言うように・・・


「そうか・・・」


それ以上、山本が言う言葉は存在しない。

部屋から彼女が消えていくのを見ながらこの先の事を思う。

戦争は終わるだろう。

侵攻してくるドイツ連合艦隊により、日本連合艦隊が完全に壊滅すれば日本は降伏する。

それが御前会議での陛下の決断である。

日本が負ければ・・・連合艦隊は・・・日本の艦魂達はやがて人々の記憶から消えていくのだろうか・・・

戦艦大和は未来においても大和民族の心に深く刻み込まれているという。

彼女達艦魂は日本を愛し日本のために戦っている。

そして、今山本の前にいた彼女も日本の事・・・艦魂達のことを心から心配しているのだ。

勝たねばならない・・・

日本連合艦隊は必ず沖縄に侵攻してくるドイツ艦隊を破り明日への希望を繋がねばならないのだ。

独立機動艦隊は1度日本という国を未来で失い更に今、失う危機に直面している。

全ては決戦。

それが大日本帝国の未来を決めるのだ。


「・・・」


数枚の書類を手に取る。

その書類に張り付けられた写真は日本の未来を決める。いくつかの希望。

まだ、日本には最後の希望がある。

だが、それらは全てが未完の希望であった。

そして、それが完成したとしても・・・


「ここで・・・お前を失う事になるとはな・・・」


一人の艦魂の真名を静かに山本は心を込めてつぶやいた。



              †

              †

              †



琉球沖縄基地には独立機動艦隊の基地がある。

ここは、決戦の中で一端の地となる予定のため今まで以上に本土への疎開が進められており今や、沖縄本島は軍の関係者以外ほぼ、皆無という状況だった。

独立機動艦隊の技術者などのいわゆる未来から来た人間はほとんどがこの琉球基地で働いており本土に行くことは一部を除いてないものの生活水準は本土よりも上に保たれていた。

アメリカとの決戦以後、この基地は少々、慌ただしい。

未来から来た艦の中には浮きドッグのような設備もありそこでは大型艦の改装も行われている。

ドッグが空けば連日のように海軍の軍艦が改装を受けていたり、本土で改装されている軍艦へ供給する部品や武器などの輸送のための輸送船がひっきりなしに出入りしている。

また、ジェット戦闘機の訓練のための設備利用のため、パイロット候補生達が頻繁に沖縄入りしている。

戦争という状況から訓練は十分とはいえないが配属されても予備戦力として後方で猛訓練を行っている。

1人でも多くのパイロットが決戦には必要だからだ。

日本の技術の心臓部に当たるため、防御も固い。

決戦の中核の1つとなるため蒼龍、飛龍は沖縄海域に留まっている。

建前は、沖縄防衛のためであるが本土が空爆されているのに強力な戦闘機を保有する2艦が動けないという状況はやはり、アメリカとの決戦で失った2艦の原子力空母の衝撃も大きいのだろう。

独立機動艦隊としてもこれ以上、艦を失えば発言力所か大日本帝国に全てを接収されかねないと考える者もおり戦力温存を図りたい大本営と独立機動艦隊の思惑が一致したのである。

とはいえ、本土へ戦闘機部隊の派遣は行っているため何もしていないというわけではない。

しかしながら、残った2艦の艦魂は歯がゆい思いをしているのも事実だった。


「暇・・・」


そうつぶやいたのは原子力空母蒼龍の艦魂、星菜である。

長い黒い髪が海風で揺れ、その蒼い瞳の先には美しい沖縄の海が広がっている。

反対側を見れば沖縄本島だ。

甲板ではカタパルトの周りで整備兵が何かの調整を行っている。

第2、第3カタパルトには緊急発進用の神雷が見える。

21世紀を見ても桁違いの超巨大空母、蒼龍では海の上でも揺れはほとんど感じない

小型艦なら感じる揺れがないのもなんだかつまらないとこの前、駆逐艦の艦魂に言ったら

船に弱い水兵は星菜さんみたいな大型艦に乗れれば幸せなんでしょうねと言われた。

なら、機動戦艦だって乗れば幸せだろう。

まあ、あちらは戦闘中ものすごい速度で動きまわるから地獄かもしれないが・・・


「凛・・・撫子・・・明・・・炎樹・・・みんな」


独立機動艦隊の機動戦艦は全て沈んだ。

日本を滅びの未来から救うために来たのに残った正規の戦闘艦は蒼龍と飛龍だけだ。

継がねばならないと星菜は思っている。

彼女達は日本を救うために過去に来たのだ。

ここで諦めると言う事は彼女達の願いを諦めることになる。

それに


「星菜お姉ちゃん。日本はどうなるの?凛達もみんな死んじゃって・・・明も・・・みんなも・・・」


飛龍の艦魂である弥生は最近は大分落ち着いては来ていたが毎晩のように悪夢を見て泣いている。

その夢は炎が天高く照らし、鋼鉄の海の中、日本連合艦隊が壊滅し艦魂達が血の海に沈んでいくという夢だ。

負けない心は強く持っていてもやはり、星菜も不安だった。

ドイツは強い。強すぎる。

日本の機動戦艦全てを破り、連合艦隊に止めを刺すべくやってくる。

艦魂達も人間もみんな不安がっている。

艦魂達はこの時代の炎樹の存在がかろうじて壊滅的な士気の低下は免れている。

日露戦争を戦い抜き今もなお、ロシアを睨み続ける日本の艦魂にとっては伝説的な存在なのが三笠の艦魂炎樹なのだ。

だが、三笠には戦闘能力は存在していない。

日本にとっての最後の希望といっていい存在は別にある。


「やめよう・・・」


こんなことをいつまで考えていても暗くなるだけだ。

星菜は気分を変えるために再び海に視線を戻した。

現実逃避ということは分かっているが脅威はいずれ必ずやってくる・・・


            †

            †

            †


「いつまでこんな生活続けりゃいいんだ」


「?」


とんとアスファルトの上に降り立った零の前のベンチに座っている男が言った。

近江は今、琉球基地のドッグで改装が行われている。

男は短い金髪だったので一瞬、アメリカ人かと思ったが喋ってるのは日本語だ。

それに・・・


「仕方ないじゃない創真。軍隊なんだから命令には従わないと」


そう言ったのは栗毛の女性だ。

2人とも見た事がある気がする顔だ。

蒼龍所属の神雷のパイロット達。

確か、艦魂は見えない2人だったはず・・・


「教官のまねごとなんかより飛ばせろってんだ。本土上空じゃドイツ軍機が暴れまわってるってのにくそ・・・柄奈だってそう思うだろ」


「私は嫌いじゃないけど教官。新米に教えるの楽しいし」


「あのな。期間がめちゃくちゃだろ。俺たちだって何年も訓練してようやく、戦闘機に乗れたのにあいつら、たった3カ月だぞ?詰め込み過ぎて飛ばしたって死ぬだけなんだよ」


「フフ、なんだかんだ言っても教え子が心配なんだ」


「そんなんじゃねえよ。戦争中だ。分かってはいるが納得出来ねえんだよ。こんな気持ちになるぐらいなら俺達を飛ばせろってんだ」


「毎日飛んでるじゃない。訓練で」


「実戦で俺は飛びたいんだよ!あの女だってそう・・・」


そう言ってからはっとした顔で創真が黙った。

柄奈は小さく息を吐いてから


「なんかまだ、信じられないよね・・・神埼さんが死んだなんて・・・」


「ちっ・・・馬鹿の後追いやがって・・・それで勝ち逃げかよあの女」


神埼という言葉に零は思いあたる名があった。

紀伊の戦闘機部隊に所属しており、戦闘機を自分の手足のように操る。

空に愛された天才神埼 凪。

2人は彼女と知り合いだったのだろう・・・

それも話を聞く限り死を悲しむぐらいには・・・


「神崎を殺したのはエーリッヒ・ハルトマンだったか?はっ、すごいよな。伝説の天才パイロット様は」


創真は天才が嫌いだ。

だからこそ昔、神埼凪やその相方と激突したのだ。


「創真・・・敵討でもするつもり?」


「はっ、誰がそんなめんどくさい事するかよ。空で会ったら撃墜はしてやるがな」


「1人で突っ走らないでよ。私だっているんだから」


「わーってるよ」


「・・・」


2人が立ち去った後も、零は動かなかった。

パイロット・・・彼は空を飛ぶことが好きでいつかは、それを仕事にしたいと語っていた。

落ち込んでいた零を姉の撫子は優しく慰めてくれた。

だが、2人とももういない・・・ドイツの機動戦艦に撫子も殺されてしまった。

1度は立ち直った零の心も撫子の死で再び砕けたのだ。

戦いたくない・・・戦いたくない・・・この苦しみから逃れられるなら死んだっていい。

もう、仲間が死んで行くのなんて見たくない・・・


「私が死ねばよかったんだ・・・」


そう言って零は後悔した。

彼は・・・青葉淳一が命を賭して守った近江は機動戦艦として生まれ変わろうしている。

日本海軍・・・いや、連合国最後の希望として・・・


「私には出来ない・・・」


改装は上手くいっていない。

設計上は既に完成に近い状態だったがトラブルが続発している。

いかに、未来からの知識を取り入れたといっても近江がやろうとしている改装は困難だ。

だが、1%でもその艦の魂・・・つまり、艦魂が戦う事を恐れ、放棄してしまっていれば100%の性能は発揮できない。


「私にはできない・・・です撫子姉さん」


森下艦長や山本五十六・・・そして、事情を知る。艦魂達は零に会えば言った。

お前が最後の希望なんだと・・・

だが・・・


「だが、それはお前にして出来ないことだ零」


「炎樹・・・元帥」


零が振り返ると白い、艦魂が着る白い第2種軍装を身にまとった炎樹が立っていた。


「私には・・・出来ません。もう、戦争なんて嫌なんです」


「それもいいだろう」


炎樹は零の前にやってくると手を動かした。


「っ」


殴られると零は思ったが肩に置かれた手は力強く意思のこもったものだった。


「私はな零、この国が好きだ。それを守る艦魂達もな。そして、それは今まで死んでいった者達も同じだっただろう」


その目はお前はどうだと聞かれている気がした零は


「私も日本が好きです。淳一さんが生まれた国だから・・・でも」


「戦いたくないか? だが、敵はやってくる。連合艦隊は1歩も引かない」


「私は・・・」


日本連合艦隊がドイツ艦隊を破るには近江の存在は必要不可欠な存在だ。

だが、それでも零の心には戦いたくないという気持ちが巣くってしまっている。


「元帥・・・私はどうすればいいんでしょうか?」


日露戦争を戦い、日本海軍にとっては伝説的な海戦、『日本海海戦』に参戦した歴戦の記念艦三笠の艦魂、炎樹。

彼女は零の肩を叩きながら言った。


「・・・え」


その先の会話の内容を彼女が理解するのはまだ先の話だった。


                 †

                 †

                 †


ドイツ神聖帝国と名を変えた元フランスの軍港ブレスト。

現在、ここには日本との決戦のための艦船が整備され兵士達が訓練を続けている。

錬度は日本海軍に劣るだろうが物量と言う点ではドイツ側が連合国を圧倒している。

アフリカを抑え、インドを陥落させ、ロシアの広大な領土すらも手中に収めたドイツ。

後、5年もあれば両者の差は永遠に埋まらないものになるだろうがドイツ神聖帝国代表、アドルフ・フレドリクは長期戦を考えていなかった。

未来において、日本海軍は・・・特に日本の戦艦はドイツ人の心に深く焼き付いている。

憎むべき敵、強者としての存在として・・・



「で? 艦隊の出撃はいつになるんだ大将?」


連合国にとっては悪夢の・・・ドイツ人にとっては希望の機動戦艦、フリードリッヒ・デア・グロッセの1室に訪ねてきていたラグナロク艦長、ワグネルが言った。


「予定に変更はない」


その向かいにいるアドルフ・フレドリクは手元にある書類に目を通しながら言った。


「フィリアの奴がさっさと、出撃させろって、うるせえんだ。一気にかたをつけるわけにはやはり、いけねえのか?」


「お前も日本海軍の力は知ってるだろう?甘く見ればこちらがやられる」


フレドリクは顔を上げると言った。


「まあな。だが、向こうの機動戦艦は全て潰した。奴らには普通の戦艦しかねえだろ?」


「その普通の戦艦にフェンリルやカイザーは沈められた。兵士の訓練と休養、戦力の増強、そして、何より戦後を見据えた行動を求めている」


「あれを使うような状況になるとは思えんがな・・・」


「保険の一つだ。使う必要がないなら使う必要はない。それにあれを使うようであれば遠征したドイツ艦隊は敗れたことになる」


「確かにな。日本とアメリカへの爆撃はどんな状況なんだ?」


「知ってる通りだ」


この数日後、幾多の日本人、アメリカ人、そして・・・連合国の艦魂の命が消えるとある作戦が行われることになる・・・



                 †

                 †

                 †


(日米決戦はなんとか勝てた・・・でも、次の決戦も勝てるとは限らへん・・・)


改装中の戦艦武蔵の艦内を武蔵の艦魂、桔梗は考えながら歩いていた。


(ドイツは強大や・・・撫子姉さんも、凛達ですら勝てへんかった・・・)


あの、日本を勝利利に導いた紀伊・尾張・三笠・・・そして、大和はもういない。


(私が継ぐんや)


大和級戦艦として・・・そして、改装戦艦として生まれ変わる日本海軍の希望として・・・

だが、真の意味の日本の希望は近江だろう。

桔梗の最後の姉妹、零は未だにショックから立ち直れていない。

あの子は心が弱い。

それが、気がかりだった。

だから、桔梗が現役艦としての仕事を全てこなしている。

叱咤激励は引退した記念艦、三笠の艦魂炎樹がやってくれている。


(しかし、歯がゆいな・・・本土は爆撃を受けてるのに私らは基地のドッグで亀か・・・)


奇妙な話だがドイツの爆撃は軍港にはあまり、集中していない。

無論、破壊された施設はあるが沖縄の軍事施設の被害は今のところない。

それは神雷を始めとする戦闘機が攻撃を許していないことも大きい。

だからこそ、改装は順調に推移しているのだが・・・


「勝てるわけないじゃない!」


「ん?」


その声は桔梗がとある区画を通っている時に聞こえてきた。

通路の奥の部屋の中からだ。


「なんや?」


ドアの前に行って耳を傾けてみると声は女性のもの。

艦魂の声だ。


「なんだと貴様!日本が負けるというのか!もう一度言ってみろ!」


「何度でも言ってあげますよ!どうあがいたって勝てるわけない!日本は負けるんです!」


「貴様ぁ!」


これは、まずいと思った桔梗はドアを開け放ってに手をかけて怒鳴った。


「何の騒ぎやこれは!」


まず、中に入って驚いたのは人数の多さだ。

部屋の中にいたのは20人以上の艦魂達。

主に駆逐艦の艦魂で、中心で言い争っていたのは駆逐艦『霞』の艦魂と軽巡『大淀』の艦魂だった。

それを艦魂達がぐるりと囲んでいる。


「!?」


その場にいた全員が戦艦の艦魂の登場に慌てて敬礼する。


「そんなんええ!何の騒ぎや聞いとる!」


ぎろりと怒りの視線を周りに向ける。


「・・・」


誰も口を開かない。

桔梗はため息をついてから


「命令や」


一番近くにいた駆逐艦雪風の艦魂雪に声をかける。

雪風は司令部にもよく出入りしている駆逐艦の艦魂達のまとめ役だ。

彼女がいてこんな事態になっていようとは・・・


「はっ、それが・・・」


雪は霞と大淀の艦魂の方をちらりと見て言いにくそうに


「私達はこれまでの戦いからドイツとの戦いに役立つことがないかと勉強会を開かせていただいていたんですが機動戦艦の話になった時、蛍が突然、日本に勝利なんてないと言い始め、それを美夏殿が・・・」


「なるほどな」


少し聞いただけだが分かった。

霞の艦魂、蛍が言ったことに大淀の艦魂美夏が激怒したのが原因らしい。

だが、会話の内容は聞き流させないものだ。


「蛍」


「はい」


桔梗は睨むように蛍を見るとそのやつれ具合に表情には出さないが驚いた。

目の下にくまができ、目は死んだように濁っている。


「なぜ、日本が勝てないというんや?」


「それが事実だからです・・・」


「貴様!」


美夏が声を荒げるが桔梗はそれを右手で制した。


「日本連合艦隊は健在や、まだ戦う手段はある」


「アハ、アハハハ!本気でそう思ってるんですか桔梗殿」


蛍は本当におかしそうに首を少し右に傾け桔梗を見て言った。


「どう言う意味や?」


「勝てませんよ。日本連合艦隊は、私見たんです。記録映像で敵のあの光の兵器と日本の機動戦艦を沈めたあの砲撃を」


荷電粒子砲とレールガンのことだと桔梗はすぐに確信した。

情報統制はしたつもりだったが完全ではなかった。

その完全じゃないどこかで蛍はそれを見た・・・

三笠を沈めたレールガンは直接見たのだろう。


「みんな死ぬんですよ!私達も!日本人もみんなあの光に焼き尽くされて死ぬんです!」


蛍はぐるりと周りを見渡しながら


「みんなだって本当は分かってるんでしょ!どうやって戦うのよ!どうやって勝つのよ!日本の機動戦艦は全部沈められた!敵の機動戦艦は日本より強力で数も揃ってる!勝てるわけないわ!アハ、アハハハハ」


ざわと周りが騒ぎだす空気に桔梗は内心で舌打ちした。

みんな、不安だっているのにこんなことを言われてしまえば・・・

蛍は桔梗の記憶では真面目な艦魂だったはずだ・・・こんな風に精神に異常をきたしてはいなかった。

みな不安なのだ・・・

だが、それを口にしたらそれが真実になってしまいそうで・・・

桔梗だってそれは同じだ・・・

だがそれでも・・・


「ドイツの機動戦艦は沈められる。それは、近江が・・・零が証明したことや」


そう、機動戦艦以外で日本が沈めた唯一の事例、機動戦艦フェンリルを撃沈したのは通常の戦艦近江だ。

そして、欧州の戦いでも1隻のドイツ機動戦艦をアメリカは沈めている。


「1隻で何が出来るんですか? 零殿は毎日ふさぎこんでめそめそ、死にたくないとか考えてるんですよ。そんな、臆病者な艦魂の艦が希望ですか?終わってますね日本は」


「いい加減にしろ貴様!」


美夏が激怒して蛍の頬を鉄拳で殴り飛ばした。

壁にブッ飛ばされゴオオンとすごい音がするが蛍は笑う


「アハ・・・ハハハ」


髪がほどけ目が髪で見えなくなっても蛍は払おうともせず笑った。


「その笑いをやめろ!」


美夏が再び殴りかかろうとしたので周囲の艦魂達が慌てて飛びついて動きを制止する。


「やめてください!」


「放せ!この売国奴は殴らんと気が済まん!」


「売国奴・・・アハハ・・・私好きなんですけどね・・・日本・・・アハハハ」


「・・・」


桔梗はその光景に口を出すことが出来ない。

彼女が何か言えばどうすれば、ドイツに勝てるかを言わねばならないからだ。

それに、蛍の言う事は全て間違っているともいえないのだ。

希望となる零は戦意を失っている。

これは事実。

そして、ドイツの機動戦艦に対する対抗策は今のところ体当たりぐらいしかない・・・


(こんな時、撫子姉さんなら何て言うんや?)


和服を着たあの大和撫子の姉は毅然として何かを言ってのけたはずだ。

だが、桔梗にその何かが分からない・・・


「かつて、私達はバルチック艦隊を迎え撃つ時、似たように考えていた」


静かな・・・だが、意思の通ったその声に全員が振り返る。


「え、炎樹元帥!」


蛍以外は全員敬礼し炎樹はそれを頷いていからコツコツと音を立てながら蛍の前に歩いていき手を差し伸べる。


「心が疲れてるな。今日はこの後、休むといい」


「・・・」


蛍は炎樹を濁った眼で見上げながらもその手を取らずに彼女を見ている。


「強大な敵と戦う時、人や艦魂は思ってしまうものだ。勝てないんじゃないか?とな。私もそうだった」


「元帥・・・もですか?」


蛍の言葉に炎樹は頷く。


「私だけじゃない。今はもう、いない日本海海戦を戦った戦艦にも怯えているものはいた」


「勝てないと・・・思ったからですか?」


「私は勝てないかもしれないと思ったよ。東郷や秋山の言う言葉も確信は持てなかった。だが、負けるとは考えないようにした」


「同じ・・・意味では?」


炎樹は首を横に振り


「違う。勝てないかもしれないは勝てるかもしれないという言葉が並ぶが負けると考えればその先はない。似ているようで意味は違う」


「・・・」


「我々は勝たねばならない。だからこそ、負けるではなく勝てないかもしれないと考える必要がある」


「・・・」


その場の艦魂達は何も言わずに元帥の言葉に耳を傾けている。

蛍もその一人だ。


「日本にはまだ、希望はある。勝てないかもしれないは勝てるかもしれないという希望を残す。私はそれを信じている」


炎樹は艦魂達を見回し


「私はもう、自らの手で戦う事は出来ない。だからこそ、お前達の勝利を心の底から信じている」


炎樹は一息置いてから艦魂達の後ろを指差した。


「お前たちの後ろには何がある?」


「日本・・・ですか?」


美夏が言うと炎樹は頷いた。


「そう、そして日本の国民達だ。我々連合艦隊は彼らの期待に答えなければならない」


ある程度の情報の操作はされている。

だが、日本の多くの国民は信じているのだ。

連合艦隊がドイツ艦隊を破るその未来を・・・

それは願いにも似た感情なのかもしれない


「だからこそ、負けるではなく。負けるかもしれないと思って欲しい。明日へ希望を繋ぐため、そして、この国の未来を守るためにな」


炎樹と桔梗の目が合う。

はっとして桔梗は


「了解!」


と敬礼したのに続き艦魂達も敬礼する。

その目には日本を守るという意思が溢れている。


「・・・」


敬礼はした・・・だが、蛍のその目はまだ、濁ったまま、生気を感じる事は出来なかった。







                 †

                 †

                 †


(ったく、なんだってんだ・・・)


その日、琉球基地の1つの部屋には数多くのパイロット達が集められていた。

入屋創真もその一人だ。

小隊長以外の顔ぶれはいないようなのでパイロットの全てが集められたわけではないようだが・・・


ざわざわと騒いでいるがここはブリフィーングルーム。と言う事は、何かの作戦が行われるということだ。


(そうそうたる顔ぶれだしな・・・)


見覚えのある顔がごろごろいる。

蒼龍や飛龍、更に、沈んだ赤城、加賀の生き残り。

それに加え、基地航空隊の面々だ。


(それほどの作戦が行われるってことだな・・・)


創真がそんなことを考えていると


「全員揃ってるな」

そう言って入ってきたのは琉球基地の司令だった。

独立機動艦隊はトップは日向恭介であり、艦隊を中心に彼がまとめていたがその下には数人の部下がいる。

そのうちの1人が琉球基地の運営や防衛を管理する基地司令左門字 大輔中将である。

日向が戦死という扱いになったため、独立機動艦隊は2人のトップが存在している。

左門字の他には三笠の艦長だった藤森冬花大将がいる。

彼女は残された2艦の運用が主な役割だ。

元々、タイムスリップ前の指揮系統では日向が戦死した場合は尾張艦長→三笠艦長と指揮権が移るようにされていた。

機動戦艦の艦長はタイムスリップした艦隊や施設まるまる指揮する能力が求められていたのである。


「諸君も既に察していると思うが先日、大本営と独立機動艦隊の協議の結果ある作戦が決定した。作戦は簡潔に言えばドイツの飛行場の一つを破壊することだ」


「ドイツの飛行場を・・・」


誰かがつぶやいた。


「知っての通り、本土にドイツの爆撃機が我が物顔で空爆を懲り返している現状を打破すべく情報を集めていたがついにドイツの先手を打つことができる情報がもたらされた。それが、ここドイツ爆撃機ゼンガーの拠点となっている飛行場だ」


スクリーンに映し出されたのは1つの飛行場と地図。


「ある筋から、数日中に日本に大規模な空爆を行うべく、現在、ゼンガーの大部隊が集結中であるという情報が入った。情報から推測するに、これまでにない規模の空爆が予想されている」


(なるほど、それでか・・・)


創真が思った通りのことを左門字は続けて言う。


「その情報を元に、大日本帝国と独立機動艦隊はこのドイツ空軍基地への攻撃を急遽決定した」


ドイツの空軍基地・・・それも、ゼンガーが集結している基地を叩けば日本への空爆を減らすことができる。大打撃を与えられれば日本侵攻を遅らせることも可能になるかもしれない。

初めての日本からのドイツへの攻撃になる。


「今回の作戦は速度こそが命だ。ドイツ空爆部隊が空に上がってしまえば破壊は困難になるだろう。そこで、帝国陸海軍と我々は作戦に使える稼働している航空戦力を集中投入し基地を破壊する」


大胆な作戦である。それはつまり、日本本土の防空能力を一時的に落としてでも航空戦力を基地破壊に向けるというものだからだ。


「質問があれば、挙手しろ」


「・・・」


創真が迷わずに手を上げた。

左門字はそちらを見て創真を指差した。


「今回の作戦は戦闘機のみで行われるということですか?」


「先ほど言った通り作戦は速度が命だ。遅い爆撃機の準備を待てばそれだけ作戦の成功率は下がる」


「沖縄からでは神雷の航続距離が足りませんが」


ゼンガーの基地はロシアの内陸部に存在している。

沖縄からでは戦闘して帰ってくることは空中給油機を使わないと不可能だ。


「今回の攻撃は大日本帝国及び、本土及び満州に派遣されている航空部隊が中核となり攻撃を仕掛ける。本基地の航空部隊、お前達には東京に向かってもらう。これは、手薄になる本土防衛の穴を埋めるための処置の一つだ」


なるほどなと創真は思った。

既に作戦は動き出しているという事だろう。本土の部隊は既に満州等に入り、攻撃の準備を行っているのだろう。

創真達に出番があるのは最悪のケースだが・・・


「他に質問は?」


誰も手を上げない。

左門字は頷いてから


「東京へは直接戦闘機で飛んでもらう。後の細かい指示は部隊ごとに上官の指示を仰げ、以上解散!」


ドイツ基地への攻撃・・・これが吉とでるか凶とでるのか・・・

いずれにせよ日本は諦めるわけにはいかなかった。

ドイツの大艦隊はやってくる・・・必ずやってくる。

日本の最後の希望足る連合艦隊を壊滅させるため・・・そして、世界統一の野望を掲げ・・・






凛「草薙はまだ見つからないの!あの馬鹿1年近く失踪するなんて絶対に許さない!」


雪「現在総力を上げて探していますが最後に目撃されたのがエベレスト頂上です。確保しようとしましたが雪崩に自分から飲み込まれて逃走。以後つかめていません」


弥生「単純に死んだんじゃないの?」


凛「あの馬鹿が寿命以外で死ぬわけないじゃない!早く探しなさい!ドイツ女も見つけられてないの!」


雪「ドイツはエベレストに登る前に草薙をローマで発見してますがこれも艦砲射撃で粉々になって風に乗って逃げたようです」


凛「あの化け物め!」


雪「あ!」


凛「どうしたの!」


雪「草薙を見つけました!日本の自宅に帰ったとこを待ち伏せしてた艦魂が捕らえました!」


凛「よくやったわ!すぐにここに連れてきなさい」


雪「すでに来てますよ」


草薙「もう逃亡生活は疲れたんだ殺せ!」


凛「死の痛みは与えるけどさあ、執筆しなさい。監禁して完結するまで出さないから」


草薙「ヤンデレ目で言わないで凛様!」


凛「黙りなさい!次々と周りの艦魂小説は完結していくのに私達だけ完結してないのにあんたは書かないばかりか遊んでばかり!恥を知りなさい」


草薙「いやぁ、仕事が忙しくて。趣味だってあるし」


雪「どうせ美少女ゲームとかアニメでしょうね。汚らわしくです」


草薙「最近は艦これなんて有名ですよね。ちょっと艦魂に通じるものがある。アニメしか見てませんが戦艦本体とかは出ないみたいですが」


凛「そんなことはどうでもいいから書きなさいよ!」


草薙「まあまあ、では今回の話は絶望に打ちひしがれた日本の艦魂と三笠元帥の話でしたね」


凛「何気に鳩麦の方のキャラ出してるじゃない」


草薙「許可住みですよ。まあ、鳩麦先生も忙しいのか更新止まってますが…」


凛「あんたが止まったから呆れて見放したのよ。もう、感想コーナにも現れないわね」す


草薙「ぐ、もう遅いかもしれませんが宣伝です。鳩麦先生作の紀伊外伝『独立機動艦隊紀外伝-『凪』剣と盾の双翼』が連載中です。紀伊が過去に飛ぶ前の話で本作の真のエースの1人神崎凪とその相棒の成長物語です。いやぁ、他人に書いてもらい見ると凪を違う視点から見れるから楽しいです」


雪「不潔!」


凛「下から覗き込む気?」


草薙「違うから!」


凛「冗談よ。鳩麦の空戦の描写は草薙よりも上だから分かりやすい空戦が見れるわよ」


草薙「後、神雷対ラプター、中国の最新鋭量産機とそれをライセンス生産した韓国空軍との戦いもあります」


凛「見ると本編の理解度が上がるわよ」


作者「さて、そろそろ帰るか」


凛「捕まえなさい♪」


雪「了解」


ガシ


作者「ハハハ、やっぱり?」


凛「さ、点滴の用意は出来てるわ。電気椅子にすわって死ぬ気で寒月させなさい」


作者「あ、明日から頑張る」


凛「駄目♪スイッチオン」


作者「ぎゃあああああああああ!」


バリバリバリ


パタン(扉が閉まる音)


雪「次回は3月?どうぞ感想で作者のやる気を上げてあげてください。お願いします」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ