第283話 紀伊改装計画
「やだなぁ、神崎さん、こんな大きな娘さんがいたんですか? 隅におけないなぁ」
真っ先に口を開いたのは藤堂だった。
「いや、身に覚えがない」
神崎 進が言った。
そして、小川もまた、
「どこかであったか?」
と、凪に聞いた。
美夜は事態を掴めずにいる。
そして、凪は一瞬で、その現象を理解した。
ここは、日本が勝利した未来の世界、ならば彼らが生まれてきて生きていても不思議ではない。
「すみません、神崎さん、あなたがあまりに私の父にそっくりだったので・・・」
「そんなに似ているのか? そう言えばお前の名字も・・・」
「おい、神崎そろそろ行かないと」
「ん? ああ」
神崎 進が頷いた。
小川は凪の方を見ると
「俺の顔も知っているようだな」
「はい、私の上官でした…そして、父の親友」
世界が変わっても変わらずにいる2人を見て凪は嬉しく思った。
彼らは凪の知る2人とは別人だ。
「藤堂、風祭、命令は待機のままだが、シュミレーターの訓練だけはできるように申請しておいた。 腕が落ちないようにしておけ」
そういうと、神崎 進は廊下に出ようと足を動かす。
「あの!」
凪の呼びかけに神崎が振り返った。
聞かずにはいられないことがある。
「母・・・あ、いえ神崎 香さんは元気ですか? 娘さんも・・・」
藤堂が納得したよう微笑している。
そうだろう。
彼らがいるのなら当然・・・
しかし、神崎 進から帰ってきた言葉は意外なものだった。
「俺には娘はいない。 むろん息子もな・・・確かに香は俺と結婚していたが18年前に事故に会って死んでいる」
「え?」
「おい、神崎」
凪が聞き返すより早く小川が進を急かす。
「ああ」
そう言うと2人は言ってしまった。
凪はしばらく茫然としていたが美夜の声ではっとした。
「え? なんなの? どういうことなの真也?」
「君ね。 この子違う世界の日本から来たんだよ。 神崎さんや小川さんがいても不思議じゃないさ」
「え?何! じゃあ、私達もいたの? ねえ、凪」
呆れたようにいう藤堂にもう1人の自分がいるかもという期待に美夜が訪ねてくる。
凪は視線を落としながら
「ううん、美夜や真也さんは私の世界にはいなかった」
「え?そうなの?」
残念そうに美夜は言った。
「大方、僕らの父や母になる人は戦争で亡くなったんだろうね」
「ううん、大東亜戦争の頃の先祖って言ったら確か・・・広島だったかな? 凪なんか知ってる?」
「広島は、アメリカ軍の原子爆弾により数十万の人が亡くなったの。 たぶん美夜の先祖も・・・」
「原子爆弾って日本がロスアラモスに落としたあれ?」
美夜が首をかしげる。
そう、合衆国日本が存在するこの世界には核爆弾は存在しない。
唯一の被爆国であるアメリカに落とされた1発のみが世界が知る核の威力だ。
この世界ではすでに、核エネルギーは平和利用を目的として運用されてる。
もっとも、あいまいな部分もあり、核融合炉等の兵器は例外とされているが・・・
「うん、あれを広島にアメリカは落としたの」
「あちゃぁ、それで私の先祖死んじゃったんだ。 生きてたら凪と一緒に過去行ってたのかな?」
「あのね、美夜ちゃん、 そんなことになったら君、今自分と対面することになるんだよ? 君が2人いるなんて考えると面白くないなぁ」
「ちゃんていうな! でもそれは気持ち悪いかも・・・」
同じ顔で同じ声の相手が現れたら誰だって戸惑うだろう。
凪は今度は藤堂に聞いてみた。
「真也さんの先祖はどうなんですか?」
藤堂は自分を指さしながら
「僕の先祖? うーん、興味ないからよく知らないけどたぶん、東京にいたんだと思うよ」
東京大空襲が凪の脳裏によぎる。
おそらく、それが藤堂の先祖の死の原因だろう。
もっとも、美夜にせよ藤堂にせよ南の島で先祖が戦死した可能性は捨てきれないが・・・
「ところで、凪あなた、違う世界の日本では神崎大佐の子供だったの?」
美夜の問いに凪は頷いた。
「うん、間違いないと思う・・・この世界では私は生まれてないみたいだけど」
自分の存在が消えてしまったようでなんだか幽霊のようだと凪は思った。
同じ人間が同じ世界には存在できない。
そんなSF小説を読んだ覚えがある。
そういえば、艦魂である三笠の艦魂炎樹もついに昭和の彼女に会うことはなかった。
これは何か見えない力が働いているようにも感じられるがただの偶然なのかもしれない。
「じゃあ、そろそろ帰ろうかな。 美夜ちゃんはどうするの?」
藤堂が聞くと美夜は一瞬考えてから
「ううーん、もっといろいろ話したいんだけど帰る。 あ、そうそう」
美夜はポケットからメモ帳を取り出すと紙にさらさらと書いて渡した。
「はい、私の連絡先、できるようになったら連絡してきて」
「うん、でも私は・・・」
「ああ、携帯の端末持ってないんでしょ? まあ、縁があったらまた会いましょ凪」
2人は今日は検査の名目でここに来たが明日からはその理由がない。
基本、接触が禁じられている状態なので直接の上官である小川や神崎を除き藤堂と美夜は接触したからこそ会うことを禁止されていないと言える。
「君とは1度勝負したいなぁ。 じゃあね凪ちゃん」
それだけ言って美夜に続き藤堂も出て行ってしまった。
彼は連絡先を残さず出て行ってしまったので今度会えるかは運だろう。
再び1人になった凪は2人と話していた時は忘れていた悲しみと父親とそっくりの神崎進、戦死した小川を思い出しながら訪れた眠気に任せて目を閉じた。
合衆国日本首都 東京の大統領官邸は戦後、すぐに必要となる土地を政府が買い建てられたものだ。
詳しい場所は省略するがその際、紀伊の残した財産を一部使用したとされる。
自転車道も整備され、ソーラーパネルをつけた自動車が走っている。
道行く人々は楽しそうにおしゃべりしながら、携帯端末で音楽を聞いたり談笑しながら歩いていた。
「この世界の日本は随分と発展していますね」
日向が車から外を見ながら言った。
「ええ、あなた方の未来の情報がありましたからいろいろと、手を打ちました。
軌道エレベーターが完成してからはエネルギーも無尽蔵に受けられますから発展しますよ」
藤堂大統領が言った。
今、彼らは車内に取り付けられたテレビ電話で話をしている。
藤堂大統領は官邸にいる
紀伊の改装のための話を今日は行う予定で紀伊からは数人がこの車に乗っている。
「ふーん、軌道エレベーターね」
そう言ったのは天城 彼方だった。
顔は右目が包帯巻かれ塞がれており体のあちこちも包帯が巻かれていた。
相変わらず白衣を着て車の座席に座っている。
「何か気になることでもありますか? 天城博士」
「別に、軌道エレベーターの理論は私たちの世界にもあったけど様々な障害があってできなかったからね。 それより、大統領、頼んどいた資料は用意してくれた?」
「ここにある。 来たら見せることになる」
「ありがとう」
彼方はそういうと左目を閉じた。
彼女は軽傷とは言い難い傷を負った。
本来ならまだ、入院が必要だったが無理やりついてきた。
震電が・・・凪が撃墜されたのは全ては自分のせいだと彼方は言っている。
日向はそれは違うと言ったが、性能の差を生んでしまったのは開発者としては屈辱的だと譲らなかった。
彼方は合衆国日本の技術の全てを吸収し、新たなる凪の翼たる戦闘機を開発する予定だった。
頭の中にその戦闘機はすでにある。
第8世代戦闘機『震電改』、だが、それを作るにはクリアしなくてはならない課題がある。
アイギスの常時展開能力を始めとする様々な課題だ。
藤堂が今日、見せてくれる予定なのは設計図などの様々な機密の資料の山だった。
そして、もう1人は紀伊の艦魂、凛である。
彼女もまた、傷だらけの体を包帯で巻いて痛々しい姿をしていた。
「痛くないか凛?」
日向が聞くと凛は頷いた。
「大丈夫よ響介、私の体なんだからどうなるかぐらい確認したい」
艦魂は本来、本体である艦から離れることはそれなりのリスクを伴う。
それは、距離が離れれば離れるほど明確になる。
体の気分がすぐれなくなり、本来の力も出せなくなる。
いわば、魂と体が離れたような状態になるのだから体が、本調子になるはずがない。
もっとも、数日程度なら問題はないが凛の場合1週間以上、艦から離れれば立ち上がれないほど体調を崩すことを知っている。
艦に戻れば体調は戻るが陸では絶対に回復しない。
それは、艦魂が艦に縛られている証でもあった。
「それなら、いいんだけどな」
日向はそういうと、藤堂との話に戻った。
官邸の中にある1室、会議室は長い机がありそこに人が座れるように椅子が置いてある。
壁には映像を映すためのテレビが設置されている。
机の中央には3Dで写せる機械が設置されていた。
日向達が入るとの老人と男の2人、そして藤堂大統領が座っていた。
「ようこそ紀伊の諸君、私は合衆国日本大統領藤堂だ。 まずは、そこにかけてくれ」
「理化学研究所、海堂 守です」
「わしは特に所属しておらんが海堂 源三じゃよ」
青年と老人が言った。
「2人は機動戦艦のことに関しては日本のトップレベルの頭の持ち主だ。 丁度、天城 彼方博士と同じように様々な分野で活躍されている」
藤堂の説明に眼鏡をかけた男・・・海堂守が頭をさげた。
老人・・・海堂 源三は興味深そうに4人を見回した。
「ほっほぉ、お嬢ちゃんが紀伊の艦魂かね?めんこいのう」
「私が見えるの?」
凛が聞くと源三は金の入れ歯を見せて笑いながら
「カカカ、艦魂の見えぬものに真に船を理解する資格なし。とわしはおもっとるよ。まあ、考え方は人それぞれじゃな」
「すみません。 祖父は頭がおかしいんです」
凛は海堂 守を見ると彼はどうやら、自分が見えていない様子だった。
「艦魂はいますよ」
そう言ったのは椅子に座った日向である。
「あなたは?」
守が聞いた。
「私は独立機動艦隊司令長官 日向響介です」
「ではあなたが・・・」
守は驚いたように言った。
自分より少し、年が上の人間が軍のトップクラスにいることに驚いているようだった。
とはいえ、合衆国日本は実力第一、今でこそいないが実力さえあえば小学生でも大将になるのは可能だ。
とはいえ、そんな難関を突破できるものは現れるか別問題だが・・・
「では、そちらの女性は?」
彼方は部屋に入るなり、藤堂から資料を受け取ると机に固定してあるノートパソコンを開いてそれを閲覧していた。
守の言う言葉は無視というより聞こえていないようだった。
「彼女は天城 彼方博士です。 あの震電の生みの親ですよ」
「あなたが!」
守は感動したように彼方を見ている。
それはそうだろう。
機密を知る人間なら知る。
今の合衆国日本の技術の基本を組み上げたのは他ならぬ彼方なのだ。
「お会いできて光栄です。 天城 彼方博士! 彼方博士とよんでもよろしいでしょうか?」
「・・・」
「・・・」
聞こえていないようだった。
「カカカ、振られたのう守」
「いえ! まだ、チャンスはあるはずです! 何を見ていらっしゃ・・・」
守が立ち上がりかけたその時
「すみませんがそろそろ本題に入っていいかな?」
藤堂の声に守は慌てて椅子に座った。
こうして、始まった紀伊の改装の計画。
考えてきていたのだろう。
守がキーボードをたたき机の中央に紀伊の船体を映し出した。
「まず、紀伊の速射砲ですがこれを撤去し、新たに3連装、9門のレールガンを装備する予定です。 ミサイル等のVLSの位置の変更は特になし。 アイギスは八咫の鏡に更新します」
「その八咫の鏡とはなんなんですか?」
日向が聞くと守頷き
「従来の機動戦艦は全方位の攻撃無力化の防御兵器アイギスを使用していましたが八咫の鏡の場合、エネルギーを集中展開させることにより、従来防ぎきれなかったレールガンの攻撃を弾くことができます」
「それなら、天城博士がやっていたが・・・」
日向が言うと守はさすが博士と称賛しながら
「ですが、あなたがたの核融合炉は我々の使う核融合炉と違い出力が少し低いのです。従って、数を重ねられればオーバーヒートして戦闘不能に陥るでしょう。 資料を見ましたが大和の敗因はそこにあるでしょうね」
大和の名を聞いて凛は一瞬、寂しそうな顔になるがすぐに顔を上げた。
今は前に進む時だ。
「八咫の鏡はまだ、特性がありますがそれはおいおい、語っていきましょう。 次に核融合炉ですが我々の世界のものに変更します。 ドイツの武装から考えてこれで十分渡り合うことができるでしょう」
どうだとばかりに守が言ったが、日向の表情は険しかった。
「どうなんだ日向長官?」
藤堂が試すように聞いてくる。
「この・・・」
「勝てないわね。これじゃ」
日向が口を開くより先に彼方が口を開いた。
守が驚愕に目を見開く。
「一体どういうことです! 紀伊に装備するレールガンは大口径ではありませんが連射が可能です。 ドイツが装備するアイギスに10発も当てれば砕くことはできるでしょう」
「荷電粒子砲の射程はレールガンより遥かに長い。 近づく前にエンドよ」
「なっ!」
守何か言いたそうにしたが日向が追い打ちをかける。
「そうだな、フリードリッヒ・デア・グロッセの荷電粒子砲は一撃で紀伊のアイギスを撃破し、船体を貫いた。 この装備じゃ不安が残る」
「荷電粒子砲は日本にはないの?」
彼方が聞くと守言いにくそうに
「あるにはありますが・・・」
「じゃあ、つければいいじゃない」
パソコンから目を離して守を見る彼方
願ってもない状況のはずだが、さらに守いいにくそうに
「荷電粒子砲は確かにあるのですがかなり大型のものになります。 ドイツの荷電粒子砲は聞く限り46センチ砲クラスの大きさしかないらしいですがこちらのものはさらに巨大になってしまいます」
「威力はどうなの?」
彼方が聞いた。
「威力にかんしてはわしが保証するよ。 発射実験で機動戦艦の防御を一撃で貫いたからのう。 嬢ちゃん達の言うドイツの機動戦艦にも通じるはずじゃ」
源三が言った。
「時間さえあればさらに威力を残したまま小型にすることはできます!」
守言った。
「それはどれぐらいかかるんだ?」
「改装を含めて3年を予定しています」
藤堂の問いに守答えるが日向が首を横に振る。
「駄目だ、 3年も待てばドイツは世界制覇を終えてしまう。 それでは意味がない」
「海堂博士、改装は1年以内に終わらせていただきたい」
「そんな無茶な! どう頑張ったって1年以上はかかってしまいます」
「やらねばならんのだ。 予算はいくら使っても構わん。 なんとか1年以内に頼む」
「分かりました。 努力します」
「ねえ、ちょっとこれ、見てくれる?」
守が言った後に彼方がパソコンのキ―を叩くと3Dの画面にとあるものが映し出された。
「ほう、これは」
源三が興味深そうに言った。
「できる? できない?」
彼方が聞くと源三がカカカと笑いながら
「可能じゃよ。 細部の詰めはまだ、いるがのう」
かくして、改装のプランは立った。
紀伊の主砲は荷電粒子砲に加え、ドイツ戦艦のバルムンクに当たる部分にレールガンを配置する。
両弦のミサイルランチャーは撤去され迎撃用の小型のレールガンが設置されることとなった。 ミサイル等は現在のものに更新し、CICのシステム等も全て更新する。
核融合炉もとあることをされパワーアップが確約された。
航空機のパイロットの選出はまだだが後部格納庫の戦闘機は全て紫電とし、ヘリも全て現在のものと交換する。
そして、日向達はそれを使うため勉強することとなる。
「勉強嫌いなんだがな」
日向ため息をつきながら凛の方を見ると凛は紀伊の完成図に見入っている。
「これが、私?」
「この装備があれば、ドイツの機動戦艦とやり合うことができる。 勝敗はまだ、分からないよな凛」
「うん、早くみんなの所に戻らないと・・・」
そう、過去の日本に残された時間は少ない。
季節は桜の季節を越え、春の陽気が目立つ5月に移り変わろうとしていた。
作者「納得できん! 合衆国日本の技術力がドイツに劣るだと!」
藤堂「全ての技術がNO1だと思う方がおかしいんじゃない?」
美夜「そうよね。 何さまのつもりよあんた」
作者「作者様だ!」
藤堂「君さあ、自分で様ってよんではずかしくないの?」
作者「ぐっ」
美夜「ああ、やだやだ、これだからこいつの相手は嫌なのよ」
作者「うわあああああああ!」
藤堂「ハハハ、今日はブラックホールに突撃していったよあの人」
美夜「作者が自殺するのが定番になりつつあるわねこの後書き」
藤堂「さて、彼もいなくなったしどうする?」
美夜「そうね・・・訓練でも・・・」
藤堂「じゃあ、僕は寝るから後はよろしく美夜ちゃん」
美夜「ちゃんっていうな! こら! 逃げるな!」
藤堂「ハハハ、やだよ」
後書き空間に誰もいなくなり強制終了
その頃、ブラックホールの中では
作者「ぎゃああああ! 助けてくれええ!」
作者が永劫の苦しみを味わっていたとかいないとか