第282話 再開
「さよなら凪……私の大切な空のエース」
記憶の中凪は彼女に手を伸ばす。
だが、それは決して届かない。
何度も何度も繰り返されたその光景は彼女にとって残酷だった。
「ソラ・・・ごめんねソラ」
望まぬ永遠の別れを告げた飛魂の少女は炎の中に消えて行った。
凪は涙を流した。
沖縄本島にある軍の病院は3日前は戦場のように慌ただしかったが今は平穏を取り戻していた。
紀伊の負傷者が多数だったため突如受け入れた基地内の病院は大忙しだったのだ。
神崎 凪が目を覚ましたのはそんな、日だった。
「う……」
静かに目を開けると白い天井が飛び込んできた。
ぼんやりする頭を右に動かし右手を見ると点滴が打たれている。
「おはよう」
左側からの声に顔だけを向けると青年が一人立っていた。
「あなたは?」
まだ、うまく動かない脳で凪は聞いた。
「僕は藤堂 真也、君が神崎 凪?」
青年は凪のベッドに腰掛けて薄笑いを受けべながら言った。
「は・・い、私の・・・名前です」
「ふーん、もっとごつい女の子かと思ってたけどイメージと違うね」
そこまで来てようやく凪の頭が活性化してきた。
ここはどこだ?
紀伊はどうなった。
「う・・・」
無理に体を起こそうとして激痛が走る。
「まだ、無理だよ。 重症じゃなかったけど君3日は寝てたみたいだからね」
「ここはどこですか? 紀伊はどうなったんです?」
「無事だよ。 少なくても船体は爆発していないしドッグに入ってるんじゃないかな?」
「乗員は?」
「君みたいに入院してる人達もいるみたいだけど軽い人は基地の中で軟禁状態見たいだね」
凪ははっとして
「天城 彼方という人はこの病院にいますか?」
「さあ? 僕も君の名前のプレート探して歩いてただけだからね」
興味のないことは調べないとでも言うように藤堂は言った。
「っ・・・う」
凪は体を起こすと無理やり点滴を抜いてスリッパをはいてベッドから出ようとした。
「手伝おうか?」
面白そうに藤堂が聞いてくる。
「結構です」
凪はそういうと立とうとし崩れ落ちた。
「おっと」
いや、その前に藤堂に受け止められる。
「放して・・・ください・・・」
荒い息をはきながら凪は言った。
「君って行動すると決めたら行動しないと気が済まないタイプ?」
「そんなこと・・・」
ないと言おうとした時第3者の声が飛び込んできた。
「いた! 真也なにやって……な、なななにやってんのよ患者さんに!」
傍から見れば男が女を抱いているようにしか見えない光景に少女が悲鳴を上げ。
藤堂がやれやれと言った調子で息を吐いた。
ツインテールの乱入者に
「美夜ちゃんここは病院だよ。 ボリューム下げようね」
美夜ははっとし音量を下げながら
「ちゃんっていうな! 何してんのよあんたは!」
「見ての通り会いに来たんだよ伝説のエースパイロットにね」
「はぁ?」
どういうことよと美夜が聞き返した。
藤堂は右手の中にいる凪を指さしながら
「彼女が伝説のエースパイロット神崎 凪ちゃんだよ」
「は? 神崎 凪って100年以上・・・あ、でも紀伊の艦長さんの話だと・・・え?」
美夜はじーと凪を見てから
「神崎 凪・・・さん?」
「はい」
突然の乱入者に戸惑いながら凪は言った。
「ええええええええええええええええええええええええ!」
今度こそ大音量で悲鳴を上げた美夜はその後、通りかかった看護士死ぬほど怒られた。
病院では静かにしようはいつの時代も変わらない鉄則である。
安静にしているように言われ凪はしぶしぶベッドに戻ったが藤堂と美夜はその部屋にあった椅子に座っている。
藤堂は相変わらず興味深そうに凪を見てるし風祭 美夜は目を輝かせて凪を見つめている。
「あの・・・」
さすがに居心地が悪いので凪が口を開く。
すると、ツインテールの少女ははっとしてから
「あ! そうよね! 名前言ってなかった! 私は風祭 美夜。 階級は大尉で、合衆国空軍 教導隊の・・・」
「№2ね」
「そうそう№・・・く、今回は否定できない・・・」
美夜は悔しそうに拳を握ると目を閉じて行った。
「ハハハ、ちなみに僕も教導隊だよ。 美夜ちゃんと同じ大尉だけど実力は僕が上」
「ちゃんっていうな! いつか勝ってやるわよ」
「アハハハ、楽しみにしてるよ」
「この屈辱はいつ晴れるのよ・・・」
凪は2人のコントのような会話を聞いて口元を緩めた。
「仲いいんですね」
「よくない!」
「迷惑な話だけどね」
美夜と藤堂が同時に言った。
やはり、息ぴったりだこの2人と凪は思った。
「ところでさ」
藤堂が真剣な目で凪を見る。
吸い込まれそうな黒い瞳、しかし、その眼光は鋭いものだった。
「僕らも君たちにかかわったせいでこの基地に軟禁されてるんだけど、君は誰かに落とされたんじゃない?」
「そういえばそうね。 その怪我だって撃墜された時にできたものなんでしょ?」
「あ・・・」
凪は頭を下に向けた。
エーリッヒ・ハルトマンとの死闘。 そして、敗北。
ソラとの死別・・・
その空気を感じとったのか罰が悪そうに
「そうよね。 落とされた記憶なんか思い出したくないわよね。 ごめんなさい」
美夜が頭を下げて謝る。
「そ、そんな大丈夫ですよ!風祭大尉」
凪が慌てて言うと美夜は顔をあげてにこりと微笑んだ。
「美夜でいいよ。 伝説のエースパイロットに敬語とか階級つけられてよばれるのなんかね・・・聞いたけど階級は違うけど・・・だから友達になりましょうよ神崎」
「あ、じゃあ私も凪でいいです」
凪が言うと呆れたように藤堂が
「君ね遠慮ってもの知らないの? この子君より年上だよ」
「いいじゃない! たかが2歳でしょ?」
美夜は16歳で凪は18歳だ。
ちなみに藤堂は凪と同じ18歳である。
「気にしないでいいです。 こだわらないので・・・」
「ほーら、見なさいよ真也。 凪、こいつのことも真也でいいわよ」
藤堂がため息を吐きながら
「僕はどちらでも構わないよ」
と、判断を凪にゆだねる。
「えっと、じゃあ、真也・・・さんで」
「ええ、呼び捨てでいいじゃない」
「で、でも・・・」
穏やかな時間とはこんな時を言うのだろうか。
結局、藤堂の名前は真也さんで収まった。
2人はそれなりの情報を与えられているようで(というより聞いてしまったため)、情報漏えいを防ぐために沖縄の基地からの外出を禁じられているのだ。
この国が合衆国日本であることも知った。
「それでね」
美夜が流行の服の話をしてる時突如、病室の扉が開いた。
3人がそちらを見ると美夜がひっと息を飲んだ。
「2人とも何をしている。 部屋で大人しくしていろと言ったはずだぞ」
根っからの軍人といった彼は病室に踏み込む。
「アハハ、やだなぁ、今日僕らは検査するために来ただけですよ」
藤堂の言うことに偽りはない。
他国とは違うが過去からやってきた紀伊の人間と接触したので念のため、悪いウイルスに感染していないかなの検査に来ていたのである。
もっとも、この病室にきたのは完全に寄り道なのだが……
ぎろりと今度は美夜に男の目が向けられる。
「わ、私も同じ理由です!」
「ほう、ここによる理由があるのか風祭」
「そ、それはその・・・」
美夜は泣きそうな顔で弁明している。
本気で苦手な相手のようだ。
対して藤堂は涼しい顔
そして、凪は男の顔を見て驚愕していた。
「この馬鹿どもが迷惑をかけたな。 後でちゃんと罰を・・・」
男が言いかける言葉に凪は涙を流し言葉をかぶせた。
「お父さん」
彼は、神崎 進、凪の死んだはず父親にそっくりだった。
「おい、神崎そろそろ・・・」
扉に現れた人物を見て凪はさらに驚愕する。
「小川大尉!?」
作者「えええええ!」
美夜「うるさいわね作者」
藤堂「そうだよ。 昨日マリアナ海峡に沈んだはずだよね君」
作者「ふ、私にかかればマリアナ海溝の水圧なぞマシュマロより軽いのさ」
未来「人間なんですか作者さん」
作者「ところで今日の話だが・・・」
藤堂「やだなあ、神崎さん、こんな大きい子供作ってたんですか? 隅におけないなぁ」
作者「こら! 次の話のセリフを言うな!」
美夜「ど、どういうことなのよ!」
作者「ぐえ! 首を引っ張るな! 次の話で語るから話してください!」
美夜「しかたないわね」
藤堂「美夜ちゃん、別に離さなくてもこの人は死なないよ」
美夜「ちゃんっていうな! でも確かに」
作者「やめて! 痛みはあるんだぞ! お前らに太陽の炎に焼きつくされるあの痛みが分かるのか!」
未来「想像するだけで怖いです」
美夜「知らないわよ」
藤堂「うん」
作者「くそおおおお! なら今日は噴火口にだいぶしてやる!うりゃあああああああ!」
未来「作者ああん!」
美夜「マグマに溶かされては再生してるわね」
藤堂「アハハハ、面白い人だねあの人」
未来「作者さん・・・・」
美夜「さて、これから私たちの時間ね」
藤堂「未来編ではお約束になりつつあるけどね」
美夜「うう、神崎大佐に怒られるのい嫌・・・」
藤堂「あの人は甘い方だけどね。 小川大佐なら基地10週は確実だね」
美夜「真也の馬鹿! ああでも否定できない」
未来「あの小川大尉は鬼教官ですからね。 ですけど凪さんとはどういう関係なんでしょう?」
藤堂「隠し子とか?」
美夜「想像できない・・・というか結婚してたのあに人」
藤堂「真相は次話だね」
美夜「そうね」
藤堂「ところで美夜ちゃん。 これから御飯食べに行かない?君のおごりで」
美夜「ちゃんっていうな! なんで私のおごりなのよ! 勝負は引き分けじゃない」
藤堂「3回前のおごりがまだだよ美夜ちゃん」
美夜「ぐ! 給料前で厳しんだけど何の約束なの?」
藤堂「うーん、確か寿司だったかな? もちろん回転ずしじゃないよ」
美夜「うう・・・お金が」
藤堂「まさかお金がないなんていわないよね美夜ちゃん」
美夜「ちゃんっていうな! 銀行行くわよ! こうなったらやけ食いしてやる!」
藤堂「アハハ、 今日もありがとう美夜ちゃん」
美夜「いつか必ず勝つ!」
未来「言っちゃいました・・・それではみなさん次話で会いましょう! では」




