表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
291/316

第278話 私の大好きなお姉ちゃん

そこは、光の世界だった。


(どこ……ここ)


さくさくと音をたてながら少女は花畑を歩いて行く。

歩きながら少女は自分の正体を思い出して言った。


(私……死んだのか)


何も守れず、一矢報いることすらできなかった。

自分の体が貫かれた瞬間を少女は……凛は覚えている。


(もう……いいよね。 疲れた)


やがて、川が見えてくる。

三途の川だと凛は分かった。

凛の前を流れる川は深そうで歩いては渡れそうにない。

川を見回すと船があった。

川越の人なのか帽子を被り俯いて座っている。

凛は近くまでいくと声をかけた。


「あの……」


「行きなさるかね?」


声は老人のものだった。


「私はもう死んだからここにいるんでしょ?」


老人は座り込んだまま


「この川を渡らなければ帰ることはできるよお嬢さん。ただ、体のない霊体として未来永劫さ迷うことになるだろうね」

「私は艦魂よ? 実体なんてあってないようなもの」


「未来永劫さ迷うのは辛いよ? もちろん消えることはできるがその魂は天国にも地獄にもいけず転生もできずに消滅してしまうのさ」


「あなたは何物?」

「私はただの案内人さ、この先へ行くのか行かないのかのね。おまえさんのような存在に道を示すためにね。 迷いない霊体はもっと、浅い場所からここを渡るんだ」


「私は死にたくなかった……だからここなの?」


凛が聞くと老人はこくりと頷いた。


「さあ、決めなさい。船に乗るのか乗らないのか。見た所お嬢さんの人生なら天国に行けるだろう」


「そんなことがあなたにわかるの?」


「長くここにいたらわかるようになるのさね」


「……」


凛は川の向こうと今来た方角を見比べた。

そして、見たのは川の向こうだった。


「乗るわ」


凛は小船に乗ると座った。

ひんやりとした感触があったが特に普通の小船と代わらない。

ぎしりと老人が乗ってロープに手をかける。

流れ的にあのロープを外せば間違いなく後戻りはできないだろう。


(もう、私は死んだんだ)


天国へ行けば桜達や日本海軍の艦魂達もいるはずだ。

死んだなら恭介だっているだろう。

それに、あいつも……









『凛』










「え?」


声が聞こえた気がした。

空耳かもしれないが確かに恭介の声だった。


「待って!」


老人がロープを外し終わる直前、凛は船から飛び降りた。


「やめなさるかね?」


老人の声を無視して凛は周りを見渡すが彼の姿はない。

やはり、空耳か?と川の向こうを見て凛は心臓が止まるかと言うほど驚いた。

撫子だった。

彼女は悲しそうな視線を凛に向けている。


「撫子!」


大声で対岸にいる彼女に声をかけるが彼女は反応しない。

まるで、察してほしいとでも言うように……


「彼女はお嬢さんがくる数時間前に男性と一緒に渡っていったお嬢さんだよ。まだ、対岸にいたんだね」


老人が声をかけてくるが凛は再び大声で撫子を呼ぶ。

撫子は黙って右手の人差し指を凛に……いや、凛の後ろに向けた。


「まったく、相変わらずねあんた」


再び心臓をわしずかみにする声に凛は振り返った。

聞きたくて聞きたくて仕方かったその声は……










「明!」


「久しぶりね凛」


最後にあった時と同じ日本海軍の軍服に身を包み、明はウインクした。



「本当に明なの?」

「あのね。この世界一かわい容姿の私をあんた忘れた訳? 薄情なやつね」


「違う!忘れる訳ないじゃない! 私は明の敵を撃つために……」


「敵ぃ? へー」


明は微笑を浮かべながら


「それで負けてたんじゃ話にならないわね。何その髪?私の真似? 似合わないわね」


「……っ」


凛は目に涙を浮かべながらも相変わらず悪態を尽きまくる妹を見ながら涙を拭う。


「待ってたの?ここで」


明は三途の川を渡らずずっと待っててくれたのだろうか?


「待ってたぁ? なんであんたなんかを待つのよ?」


「でもここで……」


「私はあんたに日本を託したのよ。なんで川を渡ろうとするの?」


明が怒っているのが凛にはわかる。

自分の想いをかなえられなかった私を怒っている。


「ごめん明……死んじゃて」


「あんたは死んでないわよ」


「え?」


凛が目を丸くすると明は凛が歩いてきた先を指さした。


「見なさい凛」


「……」


凛が振り返ると空に一つの光景が映し出されていた。

炎の中を兵達が必死に粉末をかけて消化している。

鉄骨の中から血まみれのドミニクを引き出して彼方が衛生兵を呼んでいる。

爆発で兵が吹き飛ばされた。

そして……


「凛!死ぬな凛!」


CICで凛の体を抱え必死に呼び掛けている恭介の姿があった。

彼自身血まみれで左目を閉じていた。



「明……これって」


明は頷いた。


「あんたは……機動戦艦紀伊はまだ、沈んでいない。沈んでもおかしくない状況だけどね。あんたが川を渡ったらその瞬間、紀伊は沈むでしょうね」


「戻らないと!」


凛は駆け出そうとして振り返った。

撫子が微笑みながらこちらを見ている。明も凛を見つめていた。

せっかくまた、会えたのにこんな別れかたでいいのか……いいはずがない。


「明……」


「何?さっさと行きなさいよ凛」


「明」


再び凛は彼女の名前を呼んだ。

明は無言で凛を見ている。


「お嬢さん、言いたいことは今しかいえんのではないかな?」


老人の声を聞いた瞬間、明の顔に涙が浮かび、凛に抱き着いた。


「り……お姉ちゃん……ごめん……ごめんね……死んじゃって」


凛もまた、泣きながら彼女を強く抱きしめながら


「うん、生きてた時はひどいことばかりいってごめんね明」

「もう、離れたくない!

でもお姉ちゃんは帰らないといけない……だから冷たい態度で追い返そうとしたのに!」


「私も明といたい……でもみんなが生きてるなら戻らないといけない……」


「ずっと、いて欲しい願いはかなえちゃいけない夢なんだね……お姉ちゃん」


明はすっと凛から離れた。


「さよなら、凛お姉ちゃん。死んだらまた会おうね」


「演技でもないわよ明」


「うん」


精一杯の笑顔を浮かべ明は言った。


「私の妹達と山本にあったら伝えてくれ。力不足ですまない。先に逝くことを許して欲しい。お前達のことはいつまでも見守っているとな」


明の後ろに現れた戦艦金剛の艦魂、柚子は風に金髪を揺らしながら言った。


「絶対に伝えるから」


柚子は満足そうに頷く。


「凛様、零や桔梗達にも伝えてください。愛していますと」

対岸からの撫子の声に凛も


「伝えるから……」


最後に明が再び凛を抱いて


「髪……また、伸ばしてね……凛お姉ちゃんは長い綺麗な髪が似合うから」


「うん……」


すっと明が離れると凛は後ろに引かれる感触を感じた。

艦魂達が遠くなる。叫ぼうと思うが彼女達に相応しい別れのポーズがある。


「……」


凛は敬礼した。

すると、艦魂達も敬礼を返した。

その姿はやがて、凛の視界から消えていった。











「……」


姉が消えた方角を見て明は無言だった。敬礼をやめる。


「我等も行くか?」

柚子が声をかけてくる。

明は目を閉じやがて開くと


「うん」


老人は消え2人は川へ足を踏み入れる。驚くほど浅い川だった。

やがて、2人は川を渡り切った。

最後に明は振り返ると静かに涙を流した。

作者「紀伊が……凛様が生きていた!」

明「なんであんた冥界にいるのよ」


作者「いやいや、明様お久しぶりですから可愛くいいましょうよ。ほら、本音を出して草薙お兄ちゃんと……」


明「なんであんたなんかにそんな態度とらないといけない訳?分をわきまえたら?」


作者「ちぇ、出れた明様かわいかったのに」


柚子「お前はかわらんな作者」


作者「ひっ!柚子様お久しぶりです」


柚子「ああ、天国で軍刀の切れ味を見てみようと思うんだが実験代にならないか作者」


作者「え、遠慮します」


撫子「あらあら、うふふ」


作者「撫子様あああああぁ!!!」


明「ちょっと草薙!明かに感動具合が私と違うじゃないの!」


作者「当たり前だ!お前には核ミサイルで蒸発させられたり砲撃で消飛ばされたりろくな思い出がない!それに比べ撫子様は優しいんだ!」

明「自業自得なのは棚上げな訳ね」


撫子「私も作者様とこうして会えたのは嬉しいです」


作者「撫子様ぁ!」

柚子「撫子、あまりこいつを調子に乗せるな」


明「そうよ変態に情けはいらないわ」


撫子「あらあら、うふふ」



作者「さて、名残惜しいですがそろそろ帰らないと冥界から抜け出れなくなる」

明「帰りはこの道まっすぐよ」


作者「ありがとうございます。ではまたどこかで会いましょう……」


明「ばいばい」










撫子「あら?作者様が行かれた道は?」


柚子「地獄行きだぞ明」


明「まあ、あいつなら死なないでしょ」

撫子「作者様……」






その後、草薙は地獄へ落ち、7日7晩逃げながら地獄の責め苦へ堪え命からがら現世に戻ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ