第277話 日本壊滅
まるで、蝙蝠の大軍が飛んでいるようだと後に見た人は言っている。
迎撃に出た竜神30機のパイロット達は止められるわけがないと一目見て思った。
上からは、後続が来るまで足止めしろと言われていたがなら、同数の戦闘機を用意してくれと上に文句を言いたかった。
現在、日本の戦闘機の稼働率は目に見えて低い。
というのも日米決戦という激戦のため、多くの戦闘機は整備中だったのである。
さらに、満州に集中配備した竜神のため、本土防衛のための竜神は500機を下回るあり様だった。
零戦や隼といった戦闘機なら腐るほどあるがもはや、レシプロ機ではジェット戦闘機に太刀打ちできないのは明白だった。
「大原、これは無茶苦茶だ!」
仲間に言われて大原は竜神の操縦席で言い返す。
「やるしかないだろ! 全機攻撃開始! 持てる火力を全て使い尽くしてでも止めろ!」
竜神隊は高度1万5千という実用限界高度をさらに越え1万6千というとんでもない高度を保つ敵爆撃隊に迫った。
大きい。
敵の爆撃機の全長は50メートル近くある。
ジェットエンジンらしく速度はかなり早い。
日本の富嶽以上の性能を持っているのは明らかだった。
大原達は知らなかったがそれは、アメリカ軍が2010年の未来でも実用していた爆撃機B52にそっくりだった。
B52は最大速度マッハ0.86、航続距離にいたってはなんと1万6千キロという世界のどこにでも爆撃できる爆撃機である。
あの爆撃機がそれと全て同等かはわからないがあんなものが日本に飛来したら東京は壊滅である。
後少しで、ロックオンできると言う時だった。
ドイツの爆撃隊の中から小型の影が数機飛び出してきた。
閃光と共に竜神が爆散する。
「ちくしょう! 護衛機がいやがる! しかも、とんでもない運動性能だ」
「例のヴィゾフニルとかいう無人機か!」
紅の戦闘機40機は竜神隊に襲いかかった。
元々、性能面では全てヴィゾフニルに劣る竜神隊はばたばたと落とされていった。
エースパイロットのほとんどは前線にいるため太刀打ちできるはずもなかった。
「うわあああああ!」
叫びと共に大原の竜神はヴィゾフニルの放ったアルテミナスに貫かれ爆散し果てた。
残骸は佐渡島に落ちて行く。
爆撃隊の被害は0
1000機のドイツの爆撃機『ゼンガ―』は日本本土上空に悠々と侵入した。
散発的に竜神が迎撃に出るがヴィゾフニルは赤子の手をひねるようにそれを駆逐した。
零戦や隼も迎撃にでた部隊はあったが当然のことながらB29にすら手も足も出なかった両者が攻撃に参加することなどできるはずもなかった。
そして、ついにゼンガ―は東京上空に現れた。
けたたましい空襲警報の中、東京の人々は防空壕に向かい走る。
「どけ!」
転んでも慌てて立ちあがって必死に走る。
泣き叫ぶ子供が大人に蹴り飛ばされそれを母親が悲鳴をあげる。
ド―リットルの東京空爆以来2度目であったが国民は逃げながら思っていた。
なぜ、アメリカに勝ったのにこんなことになったんだと・・・
ゼンガ―は上空に現れたのはまさに、その時だった
ヒュウウという腹の底に響くような不気味な音が人々の耳に届いた。
断続的にそれは続く。
「爆弾だ!」
空を見上げた人が言った瞬間、人々の中央に爆弾が落ち数十人を肉片に変えた。
血が飛び散り、人々が悲鳴をあげる。
断続的に爆発が東京のあちこちで起こった。
見るとゼンガ―はB29がやったように絨毯爆撃を開始していた。
1000機の爆撃はすさまじいものがあった。
東京の竜神隊が必死に取りつこうとするがヴィゾフニルに阻まれる。
今や、東京は火の海になりつつあった。
「山本長官! 東京が燃えています! なぜ、独立機動艦隊が動いてくれないのですか!」
ハリアーで横須賀に来ていた武蔵の艦橋で参謀に詰め寄られ山本は悔しそうに空を見上げていた。
「奴らに対抗できるのは神雷しかありません!」
「援軍の要請はしてあるが大半の神雷は整備中のはずだ・・・あの爆撃隊を止めるのは無理だ」
「そんな・・・これでは、帝都が・・・」
「・・・」
日本連合艦隊の機動部隊の艦載機は今、呉にあったが山本は出撃を厳禁していた。
沖縄で決戦をやるためにはどうしても、戦闘機が必要だった。
それに、艦載機の大半は整備中で飛ばせない。
少数の竜神があの集団に飛び込んでも無駄死にするだけだ。
呉の艦隊には臨戦態勢をとるように命令してあるが敵の狙いは帝都空襲が狙いらしかった。
「紀伊や大和がいなくなった途端にこれか・・・」
山本は呟いた。
技術が上がったとはいえ、ドイツとかりそめとはいえ戦えていたのは機動戦艦あってこそだ。
原子力空母も残り2隻。
世界最大の戦艦武蔵はこの場にいてもできることは何一つない。
「くそが!」
山本は壁を殴りつけた。
驚いた艦橋の兵が山本を見るが誰もが怒りを理解していた。
みな、怒り狂っていたのだ。
「ハハハ、見ろよ東京が火の海だ」
「俺達の降伏勧告に従わないからこんなことになるんだよ日本人」
ゼンガ―の機内では兵達が笑っていた。
今、この瞬間にも多くの人が死んでいる。
しかし、ここからは見えないし、刀や槍と違い人を殺す感触のないボタンは人殺しをより、簡単にさせる。
「しかし、機長、あのヴィゾフニルって機体すごいですね。 日本の戦闘機がまったく歯がたってませんよ」
「まったくだな、あのフレドリクという小僧が来てからドイツも変わったものだ」
「機長、皇帝陛下にそんなこと言ったら不敬罪ですよ」
笑いながら言うと機長がにやりとした。
「大丈夫さ。 別に皇帝を奴は名乗ったわけじゃない。 まあ、上官だがお前が黙っていたらわからんさ」
「戻ったらビールをおごってくださいよ。 生ビールがいいです」
「よし、口止め料だな。 いいだろう。 お前らもいくだろ?」
残りの3人に言うと彼らは歓声を上げた。
その時だった。
彼らの隣を飛んでいたゼンガ―が爆発を起こした。
火の海となって落ちて行く。
「なんだ!?」
機長が言うと窓の外を見た兵が
「竜神じゃない! なんだあの戦闘機は!」
そう言った瞬間、彼らのゼンガ―に衝撃が走り炎を巻き起こす。
「いかん! 脱出を!」
機長が言った瞬間、爆弾に炎が映りゼンガ―が爆発する。
緑の戦闘機はたくみにヴィゾフニルと戦いながらゼンガ―に攻撃を仕掛けている。
わずか2機と少数だがその動きはエースパイロットのものだった。
笹井醇一、坂井三郎、日本のエースパイロットの2人だった。
彼らは新型戦闘機のテスト中に今回の出来事に出くわしたのである。
「筒井! 1機でも多く落とすぞ!」
「2機で千機を相手にするなんて無茶にもほどがある。でもやるしかないなら」
ジェット戦闘機『春雷』、先行量産型である蒼雷をさらに、量産向けにスペックを落とした戦闘機である。
ヴィゾフニルが春雷を迎撃にでるが日本最強のエースパイロットを防ぐには至らない。
アルテミナスの軌道は常に直線。
それは空を熟知していれば防げないものではない。
筒井と坂井はそれができるエースだった。
「お前は右目を失ったんだ」
失明した右目を日米決戦で失明したさ坂井に対する上官は冷たかった。
「それでも新人よりは戦える」
その言葉を拾ってくれたのが独立機動艦隊だった。
日本に戻った坂井は最強のエースパイロットに与えられる部隊で春雷を受け取ったのだ。
『剣部隊』名前のみの拝借だが竜神に代わる戦闘機として春雷は開発されものだった。
しかし。それでもなお、量産には課題があり、エースパイロットを集めた部隊で集中運用する流れとなったのである。
「筒井! 危ない!」
「!?」
警告音が鳴り響く中、4機のヴィゾフニルが筒井の戦闘機の背後に迫った。
「くそ! ふりきれん!」
ヴィゾフニルは人間の限界Gを気にしないでいいメリットがある。
すなわち、運動性能は有人機ではどう頑張っても無人機には勝てないのだ。
「待ってろ! 今!」
坂井が言った時、彼もまた7機のヴィゾフニルが背後に突こうと攻撃を仕掛けてくる。
「くそったれが!」
なんとか、背後に疲れぬよう必死にバレルロールで1機背後を取り、ミサイルを発射し、1機撃破するが坂井の春雷は追い詰められていく。
もはや、逃げることもできまい。
やはり、無謀だったのかと坂井が思った時だった。
急にヴィゾフニルが数機坂井機から離れて行く。
そして、1機がミサイルで吹き飛ぶ。
神雷だった。
沖縄から駆けつけてきた100機の神雷が東京上空でヴィゾフニルと空戦を開始した。
ゼンガ―を追う神雷もあるがヴィゾフニルは驚異的な性能で神雷すら圧倒していた。
それでも、竜神よりはるかに性能に勝る神雷はヴィゾフニルと不利6とするなら有利4で戦いを進めていた。
ここまでかと思ったのか、ゼンガ―の大編隊が反転を始める。
逃がすものかと坂井達は追撃を開始するがやはり、ヴィゾフニルが阻んでくる。
聞いた話ではあのゼンガ―の中におそらくヴィゾフニルを統率する機体があるはずだが、探す余裕はなかった。
たった20機という損害でヴィゾフニルは撤退を開始した。
日本の制空権が及ぶ空域から離脱した時、出撃した日本本土の航空戦力は半数を失い壊滅的な打撃を受けたのである。
火の海に包まれる東京を見下ろしながら坂井はスロットルレバーを握りつぶさんとばかりに握り締めた。
この日、東京で火が完全に消えるまでに実に6万の命が消えた。
この日より、ドイツはアメリカ東海岸、日本各地を爆撃し、その抵抗力を奪わんと空より猛攻撃を仕掛け始めたのである。
理化学研究所、ウラン鉱山がある岡山の人形峠などの重要拠点も攻撃され、次第に日本は沖縄へと戦力を逃がし始めることになったのである。
むろん、日本も、迎撃は行ったが圧倒的な物量を誇るドイツに次第に消耗は増えて行った。
連合艦隊の拠点、呉、横須賀等、の佐世保を覗いた軍港も狙われていったのだった。
作者「もう・・・駄目だろこれ」
メグ「そうですね。私のデーターによりますと日本は九州地区の工業地帯はを死守してますからなんとか戦えてますけど時間の問題に変わりありませんね」
作者「大慶油田も破壊されたか?」
メグ「してませんよ。 連合艦隊が動けなくなったらそもそも、ドイツの思惑から外れますからね。 日本連合艦隊には全艦出撃して壊滅してもらわないとだめなんです」
作者「では満州はまだ無事か・・・あそこにも工業地帯があるからな」
メグ「アメリカも時間の問題です。 東海岸の工業地帯は全滅したようなものですし」
作者「まだ、西海岸があるがこのままでは・・・」
メグ「いい加減に諦めたらどうです作者?」
作者「く、くそぅ・・・」
メグ「泣いても駄目です。 日本は終わりです」