第272話 偉大なる大元帥
「一番砲塔応答ありません!」
「アトランタ轟沈!」
「くそ・・・」
冷静な判断を求められるのが戦場だが、今やハルゼーは元の性格を取り戻しつつあった。
日米の艦隊決戦はすでに互いに決して小さくない被害を与えている。
後すでに空は明るくなりかかっていたがハルゼーは引かなかった。
太陽が出れば航空機の天下であるにも関わらずだ。
米艦隊は武蔵に攻撃を集中させていたが撃沈には至っていなかった。
逆に日本艦隊の命中精度は異常なほど高く米艦隊に被害を与えている。
そして、アンドロメダの砲がぎりぎり届く海域では三笠とアポクリファが戦っている。
「間もなく夜が明けます。 ここは引いて航空攻撃に切り替えましょう」
参謀が言うがハルゼーは聞き入れない。
「駄目だ。 日本艦隊とはこの艦隊決戦でけりをつける。
ハルゼーが言った時だった。
兵が走り込んできた。
「ワシントンより入電です」
「ワシントンからだと?」
ハルゼーは兵が読もうとした紙をひったくった。
そして、ハルゼーはにやりと口元を歪めた。
「砲撃やめ! これ以後、自衛を除き日本艦隊への攻撃を禁止とする」
「なんですって!?」
参謀が言うのとハルゼーが怒鳴るのは同時だった。
「全艦砲撃をドイツの糞戦艦に向けろ! あの糞アマのケツにでかいのを叩き込んでやるんだ!」
参謀がハルゼーから渡された紙、その内容を簡単に訳すとこうだった。
『合衆国は日本と講和するので日本艦隊への攻撃を禁止する。 現海域にいるドイツ機動戦艦を殲滅せよ』
「山本長官! 米艦隊からの発砲炎が消えました!」
「撃ち方やめ!」
「長官これはまさか?」
黒島参謀の言葉に山本は頷いた。
「攻撃が成功したということだな」
山本はそれを言うとハルゼーと同じ決断を下した。
「三笠を助ける! 全艦ドイツ機動戦艦へ砲撃を開始せよ!」
「了解!」
両艦隊がドイツに攻撃を決意する前に、三笠とアポクリファは戦っていた。
轟音と共に鉄を散らし爆炎が当たりを照らした。
「くっ・・・」
三笠の艦魂炎樹は血に染まった軍服を見たがもはや、痛みでどこが怪我をしたのかわからない。
機動戦艦三笠はすでに、航空機射出用のカタパルトを両弦ともに破壊され炎の海と化している。
艦内は地獄絵図になっているに違いない。
炎揺らめく中、炎樹の目に映るのは無傷のドイツ機動戦艦だった。
炎樹には見えている。敵の艦首に立つ大剣を構えた長い金髪の女性。
中世の騎士を思わせるようなその姿は見ていて美しかった。
その彼女が剣を振り上げた。
三笠の砲塔が動く。
唯一アイギスを破れるその砲弾を込めて・・・
炎樹は荒い息を吐きながら日本刀を鞘に戻すと一気に抜き放つのと同時に敵が剣を振り下ろした。
刹那爆風が起こる。
三笠のアイギスは粉々に砕かれ巨大な炎の火柱が夜空を照らす。
対するドイツの機動戦艦は三笠の一撃を回避した。
続けざまに敵の砲塔が光った。
それは三笠に突き刺さり被害を拡大させていく。
「くっ・・・」
左目がもう開かない。
手で左を抑えるとべっとりと血が付いた。
のどの奥から熱いものがこみあげてきて血の塊を炎樹は吐いた。
「ごほ・・・」
それを手でぬぐうと同時に炎樹は右ひざをついて日本刀を床に突き立てて倒れないように意識を保つ。
(まだ、倒れぬか?)
これは、敵の艦魂の声だろう。
(偉大なる日本の戦艦三笠の艦魂、なぜ負けると分かっていて戦う?)
炎樹は仲間達を・・・凛や日本の艦魂達の姿を思い浮かべながら
(祖国を守るのに理由がいるのか?)
日本海海戦を戦い抜いたあの記憶を思い浮かべながら炎樹は言う。
(ふっ)
微笑する声が聞こえドイツの機動戦艦は言った。
(なるほど、無粋だったな。 決着をつける前に教えてやろう)
(?)
(・・・だ、ここが要となるだろう)
(どうして、その情報を伝える?)
(さあ、なぜだろうな? 偉大な戦艦に対する礼儀だと思ってくれればいい)
(・・・)
(さらばだ偉大なる戦艦三笠)
(まだ、妹達がいる)
(大和と紀伊なら期待するな彼らは死んだ)
(いいえ、私は妹を信じる)
(いいだろう。 希望を信じて散れ三笠よ)
その瞬間、炎樹は転移していた。
CICでは兵達の声が響いている。
「烈空弾装填! 撃て!」
藤森 冬花は最後まであきらめずに戦いを指揮している。
だからこそ炎樹は彼女を死なせたくなかった。
「冬花」
炎樹は言うが冬花は後にしてと指揮を続ける。
だが、炎樹は言わなくてはならない。
「冬花! 頼む! 聞いて!」
彼女は炎樹を見る。
そして、炎樹はとある情報を託したその直後
「敵機動戦艦バルムンク発射反応あり!」
「前面にアイギスのエネルギー集中展開! 持ちこたえて!」
一撃目のレールガンはアイギスに弾かれる。
反撃のチャンスだった。
だが・・・
「に、2撃目が来ます!」
「連射!?」
ありえないと冬花は思った。
敵のレールガンは1発撃てば1分充電がいる。
そう、思い込んでいた。
アポクリファが2発3発とバルムンクを連射する。
そのたびに三笠のアイギスに負荷がかかっていく。
そして、7発目が着弾したその時、アイギスは負荷を越えて粉々に吹き飛んだ。
8発目が来る。
戦艦の装甲を一撃で貫通できる攻撃が・・・
(ここまでなの・・・)
絶望的な状況に変わりない。
どうあがこうとも次の一撃で・・・
「冬花! 」
参謀であり友人の釘宮が怒鳴る。
その瞬間は走馬灯のようにゆっくりだった。
そして、彼女達の肩に血にまみれた手が乗った。
「冬花……釘宮……お前達は生きろ」
「炎樹?」
釘宮には見えていない艦魂の炎樹彼女は決意に満ちた目でその言葉を言い放った。
「日本を・・・私の妹達を頼む」
「炎・・・・・・」
冬花と釘宮は光に包まれて消えた。
そして、その瞬間、三笠はアポクリファのバルムンクに艦首から艦尾まで貫ぬかれた。
続けて1撃2撃と穴を食らい炎樹は甲板に転移し、空を見上げながら・・・倒れていくのを感じながら涙を流した。
(凛・・・みんな・・・友よ・・・日本を・・・)
戦艦三笠は4撃目を受けた時大爆発を起こし、船体を真っ二つにし、巨大な 水上気爆発を起こし海に沈んで言った。
皮肉にも、日米が三笠を助けるために放った砲弾が発射された瞬間であった。
作者「そ、そんな・・・」
エリーゼ「これで日本は全ての機動戦艦を失いました。 終わりです」
作者「凛様・・・あなたは本当に死んでしまったんですか・・・お願いです生きていてください・・・」
エリーゼ「ドイツによる世界統一によりこの物語は締めくくられるのです」
作者「まだだ・・・まだ、連合艦隊がいる…連合艦隊をなめるなよ」
エリーゼ「旧式の艦隊など敵ではありません」
作者「・・・」