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第271話 終焉の時

「久しぶりだな 日向」


CICの正面に設置されている大型のモニターに映っている男はまぎれもなくドイツで日向があったあの男だった。

長い金髪に、人を見下すようなその蒼い目、圧倒的な威圧感。

まさしく、世界中で魔王と呼ばれるにふさわしい風格であった。

アドルフ・フレドリク、世界制覇を目前に控えた男。


「ああ、1年ぶりぐらいか?」


山荘ですでに互いは決別している。

今更、敬語を使うような相手ではない。

日向の言葉にフレドリクは頷いた。


「それぐらいだろうな。 あの時、言ったように俺の世界制覇は目前、後はお前達と日本を倒せば終わりだ」


「アメリカを忘れてるぞ」


「アメリカ?」


フレドリクは両手を指同士で組むと面白そうに笑った。


「アメリカ合衆国は脅威ではない。 日本を屈服させれば倒す手段などいくらでもある」


本当かどうかはわからない。

だが、この男のいうことだ。

その手段があるのかもしれなかった。

今、日向がすることはなるべく時間を稼ぐこと。

すでに、日向はいくつかの指示を出していた。

それは、艦内で復旧作業と共に行われているはずだ。


「随分と買いかぶられたものだな日本は」


「そうかもしれないな」


フレドリクは言った。


「伝説の戦艦大和 紀伊 尾張」


「っ・・・」


尾張の名前が出た時、凛は唇をかんだ。

こいつが・・・こいつがいなければ明は・・・


「お前達の日本の勝利の原動力はこの3艦だ。 三笠という艦がいるがいずれにせよこの太平洋の海でお前達は散る」


「そう簡単に行くと思うのか?」


日向は冷や汗を流している自分に気付いた。

まだ、負けていない。

切り札はある。

それでもなお、この男の威圧感はすさまじい。


「いくさ。 今の一撃で紀伊は半死人。 そして・・・大和は今沈んだ」


日向の目が見開かれた。


「合衆国の攻撃より大和は沈んだ。 伝説の戦艦と恐れていたのは間違いだったのかな?」


日向は凛を見た。

凛は静かにうつむいた。

それだけで日向は理解した。

大和は沈んだのだ。


「古賀・・・」


日向が見ると古賀は頷いて作業を命令した。

その内容は


「鉄の城天空」


大和は沈んだ。

それは、山本長官との間に決めておいた暗号だった。

フレドリクはその通信を妨害しようともせずただ、それを見ていた。


「三笠はアポクリファが沈めるだろう。 後は紀伊お前を沈めれば終わりだ」


「フレドリク、お前は一つ忘れてるんじゃないか?」


「ほう? 何を忘れてると言うんだ?」


「紀伊には核ミサイルがあることを忘れてるんじゃないか?」


「……」


さすがにフレドリクも一瞬、言葉に詰まった。

やはり、核を恐れていると日向が思った時


「使ってみればいい」


「何?」


「お前達、日本が掲げてきた理念。 核は平和利用しか使わない。 しかし、ここで使えば戦術レベルでの核使用になる。 核による決着で勝てたとしてもその後の世界は核戦争の道をたどるだろうな。 その理念った椎名の覚悟を無駄にするつもりか?」


「愚かなのかもしないな・・・」


日向はすでに覚悟を決めていた。


「ここで、お前に負けるわけにはいかねえんだよ! 俺は・・・俺達は未来の日本を破滅から救うために来たんだ! こんなところで日本を滅ぼされたら意味がねえんだよ!」


「ふん」


フレドリクは目を一瞬閉じた。


「降伏する気はないのか?」


例の紀伊を先頭に押し立てて日本に攻め込めば日本の戦意は完全に崩壊するということをフレドリクは言っているのだろう。

紀伊が降伏すれば核ミサイルも手に入る。


「前にも言ったはずだ! お前の帝国とは死んでも組まない」


「俺の言うことを信じないのは正しいな日向、 覚えているか? 前に言ったドイツと日本との連邦国家構想。 あの時、お前達が受け入れていればアメリカを屈服させた後、背後から日本に攻め込むつもりだった」


分かっていたことだ。だから、日向は組まなかった。

この男は危険すぎると直感が告げていたから・・・


「知ってたさ」


「そうか、では・・・」









日向とフレドリクが話をしている間にもう一つの会話も同時に行われていた。

エリーゼと凛である。

2人はモニター越しに顔を合し、会話を交わしている。


(久しぶりですね紀伊の艦魂)


(できれば会いたくなかったわよ。ドイツの艦魂)


(今一度、名乗りましょう。 私はドイツ神聖帝国海軍独立機動艦隊旗艦、フリードリッヒ・デア・グロッセの艦魂、真名はエリーゼといいます)


名乗られれば名乗り返すのが礼儀であると凛は昔、教えられた。

それが、例え大嫌いな相手でも・・・

だから、凛は堂々と言い放った。


(日本独立機動艦隊旗艦紀伊! 真名は凛)


(では、凛今日がお別れの日です。 私は忘れませんあなたという艦魂を)


(ふざけるんじゃないわよあんた! 明を……明の仇!)


(明? ああ、尾張の艦魂ですか? 仇というならお互いさまでしょう? こちらはアテナをやられましたから)


(うるさい! あんた達さえこなければ! あいつは・・・明は!)


(元々、分かり合える立場ではありません。 紀伊が戦うと言うのなら私は本気であなたを倒します)


(ふん、あのフレドリクの馬鹿な世界統一のため?)


(あなたには・・・分かりませんよ凛)


少しだけ、エリーゼは悲しそうに言った。

だが、怒りに包まれる凛はそれに気付かなかった。


(わからない? 何がわからないのよ?)


(フレドリク・・・様は戦争をなくすために世界を統一するそれだけです)


エリーゼはそこで一度目を閉じ、再び開けた時、彼女の蒼い瞳は凛を正面から捉える。


(わからないなら構いませんよ。 ならば)


フレドリク・エリーゼの2人の声は重なる。


「死ね」 (死になさい)




モニターが切れると同時に日向は怒鳴った。


「アイギスを右に集中展開! 天城!」


日向は通信機に怒鳴りつけた。


「こっちは準備完了!」


同じく叩きつけるような声が帰ってくる。

時間はほとんどない。

そこまで言った時だった。


「右方向より攻撃来ます!」


「レールガンか!?」


「い、いえこれは!」


「あれはか……!」


通信越しに彼方が怒鳴った瞬間、紀伊は轟音に包まれた。


「あああああ!」


轟音の中凛は背が裂けた激痛、だが剣を杖代わりに踏みとどまる。


「日向長官! アイギスシステム破損! 修復不能!」


「敵、東より敵機動戦艦接近中!数2!」


「北東より敵編隊接近!数200! アメリカの航空部隊かと思われます!」


絶対絶命とはまさにこのことだと思った。


「ミサイル来ます!」


今や紀伊は四方八方が敵であった。

大和を撃破した機動戦艦はミサイルによる攻撃、さらに、3艦の機動戦艦の猛攻にさらされていた。

後数十分すればアメリカの航空部隊も攻撃に加わるだろう。

そこまで、紀伊が健在だという保証はない。


「取り舵一杯! 諦めるな!」


次々と破壊されていくCIWS。

アイギスを失った以上、防ぎようがなかった。






「何やってるのよ! あの馬鹿!」


一人でも、救助の手は欲しい。

彼方は慣れていなかったが負傷した兵をドミニクや兵達と医務室に運ぶ手伝いをしていた。

紀伊は轟音共に激しく揺れ、今にも沈みそうだった。


「しっかりしなさい!」


倒れていた兵に彼方は駆け寄ると止血のために持っていた箱を開けようとした。

後部格納庫である。

そこには、もはや残骸と言っていい、震電が彼方の目に入った。

歯を食いしばってから止血を終えるとタンカーを持ってきた兵に引き継ぐ。


「おい、いい加減にしねえとあぶねえぞ彼方ちゃん」


「うるさい! そんなことい言う暇あったら手伝いなさいよ!」


「ついてないぜ」


ドミニクが言うのは無理もなかった。

今や格納庫は火の海に包まれている。

消火活動は続けられていたが隅に退避したヘリに誘爆しないとも限らなかった。

まさに、その時、至近距離で爆発が起きた。

それは、格納庫の真上にミサイルが直撃した音だったが彼方はそんなことよりもどうでもいいことがあった。


「!?」


巨大ながれきが落ちてくる。

それは、スローで見ているように遅く感じられた。

走馬灯という言葉を彼方は思い出した。


(なんだ・・・私ここで死ぬんだ)


がれきが迫ってくる



(ごめん……凪もう、あなたの戦闘機・・・)


「彼方!」


ゆっくりと左を見ると必死の形相のドミニクが走ってくる。


(何・・・呼び捨てしてるのよ馬鹿・・・)


轟音共に巻き起こった粉塵の中に2人の姿は消えた。







「後部格納庫大破! 火災が止まりません長官! このままでは紀伊が沈みます!」


兵が悲鳴を上げる。

日向は凛の方を見た。

彼女は、もう話すこともできないらしく血の海の中でと槍だけを支えに立っていた。

かろうじて息があると言っていい状態だった。


「・・・」


日向は懐から鍵を取り出すとそれをカギ穴の中に差し込んだ。


「核ミサイル発射用意!」


それは、艦内マイクを通じて全、乗組員に伝えられた。

紀伊の最後の切り札は核ミサイルそれが最後の希望への扉だった。


凛は無意識に槍を天空に掲げた。


「私は・・・・・・まだ・・・」













炎に包まれる紀伊を偵察機の画像で見ながらフレドリクは何も言わずに見ている。

そして、終局


「終わりだ 荷電粒子砲発射」



フリードリッヒ・デア・グロッセの三連装6門の砲が動いた。


(せめて、苦しまないように)


エリーゼがその黄金に光る剣を振り下ろした瞬間、砲からすさまじい、光が発射された。

その方向は空を向いている。

やがて、光が曲がる。

荷電粒子砲は大気の状態によって激しく方向を曲げられてしまうため見放されていた兵器であったが2042年のドイツではそれに着目した。

この荷電粒子砲を使えばアイギスを完全に無効化して突破が可能という特徴がある。

複雑な弾道計算もスーパーコンピューター並みの処理速度を持つフリードリッヒ・デア・グロッセなら可能だった。

だが、転移してもなおこの荷電粒子砲は問題を残していたためようやくお披露目となったのである。


紀伊の直上で光が曲がったと思った瞬間、紀伊に巨大な煙が立ち上った。


そして、光が紀伊に当たる時、大爆発が巻き起こった。










激しい轟音と津波がフリードリッヒ・デア・グロッセを襲う。


閃光が夜明けの南太平洋を照らしている。

そして、閃光が止んだ時、そこにあったのは巨大なキノコ雲だった。

80キロ以上離されているにもかかわらず見える巨大なそれは原子爆弾のそれと同じだった。

あの地点には紀伊がいた。

それが意味するところは一つだった。

日本は・・・



作者「あ……そんな馬鹿な、嘘だろドミニク!」


エリーゼ「終わりです草薙」


作者「紀伊が・・・凛様が死んだ?」


エリーゼ「核の炎の中で生きるはずもあません。 生きていたとしても荷電粒子砲に貫かれて終わりでしょう。 満身創痍だったのですから」


作者「もう、日本に勝ち目は・・・」


エリーゼ「なくなりました」


作者「紀伊よ・・・」




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