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第 270話 撫子の死

「見えたぞ! モンスター戦艦大和!」


米機動部隊、第1次攻撃隊の指揮を務める兵が言った。

ここまで誘導してたドイツの戦闘機は遠ざかっている。

暗闇だが、大和の張る、アイギスははっきりと見えた。

レーダーからは隠れられても、肉眼からは逃れられまい。


「全機攻撃開始! モンスターの最後の時だ!」


アメリカの第1次攻撃隊300機は一気に攻撃を開始した。



「左舷雷撃機! 30機突っ込んでくる!」


「46センチ速射砲砲撃始め!」


本来なら対艦ように使われるような巨大な46センチ砲がアベンジャーに向けられる。


「撃て!」


轟音と共に発射された速射砲は狙いたがわず雷撃隊の真ん中で炸裂した。

零式弾による破片での撃墜だったが大和の砲撃は雷撃機に全て命中する。


「直上より敵機来ます! 数20!」


「シースパロー発射始め! 」


大和より発射された20機の急行下爆撃も全て撃墜される。

しかし、米軍機の攻撃は猛烈だった。


「左舷よりさらに雷撃機来ます! 急降下爆撃30!」


その数は大和の迎撃数を越えていた。

対空ミサイルはあと7発


「アイギスを展開せよ」


有賀が怒鳴ると同時に大和の周囲に薄紫の膜が展開された。

魚雷、爆弾は全て命中するもアイギスにより阻まれて意味をなさない。


「ファック! 化け物め!」


兵の一人が怒鳴るも攻撃は続行された。

嵐のように大和に爆弾や魚雷が殺到するもアイギスを張った大和をどうにもできない。


大和の艦魂、撫子は胸を右手で抑えながら空を見上げていた。

まだ、戦える。

妹達のためにもここで負けるわけにはいかないのだ。

やがて、敵の攻撃隊は弾を撃ち尽くしたのか撤退を開始する。

しかし、有賀にとってそれは安堵の時ではなかった。

次の攻撃隊が迫っていたのである。

そして・・・


「独機動戦艦2隻来ます! さらに米第2次攻撃隊250機接近!」


「くっ・・・」


有賀は舌打ちしながら命令を下した。


「敵機動戦艦に艦首を向け! 敵機動戦艦と決着をつける! 大和を突撃させよ!」


「了解! 大和突入します!」


核融合炉が悲鳴を上げるように大和の速力を上げた。

その、速力は34ノットに達した。

通常の戦艦なら高速の速度だが機動戦艦にとっては亀のような速度だった。

しかし、バルムンクの射程は46センチ砲を上回る。


「敵艦、バルムンク発射!」


「進路そのまま!」


有賀の言うとおりに操舵主は冷や汗を欠きながらも動かない。

直後、バルムンクの光が大和の右舷と左舷を通過していった。

回避行動を予測した弾道である。

動いていたらヤ大和は沈んでいた。

極度の集中は有賀を操艦の神様と言われた森下と同格にまで引き上げていた。

並みの艦長なら今の攻撃で終わっていたのである。

そして、バルムンクは1分は撃てない。

その間に大和は一気に距離を詰めた。


「主砲斉射!」


大和の主砲、撫子の気合の一閃と共に放たれたその砲弾だったが独機動戦艦はバルムンクの発射をやめて回避しつつ、通常の砲撃を開始した。

このまま、突っ込んで砲撃戦に持ち込めば低くても勝機はある。

有賀が突撃を命令しようとしたその時だった。

艦に衝撃が走った。

がくんと艦の速度が低下したのだ。


「機関室!何があった!」


艦橋の副長が怒鳴ると声が帰ってくる。


「艦長! アイギスの装置が焼き切れました! 核融合炉にも異常が!」


「な、何! アイギスはもう使えないのか!」


「これ以上は機関が持ちません! 浮き砲台になりたいなら止めませんが」


「艦長!」


副長の視線に有賀は頭に右手を乗せた。


(もはや……これまでか)


大和の速力はさらに下がった。

現在速力は27ノットだった。

何と言う皮肉だろう。

米攻撃隊の攻撃直前に沖縄特攻での大和の最大速力と同じ。

これは変えられない運命だと言うのか…

大和は沈む定めなのだと…


(幸作様・・・)


「撫子か?」


小さい声で頭の中に響いた声に有賀は返す。

今撫子は荒い息を吐きながら心臓を抑えていた。

艦魂にとって、機関はすなわち、人間で言う心臓。

それが異常をきたしているのだから撫子の苦痛は尋常ではないはずだ。


(すみません・・・もう、私はそれほど速力は出せません・・・)


「気にするな…」


有賀は言う。

レーダーを見ていた兵が機動戦艦が反転して遠ざかっていくという報告を耳にしながら同時に米攻撃隊接近を知った。

アイギスは使えず速力は27ノット、そして対空ミサイルは7発、機動戦艦大和の運命は決定された。

有賀は艦内マイクを取った。


「みんな聞いてほしい、アイギスはもう使えない。 本艦の頼りになる武装は主砲とciws

のみだ。 だが皆聞いてほしい。 戦艦大和は沖縄特攻で死すべき運命だったのだ」


有賀は日向に聞いた未来を断片的に語る。


「だが、我々は機動戦艦を2隻沈め、今なお、紀伊の盾となろうとしている。 戦艦大和は未来において日本民族の誇りとなった! 我ら機動戦艦大和もまた未来の日本民族にとって誇りとならねばならん! 総員に継ぐ! これは戦艦大和最後の戦いである!恐れるな! 大和と戦える己を誇りと思え! 以上だ!」


有賀は艦橋を振り返った。

艦橋の兵達はすでに覚悟を決めた表情で有賀を見ている。


「大和に配属されたこと、有賀艦長の下で戦えたこと我らは誇りに思います」


副長の言葉にみんな賛同の言葉をつづけた 。

ありがとうと有賀は思った。

史実の自分もきっとこんな覚悟に満ちた兵達と戦ったのだろう。

ならば、やるだけのことをやるだけだ。


「第2次攻撃隊が来ます! 艦爆連合250機東より来ます!」


「主砲零式弾砲撃始め!」


大和の砲が全て空に向けられる。

撫子は胸を抑えながら薙刀を構えた。


「これが・・・私の・・・最後の戦い・・・」


撫子は今も激戦の中にいる妹達と日本にいる妹を思った。


「桔梗、小雪、零・・・凛様・・・」


撫子は涙を流しつつ強い決意を空に向けて薙刀を振り下ろした。


「後は任せましたよ」





機動戦艦大和の奮戦は後の世にも語られている。

40発以上魚雷を受けながらも・・・30発以上の爆弾を受けながら大和は戦い続けた。

その戦いの最中、炎の中血で薙刀を手にした鬼神のような少女を見たと言う兵は後を絶たない。

人々は言うあれは戦艦大和の艦魂だったと・・・








有賀は血に染まった体の痛みに耐えながら歩いていた。

各所には火の海となっていたが有賀は歩き続けた。

兵の姿はない。

彼らは皆、退艦していた。

傾ている戦艦大和の寿命はあとわずかだろう。

先ほどまで、うっとおしほど飛び回っていた米軍機の姿はない。

有賀は探し続けた。

少ない時間でもいい。

彼女に会いたい。

そして、その願いはかなうのである。


「見つけたよ・・・撫子」


血の海に倒れた撫子を見た有賀は嬉しそうに言った。


「幸作・・・様?」


もう、立ち上がる力もないのだろう。

撫子は顔だけ上げて有賀を見た。


「どうして・・・早く・・・退艦してください・・・もう、私は・・・」


有賀は黙って座り、撫子を抱きしめた。


「あ・・・」


有賀の胸の中に抱き抱えられるようになる撫子は小さく声を上げた。

頬を赤くしながらも撫子は言った。


「生きてください・・・幸作様・・・家族が・・・悲しみます」


「俺はな・・・撫子」


有賀は静かに話し始める。


「戦艦大和の艦長になれたことは誇りだった。 そして、撫子に会えたことも俺は嬉しかったんだ」


「幸作様・・・」


「日向長官の歴史の俺は知らない・・・だが、今の俺は撫子・・・君といたい」


撫子は涙を堪えて・・・大好きな人いたい気持ちを必死に抑えた。


「私は幸作様が死ぬのは嫌です・・・嫌なんです」


「ハハハ、俺は君が好きだと言っても意見は変わらんのかな?」


「かわりません・・・生きてください幸作様・・・」


いてほしい、一人で死ぬのは嫌だ。

内心を抑えて撫子は言う。

有賀はふっと笑った。


「これでも同じことを言うのかな?」


「っ!?」


撫子は息を飲んだ。

有賀の左の脇腹に鉄が突き刺さっている。

止血はしてあるがすぐに手術しないと助からない傷だった。

そして、この場でそれができる場所はない。

この人はここで死ぬ。

そう分かった瞬間撫子は有賀の背に手をまわした。


「嘘です幸作様・・・一緒に・・・私は一人で死にたくない・・・幸作様と別れたくありません!」


ぼろぼろと涙を流す撫子を見て有賀は力の入らなくなった右手で彼女の涙をぬぐった。


「ああ・・・俺も・・・撫子といたいよ・・・」


「愛しています幸作様」


有賀は目を少し大きく見開いた。


「もっと・・・早く言ってくれれば恋人・・・らしいことも・・・できた・・・んだろうな」


「幸作様」


「俺も・・・撫子を愛している・・・愛していくさ・・・」


有賀は震える手で彼女を抱きよせる。


「悔いが・・・あるとすれば・・・日本の・・・行く末を・・・お前ともっと一緒に過ごせなかったことだな」


「大丈夫です・・・幸作様…日本にはまだ私の妹達・・・凛様達がいます」


「そう・・・だな」


「幸作様?」


撫子は有賀を呼ぶがもう、返事はなかった。

戦場だと言うのに穏やかに眠る彼の唇にそっと撫子は口づけをかわした。


「愛しています・・・幸作様」


撫子がその言葉を言った数秒後、戦艦大和を海上から浮かびながら見ていた兵達は声を上げた。

史実の沖縄特攻の最後のように大和は沈んでいき、海中で大爆発起こした。

巨大な黒煙が南太平洋の空を染めて行く。

大和の将兵達は涙を流しながらその光景を見ていた。

彼らは生涯誇る。

戦艦大和と共に戦った自分達を・・・

そして、見たものは言う美しき大和の艦魂の姿を・・・












静かに撫子は花畑を歩いている。

その少し先には大好きなあの人がいた。


「撫子」


彼は両手を広げる。

撫子はその人の胸の中に飛び込んで言った。








戦艦大和の戦いは終わったのだ。


ドミニク「撫子ちゃん・・・」


作者「撫子様・・・」


ドミニク「大和も沈んで・・・日本の残された機動戦艦は2隻になっちまったな」


作者「撫子様・・・あなたのことは忘れません」


ドミニク「作者・・・今回は言えることがないぜ」


さよなら撫子様・・・機動戦艦大和

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