第240話 連合艦隊総力出撃最後の大号令
昭和18年4月、ハワイ、オアフ島より東北20キロの地点に集結した日本連合艦隊及び、独立機動艦隊は出撃の時を直前に控えていた。
菊水作戦における旗艦は戦艦武蔵である。
予定では大和を旗艦にする予定であったが大和は紀伊と共に南太平洋に出向くための措置だった。
「いよいよ決戦か……」
武蔵艦橋では参謀たちと共に椅子に座る山本五十六連合艦隊司令長官が言った。
高速戦艦に生まれ変わった武蔵はシートベルトを締められる椅子が必須なのである。
「思い返せば夢のような事態ですな長官」
「そう言えば、彼らに会ってからまだ、1年しかたっていないのだな。 遥か昔のように感じるよ」
黒島参謀の言葉に山本は言った。
ミッドウェーで機動部隊が壊滅し敗走する山本達の前に現れた紀伊。
彼らの活躍でハワイを占領し、今アメリカ艦隊と最後の決戦を行うところまで来ている。
だが、歴史は日本の勝利を望んでいないかのようにドイツというアメリカ以上に強大な敵を日本にぶつけてきている。
(この戦いは連合艦隊最後の戦いになるかもしれん……)
口には出さずに山本は思った。
200隻以上の空前絶後の大艦隊。
連合艦隊の総力といえるこの艦隊が壊滅すればもはや、日本海軍は二度と立ち直れない
状態に陥るだろう。
(勝たなければならん……この戦いでアメリカと講和し、全世界の力でドイツに当たらなければ日本は滅びる)
アドルフ・フレドリクのドイツ神聖帝国の最終目的は世界統一である。
夢幻と思えた世界制覇は一人の男の野望とドイツ独立機動艦隊により、成し遂げられようとしている。
(その勝敗を分けるのは機動戦艦)
山本の視線の先には紀伊と大和がいる。
日本の希望たる2艦の南太平洋での決戦には護衛をつけたいのが本音だったったが中途半端な艦をつけても邪魔になるだけだ。
アメリカがどれだけ戦力を整えているか未知数だしドイツが手を貸している可能性がある以上。
空母や戦艦を護衛に付けるわけにはいかなかった。
日本連合艦隊は大和を除く出撃可能な艦全てでアメリカと決戦を行うのだ。
「……」
山本は腕時計を見た。
間もなく、出撃の時は近い。
だが、その前に全ての艦にとりつけられている艦内マイクを兵から受け取った。
同じころ、戦艦武蔵の前甲板には連合艦隊全ての艦魂達が集結していた。
その数はゆうに200を超える。
戦艦や空母などの士官クラスの艦魂達は前に横一列に並び時が来るのを待っている。
その中には凛や星菜などの未来の艦魂達の姿もある。
(いよいよ……か)
駆逐艦等の水兵に当たる少女たちが並ぶ甲板を見ながら凛は思った。
潮風が顔に当たり短く切った髪を揺らす。
(明……仇は取るから……)
ドイツの機動戦艦を殲滅する。
それだけが、凛の願いだった。
(凛……凛)
(何刹那?)
頭の中に直接響くその声は戦艦霧島の艦魂、刹那の声だ。
疎遠になりがちだった彼女とはパーティーを通じて少しだが関係が修復している。
凛は表情を変えぬまま前を見ながら答えた。
(プレゼントなんだけど……)
(プレゼント? ああ……)
そう言えば、パーティーで誕生日プレゼントとして何かくれると言っていたのを凛は思いだす。
(直接渡そうかと思ったんだけど渡せなくなるかもしれないから日向長官に預けておいたから後で受け取って)
(恭介に? 分かった)
あんなに拒絶したのに刹那は凛に対する態度を変えない。
もう、拒絶しても無駄だと凛は思っていたのである。
(あの……凛突然なんだけど私達って友達よね?)
(……)
答えに一瞬迷う。
拒絶した自分に友達という資格があるのだろうか……
いや、相手が友達として見てくれているなら後は自分の問題だ。
友達でいたいのかいたくないのか……
答えは一つだった。
(友達よ)
(うん)
嬉しそうな刹那の声が響く。
凛は自分の口元が緩んでいるのに気づいて慌てて無表情に戻した。
そして、壇上に一人の艦魂が上がった。
その人物を見て艦魂達はやはりと思った。
現在、連合艦隊のトップは間違いなく大和の艦魂撫子だ。
彼女が鼓舞の演説をするのが当然だと思うものもいたが、引き締まるという点では
彼女がうってつけだったのだろう。
「戦艦長門艦魂鈴である! 本日1300を持って出港! 米艦隊との戦端を開きこれを
殲滅する! そして、独立機動艦隊もまた同時刻に出港! ドイツ艦隊との戦端を開きこれを撃滅する! このたびの戦いに負けは許されない! 貴様らの中に死ぬものもいるだろう! だが、何があっても前に進め! 戦友の屍を越え! 戦友の血を踏んででも前に進み、敵艦隊を粉砕するのだ! 皇国の荒廃この一戦にあり! 各員奮闘努力せよ! 総員オアフ島に向かい敬礼!」
艦魂達は疑問に首を傾げたが次に鈴は驚くべきことを言い放った。
「今、あの島には陛下がおられる! 陛下は我が軍を激励するために最前線までお越しくださったのだ!」
「陛下が……」
「私たちのために……」
艦魂達から驚きの声が漏れる。
そして、同時に士気は格段に上がった。
「直れ!」
一糸乱れず艦魂達は手を下し鈴に向き直る。
「これ以上私から言うことはない! 祖国へ帰るためにも皆、日頃の訓練の成果を鬼畜米とナチに叩きつけろ!以上である!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
200を超える少女達の握り拳が突き上げられ大音量が空に響き渡った。
同時に各艦からも男たちが少女達と同じ声を張り上げた。
山本の言葉が各艦の艦長を通じ、同時刻に艦内マイクを通じて伝達されたのだ。
その内容は鈴と似たものであり皇国の荒廃この一戦にあり!各員奮闘努力せよで締めくくられた。
同時に武蔵にはZ旗が掲げられた。
もちろん、意味は皇国の荒廃この一戦にあり、各員奮闘努力せよである。
天皇陛下の前線への激励。
そして、Z旗と山本や鈴の演説は日本軍全ての士気を最高潮に高められた。
全ての艦魂達は自分の艦に戻り、違う艦の兵と仲の良い艦魂は共に励ましの言葉を掛け合い。
友である間柄の2人はお互い生き残ることを誓った。
蒼龍の中隊長の高畑は部下と共にマーナガルム及びヴィゾフニルとの戦術の話し合いをしており、星菜はそれを影から見ている。
信濃の艦魂小雪は泣きそうになりながら大和の艦魂、撫子に抱きつき、その友である村雨の艦魂由真は柱の陰からハンカチをかんでいる
金剛4姉妹朱里、翡翠、刹那は柚子に決戦の心得を伝授されている。
長門の艦魂、鈴は懐から写真を取り出して一人で潮風に当たっている。
日向の艦魂京子と伊勢の艦魂剣は2人で歩きながら楽しそうに喋っている。
それぞれが決戦のほんのわずかな時間を親しい者と語り合う。
ずっと、続いてほしいと願いながら……
そして、凛もまた、CICで指示を出している日向 恭介の元に訪れた。
考えてみれば自分から彼の所にいくのは久しぶりかもしれない。
「恭介……」
指示を出していた恭介は振り返るといつもの調子で
「よう、凛どうしたんだ? ああ、少しさぼるかな古賀、ちょっと頼むわ」
「堂々とサボるなんて言わないでくれますか?馬鹿長官」
といいつつも古賀は指示を変わってくれた。
恭介は苦笑しつつCICを出て凛と共に廊下を歩いた。
「で? どうしたんだ?」
「プレゼント……」
「プレゼント?」
日向が首をかしげると凛は困ったように、そして、恥ずかしそうに
「刹那から預かってない?」
「ん? ああ、あれか」
日向はぽんと手を叩くと言った。
「頂戴……」
凛は片手を出すが日向は苦笑いしながら
「すまん凛、実は部屋に置いてるんだ」
「どこに?取ってくるから」
「ハハハ、わからねぇ」
「は、はあ?」
思わず凛は言ってしまった。
「いやぁ、刹那から預かったんだけど部屋のどこかに置いたかまでは……」
「ちょっと! 人から預かったものなくすなんて最低じゃない!」
凛が声を荒げて言うと日向は頭に手を置きながら笑顔で
「大丈夫だって、部屋のどこかにあるから」
「くっ……相変わらずいいかげんね恭介!」
「何言ってんだよ。未来でもそうだったろ? 今さらだな」
「じゃあ、もういい!」
凛は消えようとするが
「待てよ凛、一つ約束しようぜ」
「約束?」
凛が転移するのをやめると恭介は頷いた。
「刹那のプレゼントを開けるのはドイツ艦隊を叩き潰してからにしようぜ。 それから探してやるよ」
「負ける可能性もあるわよ」
凛が言うと日向はふっと笑う
「負けねえよ。 紀伊は……お前は世界最高の機動戦艦だ。 俺がお前を指揮する以上絶隊に負けはないさ。 そうだろ? 紀伊がでる戦場は全て勝利してきたんだから」
この自信はどこから来るのか……
あるいはこの男は凛を安心させるためにこんなことを言っているのかもしれない。
でも……
「ば、ばっかじゃないの? そんな自信がどこから来るのか相変わらず何も考えずに言ってる馬鹿じゃない」
「ひでえなおい」
日向は苦笑しながら言った。
「ふん」
今度こそ、凛は転移して消えた。
しかし、その表情にわずかに笑みが籠っていたのを日向は見逃さなかった。
立ち直ってきている。
日向は思う。
明が死んでから復讐復讐と言い続け日向を始め艦魂達を拒絶してきた凛であったが徐々にみんなの努力のかいあって戻ってきている。
「後は、勝つだけだな」
日向はそういうとCICの扉を開けた。
ザザザと巨大な波しぶきを立てながら紀伊と大和が動き出した。
進路は南である。
「長官、武蔵より発光信号です」
紀伊の兵士が言った。
「内容は?」
「はっ、読みます」
ト・モ・二・マ・モ・ロ・ウ・ミ・ラ・イ・ヲ・イ・キ・ノ・コ・レ
共に守ろう未来を生き残れ
山本から日向にあてたメッセージだ。
連合艦隊は必ず勝つ。
だから、お前たちも必ず勝てという意味が込められているのだ。
「武蔵に返信だ」
「何と送りますか長官?」
兵が聞く。
「それは……」
「山本長官、紀伊から返信が来ました」
「そうか、読め」
「はっ!」
カ・ナ・ラ・ズ・カ・ツ
「そうか、必ず勝つか、日向君らしい返信だな」
参謀たちから小さく笑いが漏れる。
「勝とうじゃないか合衆国に、そして、ドイツに」
山本の言葉に再び士気を上げる武蔵の艦橋だった。
発光信号を見ていたのは凛も同じだった。
甲板の手すりにつかまり、すれ違って行く艦を見ている。
その時、凛は対面にきた戦艦日向の艦魂、京子と目があった。
京子は笑みを浮かべながら敬礼した。
慌てて、凛も敬礼を返す。
同じようにすれ違う艦の艦魂達は……いや、全ての連合艦隊の艦魂達は紀伊と大和に向け敬礼をしていた。
すれ違う、鈴や柚子、刹那もそれぞれが凛や撫子と目を合わせて敬礼する。
そして、皆念話で口々に言うのだ。
(負けるのは許さん)
(負ける出ないぞ)
(お姉ちゃんバイバイ)
(がんばりいや姉さん、凛)
(凛、撫子長官絶対に死なないで……)
この先のドイツ艦隊との戦いは絶望なのかもしれない。
でも……
凛は思う。
連合艦隊の艦魂達の期待に答えたい。
恭介の期待に答えたいと……
50ノットの高速で遠ざかっていく連合艦隊を後部甲板まで下がり見ている凛は巨大な武蔵や信濃が見えなくなるまで敬礼を続けていた。
そして、最後に
(勝ちましょう凛様)
共に闘う大和の艦魂撫子の念話に対し
「必ず勝つから」
決意を固める凛であった。
昭和18年4月末日、間もなく5月になるこの日、日本連合艦隊及び日本独立機動艦隊は未来をかけた最終決戦に赴く。
その先に待っているのが何なのかは神も分からない……
作者「来たぞ!ついに!ついに決戦だ!」
星菜「待たせすぎ……」
弥生「だよねぇ、決戦決戦とかつつ100話ぐらい待たせてるよ」
京子「無計画な奴じゃな」
作者「うう、返す言葉がない」
星菜「……作者、私はどこにいく?」
弥生「あ、そういえば私も、紀伊には大和しかついていかなかったけど……」
作者「え?蒼龍、飛龍、赤城、加賀の空母は全部連合艦隊についていくけど」
京子「よいのか?」
作者「機動戦艦はアイギスがあるからね。 それに、アメリカ艦隊にドイツの空母が追従している可能性だってある。だからこそ、三笠は別行動してるんだよ」
京子「しかし、本編ではああしたが勝ち目はあるのか?」
作者「日本には天才博士が2人いますからね。 それに烈空弾だってある」
星菜「……バルムンク」
弥生「あれの対策できてるんだよね作者!」
作者「んまあ、ドミニク君のおかげであれの存在はうすうすは知ってるからなんとかなるんじゃないですか?」
星菜「……どうすると?」
星菜「だよね。 本編見る限りじゃアイギスも突き破りそうな威力ありそうだし」
作者「あるかな?ないかな?あるかな?ないかな?」
京子「ええい!はっきりせい!」
星菜「フリードリッヒ・デア・グロッセは出てくる?」
作者「ネタばれになるからいえましぇーん」
星菜「……死にたいらしい作者」
弥生「私たちを怒らせるの天才だよね作者ぁ」
京子「裁きを受けるがよい!」
作者「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
ズドオオオオオオン
ズドオオオオオン
ズドオオオオオン




