第227話 乗り越えるべきもの
「……」
薄暗い部屋の中で連合艦隊司令長官山本 五十六は机の上に置かれた地図を凝視していた。
アメリカ艦隊との最終決戦は近い。
連合艦隊の練度や士気は高く正面から激突し水上決戦に限ればアメリカに負ける要素は少ない。
しかし、日本はいかに損害を抑えられるかが勝敗の鍵になってくる。
山本が考えているのはジェット戦闘機とミサイルを用いた航空戦力による敵機動部隊の撃退である。ドイツとの決戦にはむろん山本はアメリカの力も当てにしている。
そのため、ありったけの戦力を用いてくるだろうアメリカ艦隊は撃沈はなるべく避け、大破、あるいは中破、ようは撤退に追い込めばいい。そのため、対艦ミサイル破壊力を落とした特別性のミサイルを用意している。
最初は大本営や連合艦隊司令部からは反対の声が上がったが山本はこれを説得した。
「我が大日本帝国の戦力のみでドイツとの戦いに勝利はありません」
そう言い切った山本に東条を始めとする大本営はついに折れたのである。
度重なる日本本土へのドイツ海軍の攻撃もその意見を後押ししたと言える。
気の弱いものなどはハワイを放棄して日本本土の守りを固めるべきでないかという意見もあったがならばこそ山本は短期決戦を主張した。
すなわちアメリカを降し、ドイツに吸収されていない全国家による史上最大の連合軍による反抗作戦の実地。
後3日で連合艦隊は決戦に出る。
「……」
地図を見つめる山本の顔が無表情から変わることはなかった。
戦艦大和は世界最大の戦艦であり、日本民族の希望である。しかし、その艦魂は戦艦という圧倒的な存在感に似合わない大和撫子である。
大和の中には知るものぞ知る艦魂達が会議をする部屋がある。
その部屋には空母や戦艦と言ったいわゆる士官クラスの艦魂達や従兵である一部の駆逐艦の艦魂達が集まっていた。
「いよいよ決戦だな」
戦艦長門の艦魂、鈴が言った。
りんとした女性でありその声は嬉しそうだ。
日米最終決戦に向ける連合艦隊の出撃は3日を切った。
今回の最終決戦の作戦名は『菊水作戦』と決まった。
これは、史実の大和沖縄特攻を含めた特攻の作戦名だがあえてこの作戦名が採用された。
「作戦名は菊水作戦のう……」
戦艦日向の艦魂京子が言うとぎろりと斜めに座る鈴が睨んだ。
「何か文句があるのか京子?」
「あるわけなかろう?」
京子はツインテールの黒髪の右側を触りながら言った。
「京子の言いたいことは分かりますよ」
一瞬険悪な空気が流れかけだが静かな声がそれを阻止する。艦魂達のトップである大和の艦魂撫子である。
作戦中ではないので和服に身を包むはかなげな容姿の彼女は大和撫子という言葉が相応しい。
「つまりは縁起悪いっていいたいんやろ鈴?」
比較的上座に近い場所にいる鈴だが更に上座に座る戦艦武蔵の艦魂桔梗が言った。
彼女は撫子の参謀を勤める立場である。
「凛の話しでは菊水作戦は我々連合艦隊最後の作戦だったそうじゃないか。そんな縁起の悪い名前など……」
「せやからこそこの作戦名なんやと思うで」
桔梗が言う。
「どういうことだ?」
「乗り越えて欲しいんですよ菊水作戦の名前をつけた人は、史実では連合艦隊終焉の作戦名でしたが私達はまだ、菊水作戦を勝利してもドイツと戦わないといけません、菊水作戦は終焉ではないという意味もあるんだと思います」
撫子が言うと鈴は納得したように頷いた。
「なるほど、続く作戦か……」
「しかし、気になるのはドイツじゃな」、そこはどうなっておる? 」
京子が聞くと撫子は静かに首を横に振った。
「まだ、新しい情報はありません。しかし、南太平洋で度々ドイツの潜水型の機動戦艦が目撃されていますから日米決戦にドイツが介入してくる可能性は0ではありません」
「最悪、日米独艦隊三つ巴の戦いになる可能性もあるかもしれへんな」
「それだけならいいですが、最悪私達と独米艦隊が合同で向かってくるかもしれません」
「それは最悪な展開じゃな姉上…」
その状況を想像した京子がため息をついた。
「むろん、我々は必勝の精神で挑むつもりだがナチの機動戦艦や艦載機は任せていいんだな凛?」
鈴の言葉に皆の目が黙っていた凛に向けられる。
髪を短く切り見た目鈴と大差なく成長した彼女は静かに目を開く。
「ドイツの戦力は私達がやる。 あんた達時代遅れの戦艦や空母はアメリカと遊んでなさい」
「貴様! なんだその言い方は!」
ガタンと音を立てて戦艦金剛の艦魂柚子が軍刀を手に立ち上がり凛を睨みつける。
凛は馬鹿にしたように柚子を見ると
「何やる気? 時代遅れの旧式戦艦ごときが機動戦艦の私と戦う?」
「ちょ、凛!」
慌てた原子力空母飛龍の艦魂弥生が窘めようとしたが柚子の怒りは収まらなかった。
「艦魂の力は艦は関係ない! 海軍精神叩き治してやる」
「お、お姉ちゃんやめて!」
慌てた刹那が柚子にとびかかかり動きを封じる。
「離せ刹那! 大体貴様始めてあった時から気に入らなかったんだ! ちゃらちゃらした格好しおって! たるんどるぞ!」
「それがどうかしたの?」
凛はあくまで冷静に、しかし、怒りを含めて柚子に言葉を返す。
柚子は更に激昂するが刹那は必死に彼女を押し止めた。
「そんなだから貴様の妹は死んだんだ!」
「!?」
その瞬間、凛からすさまじいほどの殺気が沸き立った。
殺気の先はむろん柚子である。
憎悪に満ちた目で柚子を睨みつける。
それだけの憎悪をぶつけられて怯まないのはさすがは歴戦の戦艦金剛の艦魂、柚子は殺気がここちよいというように凛を睨み返す。
「どうした怒ったのか?」
「……」
凛は口を開きかけたが……
「双方そこまでにして頂けませんか?」
その静かな声を聞き刹那はほっとした。このくせ者揃いの連合艦隊の艦魂をまとめ、なおかつ、艦としての性能も紀伊に引けをとらない彼女の言葉。
撫子の言葉に皆は耳を傾ける。
「柚子様、年長者である以上言葉には気をつけてください」
「しかし……」
「凛様も本意ではないのですよ。 察してあげてください」
「……ああ」
柚子はまだ、納得していないようだがとりあえず暴れるのをやめた。
撫子は微笑みながら凛を見ると話しを続ける。
「凛様、明様が亡くなった責任は私にもあります。 私が……大和が後少しあの海域に到着していれば……」
「……」
凛は無言で顔をうつむかせたまま光の粒子になりその場から消えた。
「凛様……」
撫子がつぶやくと同時に柚子は椅子に戻った。
「明の戦死以来変わらんなあいつは……」
鈴が凛が消えた空間を見ながら呟いた。
「でも気持ちはわかる。だって私ももし、姉さんを失ったら……」
陸奥の艦魂鞘が隣に座る姉の鈴を見る。鈴は鞘の耳に口を近づけて小声でささやく。
「心配はするな鞘、私は死なん」
鞘はこくりと頷いた。
「なんか戦艦陣はバラバラって感じがするわ……」
桔梗が同意を求めるように撫子を見ると撫子は頷いた。
「そうですね……」
刹那は凛が消えた空間を見ていたがやがて踵を返すとその場から転移して消えた。
撫子はそれを見ながら微笑みながらお茶を口に運んだ。
逃げるように会議室から出てきた凛は紀伊に戻ると飛び込むようにして自分の部屋に戻りベッドに入り、布団を頭から被る。
『貴様がそんなだから……』
柚子の言葉が反響する。
(分かってる……明が死んだのは私のせいだって……私が弱いから明が……)
ぐっと凛はシーツを手が潰れるかというほど握りしめて歯を噛み締める。
(私が弱いから……)
堪らなくなり凛は右腕を振り上げると怒りを放出するようにベッドにたたき付けた。
ドオオンという轟音と共にベッドの底が抜け、凛はバランスを崩してベッドがほうり出された。
顔をあげるとベッドが真っ二つに割れていた。
「……」
無表情にそれを見ていた凛だが怒りは収まらずむしろ深まった気がする。
この怒りを誰かにぶつけてやりたかった。
敵がいれば殺してやるやるのに……
あのトロンペの艦魂ラキアはただでは殺してやるやらない。ズタズタにして命ごいをしても許さない。
(怒りがぶつける相手が欲しい……)
凛が思った時であった。
コンコンと遠慮がちなノックの音が凛の耳に入る。
「……」
無言で扉を見ていた凛だったが再びノックが部屋に響いた。
「凛いる?」
霧島の艦魂刹那の声であった。
「何?」
多少迷いはあったが凛は声の主に返答を返した。
「あ、入っていいかな?」
「好きにすれば?」
思えば明が死んで以来、刹那を凛は拒絶し続けた。
刹那だけではない。近寄る艦魂、人間問わず凛は関わりを持とうとしなかった。そして、次々と凛のことを無視していく艦魂が出る中でも、撫子や京子、星奈、弥生などの艦魂達は変わらず話し掛けようとしてくる。
特に刹那は凛がどれだけ罵声を浴びせようが拒絶しようが何度も何度も話しかけてきた。
今回も孤立していた凛を見兼ねて来たのだろう。
部屋に入ってきた刹那を見て凛は椅子を指差した。
「ありがとう凛」
刹那は一瞬割れたベッドに目を向けてから椅子に座る。
「ごめんね凛、柚子姉さんもあなたのことを心配してあんなことを言ったんだと思う」
「そんなことをいいに来たわけ? 暇人ねあんたも」
「あ、アハハ……良く言われるかな」
刹那は恥ずかしそうにしながら言う。
凛は彼女を見下した目で見ながら
「すっごく迷惑」
凍りのような冷たい声が部屋に響き渡るのだった。
作者「ええい! インフルエンザめ!」
柚子「どうかしたのか貴様?」
作者「活動記録でも書いたけど忙しいんですよ! 馬鹿上司はぶっ倒れるわ(大爆笑した)、周りの先輩や同僚も次々倒れる始末」
柚子「貴様が輝く時ではないのか?」
作者「できるか馬鹿野郎! みんなの仕事がこちらに回ってくるんだぞ! ものすごい数だ! 休日出勤してサービス残業しても間に合わずに怒られて……」
柚子「ふん、貴様の根性がたりんだけだ」
作者「根性でどうにかなる訳ないだろ!」
柚子「ところでサービス残業とはなんだ?」
作者「残業手当てもでないいわゆる無料奉仕ですよ」
柚子「ボランティアとかいうやつか?」
作者「ワハハ! ボランティアなんかやる訳ない!サービス残業というのは会社は金出さないけど残ってやってねというシステム。上司が勝手にタイムカードを押すんですよ」
柚子「再びタイムカードとやらを押せばどうだ?」
作者「無理……確かに会社はそうしたら金を出さないといけなくなるけどブラックリストに載せられる」
柚子「大変なんだな……」
作者「みなさん……労働組合なんてものは幻想でしかありません。社会は悪魔の巣窟です」
柚子「下らん話しはこれぐらいにしろ草薙」
作者「はいはい、さて本編は決戦迫る日本陣営です」
柚子「山本は何を考えてる?」
作者「さあ?」
柚子「何?」
作者「言える訳ないでしょ? まあ、私はこの小説なら指でなんでもできますがね」
柚子「下らん話しばかりする奴だ。 死ね」
作者「ひぎゃああああああ!」
ズドオオオオオオン