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第226話 蒼き稲妻

1943年、ハワイ諸島オアフ島上空は少し雲が出ているだけでよく晴れた青空だった。


真珠湾では日本連合艦隊の艦艇達が補給や整備、訓練のため出入りしている。

瑞鶴のパイロットが今日も暑いなと空を見上げると数機の戦闘機が空を飛んでいるのを見た。

以前から良く聞いていたレシプロ機の音ではなく。

ここ、一年で急激に増えたジェット戦闘機のキイイイイインという音だ。


ちょうどいい休憩しようと兵は空を見上げる。

どうやら訓練をしているらしく3機の戦闘機が一機を追い回している。

目がいい兵はそれが3機の竜神と見たことのない戦闘機だと知った。


「新型機か?」


兵はつぶやくとじっと空を見つめつづける。

それにしてもいい腕だと彼は思った。

竜神というジェット戦闘機はかなりの高性能機だと聞いていたがあの新型は3機を相手にしてまったく引けをとらないどころか逆に3機を翻弄していた。

やがて、一機の竜神が離れ二機目が離れると残る一機が新型の後ろについた。

やったかと兵は思うが新型機は急に急降下を書けた。

それも、円を書くような急降下だ。

竜神はそれを追って自身も降下するが僅かに一瞬の出来事で竜神は後ろを取られた。


うまいと兵は思った。

新型機が今やったのはスパイラルダイブという空戦の上級テクニックだ。

ただ、この技術は名前通り周りながら急降下するので機体とパイロットに尋常じゃない負担を強いられる。

ジェット戦闘機のパイロットである彼はもちろんスパイラルダイブを知っていた。

上官はこの技術は余程腕に自信があるか馬鹿じゃないとやる奴はいないといわしめた技である。

あの新型のパイロットはおそらく前者だろう。


「すげえ……」


兵はつぶやくと真珠湾から1番近くにあるヒッカム飛行場に降下していく新型機を見えなくなるまで見つめていた。






ヒッカム飛行場は真珠湾に1番近い飛行場である。

真珠湾の周囲には他にエワ飛行場、少し離れた場所にバーバースポイント飛行場がある。

いなみにオアフ島中心に近い場所にホイラー飛行場はハワイ攻防戦で大和に攻撃をしかけた航空隊がいた唯一の飛行場である。

このヒッカム飛行場もハワイ攻防戦で大和の46センチ砲で滑走路をめちゃくちゃに破壊されたが今では整備されてその砲撃の激しさはあまり感じさせなかった。




神崎凪中尉が緑色に塗装された機体から下りてくる。

興味本意で内地からハワイに配属されそれを見ていた竜神の整備兵は黒いHMD(ヘルメット・マウンティッド・ディスプレイ)制のヘルメットを脱ぎヘルメットバッグに入れる人物が女性であることに軽い衝撃を覚えた。

現在、大日本帝国では男性と違い志願制の女性の軍への入隊を認めた。

独立機動艦隊に習ったのである。

しかし、女性パイロットにしても実戦に出るにはまだ早く整備兵はそれを見たことはない。

ましてや、ハワイは空母に離着陸可能なベテランパイロットが揃う場所で訓練を始めたばかりの女性パイロットは陸海合わせて皆無であった。

従って彼は始めて女性パイロットというものを見たのであった。


「おい、林、何してる?」


林が振り向くと上官である小林 鉄平が格納庫の中から出てきた。

怒られるととっさに思ったが今は休憩中だと思い直し小林に伝えてみることにした。


「あの女のパイロットなんですが何物です? それにあの戦闘機、海軍では見ませんが陸軍の戦闘機ですか?」


小林は凪がいる方を見てから納得したように頷いた。


「お前は内地から来たばかりだったな。なら、知らないのも無理はない。 あの人は神崎 凪中尉だ 。 現在の我が大日本帝国で最強のパイロットと言われている方だ。 神崎中尉を見た新米は必ずお前と同じ質問をするよ」


へー、と林は凪を見ていた。

年は18歳の自分より下に見えるがたいしたもんだと思った。


「それであの戦闘機は何なんですか?」


「ん? 俺も知らん。 あの建物で開発されてる新型じゃないか?」


小林が指した方を林が見ると少し大きい建物が見えた。

飛行場と隣接しているその建物は格納らしい建物とくっついており、緑の戦闘機もその建物から出てきた車に牽引されて行く。

さらに、建物からジープが出てきた。

そのジープは歩いている凪の所で止まると凪を回収する。

車はサングラスをかけた金髪の男一人が運転し凪と同じくらいの年の女性が助手席に座っている。

この暑さなのに白衣を来た女性は凪と一言話しなぜか、金髪の男は女性に殴られ凪は苦笑しながら車に乗り込んで建物に消えて行った。


「あの白衣の人は?」


再び林が小林に尋ねると小林はにやにやしながら答えてくれた。


「あの白衣の方は天城彼方特別中将だ」

「ち、中将!?」


あの年でかと林は思った。

小林はそれを笑いながら見て


「ハハハ、確かに俺らから見たら雲の上の人に見えるが結構俺達と接点がある人だぞ」


「というと?」


「天城博士は戦闘機や新兵器の開発に携わっておられるんだがたまに、俺達整備兵やパイロット達に講義してくれるんだ。 戦闘機のこれからの戦い方などだな。神崎中尉も同行することもあるから機会があるならお前も言ってみるといい。まあ、お前みたいな下っ端は早い者勝ちだから難しいかもしれんが……」


「へー」


再び林は納得したように車が消えた建物を見つめ、今度の講義に出て見ようと思うのであった。

そういえばあの金髪の男はと聞こうとしたが小林はそろそろ時間だと格納庫に戻ってしまった。

また、今度聞くかと思いながらハワイの強烈な日差しを避けるように林は格納庫に戻っていった。








「たく、痛いぜ彼方ちゃん」


シャッターがカラガラと閉まる音を背後に聞きながら、金髪の男、ドミニク・ハートは言った。


「うるさい変態。凪をナンパするなんて最低」


天城 彼方はジープから下りながら言った。


「そこに好みの女性がいればナンパする。 それが俺の生き様さ彼方ちゃん 」


「最低」


彼方はばっさりとドミニクを切り捨てると苦笑しながらジープから下りる神崎 凪を見た。


「ねえ凪、こいつ一回ぐらい死ぬべきだと思わない?」


「えっと……」


凪は困ったようにドミニクを見ながら分からないと答えた。


「分からないってことは俺の誘いにも興味が……ガハ」


ドミニクは彼方のストレートパンチをくらいその場に崩れ落ちた。


「あ……」


凪はドミニクに駆け寄ろうとしたが彼方に止められる。


「馬鹿はほっといて行くわよ凪」


「ああ……うん」


ちらりとドミニクを見る凪だったがドミニクは完全に気絶していた。










「で?どうだった『蒼雷』の能力」


場所を建物内部にある食堂に移して彼方と凪は昼食をとりながら言った。

ちなみに今日は金曜日なのでカレーである。


「うん、いいんじゃないかな? 少し震電より使いにくい気はするけど」


「そりゃそうよ凪、蒼雷は予算を湯水のごとく注ぎ込めた震電と違って、あくまで量産を前提としたコスト面も考えた機体なんだから」


「うん、それは分かる」


凪は頷くとカレーを口に運んだ。

今日のカレーはチキンカレーだ。



「アイギスの採用をやめてそのかわりエンジン出力の向上、運動性や速度、武器の搭載数の向上などいろいろ試行錯誤した結果生まれた機体よ。アイギスを除けば震電を少しだけど越える機体なんだけど凪乗り換える?」

「ううん、私は震電だけにしか乗らないよ」


「強情ね。 まあ、私が作っといて言うのは変だけどあんな癖のある機体を乗りこなせるパイロットなんてかなり限られるわね」


凪は自分の友人である震電の飛魂ソラが聞いたらなんていうかなと想像し口元を緩めた。

ソラにとって彼方は自分の母親同然の人間だからだ。


「話しは変わるけど今日の模擬戦、凪結構本気だった?」


「え?なんで?」


「下から見てたけどスパイラルダイブしたじゃない? あれ機体にもかなり負担かかるから思わずあっと言ったけど考えて見れば凪だってわかってるわよね」


「ああ、うん。 やらないと危なかったから……」


「へー、海軍航空隊にも腕のいいパイロットがいるのね。誰?」


「坂井さんと岩本さんと西沢さん」


「ああ……それは厳しいわね……」


模擬戦とはいえ大空のサムライやラウバルの魔王と戦い機体性能があるとはいえなれていない機体で勝利した凪も凪だが竜神で凪をスパイラルダイブに追い込んだ技量はさすがというべきだろう。


(彼らは確定ね……)

内心で彼方は思った。

蒼雷は量産前提とはいえ航空隊全体には配備できない。

メッサーシュミットゼロの驚異的な性能を見た彼方であったがやはり、コストはかかるし、整備も限られた整備兵しかできない。

部品の問題もあるなど問題が多い機体である。

そこでエース専用機として彼方はこの戦闘機の開発を推し進めたのである。

目標は一空母か2空母に集中運用であるがまだまだ、データをとったり、帝国海軍や陸軍の整備兵向けの蒼雷の整備の講義などやることは山積みである。

それに彼方はドイツの機動戦艦向けの新兵器の開発といった研究にも携わっており時間がいくらあっても足りないのが現状だった。


「いやぁ、愛って素晴らしいよな」


「はっ?」


声のした方を見るといつの間にか復活したドミニクがカレーを食べていた。


「愛?」


凪が首を傾げるとドミニクは自分を指して宣言する。


「そう! 蒼雷こそ俺専用機! 彼方ちゃんが俺だけのために……グワ」


ガシャアアアンという音と共にドミニクは派手に吹っ飛んだ。

凪は彼方の蹴りがドミニクに炸裂したのを見たのである。


「死ね、変態」


冷酷な目線でドミニクを見下す彼方。

どうでもいいがその手の趣味の人には堪らないんだろうなと凪は思ってしまった。


「あたた……」


ドミニクは頭を押さえながら立ち上がる。

食堂では科学者達や兵達が食事をとっていたがすでに避難済み。



「この男、本気でミサイルか魚雷につめて発射してやろうかしら。ねえ凪、ミサイルと魚雷どっちが苦痛が激しいと思う?」


「さ、さぁ?」


冷たい空気を感じたので凪は中立を選ぶ。

しかし、ドミニクはこりない。


「激しいだって?それゃベッドの中だけの話しだぜ彼方ちゃん」


「ええ!」


びっくりした凪が彼方を見ると彼方は震えていた。

むろん武者震いだ。

「ねえ……ドミニク……」


「なんだいハニー?」


「あ、あのドミニクさんそれぐらいにしないと本当に……」

凪は注意しようとするが遅すぎた。


「来なさい! 今から蒼雷のミサイルに詰めてガダルカナルに送ってやるわ!」


「あ! ごめん彼方ちゃん! 嘘ですごめんなさい」


「死ね!」


「ギャアアアアアア!」


ズルズルと彼方に引きずられドミニクは食堂の外に出ていった。

多分、大丈夫だろう。

そんなことを思いながら凪は食事に戻った。










「ということがあったんだよ」


「フフフ、相変わらずですねドミニクさんは」



「うん、そうだよね」


場所は変わり建物と隣接する格納庫である。

そこには一部ばらされた凪の愛機、震電が固定されている。

試作機なのできっちりアメリカとの決戦前に徹底的に整備しておきたいという彼方の要望があってだ。

とはいえ、変える部分は推進力の影響をもろに受ける場所の交換だけなのだが……


「でも、少し妬いちゃいますね」


震電の飛魂ソラが少し離れた所に置いてある『蒼雷』を見ていった。


「え? なんでソラ?」


凪が聞くとソラは蒼雷を見つめながら


「凪には私とずっと震電で飛んでほしいんです。 他の戦闘機を凪が操縦するのは面白くありません」


「大丈夫だよ」


トンと体を震電に預けながら凪は言う。


「私はソラとずっと戦って勝っていくから」


「本当ですか?」


「うん」


「光栄です凪」


ソラが嬉しそうに言うのを凪は見ながら思う。


(ソラと戦いつづける為にも勝たないといけない……あの人に……)


黒い戦闘機をかる世界最強の撃墜王、日本の岩本や坂井の技量を上回り、恐らく、凪以上のパイロットエーリッヒ・ハルトマンに……



「勝つよ私は……」


「何に勝つんだ?」


「ひっ!」


いきなり下から声が聞こえたので凪はびくっと跳ね上がり慌てて下を見ると彼方の幼なじみ、月城 孝平が寝転がりながらこちらを見ていた。


「つ、月城さん? な、なんでここに?」


慌てて凪が言うと孝平はあくびをしながら起き上がった。


「あの馬鹿女と2日徹夜で震電と蒼雷の整備してたんだよ。 でも流石に限界が来てここで寝てたらお前の声が聞こえたんだよ」


孝平はあくびをさらにしてからスポーツがりの頭をがりがりかいて背伸びした。

「で? 何に勝つんだ?」


「ああ……」


凪はソラに助けを求めるように視線を送るが彼女は苦笑しているだけだ。

孝平にはソラが見えないのだからあまり助けにはならないのだが……

言うか?と凪は思った。


「私はエーリッヒ・ハルトマンに勝ちたいんです」


「ふ~ん」


孝平は対して興味なさそうにして格納庫の出口に向かい歩きだす。


「あ……」


べつに呼び止める必要はないのだが凪がその背中を見ていると彼はコーヒーをもらってくると行動の説明をしてくれた。そして、ドアの向こうに消える前に振り返り一言


「ま、頑張れ。機体だけは完璧にしてやるからよ。多少故障しても今回のアメリカとの決戦には俺も馬鹿女も紀伊に乗るから直せるしな」


ぶっきらぼうな言い方だが応援してくれているらしい。

凪は嬉しそうに微笑む


「はい、ありがとうございます月城さん」


「ふん」


孝平は少し顔を赤くしてドアの向こうに消えて言った。


「人間って面白ですね」


そんな二人を見ながらソラは小さな声で言うのだった。


作者「新型か……」


彼方「何よ文句あるわけ?」


作者「な、ないですよ」


ドミニク「ふ、俺と彼方ちゃんの愛の……」


彼方「死ね!」


作者・ドミニク「ギャアアアアアア!」


ズドオオオオオン


凪「か、彼方ミサイル持ち出したらダメだよ」


彼方「いいのよ凪、この馬鹿どもは殺さないと治らないんだから」


凪「ドミニクさんと草薙さんってパイロットに向いてるんじゃないかな?」


彼方「はっ? こんな奴らが?」


凪「だって絶対に死なないし……」


彼方「あのねえ……この後書きでは絶対に誰も死なないのよ凪」


凪「え? そ、そうなの?」


彼方「うん」


ドミニク「いてて」


作者「なんで私まで…」


彼方「ほらね」


凪「本当だ……」


彼方「それにしても久しぶりに日本に帰ってきたわね草薙」


作者「いやぁ、ちょっとドイツに行ってたんですよ」


凪「ハルトマンさんはいました?」


作者「いや、会ってないけど近々会えるかもしれないよ」


彼方「なんでよ?あいつドイツにいるんでしょ」


作者「ホホホ、アメリカで大変なことになってるけど教えない」


彼方「嫌な言い方ね……」


作者「それにしてもしばらくは日常に戻りたいね。次は艦魂達の話しに行きたいところだし」


凪「凛さんですか?」


作者「うん…いまさらだがあんなことになるとは……君達を書いてる方が遥かに楽しい」


彼方「自業自得ね」


ドミニク「馬鹿だな」


凪「……」


作者「ねえ凪ちゃんまで沈黙しないで!味方でいて!」


ドミニク「あきらめな作者、孤立無縁だ」


作者「く、くそう……」


彼方「ていうかあんた暇なの?更新もいつもより早いじゃない」


作者「フハハハ! 週末の更新はできないかもしれん」


凪「あの……それは……」


ドミニク「ゴミだな」


彼方「あんたが言う?」


ドミニク・作者「ひでえ!」


彼方「あんたら似てるわね」



作者・ドミニク「こんなのと一緒にするな!」


作者・ドミニク「真似てるんじゃねえよ!」


凪「フフフ」


彼方「もうお笑い……」


作者「まったく……では次回からしばらく日常に行きましょう。これが終わったら混迷するアメリカとの決戦だし。会えて言わせてもらおう読者諸君!君達が度肝を抜くシナリオを用意してみせると」


彼方「無理なこと言わない!」


作者・ドミニク「うぎゃあああああ!」


ズドオオオオオン


凪「また、次回です」

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