第221話 ドイツ第三帝国終焉
「このあたりにいるはずですが……」
テレサはフリードリッヒ・デア・グロッセの右舷甲板まで来るとあたりを見回した。
余談だが、このん場所はフロードリッヒ・デア・グロッセの中で幽霊がよく出るという場所でもある。
その幽霊の正体は言うまでもないだろう。
「あの、テレサさん」
薄暗い中テレサの後ろをついていたヘレンが言うとテレサが振り返る。
「はい?」
ヘレンはフレドリク達の2042の未来の話を聞いた。
だが、一つだけテレサがしゃべっていないことがあった。
「フレドリクさんとフリードさんは昔はもっと違う性格だったと話を聞きます。 一体あの二人に何があったんですか?」
それを聞いたテレサは少し考え込むように首を捻るがヘレンを見てから
「プライベートになるのであまり多くは語れませんが……そうですね。メグあたりなら教えてくれるかもしれません」
「誰ですか?」
「ヨルムンガルドの艦魂です。会う機会があれば聞いてみるといいです」
「ヨルムンガルド……」
その名には聞き覚えがある。
ドイツ国内でも空母ヨルムンガルドに集結したパイロットはすべてエースであることは有名である。
エーリッヒ・ハルトマンを筆頭にその空母がとてつもない戦闘力を持ち連合軍には機動戦艦に並び恐怖の代名詞として知られ、逆に味方には天下無敵の空母として知られている。
だが、その空母の艦魂がその情報のエキスパートであると知る者は多くはない。
テレサは再びエリーゼを探し始めるがヘレンは諦めたくなかった。
だが、このテレサという少女からはこれ以上情報を聞いても無駄だろうと思った。
しかし、メグという艦魂に会えるのははたしていつになるのか……
「……」
ヘレンは思わず辺りを見回し
「あ……」
小さな声を上げた。
いないとは分かっているがブレストの軍艦を見ようとしたヘレンは丁度艦橋のせいで影になっている場所にいる彼女を見つけた。
「フリードさん……」
長い金髪を甲板に落とし体操座りで座り顔は膝に落としている。
眠っているようにも見えた。
ドイツの艦魂は基本的に金髪が多いがあの奇麗な金髪はエリーゼに間違いない。
ヘレンは前方でエリーゼを探しているテレサに声をかけようか一瞬迷ったがその迷いは一瞬でエリーゼの元に歩み寄った。
あの日……
未来……いや、過去のあの日、日本やアメリカとドイツが太平洋で大演習を行い。ドイツへの帰路に急にフリードリッヒ・デア・グロッセをはじめとするドイツ艦隊は騒がしくなった。
当然、自分の艦内に飛び込んでくる情報はエリーゼにも伝わる。
『ソ連軍満州に侵攻』
その情報はエリーゼの頭を殴りつける。
なぜなら、何の運命かエリーゼが最愛の思う家族のような人達が満州に行っていたから……
後にこの侵攻はソ連の一部の将校が独断で行ったことであることが判明している。
現に当時のソ連は世界に対し満州侵略の意思はないとし、将校たちを処刑している。
この事件によりソ連国内の軍の腐敗ぶりが露呈したのだがエリーゼにとってそれは問題ではなかった。
家族旅行に行ったフレドリクの妻シンシア、後に合流したフレドリク。
彼らの安否は不明と聞かされエリーゼは泣きそうになりながらもドイツでフレドリク達の帰りを待ち続けた。
ビスマルク2世の艦長でありエリーゼの知り合いのカールなども情報を集め、エリーゼは待ち続けた。
そして……
「フレドリク!」
扉が開いた瞬間、エリーゼは彼の胸に飛び込んだが次の瞬間エリーゼの顔が曇った。
「どいてくれ……エリーゼ」
ドイツ海軍のエリートコースを辿り艦長となった彼の面影はなかった。
死んだ魚のような目をしまったく生気を感じられない彼の姿にエリーゼは驚愕した。
「あ、あの……シンシアは?」
たまらなくなってエリーゼはこんな時、一発で空気を変えてくれる女性をフレドリクの後ろに求めたがそこには誰もいない。
猛烈に嫌な予感がエリーゼの胸に突き刺さった。
「フレ……ドリク……シンシアは…どこ?」
(嫌だ、聞きたくない……)
その光景を夢として見ているエリーゼは思った。
しかし、場面は変化なく進んでいく。
「シンシアは……」
フレドリクの口がゆっくりと動く。
(聞きたくない!聞きたくない!嫌だ!)
耳を塞いでも目をつぶってもその場面は消えてくれない。
一体何の冗談だというのだ。
なぜ、こんな悪夢を……
「殺されたんだ……」
「え?」
過去のエリーゼの眼が見開く。
フレドリクは何も言わずに自室へと歩みを進める。
そして、扉は閉ざされた。
「……」
場面を見ているエリーゼは自分に手を伸ばすがその手はすり抜けてしまう。
「嘘……だよね」
場面の自分は目から涙を流し床に崩れ落ち大声で泣いた。
後に、満州で現場を目撃した人の情報を手に入れたメグによりエリーゼは真実を告げられた。
それは
「明らかにあの時の満州軍は油断していたとしか言いようがない。
まあ、ひどいのはソ連兵だよ。兵士を殺すのは分かるが一般市民まで殺すことないだろ? 戦争だからしかたない? まあ、そうかもしれんが逃げる非戦闘員の足を撃って助けようとする他の市民まで殺す。 兵士に対してならスナイパーがよくやることだがあいつらはスナイパーじゃない。 アサルトライフルであれはないね」
情報が集まってくる程、真実は明らかになっていく。
そして、エリーゼの元に最終的に集まった情報はシンシアは足を撃たれた子供を助けようとしてソ連兵に射ち殺された。
「……」
その最後の紙をめくったエリーゼの眼に宿るのは憎悪だった。
殺してやりたい。
シンシアを殺したソ連兵を自分の砲で魂まで粉々に焼き払ってやりたいと……
しかし、その願いはかなうことはなかった。
なぜなら、当時の合衆国日本やアメリカ合衆国はソ連との激突を避けていたし、EUも同じで無論軍政のドイツも同じであった。
腐敗しているとわかってもやはり陸戦でソ連を完全に屈伏させた国はない以上リスクを避けたのである。
戦争となれば編成される日本連合艦隊などの機動戦艦も陸地にまで侵攻はできない。
最も、この時期のドイツは裏ですでにタイムスリップの行動の準備をしていたのでむしろ都合がいい状況であったと言ってよかった。
ソ連の脅威に対抗するために軍備を増強する。
それは、世界のどの国でも納得のいく大義名分であった。
現に当時の日本もまた、同盟国の満州に軍を派遣したりと慌ただしい行動をとっていたのでドイツが非難されるいわれはなかった。
復讐はできない。
なら、エリーゼが求めるものは一つである。
フレドリクのことが心配であった。
彼はドイツに帰ってきて以来酒に溺れ、軍に顔を出していない。
本来なら罪になる行為だが軍政の頂点に立ち、フレドリクの知り合いでもあるレイは休暇の申請を通していた。
すでにこの時点でレイはフレドリクにタイムスリップの話をしてある。
その計画はこのソ連と全世界の巨大な戦争を未然に防ぐために戦争を根絶する計画。
世界を武力により統一し統一国家を樹立させる計画である。
戦争をなくす方法とは何か?
戦うことが戦争ならそれをなくす手段は人が人である限り存在しない。
できることは、素早く火種を消すことである。
読者諸君にも分かりやすく例をあげるなら一つの武装グループのアジトが判明した。
しかし、それは世界と協調性もない独裁国家だった。
アジトをつぶすのは容易ではない。
外交で圧力をかけることはできるがそれでは時間がかかりすぎ、気がついた時にはそのアジトはもぬけの殻となっている。
これでは武装グループの撃滅など夢のまた夢である。
しかし、統一国家であれば自国領になるわけでアジトが判明次第迅速に総攻撃をかけることが可能となる。
効率を考えるなら地球という星に存在する国家は1つでいいとドイツは考えたのである。
しかし、世界に秘密にしているとはいえ過去で世界統一をしに行けば日本の機動戦艦と激突しなければならない。
そのために、ドイツは技術のを結集した機動戦艦を完成させた。
タイムスリップした年代は同じでも技術の蓄積量はドイツの方が大きい。
有利なのはドイツだった。
その総司令にして、統一国家の頂点にと考えていたフレドリクの様子を聞いたドイツ首相レイは考え直すのもやむなしと考えると同時に彼が立ち直ることを期待した。
それは復讐という感情でも構わない。
一つの感情に支えられた人間は恐ろしく強いということをレイは知っていたのである。
そして、全てが変わってしまったあの日。
過去のエリーゼは1週間以上フレドリクのいる家に通い続けた。
艦魂である彼女は長く自分の艦を離れていることはできない。
フリードリッヒ・デア・グロッセがこの町の軍港に停泊しているからこそ通うことができるのだった。
「……」
いつものように、フレドリクの家の前に転移してやってきたエリーゼは扉をすり抜ける。
艦魂である彼女に鍵は必要ない。
荒れ放題になっている家の中に入ったエリーゼはいつものようにリビングにある椅子に座る。
最高6人が食卓を囲むことができるテーブルをはさんでおかれている椅子だが5つある椅子のうち5つは埃が積もっていた。
1週間という時はその人物の痕跡を薄れさせるのに十分な時間であった。
「……シンシア……」
もうこの世のどこにもいない大好きだった人の名前をエリーゼはつぶやき次の瞬間驚愕に目を見開いた。
そこにフレドリクが立っていたからだ。
「ふ、フレドリク?」
「エリーゼか?」
いつも聞いていたはずの声なのに久し振りに聞いたフレドリクの声だがエリーゼはその声を聞くと心が冷えたように感じた。
それほど、彼の言葉は1週間前と質が違う声に聞こえたのだ。
「もう体はいいの? あ、艦に行くの?」
この1週間数少ない機会に見たフレドリクは髭は伸び放題で目は死んだような目であった。
だが、今の彼はきちんと鬚をそり、ドイツ海軍の軍服に身を包んでいた。
だが、彼は首を横に振る。
「え? じゃあ……」
「ベルリンだ」
それだけ言うとフレドリクは扉に向かって歩き出した。
「わ、私も行く! ベルリンに何をしに行くの?」
「変えるんだ」
「え?」
言葉の意味が分からずにエリーゼが問い返すとフレドリクは振り返らずに再び口を開く。
「日本を滅ぼし、世界を統一する」
その言葉を聞きエリーゼはレイの話を思い出した。
タイムスリップによる歴史改変。
だが、フレドリクは断るつもりでいたはずだった。
「だって、その話は断るって……」
「断るだと?」
フレドリクは振り返るとエリーゼを見下した冷たい目で見下ろす。
その眼光はエリーゼを震え上がらせるだけの目線であった。
「腐りきったこの世界を変える機会がせっかくあるんだ。 なら、俺がやることは一つだけだ。 世界を統一する」
それだけいうとフレドリクは出て行ってしまった。
エリーゼは後を追うこともできずにただ、茫然としその場に取り残され、うつむきながら声を出さずに涙を流し続けた。
変わってしまった。
この家にはもうあの幸せだった時はもう戻ってこないのだ。
彼が出て行き闇になってもエリーゼはその場に立ち続け涙を流していた。
(もう、あの時間は戻ってこない。シンシアは死に、フレドリクは変わってしまった。なら、あのフレドリクとシンシアと過ごしたエリーゼという私もまた死んだんだ……)
エリーゼは2人のいない世界なんかに未練はない。
だが、豹変したとはいえフレドリクは存在する。
(私の大切な家族……)
その人についていくなら今までのような甘い自分ではだめだ。
変ろう。
エリーゼはそう思った。
たとえ報われなくてもいい。
裏切られてもいい。
彼と生きていけるならこの命尽きるまで彼の背を追っていこう。
だから……
月明かりが窓から入り少女の顔を照らした。
涙の跡を残しながらもその顔に表情はなかった。
エリーゼはその過去を見ながら静かに目を閉じた。
(でも、適うなら……あの幸せな時間を返してほしい)
夢の中のエリーゼは無意識に涙を頬に流した。
眠っているエリーゼに近づいたヘレンは声をかけようと口を開きかけた。
「……ん」
その時、少しエリーゼが動いたのでヘレンはびくりとしてあわてて隠れようとしたが
甲板にはその様なスペースはない。
少なくてもすぐに飛びこめる場所にはなかった。
その結果体操座りで眠っていたエリーゼが上げた顔と正面から向き追う形になってしまった。
「あ、あのフリードさん……これは……その」
必死に頭の中で言い訳を考えるヘレンだったがエリーゼの頬が濡れていること気がついた。
「あの……」
「フリード? 私のことエリーゼ呼んでいいって言ったよ?」
(えええ!)
ヘレンは混乱した。
いきなりこの艦魂は何を言うのだろうとヘレンは思った。
それになんだかあのアイスドールと言われた彼女から想像もできない言葉であった。
しかし、この時、ヘレンはエリーゼと少しでも仲良くしたいという思いがあったのでその言葉は少し変だがうれしかった。
だから
「うん、エリーゼ泣いてたんですか?」
「うん、夢の中でシンシアが死んだ夢をみ……」
次の瞬間エリーゼの顔が凍りついた。
潮風に吹かれてようやく頭がはっきりしてきたらしい。
どうやら、徹底的に寝ぼけていたようだった。
「な、なんであなたがここにいるんです!」
「え? エリーゼさんを探して……」
次の瞬間、エリーゼは怒のオーラーをまといヘレンを見る。
表情はないが明らかに怒っている。
「私の真名を呼ぶ気ですか? 誰が許可を」
「あ、あのさっきエリーゼさんが言いって……」
「それは……」
覚えている。
確かに、エリーゼは真名を呼ぶことを言った。
とはいえそれはヘレンに向けてではない。
「あれは……」
とにかく呼ぶなというのは簡単だった。
だが、その時エリーゼの中にあった感情は複雑であった。
二度と会えないと思っていたシンシアとよく似た少女ヘレン。
エリーゼは……
「仕方ありません。 1度許可してしまった以上。呼ぶことを許可します」
「え! 本当ですかそれ!」
「……」
エリーゼは何も答えずに転移して消えた。
だが、ヘレンは見た。
彼女は顔を赤くして照れているのを
「エリーゼ見つかりました?」
テレサはこちらに歩いてきたのでヘレンは満面の笑みでさっきのことを話すとテレサは目を丸くした。
「珍しいですね。 彼女は未来から来たドイツ人以外で真名を許したのはたぶんあなたが初めてですよ」
「それって、仲良くなれるってことですか?」
テレサはフフフと可笑しそうに笑う。
「できるならそうしてあげてください。 一筋縄でいく相手ではありませんけどね」
「はい、がんばります!」
ヘレンは興奮気味に言った。
テレサにさっきついでに教えてもらった艦魂の真名の意味は
少なくても友達以上の感情がなければ絶対に教えてくれないものなのだそうだ。
『エリーゼ』という真名を呼ぶことを許されたヘレンは喜びでいっぱいだった。
興奮するヘレンを見ながらテレサは微笑みながら見つつ空を見上げた。
(いよいよですね……フレドリク総司令)
それから、1週間後その日はよく晴れた日であった。
ドイツ首都ベルリンの大通りを埋め尽くすようにドイツ軍の兵士達が鉄兜と銃を持ち整然と並んでいた。
彼らの前方には巨大な舞台が設置されている。
舞台の中央にはマイクを始めとする様々な機械が設置されていた。
今日、この日ドイツ第三帝国の市民たちは皆、家を出ることを許されず家の中でラジオを聞くことを強制されていた。
元イギリスを始め元フランスの市民にも例外は一切認められなかった。
とある元フランス国内にある建物の地下で数人の男たちがテーブルを囲んでいる。
その机の真ん中にはラジオが置かれている。
「なあフリック、今日のラジオなんだと思う? 占領地を含めた国民全員を外出を禁止して聞かせるなんてよほどのものだよな」
小太りの男が言うとフリックと呼ばれた青年は首を横に振った。
「わからんよ。ヒトラーが死んだという情報もあるがうかつには動けん。今やフランス国内以外のレジスタンスは壊滅状態だからな……状況を説明してくれるならありがたいものさ」
フリックはゆらゆらと燃える蝋燭の炎を見ながら言った。
ここ、フランスのレジスタンスは未来の情報を元に壊滅させられていた。
主だったメンバーは捕らえられると次々と処刑され、捕まっていないものも顔写真が出回り徹底的にレジスタンス狩りが行われたのだ。
フリックが所属していたレジスタンスも壊滅し、今やこの小太りの男と数人の仲間を残すのみとなってしまっている。
彼らがつかまらなかったのは下っ端だったのと運が良かっただけである。
「これからどうなるんだ俺達……アメリカはいつ来てくれるのかな?」
「……」
フリックは思う。
果たして、あの強大にして悪魔のような戦力を打ち破る国がこの世に存在するのだろうか?
噂では大日本帝国はドイツの機動戦艦に匹敵する戦艦を持っているらしい。
名前も知っている。
『紀伊』『尾張』『三笠』『大和』だ。
これは、ヒトラーが大々的に宣伝していたことが大きい。
この機動戦艦こそ日本最後の希望。
その希望を破ればドイツ国内の反乱分子は絶望し、逆に兵の士気は上がる。
都合が悪いことは隠せばいいが撃沈したとなれば大々的に報じ、ヒトラーはこの事実を
利用したのである。
例はまさに尾張撃沈にある。
無論、尾張がドイツの3隻の機動戦艦のみの艦隊と互角以上の戦闘を繰り広げたというような都合の悪い話はしない。
ただ、事実のみを、日本の希望たる尾張の破壊ののみを伝えたのである。
残る機動戦艦は『紀伊』『三笠』『大和』
(他国の戦艦……日本の希望といわれる戦艦は我々にとっても最後の希望となるのか……)
(寒い……)
少女はぼろぼろの服をぎゅっと握りしめ、体を丸くして少しでも熱を逃がすまいと縮こまった。
少女がいる部屋はひどい悪臭がし、蠅が少女を含めた部屋の住人に集っている。
しかし、彼らにはすでに蠅を払うだけの気力も体力も残されていなかった。
「ちくしょう、臭えな、ユダヤ人の豚どもが」
少女が目だけ声のした方を見ると鉄格子の向こうにドイツ兵が立っていた。
いつも、自分たちを殴ったりする嫌な兵だ。
彼に何人も仲間のユダヤ人を殴り殺された。
だが、彼が罪に問われることはない。
ヒトラー配下の彼らはユダヤ人をカスのように殺すことができる。
少女がこの強制収容所に連れてこられた時にいた母や父も殺されてもういない。
初めは怒り、泣いたがもはやそのような気力はみじんもない。
地獄がどんな所か知らないが地獄に救いを求めたいほどこの収容所はひどい。
自分たちが何をした?
ただ普通に暮らしていただけでこんな目に合うなんて理不尽にもほどがある。
「……」
少女は虚ろな目で看守の兵を見ていた。
看守の男は舌打ちすると何かを通路に置いた。
ラジオだ。
「聞け、豚ども! これからゲーリング新総統がありがたい演説をしてくださる。
(新総統?)
その単語に何人かのユダヤ人が顔をあげるが看守は意地悪く笑った。
「ヒトラー総統は暗殺された。新総統にゲーリング様がつく。 どうだうれしいか?
お前らを捕まえた男が死んだんだから解放されると思うだろう?」
「本当?」
「ん?」
男が声のした方を見ると少女が顔をあげて看守を見ていた。
「本当だとも雌豚」
にやにやしながら看守は言った。
「私たちは解放されるの?」
ぼろぼろの少女を突き動かしているのは期待だった。
この地獄のような生活から抜け出せる。
しかし、看守はどこまでも腐った人間であった。
「バーカ、そんなわけないだろ? 貴様ら豚どもは死ぬまでここで暮すんだよ。ああ、新総統は臭いお前らを見たらなんというかな? 全員ガス室に放り込んで掃除しろとでもいうかもしれんなぁ。 ギャハハハハハ」
ガス室と聞いて少女は震え上がった。
この収容所にはそれがあるのである。
一室に毒ガスを流し込んで皆殺しにする悪魔の部屋だ。
「悪魔め!」
「ん?」
看守はラジオのスイッチを入れてから声のした方を見た。
先日、ここに入れられたユダヤ人の青年だ。
まだ、反抗する気力は十分にあるのだろう。
「なんだ、貴様? 豚が俺を悪魔よばわりするのか?」
「そうだ! 貴様らドイツは狂っている! 神は決しておまえらを許しはしないだろう」
「そうかそうか」
ニヤニヤしながら男は拳銃を腰から抜いた。
男が息を飲んだ。
「今、決めたよ。 ラジオが終わったらお前を俺は撃ち殺す。なぜ、今殺さないかは簡単だ。
ラジオが終わるまでふるえているがいいさ。俺はそれを見ながら笑うんだ。
明確でいいだろ? 命が終わる時間が分るんだからな。
さあ、何分だ? ラジオが終わればお前は死ぬ。
ハハハ、楽しいなぁ豚野郎? ええ?」
青年は血の気が引いたように看守を見ている。
ああなれば終わりだ。
あの看守はやるといったら必ずやる。
あの青年はラジオが終われば撃ち殺されるだろう。
自分たちの命は家畜と……いや、家畜以下でしかない。
少女はラジオに耳を傾けながら再び俯くのだった。
そして、ラジオの中からざわめきが一瞬聞こえてきた。
ラジオが演説が始まる。
軍靴の音を立てながら小太りの男は演説台に立つ。
男の名はヘルマン・ゲーリング。
ドイツの新たなる指導者である。
一糸の乱れも見せずに彼の舞台の前に集結しているドイツ兵達はマイクの前に立つ新たなる帝国の指導者を目に映していた。
(ついにこの時がきたのだ)
ゲーリングは地を埋め尽くすようにも見えるドイツ兵達を見て思った。
ヒトラーを爆殺し、世界の半分近くを制覇したドイツ第三帝国、いや、ドイツ第四帝国は私のものとなるのだ。
ヒトラーが作った第三帝国ではない。
私の第四帝国の歴史がこれから始まるのだ。
そう、ドイツ第四帝国の栄光の歴史が……
この演説はラジオと直結している。
失敗は許されないためゲーリングは何度も何度も演説の内容を練習してきた。
練習していて思ったことはやはり、ヒトラーの才能だ。
演説という点ではヒトラーは世界の誰よりも勝る逸材だっただろう。
だが、奴は死んだのだ。
(私の時代なのだよ)
ゲーリングは息すいマイクに口を近づけた。
「第三帝国、全ての国民にまず告げよう。ドイツ第三帝国総統、アドルフ・ヒトラーは死んだ。 あの男は諸君が知るように役者の才能はあったが指導者としての器ではなかった! 彼の勝利は我が帝國最強の艦隊!カイザー艦隊の力あってこその幻想だったのだ!私は立ち上がった!指導者としての力がない愚かな男に私は神の名のもとに鉄槌を下したのだ!」
舞台の裏で次第に声が大きくなっていくゲーリングの声を聞きながら男は口元を弛めた。
「しょせんお前はピエロ、それは変わることはない」
舞台から声が聞こえてくる。
「今ここに私は宣言する! ドイツ第三帝国に代わる新たなる帝国!その名は……」
男……アドルフ・フレドリクは周りの人間を見渡すと言った。
「行くぞ、この下らない茶番の終焉だ」
作者「助けてくれええええ!」
ズドドドドドドドドドドド
作者「私が悪かった!試験一応終わったのに更新しなかった理由は仕事が……」
艦魂達「「言い訳するな!」」
作者「うぎゃああああ!」
ズドオオオオオオン
京子「まったく、更新速度が最近遅すぎじゃぞ? レギュラー感想のメンバーを筆頭に読者が離れていくのが目に浮かぶわ」
鈴「ほう、草薙、仕事が忙しいと言ったな?」
作者「は、はい」
鈴「ではこれはなんだ!」
作者「そ、それは……」
星奈「ライトノベルにゲーム……」
鈴「貴様、こんなくだらないものをやる暇があれば更新せんか!」
作者「す、すみません……提督の決断で日本VS全世界のシナリオやってて時間をかなり食いました」
鈴「ふん、まだ第2次のゲームだから許しようはあるがな」
作者「すさまじい闘いでしたよ。 資源のない日本シナリオはインド洋とハワイを攻略して潜水艦で防御しつつ技術力を高めて最強艦隊で殴り込みをかけるという戦略を取るつもりがハワイ攻略作戦は失敗し、その戦いで空母全滅という大打撃を受けました……インド洋攻略戦は石油が足りずにマラッカ海峡止まり……まあ、マラッカ防衛ができれば最低限のことはできますけどね。インド方面からの連合軍はすべてマラッカの潜水艦隊で防衛できますし」
京子「やったことないものにはわけが変わらん話じゃぞ草薙」
作者「語りたい……あの激戦を……ハワイ攻略が失敗したとはいえミッドウェーと中部太平洋は抑えてますからそこに防衛艦隊を配備して数えきれないぐらいの防衛線を展開してついに戦力を整えた日本海軍はインド洋に突撃しアフリカやヨーロッパを制圧してイギリスを降服させ、次にアメリカ東海岸に突撃してからハワイへ突入しアメリカを降服、そして、なぜか最後はドイツの潜水艦隊に戦艦部隊が全滅させられ怒り狂った私は駆逐艦隊を投入しドイツの潜水艦狩りを行いつつ、通商破壊しまくりドイツの資源を0に近い状態にしてろくな反撃もできないドイツ艦隊を蹴散らしてドイツを降服させました」
京子「む、むごいことをしおる」
鈴「それでこれはなんだ?」
作者「ああ、ライトノベルですか? いやぁ、最近読む時間がないからたまるたまる。 最近見つけて続編を望むライトノベルはGA文庫の蒼海ガールズです」
京子「どうせかわいい女の子が出るんじゃろ?」
作者「なんとこの物語はハーレムみたいなボーイミーツガール物で軍艦の上の物語なのです」
京子「ほう」
作者「艦魂は出ませんがお勧めの一品です」
京子「うむ? このメインヒロインの話し方我に少しだけ似ておるのう」
作者「ハハハ、何をばかなことを? 誰がかわいいかと言えばその子よりあのヘルムスガールでしょ」
鈴「ほう、私にも見せてみろ」
京子「うむ、見るがよい」
鈴「ふむ、む!これは」
作者「どうです?面白いでしょ」
鈴「……」
作者「あ、あのなぜ日本刀を抜くのですか?」
京子「アホじゃのう草薙、あの厳格な鈴にこんなもの見せたらどうなるか考えればわかるじゃろう? 黒鉄の翔鶴につるぺったんを聞かせるようなもんじゃ」
鈴「草薙、何か言い残すことはないか? 特別に聞いてやろう」
作者「ふ、わかっていたさ……何をしようと私は吹き飛ばされる運命……いや、切り殺されるのか?」
鈴「それでいのか?」
作者「少しだけ待ってください。さて……」
現在試験そのものは結果待ちとなっていますが私は社会人ですので更新はどうしても遅れてしまいます。
しかし、完結はさせますしどんなことがあろうとも1カ月に1回は最低の最低で更新することを約束いたします。
鈴「以上だな?」
作者「こいやおらあああ!」
鈴「いい覚悟だ!死ね!」
作者「ぎゃああああああああああああああ!」
ズバアアアア
京子「やれやれじゃな」
鈴「しかし、本編ではすごいことになっているな」
京子「さて、どうなるかは草薙次第じゃな」
すでにカンのいい読者の方ならこのアイディア募集の意味がわかると思います。
あの国の新たなる国名を募集します。
次回の演説で大々的に発表されるでしょう。
例・ドイツ連合共和国
必ずドイツと入れるのが条件です。
では次回もこのあとがきで会いましょう!