第215話 乾坤一擲の一撃
「敵航空隊の一部がこちらに向かってきます」
「訓練どおり撃破してみせろ」
機動戦艦ヘイムダル、カラチの反乱軍を壊滅させるために派遣された未来の戦艦である。
旗艦であるヘイムダルの艦長兼司令であるレニーは艦長席でその厳しい目つきをモニターに向けていた。
レニーは実力主義者である。
効果的と判断すれば虐殺も平気で行う。
しかし、降伏するなら寛大にというフレドリクの基本的方針はきちんと守る司令兼艦長でも合った。
ヘイルダム電子機器は侵攻してくるフォッケバインを確実に捕らえている。
「フォッケバイン数60、まっすぐ突っ込んできます」
「上空の味方機は何をしている?」
レニーが表情を変えずに言った。
「迎撃しています。しかし、敵の数が多すぎて…」
「……旧式に遅れをとるか。使えない馬鹿共が」
レニーは誰にも聞こえない声でつぶやいた。
その頃、黒い悪魔と接触した部隊とは違うカラチ基地から出撃したフォッケバインの編隊は大きな被害を出しながらも
カイザー艦隊を目指して突撃中であった。
途中、バッヘムと交戦し数を減らしながらカイザー艦隊を彼らは目指す。
この戦いに勝利することは不可能である。
だが、機動戦艦を撃沈できなくても被害さえ与えればもしかしたら撤退するのではという
考えがカラチに駐留するドイツ軍にはあったのだ。
蜂の巣をつつくような事態になる可能性もあったが降伏しないならこれしか方法はないのである。
「捕らえたぞカイザー艦隊だ!」
フォッケバインのレーダーに映ったカイザー艦隊を見てハルダー少尉は叫んだ。
現在のフォッケバイン攻撃隊の指揮は彼が取っている。
最初は隊長機が存在し先導していたがバッヘムに撃墜されてハルダーに指揮権が回ってきたのである。
残るフォッケバインは60機。
100機以上いた戦闘機は三分の一を喪失している。
基地からは新たに攻撃隊が出撃しているはずであるがバッヘムを撃墜したという話はほとんど聞かない。
レーダーに映らない相手ではほとんど戦いようがない。
目視の戦闘が有効であるがハルダー達は可能な限りバッヘムとの戦闘を避けてカイザー艦隊を目指したためこの損失ですんでいる。
だが、逆を言えば戦闘を避けてもこれだけの被害を出してしまう相手がバッヘムなのである。
「来るぞ!なんとしてもカイザー艦隊にダメージを与えるんだ!全機突撃せよ!」
目視にてバッヘムを確認したハルダーは機体を加速させた。
他の機体も同様に小隊ごとに突撃を開始した。
「ミサイルロックオン完了!」
ヘイルダムのCICで兵士が怒鳴った。
「撃て!」
フォッケバインの編隊はカイザー艦隊・バッヘムの攻撃により次々火を噴き墜落していった。
さすがカイザー艦隊とでもいうべきでミサイルの性能からして違う。
ハルダーは詳しいことは分からなかったがドイツのどこかにあのカイザー艦隊が使用する
武器の工場があるらしい。
ピー
ハルダーのコクピットにミサイルロックオンの音が響いた。
狙うは機動戦艦である。
機動戦艦といえどバリアを張りながら攻撃は出来ない。
白煙が確認できることからミサイルによる攻撃中。
つまり、バリアは外れている。
「食らいやがれ!」
ミサイルの発射ボタンをハルダーは押し込んだ。
同様に4機のフォッケバインが一斉に対艦ミサイルを発射した。
出し惜しみはしない。
持ってきたミサイルを全て機動戦艦に向けては放ったのである。
機動戦艦ヘイムダルの艦魂テレサは優しい。
だが、それは艦魂としての性格であり船の行動に影響を与えるものではなかった。
「向かってくるなら切るしかありません」
つらそうな顔で彼女はつぶやく。
彼女の武器は弓である。
引き絞り放つ。
艦魂が手に持つ武器と船の武器は連動している訳ではないが
例えば刀で航空機を切れば船の持つ武器が命中したということであり撃墜できる。
特に機動戦艦の艦魂達は非常に精度の高いミサイルを装備しているので腕のよさは他の艦魂とは比べ物にならない。
「ごめんなさい……ごめんなさい」
テレサは弓を放ちながら謝罪の言葉を述べ続ける。
弓はミサイルと同時に命中する。
たまにフレアにより回避されるものもあるがほぼ、命中する弓。
「あ……」
テレサがつぶやいた瞬間、敵の航空機がミサイルを発射した。
ハルダー達の乾坤一擲の一撃である。
「っ!」
弓を再びテレサは引き絞った。
「ミサイル来ます!対空ミサイルによる迎撃により1発破壊に成功!しかし、なおも3発
本艦に向けて接近中!」
「司令!アイギスを!」
ヘイムダルの副長が怒鳴るがレニーは首を横に振った。
「駄目だ!もう、間に合わん。主砲で迎撃せよ。CIWSも射程に入り次第迎撃開始!」
ヘイルダムの三連装主砲9門が一斉にハルダーが放ったミサイルに向け放たれる。
ドドドドドド
雷のような凄まじい砲撃音と硝煙。
ヘイルダムの主砲は46センチ速射砲である。
兵士が甲板にいれば衝撃波で吹き飛ばされてしまうであろう状況であったが
機械化により乗員を減らした機動戦艦の甲板には兵の姿はなかった。
これが改装前の大和なら機銃などに兵は存在するがヘイルダムの機銃はCIWSである。
ズドオオン
ズドオオオオン
接近してくるミサイルの周囲で砲弾が炸裂する。
それは、数発のミサイルを破壊するがなおも2発のミサイルがヘイルダムに向けて突進する。
「駄目です!速射砲のミサイル迎撃…」
「CIWSにて迎撃」
レニーが兵の言葉が終わる前に言った。
参考に2009年の軍艦のミサイルの迎撃手順はまず、対空ミサイルによる迎撃、それが失敗すれば速射砲による迎撃。
そして、最後にCIWSである。
2042年ではアイギスというバリアシステムがあるが、この手順はあまり変わらない。
アイギスシステムは最新の技術でありアイギスを使った戦い方も研究中でもあるのだった。
むろん、バルムンクも迎撃兵器として使用は可能ではあるが制限の多い兵器であるため
航空機のような相手に使うには向かない兵器なのである。
ハルダーのミサイルは音速でヘイルダムに突撃した。
ヘイルダムのCIWSが一斉に火を噴いた。
駆逐艦などのCIWSは1〜2であるが機動戦艦のCIWSは数が多い。
それは大型の艦なので仕方ないのだが、ともかく砲火は凄まじい。
海を切り裂くように20ミリの銃弾が雨のようにミサイルに降り注いだ。
しかし、ミサイルはあざ笑うかのようにその鉄の嵐を抜けてくる。
「衝撃に備えろ!」
レニーが叫んだ。
まさかとヘイルダムの兵達は思った。
たかがミサイルの1発や2発でヘイルダムはびくともしないが被害を受ける事態になるとは思わなかったのである。
誰もがヘイルダムに衝撃が襲い掛かるかと思われた直後
ミサイルが至近距離でCIWSに撃ちぬかれて爆発した。
ズドオオオオン
ズドオオオン
ガタガタと衝撃波でわずかにヘイルダムが揺れる。
しかし、ヘイルダムは無傷である。
「そんな…」
ハルダーはヘイルダムが無傷だと知ると呆然とつぶやいた。
そして、その油断が彼の命取りとなった。
ピー
「しまっ!」
ミサイルのロックオンの音が響くが彼を襲ったのはミサイルではなかった。
バッヘムの20ミリ機関砲がハルダー機に襲い掛かった。
「くそおおおお!」
ハルダーは脱出レバーを引こうとしたが直後彼の頭を20ミリ機関砲が吹き飛ばした。
血が飛びちるがそれを見たものはほとんどいなかった。
直後、ハルダー機は爆散したのである。
その後、の機動戦艦攻撃隊の運命は悲惨だった。
バッヘムに追い回されてて打ち落とされるか機動戦艦の対空ミサイルの餌食となり
攻撃隊は全滅したのである。
「ごめんなさい」
そして、その最後の一機が炎を撒き散らしながら海面に激突したのをテレサは見ながら
弓を光に戻してから再び謝罪の言葉を口に出すのであった。
「航空隊壊滅しました」
「……」
部下の震えた声を聞きノイマン上級大将は目を見開いた。
作者「誰か!誰かいないか!こちらは第18独立部隊草薙! 更新が遅れたため怒り狂った艦魂達の襲撃を受けている!至急増援を!援軍を送ってくれ!」
司令部「こちら司令部、援軍はない。繰り返す援軍はない」
作者「馬鹿をいうな!」
ズドオオオオオオン
作者「うわ!」
司令部「今の音はなんだ」
作者「くそ!金剛に武蔵か!艦砲射撃だ! 後ろに戦艦部隊の姿が!こちらの海軍はどうしたんだ!ヘリを回してくれ
司令部「援軍はない。最後の一兵まで戦うのだ」
ぶつん
作者「ああ!くそ」
兵士「草薙殿もはやこれまでかと……」
作者「ぬうう……全員抜刀せよ!我々は突撃する」
兵士「抜刀!」
作者「うおおおおお!陛下万歳ぁい」
ズドオオオオオオン
こうして草薙隊は全滅した。
作者「遅れて……すまない……」
ズドオオオオオオン