第208話 ヘレン・ヴァイス魔王に会う
『世界を変える男だ』
その男は言った。
ユダヤ人の少女は突如現れた男に驚きながら視線を彼に向ける。
ナチス親衛隊といえば逆らうことのできるものは少ない。
ヒトラーだけが彼等を制すことができる私兵なのだ。
やはり、自分は助からない。
彼女は思いながら男の正面にいた親衛隊を見る。
「世界を変えるだと?」
その親衛隊の男は馬鹿にしたように笑った。
当然である。
いきなり、世界を変えるなどと言う男がいて笑わないものなどいまい。
「それで、世界を変える男が何のようですかな?」
男はにやにやしながらフレドリクに言った。
「簡単だ」
フレドリクは短く言い放った。
「ほぅ、教えていただきたいものですな」
「そのユダヤ人の女を渡せ」
冷たい声であった。
「断るよ」
親衛隊の将校は言った。
「世界を変える力を持つなら力付くで奪えばよかろう」
「……」
フレドリクの目が一瞬、細まった。
「いいだろう」
「はっ?」
フレドリクは頭につけているインカム型の通信機に手を伸ばした。
その時、である。
「おい、どうかしたのか?」
将校がそちらを見るとハイルヒトラーと敬礼した。
彼の上司であった。
「実はこの男がこの豚女を渡せと言うんです」
「何だと?ユダヤ人をか?」
バイクの上から親衛隊の上司はフレドリクを見た。
フレドリクは手を止めて彼を見ている。
そして、親衛隊の上司は目を見開いた。
「お、おまえは……い、いや、あなたは……」
「渡してもらうぞ」
再びフレドリクは言いユダヤ人の少女の手を掴もうと一歩前に出た。
「止まれ狂人!」
将校が拳銃をフレドリクに突き付けたが次の瞬間、上司に殴られた。
「馬鹿野郎!なんてことをするんだ!」
「何をするんです!」
将校も上司に向かって怒りをぶつけた。顔を殴られたので赤くなっている。
しかし、次の瞬間彼の顔は真っ青に変わる。
「あの方は独立機動艦隊の司令長官だ!」
「あ、あのカイザー艦隊の!」
カイザー艦隊、日本後で言えば皇帝の艦隊。
名前はいまいちであるが非公式にドイツでついた名前であった。
艦隊行動では無敗の王者の艦隊。
戦えば必ず勝つというあの艦隊はドイツではヒトラー並に有名である。
しかし、司令長官の名前は知っていても顔は将校は知らなかった。
先程名前を聞いた時も、嘘だと思ったので馬鹿にした態度をとったのである。
同じくフレドリクを嘲笑した兵達も顔を青くしてフレドリクを見ていた。
「こ、これは失礼いたしましたフレドリク準総統閣下」
今更遅いと言われかねないが将校は必死に頭を下げた。
「申し訳ありません閣下! どうかお許しください!どうか……」
将校や兵は涙を流して許しをこうた。
ユダヤ人の少女はぽかんとした顔でその様子を見ている。
拘束はない。
彼女を拘束した兵もフレドリクに許しをこうているのである。
フレドリクのもうひとつの名は『魔王』、敵に情けをかけず、勝利のために手段は選ばない。
反逆者には死を。
従うものには寛大に。
実にわかりやすい性格である。
彼等は魔王に逆らってしまったのだ。
誰もが死を覚悟した。
しかし……
「その女を渡せ」
フレドリクは再び言った。
「はっ! 好きにしてください!」
親衛隊の兵は少女とフレドリクの間の道をあけた。
フレドリクは黙って少女の元に行くと少女の手を掴んだ。
びくっと少女の手が震えた。
「死にたくないならこい」
フレドリクが短くいい。
少女は頷いた。
フレドリクと少女が車で行ってしまうと親衛隊の将校はほっと息を撫で下ろした。
「た、助かった」
フレドリクにしてはおかしな行動ではあったがこの時の彼等は自分の命が助かったことにのみ意識を奪われ誰も疑問に思わなかった。
しかし、ただ一人彼等の上司は思った。
(一応、総統に連絡は必要か……)
ユダヤ人を魔王が助けた。
これがドイツにどのような影響を……
そして、彼の知らない計画『バルキュリア計画』にどのような影響を与えるかはこの時、彼に知るはずがなかった。
一台の軍用車がブレストの町から軍港に向かう。
乗っているのはドイツの魔王『アドルフ・フレドリク』と彼の友人でビスマルク2世の艦長、カール、そして、その艦魂クリスタに運転手、そして、先程フレドリクが助けたユダヤ人の少女である。
「ねえ、やっぱりまずいよフレドリク
比較的広めに作られたその車は無理すれば8人が乗れる車である。
少女がきたことにより後ろの後ろの最後尾の席に移ったカールが言った。
「……」
フレドリクは黙って窓の外を見ている。
「フレドリク!」
再びカールが口を開いた。
「いいじゃない」
カールが声のした方を見ると助手席から首をこちらに向けている艦魂の少女が言った。
ビスマルク2世の艦魂クリスタである。
ツインテールの金髪の少女はにこにこした顔でフレドリクを見た。
「見直した! 女の子を助けることこそ男の甲斐性だよ! カールも見習ったら」
「いや、僕も助けたかったさ! でもね。この時期にこんなことしたらヒトラーに……」
「あの……」
その時、黙っていたユダヤ人の少女が口を開いた。
「え? 何何?」
クリスタがにこにこした笑顔を彼女に向ける。
カールは見えないってと思いながら二人を見ていたが
「えっと、助けてくれてありがとうございます。ナチスの軍人さん。あなたはそうは見えないけど」
少女はクリスタを見たまま言った。
「驚いたな。彼女が見えるのかい?」
カールが言うと少女は頷いた。
「う、うん。見えるけ……見えます。あ、あの何かおかしいですか?」
フレドリクが顔を少女に向けた。
「このガキは艦魂だ」
「ひど! フレドリク!ガキはないでしょガキは!」
「……」
しかし、フレドリクは再び窓に目を向けた。
「ちょっと!」
「艦魂?」
クリスタの抗議を聞きながら少女はフレドリクを見たがフレドリクは顔を動かさなかった。
少女が泣きそうな顔になった。
「艦魂っていうのはね。船に宿る精霊のようなもので見える人間は限られるんだ」
カールが説明を挟み込んだ。
「艦と共に生き、艦と共に死ぬまあ、神様だよ神様」
「神様はないだろう」
カールがクリスタにツッコミをいれた。
「ところであなたの名前は? あたしはビスマルク2世。ビスマルクちゃんって読んでね」
「え?クリ……」
「ストップ!」
クリスタが少女の口を押さえた。
「クリスタって名前は真名なの。真名はね。私達、艦魂にとっては神聖なものなの。だから、本人の許可があるまで読んだら駄目。じゃないと殺されるよ?」
コクコクと少女が頷いた。
クリスタが手を離すとにこにこした顔で
「じゃあ続き」
「ヘレンです……ヘレン・ヴァイス」
少女が恥ずかしそうに言う。
クリスタは助手席から身を乗り出しながら
「そっか、じゃあレンちゃんだね」
「なぜレンなんだい?」
カールが言うとクリスタはにこにこした顔で
「だって、ヘレンでしょ? だったらレンちゃんだよ」
「答えになってないよ……」
カールが呆れた声で呟いた。
「いいじゃない別に。それでね……」
クリスタがレンに話しかけ、レンが恥ずかしそうに話す。
そんな光景を見ながらカールは何も言わないフレドリクを見た。
「フレドリク? 分かってるよね? これがどんな結果を生み出すか?」
「……」
フレドリクは黙っている。
たが、確たる意思を瞳に浮かべ外を見つめている。
「でもね……」
カールはふっと笑った。
「君もまだ、人間の心が残ってることに安心したよ」
「ふん……」
フレドリクは静かに目を閉じた。
そして、一行はブレストの軍港に入った。
大小様々な艦船がいるがやはり、機動戦艦は圧巻である。
他に戦艦がいないことも理由にあるが周りの駆逐艦やUボートと比べてもまさに、黒鉄の城と呼ぶに相応しい存在であった。
「フレドリク様!」
フリードリッヒ・デア・グロッセの甲板に戻ったフレドリクを迎えたのはエリーゼである。
普段は無表情の彼女たが、フレドリクと会う時はその無表情にも僅かな笑みが浮かぶ。
しかし、今日はエリーゼの表情が少し曇った。
理由はフレドリクの後ろから現れたレンの存在である。
「フレドリク様……」
エリーゼはレンのことを聞こうとしたが、フレドリクは冷たいままの視線をエリーゼに向けて
「あれが終わるまで面倒を見ろエリーゼ」
「え?」
エリーゼが疑問を口にするより早く、フレドリクは甲板から艦内へ入って言ってしまった。
エリーゼとレンだけが残される。
「……」
エリーゼは無表情だが不機嫌気味にレンを見る。
「誰ですかあなたは?」
凍りのように冷たい言葉であった。
フレドリクに新たな女が……
それはエリーゼにとって地球が破壊されるより重要なことである。
おまけに少女というが相手の子は16歳くらい。
エリーゼより見た目は年上だ。
いや、艦歴を年齢に重ねるなら確実にエリーゼが年下だが……
だが、そんなことはエリーゼには関係ない。
フレドリクが面倒を見ろというなら例え、アメリカの大統領でも面倒をみる。
それがエリーゼなのである。
しかし、相手の正体ぐらいはエリーゼも知りたい。
「あ……あの」
相手の少女はエリーゼの冷たい視線に恐れをなしたのかはっきり言わない。
しかし、エリーゼは容赦はしない。
「なんですか?」
再び絶対零度の言葉が少女に突き刺さる。
少女は泣きそうな顔で
「ヘレン・ヴァイスです。フレドリクさんには……」
「フレドリクさん?」
絶対零度
「あ……う、アドルフさんにはナチス親衛隊から助けて頂いてそれで……」
「助けた?」
今度はエリーゼの言葉に含まれたのは驚きである。
同時に計画についても危機感を抱いた。
(何故ですかフレドリク様……)
疑問は残るがフレドリクが決めたことだ。
エリーゼに逆らう気はない。
彼のことだから何かあるのだろう。
エリーゼはもう一度、レンを見る。
長い金髪に青い瞳。少し気の弱そうな感じはあるが美人に値する容姿だ。
(少しシンシアに似てますね)
エリーゼは思った。
(もしかして、フレドリク様が助けたのはそれが理由ですか?)
だが、例えそうでもエリーゼは彼の背を追っていく。
例え自分の最後が無残なものでも、裏切られても構わない。ただ、エリーゼはフレドリクの側にいたいだけなのだ。
そして、彼が下した命令は
『面倒を見ろ』
ならば、今、エリーゼがすることは一つだった。
「始めまして、フリードリッヒ・デア・グロッセの艦魂です。真名は許しません。簡潔にフリードとでも呼んでください」
それが、終戦まで続くレンとエリーゼの出会いであった。
作者「ヒャハハハハ!休みをくれぇ!」
エリーゼ「最近あなたは同じことしかいいませんね」
作者「てか休みがない! 水曜にようやく休みさ」
エリーゼ「更新も遅いですね」
作者「無理ないですよ。ちょくちょく書いてますが限界はある」
エリーゼ「それであの女は何物です草薙」
作者「ああ、レンのこと? しらんよ」
エリーゼ「罰です」
作者「うぎゅあああああ!」
ズドオオオオオオン
エリーゼ「愚かな」
作者「ハハハ、私は不死身だ」
エリーゼ「罰です」
作者「再びぼーん〜」
ズドオオオオオオン
エリーゼ「さて、馬鹿は放っておきましょうか。バルキュリア計画」
作者「ま、まあ確実に影響でるでしょう。だってヒトラーってユダヤ人は豚以下とか言ってるし」
エリーゼ「今からでも遅くはありません。あの女を殺して……」
作者「え?フレドリクに背くの?」
エリーゼ「そんなことは絶対にありません。草薙が試験に合格するぐらいありえません」
作者「うわあああ! 心に一億ぐらいのダメージが……」
エリーゼ「私はフレドリク様がいればいいんです」
作者「ちっ、ヤンデレかよ」
エリーゼ「あんな馬鹿女と同じにしないでください。大罰です」
作者「そ、それは……ぎゃああああ!」
キュイイイイイイン