第207話 ブレスト−ユダヤ人の少女と魔王
ブレストはフランス最大の軍港である。ブルターニュ半島西端に位置し、史実の第二次世界大戦でもドイツの潜水基地が存在していた。
しかし、今大戦では世界中に基地を確保しているため、水上艦を中心とした艦の母港となっていた。
現在、ドイツは吸収した地域から資材をかき集め、各国の工場を再建し、軍艦を始めとする兵器を作っている。
その勢いはアメリカを上回る。
特に資材などに関してはどこに油田があり、どこに鉱脈があるかなどの情報をピンポイントで知るドイツは資材不足とは無縁であとった。
いや、輸送船が足りなくて、多少資材不足になる場所もあったが……
このブレストはイギリス攻略の際、機動戦艦の母港となっていた場所でもある。
余談だが、ブレストには巨大な航空基地も存在している。
そのため、海空の戦力を集中運用できるためブレストは難攻不落の要塞でもある。
人口も多く、史実の2042年には16万の人口がいる大都市だった。
その、ブレストの軍港に機動戦艦がいた
数は3隻
『フリードリッヒリッヒ・デア・グロッセ』
『ビスマルク2世』
『ヘイルダム』
である。
ドイツ人達は彼女達を頼もしい女神と見。
フランス人から見れば悪夢の象徴以外何者でもなかった。
もっとも、フランス戦には機動戦艦は介入してはいなかったが……
サァァと静かな風がブレストの町に吹いていた。
機動戦艦の兵達は半弦上陸が許されていたため思い思いの行動を取っていた。
あるものはブレストの町に出て行き。
あるものは艦内で久々の休みを楽しんだ。
死傷者など皆無の3艦だがのんびりできる休みは久しぶりであった。
無理もない。
圧倒的な戦力を誇る機動戦艦でも動かすのは人間の兵士だ。世界を統一するという目的をかかげることに対する反発は大きく。
機動戦艦や空母はその対応に追われていたのだ。
もっとも、レジスタンスなどのメンバーは潜伏する前に捕らえるケースは多かった。
何せ、未来で誰がレジスタンスに参加したのか公言し、資料に乗っているのだから捕まった方は目を丸くした。
まさか、未来の自分が俺はレジスタンスだったんだぜといい。
それが原因で捕まるとは考えまい。
おかけでフランスのレジスタンスの潜伏場所も資料に残っていたのでフランス内のレジスタンスは壊滅していた。
レジスタンスの指導者を始めとする協力者達はヒトラーの命令で処刑された。
イギリスも陥落した今、比較的ヨーロッパは平和だった。
ドイツ連合艦隊旗艦フリードリッヒ・デア・グロッセ、艦内の一室では小柄な金髪の少女が椅子に座り資料に目を通していた。
正確にはパソコンの画面に映し出された文字を見ているのである。
『ワルキューレ作戦』
そう書かれた内容は機密。
この部屋から持ち出すことも少女の許可なく見ることも許されない。
「ようやくですか……」
無表情の瞳を画面に向けながらエリーゼは呟いた。
そして、呟いた瞬間部屋に光が集まるのをエリーゼは見た。
艦魂の転移能力である。
「すみません!」
その艦魂はいきなり現れていきなりエリーゼに土下座した。
「……」
流石のエリーゼも青い瞳を見開いて彼女を凝視した。
意味が分からない。
「何の真似ですかテレサ?」
エリーゼは冷たく言った。
本人からしてみれば普通の言葉なのだがどうやらテレサにはそれがエリーゼの怒りと取れたらしい。
「ごめんなさいごめんなさい!」
テレサは謝った。
もう、頭で釘を撃つのかというぐらい頭をエリーゼの趣味で引いている青いカーペットにこすりつける。
「テレサ、止まりなさい」
「は、はいぃ!」
長いアッシュブロンドの髪がばっと揺れてテレサの顔がエリーゼに向いた。
「ふぅ……」
エリーゼはため息をつく。
テレサはエリーゼと同じ機動戦艦ヘイルダムの艦魂である。だが、気が弱いため今のようなことがよくおこるのだ。
ネフィーリアやフィリアから見たらいい、いじめ相手のようでそのたびにエリーゼや他の艦魂が止めに入る。
そして、昨日、エリーゼはテレサに資料をまとめるように命令した。
いつも、資料整理を頼む艦魂はといえば
「ごめんエリーゼ。今日はカールと出かけるからまたね♪」
と、でかけてしまった。
フレドリクとカール、そして彼女
そう、フレドリクと!
エリーゼは冷ややかな目でテレサを見る。
余談だが、エリーゼはテレサの仕事の能力を把握していなかった。
それがこんな事態になるとは……
「不覚です」
エリーゼは呟いた。
「あ、あの……」
テレサはその声を聞き何かを聞こうとしたようだ。
気の弱そうな灰色の瞳がエリーゼを写す。
「もういいです……」
弱々しい彼女を見ていると怒るに怒れないエリーゼであった。
その頃、カールとフレドリクはブレストの町を車で走っていた。
防弾設備を整えた特別車である。
ミサイルはさすがに防げないが拳銃ぐらいでは何もできない優れた防弾設備を持っていた。
「……以上が今回の協力者達だよ。思ったより慕われてるね君は」
舗装された道を走る車の中でビスマルク2世の艦長カールが言った。
短めの金髪に丸眼鏡がよく似合う優男である。
彼はいつもの軍服ではなくスーツを着込んでいた。
「そうか……」
カールの言葉を興味なさそうに返したのは同じくスーツ姿のドイツの魔王と呼ばれる男アドルフ・フレドリクである。
カールとは対照的に肩まである長い金髪、その青い瞳は外に向けられていた。
「そうかって……フレドリク、分かってるのか? これが失敗したらドイツ軍の大半を敵に回さないといけないんだよ?」
カールが言った。
フレドリクとは長年の付き合いだが、まさか、気が進まないとでもいいたいのか……
しかし、フレドリクは窓の外に目をやりながらふっと微笑した。
「その時は、正々堂々と蹴散らせばいいさ。親玉を倒せば俺の勝ちだ」
「確かにそうだけど……」
そうは言っていてもカールはフレドリクが失敗する姿をイメージすることができなかった。
昔はともかく、今は情を切り捨て覇道を歩む友人はまさに、魔王と呼ぶに相応しい存在だ。
必要ならば自分さえも切り捨てるだろうとカールは思っている。
だが、それでもカールがフレドリクの親友であろうとするのは彼の過去を知り、彼の痛みを知っているからだ。
揺れも少なくブレストの町を車は走る。住宅街であり道路には民間人が歩いている。
このブレストは大きな町なので戦時だというのに人々は外出を控えようとはしない。
イギリスが陥落し、ソ連が解体された今、空爆の心配はない。
アメリカの機動部隊もドイツ連合艦隊によりアメリカ本国近海まで押し戻されている。
今、ヨーロッパは平和なのだ。
それが、幻の平和なのか真の平和なのかはこの先の戦いにかかっていると言っていい。
最大の障害は日本艦隊……いや、独立機動艦隊の機動戦艦『紀伊』『三笠』そして、連合艦隊の『大和』。
機動戦艦の数では圧倒しているが何せ、紀伊、尾張、大和は2042年のドイツにも轟く伝説の戦艦だ。
公式記録では3艦とも解体されているが、日本国民は神風と同様に語り継がれる伝説がある。
それは
『やがて、紀伊、大和、尾張は帰ってくる』
短く、妙な言葉だが真実を知るなら答えは簡単だ。
紀伊、尾張、大和は未来に帰ったのだろう。
なぜ、大和が消えたのかは分からないが彼等は未来の日本に帰ったはずだ。
日本国民の伝説と同じように……
だから、ドイツ人にとっても紀伊、大和は特別な存在だった。
尾張を沈めたのはよかったが根源では紀伊、大和の存在は恐ろしい。
相変わらず窓の外を見ているフレドリクをカールは見る。
「ねぇ、フレドリク……」
「止めろ」
「はっ?」
カールが声をあげる。
「止めろ」
今度は運転手にも聞こえたのだろう。
車を運転していた兵は車を止めた。
「何?どうかしたの?」
それまで、カールの膝で眠っていたビスマルク2世の艦魂クリスタが目を擦りながら頭を起こした。
「フレドリク? あ……」
フレドリクが見ているものを見てカールは声をあげた。
「ゲシュタポだねあれ」
クリスタが言った。
ゲシュタポとはドイツ国家秘密警察である。
道路の脇にはトラックが止められ中には兵士の姿があった。恐らくナチス親衛隊の兵士だ。
「うん」
カールは頷くと成り行きを見守った。
フレドリクも黙ってそれを車の中から見つめている。
やがて、包囲していたらしい建物に先頭の兵がドアを蹴破ってなだれ込んだ。
一瞬、静かになるが次の瞬間中から銃声が聞こえてきた。
「レジスタンス狩りかな?」
カールが言ったがフレドリクは首を横に振った。
「違うな」
フレドリクはなだれ込んだ建物を見上げた。
三階建てのどこにでもありそうな建物だ。
「じゃな、何なのよフレドリク」
クリスタが金髪のツインテールを揺らしながら言った。
彼女もフレドリクと付き合いは長い。
「……」
しかし、フレドリクは無視して成り行きを見守った。
クリスタは頬を膨らませたがカールになだめられ沈黙した。
やがて、銃声がやみ中から小さい女の子をつまみ上げた兵が出てくる。
とっさに口の動きをカールは読んだ。
指揮官らしいナチス親衛隊の将校はこれだけかと聞いている。
「ユダヤ人だね。あの子」
「……」
クリスタは黙ってそれを見ている。
彼女はユダヤ人のみを廃除するやり方を嫌っていた。
反乱も起こしていないただの民間人を殺すのは明らかにおかしい。
「ねえ、カール」
クリスタが訴えるようにカールを見た。しかし、カールは静かに首を振った。
「後、数日生き残れば彼女は助かるよ。それに、今僕には止められる力はない。あるとすれば……」
カールはフレドリクを見た。
「……」
ドイツ連合艦隊の中の未来艦隊を統括する男。
彼だけが今、この場で彼女を救える。
ユダヤ人の少女はナチス親衛隊の将校を罵ったようだ。恐らく人殺しと言ったのだろう。
兵が邪魔になって少女の顔は見えない。スカートが見えるため少女と分かったのである。
「あ!」
クリスタが悲鳴をあげた。
ナチス親衛隊の将校が少女を殴り飛ばしたのだ。
小柄な少女はたまらず吹き飛ばされ道路にたたき付けられた。
「!?」
その瞬間、フレドリクの顔を見ているものがいれば彼の変化に気がついただろう。
彼は驚愕した表情を浮かべた。
少女の周りにはやじ馬もいたが、助けようものなら銃殺か収容所にぶち込まれるので少女からむしろ距離をとった。
少女は殴られた頬を押さえながら再び将校を罵った。
将校の顔が真っ赤になった。
将校はホルスターに手を伸ばす。
(殺す気か……)
カールは思わずフレドリクを見たが今度はカールが驚愕する事態になった。
車の扉が空いている。
とっさに、少女の方を見ると将校が少女に拳銃を向けたところだった。
指に力が入る。
少女は力強く将校を睨みつけていたが彼女の人生は変わることとなる。
「やめろ!」
「何だ貴様は!」
引き金を引きそうになっていた将校は怒鳴った相手を見た。
「え! 何やって……」
クリスタが悲鳴をあげた。
もし、エリーゼがいたら彼女も同様に悲鳴をあげたかもしれない。
ナチス親衛隊の前に出たのはアドルフ・フレドリクは冷たい目で将校を見ながら言い放った。
「アドルフ・フレドリク。世界を変える男だ」
エリーゼ「ふ、フレドリク様!」
作者「うわぁ……ゲシュタポって問答無用なとこあるからな……大丈夫フレドリク?」
エリーゼ「草薙、あなたを破壊します」
作者「な、待て!話し合いましょう」
エリーゼ「いいでしょう。少しなら待ちます」
作者「ふぅ……さて、書けるうちに書いとこうとのことで更新しました」
エリーゼ「次回はいつになるのです?」
作者「気になるけど少し待ってください。休みは次は水曜日ですが今週は水曜日のみという鬼……」
エリーゼ「不眠で書けばいいのです」
作者「死ぬよ! 徹夜はできればもう一生したくない! まあ、無理だけど」
エリーゼ「しばらくドイツの話しですね草薙」
作者「エリーゼ様大活躍!」
エリーゼ「嘘なら殺しますよ」
作者「嘘というか未定〜なんか、新キャラの予感も……エリーゼ様ピンチに?」
エリーゼ「どうしてあなたは余計なことしかしないのですか! いきなさいドリル戦艦」
作者「ああ!我が野望の戦艦が砕かれ……」
ギャリギャリギャリ
ズドオオオオオオン
エリーゼ「愚かな」