第193話 迷走
「だから条件つきで教えてやるって言ってるだろ?」
「ふざけるな! お前は捕虜なんだぞ!」
機動戦艦紀伊の一室で怒りで顔を真っ赤にした兵が怒鳴った。
その部屋は机と椅子があるだけの簡素な部屋でドアの前には兵士が2人小銃を手に持ち男を警戒していた。
「捕虜に人権がないわけじゃないだろ? 特にお前達はな」
にやりと笑ながら未来から来たドイツ人、ドミニク・ハートが言った。ドミニクは中国で捕虜になり震電のパイロット凪や彼方と出会いここにいる。
独立機動艦隊としては今だ不透明な未来のドイツの情報を手に入れるため、尋問しようとするのだがドミニクは黙秘と言って話さず条件をつけて話すと言っているのだ。
ちなみに独立機動艦隊では捕虜に対する暴行は禁止されており暴行で聞き出すことはできない。これがテロリストや大日本帝国の憲兵などなら指を折ったり拷問をしたりとあらゆることではかせようとするだろうがここでは認められない。
ちなみにドミニクの言う条件というのは
「彼方ちゃんか凪ちゃんになら教えてあげてもいいぜ」
であった。
尋問担当の兵が怒るのも無理のない話しである。
「ふざけるな! なぜ神崎さんや天城さんに尋問を頼まないといけないんだ!話せばいいだろう!」
「ハッハッハ、俺は男より女の子に尋問されるのが好きなんだよ」
今だに若いドミニクは言った。
「ぬぐぐ! 貴様!」
ドミニクのふざけた態度に兵は怒りを増すがせいぜい彼が出来たのは机を叩きドミニクを威嚇することぐらい。
兵はドミニクに話させることができず結局……
「別にいいんじゃないか?」
紀伊の艦長室である。
パソコンや書類が貯まっている部屋の中でパソコンの画面に目を向けながら日向 恭介は言った。
「いいんですか?」
参謀長の古賀の問いに対し日向は再び頷き
「あのドミニクってドイツ人が言ってるんだろ? なら神崎や天城博士を尋問に当てたらいいさ」
「しかし、危険じゃないですか? 天城博士や神崎中尉を失えば我が艦隊は更に戦力が減ります」
「ああ、大丈夫だって。小川大尉を護衛に付けとけば大丈夫だろ?」
「お、小川大尉ですか?」
古賀は思い出したのか嫌な顔になった。独立機動艦隊の紀伊航空隊隊長の小川は厳しい男だった。
自分に厳しく他人に厳しくが主義の男で紀伊の士官達にも恐れられている男だった。
「まあ、部下思いの奴だから大丈夫だろ?」
「まあ、確かに……では私から神崎中尉達に言っておきますね」
「いや、俺が言うよ」
古賀は書類に目をやりながらにっこりと微笑んだ。
「駄目ですよ長官。大本営や天皇陛下に提出する書類の作成が終わってないじゃないですか」
日向はふっと笑った。
「少しは息抜きさせてくれ古賀……それに……」
日向は真面目な顔でちらりと寝室を見て
「少し気になることもあるしな……」
古賀は首を傾げたが結局は押し切られることとなり日向の仕事は古賀に回されたのだった。ちなみに、書類作成中の古賀は一言
「あの馬鹿長官!」
と言ったのは別の話。
上官しだいで部下は苦労するのだ。
夕方の5時、部屋で本を読んでいた小川 健二大尉は部屋の扉をノックする音に気がついて顔をあげた。
「誰だ?」
「俺だよ」
「日向長官か?」
小川は本を机の上におくとドアを開けて敬礼した。
日向は軽く手をふりながら
「敬礼はいらんと言ってるだろ」部屋に入りドアを閉めると小川は敬礼をやめた。
「規律だ。プライベートと仕事は分ける」
つまり扉が閉まるとプライベートという訳である。
小川は椅子を引くと日向にすすめ自分はベッドに座った。
「何か用か恭介? 俺は今日非番だが」
「悪いな健二休みのところ」
「悪くはない」
小川は短くいう。
日向と小川は歳が同じということもあり友人であった。
出会いは紀伊が建造されるよりも前であるがその出会いは機会があればいずれ語ろう。正反対の性格の二人であるがなぜか気が合うのである。
「最近のうちの航空隊の様子はどうだ?」
小川は腕を組み、目を閉じて少しだけ考えてから一言
「たるんどるな」
「ハハハ、たるんでるのか?」
面白そうに笑う日向を小川はじろりと睨んだが日向は気にする様子はない。
「?……恭介何かあったのか」
「あ?なんで?」
日向が問い返すと小川は自分の目を指差した。
「お前の目にくまができているのは置いておこう。だが、何か疲れているように感じる」
日向はふっと笑いながら
「分かるか? ちょっと問題が山積みでな……」
「ドイツのことか?」
「それもあるだけどな……尾張の件もあるしな……」
日向は目を伏せて言った。
小川はそんな日向を見ていたがやがて
「俺は空を飛ぶこととこの手に届くものしか守ることはできん。だが、お前は全てを守ろうとでもいうつもりか?」
日向は目をつぶりながら
「急に何だよ? まあ、無理だって、んなこと出来た天才戦略化なんていたことないし。いつの時代も戦争は犠牲の上に成り立つものだ」
「分かっているならいい。ところで恭介? 俺に何か用じゃなかったのか?」
「ああ、それなんだけどな」
日向の話しを聞くと小川は頷いた。
「構わんがふざけた奴だ」
「抵抗しない限り殴るなよ?」
日向が釘を指すと小川は当たり前だと頷いた。
日向が出ていってから小川は日向の疲れの原因を聞きそびれたことに気がついた。
「あのタヌキめ……」
小川はつぶやくと軍服の上着を手にとった。
「痛た……」
その頃、神崎 凪は廊下を歩いていた。医務室から自分の部屋に戻るためである。
パイロットの部屋はスクランブルのために紀伊の後部に位置している。
なので中央近くにある医務室から後部まで結構遠いのだ。
甲板に出れば一直線で返れるが寒いので艦内を通って帰りたいのは軍人であろうと一般人であろうて同じである。
「ソラ怒ってるかなぁ……」
凪は部屋で寝ているはずの飛魂のソラのことを思い出して言った。
帰ると多分
「どこいってたんですか凪!おいていくなんてひどいです」
といわれるだろうなぁと凪は思いながらも凛のことを思い出していた。
どけ人間がというあの言葉を聞く限り彼女は憎しみに支配されている。
なんとかしたいと思う。
だが、あの態度をみる限り簡単ではないだろう。
「どうしよう……」
「何を言っている神崎中尉」
「ひゃああああ!」
凪すっとんきょうな悲鳴をあげて振り返り更に心臓がとまりそうな衝撃を受けた。
鬼の小川がそこにいた。
「お、小川大尉!」
凪は慌てて敬礼したが小川は敬礼を返してから
「敬礼は艦内ではいらん。それよりこんなところで何してる?」
「へ、部屋に戻る所です」
「そうか……」
「……」
「……」
会話が続かない。
凪は普段は口数が多いほうではないし小川も多くはない。
「あ、あの小川大尉。私に何か命令でしょうか?」
凪がおそるおそる聞くと小川は口を開いた。
「明日、お前に捕虜の尋問を頼みたい」
「わ、私がですか?」
凪は驚いて自分を指した。
「ああ、ドミニク・ハートというお前が捕虜にした男だ」
「あ……ああ」
凪は思い出したように言った。
実際忘れていたのは秘密である。
凛のことや尾張撃沈でそんなことは頭から吹っ飛んでいたからだ。
「俺も恭介……いや、日向長官から聞いたんだがドミニクはお前と天城博士でないとドイツについて話さないと言っている」
「ど、どうして私なんですか?」
凪が自分を指す。
「しらん。明日直接聞けばいい」
「は、はぁ……」
小川はポケットからUSBを取り出して凪に渡した。
「質問の内容はこの中に入っているそうだ。
頭に叩き込み1000までに俺のところにこい、いいな」
「質問内容を暗記し明日の1000時までに小川大尉のいる場所へ行きます」
凪が敬礼していうと小川は頷いた。
「よし!解散」
小川が見えなくなると凪はふぅと息を吐いた。
「や、やっぱり小川大尉は苦手かな……」
鬼の名はだてではないということだ。
凪が小川に睨まれている頃、日向は食堂でお茶を飲んでいた。
席の前には彼方が座り彼方の右にはこの食堂で働いている藤宮 桜が座っていた。
「いやぁ、天城がいてくれてよかったぜ」
「私はすっごい! 迷惑なんですが……」
彼方は階級が上の日向にまったく敬意を払わない口調でつぶやく。
横では桜がああ……と青くなるが日向は気にしない。
気にする男でもないが……
「ハハハ、まあそういうなって。今日は天城に頼みたいことがあってな」
彼方は日向を嫌そうに見ながら
「なんですか?
烈空弾は私が開発したんじゃありませんよ? もっとも量産は部品がないですから不可能ですけどね」
「それはいいんだけどドミニクの尋問してくれ」
「嫌です」
直球に日向が言うと彼方は即答した。
「なんでだ?」
日向が聞くと思い出すように彼方は肩を震わせた。
「あのスケベ男とは二度と関わりません!あ……あの男!震電の中で私に密着してるっからって……く……」
思い出したのか彼方は怒りの反動で手を揺らしてお茶がかたかた揺れる。
「か、彼方?」
桜がおろおろしながら言う。
日向はにやにやしながら
「まあまあ、そういうなって。これも任務だ。命令するぞ?」
「なっ!横暴ですよ長官!」
「大丈夫だって。なんなら縛って尋問するか?」
「目隠しして口も縛ってください」
「いや、それじゃ話せないし」
と、日向が突っ込みをいれ結局は普通に尋問という形になるのであった。
その夜、日向はCICから艦僑へ向かう途中、前方に立っている艦魂を見つけた。
ばっさりと髪を切ってしまった彼女の名は……
「お〜い、凛どうしたんだ?」
髪を切ったことは日向は知っていたが突っ込まずに何時もの調子で声をかける。
「恭介……」
凛は振り返ると日向の名前を呼び険しい表情になった。
「何の用?」
「ハハハ、何怒ってんだよ? 部屋にも帰らずにどこで寝てんだ?」
実はこの数日、日向は凛を見ていなかった。
凛が避けているらしく寝室にも戻らない日が続いていた。
「別にどこにいようと勝手でしょ? 私の船(体)なんだから」
凛は困惑しながら言った。
「寒くないか? 俺の部屋には暖房があるんだから早く帰ってこいよ?」
「別に寒くない! 私はもう恭介の部屋には帰らないから……」
「……」
日向は黙って凛を見ていたがやがて口を開いた。
「凛……お前がしたいことは何だ?」
「え?」
何をという顔で凛は日向を見た。
「復讐か?」
『復讐』、その言葉を聞いた瞬間凛は再び睨み付けるような目で日向を見た。
「恭介……どうせあなたも復讐なんてやめなさいって言うんでしょ!やめない!私は敵を討つ!必ずドイツの機動戦艦を……」
「それで、桜や明は喜ぶのか?」
「……っ!」
機動戦艦『霧島』の艦魂桜。
『尾張』の艦魂、明。
皆、日向や凛にとってはかけがえのない友であった。
彼女達は凛に復讐を望むのか……
恐らくは望まない。桜も明も……
(……でも。私は決めたから……)
凛は日向を見て
「関係ない。私はドイツの艦魂達を皆殺しにする!それが私が今望むことよ!」
自分を睨み付ける凛を見ながら日向は思った。
(変わったな凛……ここで復讐なんてやめろといっても無駄だな……)
「凛、お前は艦魂だ。船は俺が動かす。艦隊も同様だ」
艦魂は自分で船を動かせない。
つまり、直接自分の意志で敵を討つことは出来ないのだ。
しかし、凛は笑った。
「だから何なの?恭介?私はあいつらが!苦しんで死ぬ所が見れたら満足なの!痛みにもがき苦しみながら明達が受けた痛みを味わいながらね!」
「凛!」
さすがに日向も声をあげずにはいられなかった。
凛は壊れかけている。
精神的に……
凛は肩を震わせながら目に涙を浮かべ俯きながら震える声で
「何も……何も知らないくせに! 私の気持ちだって……」
最後は小声で凛は言った。
「凛、少し落ち着けよ」
日向は凛に近づこうとしたが凛は顔をあげて後ずさった。
「来ないで!もう、私に構わないで!」
「り……」
その艦魂の名前を呼び終わるより早く凛は光の粒子となり消えた。
後に残された日向は壁を力任せに殴り付けた。
「情けねえ……」
作者「いやぁ、すみません。なかなか更新できませんで」
エリーゼ「まだ一週間もたっていませんが?」
作者「ハハハ!リアルが大変なんですよ」
エリーゼ「資料を見ましたが生意気な小国がいるようですね」
作者「そうです!エリーゼ様の毒舌を奴らに!」
エリーゼ「情けないのは日本です草薙」
作者「確かに憲法が……」
エリーゼ「馬鹿ですかあなたは?現状の法律でも日本は弱腰すぎます。資料によると高確率で人体に影響がある燃料が落ちてくるそうじゃありませんか?これはミサイルを直接撃ち込まれるのと変わりありません」
作者「た、確かに……」
エリーゼ「それで安保理に提出?単独制裁?笑わせてくれますね。どうせ私達が滅ぼしたロシアや中国が反対して対したことはできません。あるいは優しい内容で調整するでしょうね」
作者「じゃあどうすれば……」
エリーゼ「草薙、あなたは町でアサルトライフルを持ってるとします」
作者「前提が無茶だ!」
エリーゼ「黙りなさい。不良がナイフであなたに攻撃してきました。どうします?」
作者「いや……アサルトライフル放ったら捕まるし……いや、でも撃つかな……」
エリーゼ「それが普通です。日本はアサルトライフルをもちながら笑いながら刺されるんですね」
作者「なんと!」
エリーゼ「愚かなジャップは死になさい」
作者「ぎゃあああああ!」
ズドオオオオオオン