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第191話 決意の証 届かぬ言葉

昭和18年2月24日、横須賀に停泊する紀伊の中で震電のパイロット神崎 凪は艦内を歩いていた。

別にサボっている訳ではない。

凪は満州での激戦の後に帰還しており2日の休暇を与えられた。

もっとも、紀伊が出撃するなら戻らないといけないものであったが……

パイロットというのは心身共に万全に整えることも仕事の一つなのだ。

正直な所、凪は気がのらない休みだった。

昨夜、独立機動艦隊全体に尾張の撃沈が伝えられた。

皆、ショックを受けていたが戦争というのはめそめそしていては戦えない。

厳しい言い方だがたかが一隻の戦艦が沈んだぐらいで戦意喪失なぞしていたら軍隊はなりたたないのだ。

凪も同様であるがどれだけの死を見ても人や艦魂の死は慣れない。


休暇を伝えた日向もどことなく元気がないように見えたのは気のせいだろうか……

凪は尾張の艦魂、明とは親しいとはいえない関係であったが顔は知っていた。

紀伊の艦魂、凛と姉妹ということも……


寝ていたソラを部屋に残し凪は凛を探していた。

人に聞く訳にもいかない。

艦魂が見える人は限られるからだ。

こんな日に限って紀伊の艦内で他の艦魂に出会うことはなかった。

艦魂に会えれば場所を聞いたり捜索を手伝ってもらえるのだが……


「あれ? 凪じゃない?」


声に凪が振り返ると軍服の上から白衣という奇妙な格好な彼方が立っていた。


「か、彼方……、白衣似合わないよ」


思わず本音が出た凪であったが彼方は対して気にした風でもなく


「そう? 白衣着てると落ち着くんだけど?」


「あ、アハハ……」


根っからの科学者だなと凪は思った。


まあ、白衣をずって着ているような人は少ないだろうが凪は科学者に偏見を持ちそうだった。


「で? 何してるの凪?」


整った綺麗な顔を白衣で台なしにしている彼方は言った。


「うん、今日は休暇だから人を探してて……」


「ふーん、誰?」


「あ……」


そういうば彼方は艦魂が見えないのだ。言ってもしょうがない。


「えっと……幽霊」


「は、はぁ?幽霊探してるの?肝試しとか?」


「ち、違……」


何だか話が妙な方向に行きそうだったので凪は手を振りながら必死に否定した。


「まあいいけど……そんなことより凪、休みなら横須賀の町に行かない?日向長官に言えば護衛くらいつけてくれるでしょ?」



「う、うん多分」


この時代、女性の地位は高くない。

今でこそ女性パイロットなどの募集を大日本帝国はしていたが実戦に出てくるには数年はかかるだろう。

末期の大日本帝国ならいざしらず搭乗員育成はきっちりとされるだけの余裕が今の日本にはある。


ガダルカナル島へ本来なら襲来した米軍の機動部隊は壊滅したためあの海域で失うはずだった熟練のパイロット達はそっくり残っているのだ。

もっとも、旧蒼龍達をの搭乗員を助けられなかったのは悔やまれることである。


そんな訳で女性パイロットはいるにはいるのだがやはり男の方が身分が上という考え方は根強いため女性だけで出掛けるには危ないため護衛がつくことになっていた。

まあ、憲兵なんかに呼び止められても天皇がバックにいる独立機動艦隊の人間は身分は保障されているが……



「じゃあ決まりね」


「う、うん……」



実は凪は日向に頼まれごとをされていた。


艦魂の見える人間は限られるため凛のことを少しでいいから気にかけてほしいと……

日向自身がなんとかしたいのだろうが日向は司令長官である。

以前と違い尾張の穴を埋めるのに忙しい。

もっとも、もう少し時間があれば余裕はできるだろうが凛のことは心配なのだろう。


凪はなんとかおかしくないように切り抜けられないか考え、


「そ、そうだ彼方。天城博士は?無事だったの?」


彼方の父、天城博士は尾張に乗っていた。

大和と共に横須賀に来たと聞いたが……


「ああ、パパ? 怪我もなくぴんぴんしてたわよ?」


「よかったね」


「よかった?」


彼方は父のことを考えたのかしばらくんっと考え頷いた。


「あんなのでもパパだからね。心配ぐらいは……」


「それは本当か! 彼方」


「あ……」


「へっ?」


凪と彼方が言った瞬間、彼方の後ろから男が彼方に抱き着いた。


「きゃ! だ、誰よ!」


彼方は悲鳴をあげた。


「天城博士だよ彼方」


「なっ!」


「昨日は言えなかったが心配したんだぞ彼方。まあ、俺は不死身だから問題なしだ」


「は、離して! 鬼畜! 変態!」


「ひ、ひどえな……」


「放しなさい!」


彼方は暴れるが後ろから抱き着いた天城博士は離れない。



「親子のスキンシップってこれが普通なの?」


「違う!」

「その通だ」


もしかして、自分は間違っていたのかと天然な考えをした凪を天城親子は違う返答を返した。



「えっと……どっち?」


「この天然!」


怒鳴る彼方であった。










結局、天城博士はスキンシップを楽しんだ後、行ってしまった。

彼方は


「ごめん凪……疲れたから買い物は今度ね」



といい去って言った。


思わぬ形で彼方と離れ再び一人になった凪は再び探索のため歩きだした。


入れない場所以外は探して行く。

入れない場所とは弾薬庫などの危険な場所のことである。


しかし、紀伊は広い。

機動戦艦という艦種だが、昔のように迷うことはない。

今の時代には小型の携帯電話サイズの液晶の端末をみんな持っているのだ。

これがあれば艦内で迷うことはない。



凪は甲板の扉を開き外に出た。

太陽の光が目に届き電気の明るさに慣れていた凪は目をしかめた。

目が慣れると広がるのは青空だ。

青空を見ていると飛びたいなぁと思ってしまうのは凪の悪い癖であり長所でもある。

しかし、今は目的は空ではない。

甲板を歩きながら横須賀の軍港を見渡すとドッグや輸送船などが見えた。

景色を見ながらきょろきょろしながら甲板を後部に向け歩く。

後部甲板まで来るとエレベーター見え、その近くにある扉から格納庫に下りられる。

垂直離着陸の戦闘機やヘリコプターの発着スペースである。点検する兵に敬礼されるのを凪は敬礼で返しながら格納庫へと降りていった。

格納庫にはハリアー3とシーホーク。そして、震電があった。


「あれ?どうしたんですか神崎中尉?今日は休みのはずじゃ?」


「あ、うんちょっとね」


気心知れた顔見知りの整備兵に声をかけられ凪は整備兵の所まで歩いて言った。無視する訳にもいかない。


「聞きましたよ神崎中尉。あの伝説のエースパイロット、エーリッヒ・ハルトマンを撃墜したんでしょ?」


「え?」


凪は困惑した実際は引き分けなのだがどうやら大袈裟に伝わっているらしい。



「さすがは大空の騎士だ」


「え?大空の騎士?」


「知らないんですか?神崎中尉のこと俺らは日本の大空の侍ならぬ大空の騎士って呼んでるんですよ?」


「え、え?」


知らなかった。

大袈裟な名前は好きではないし目立ちたくないのに……


「ブルーのカラーも珍しいですからね。日本軍の中でも神崎中尉の戦いを見ていた人はたくさんいますよ。黒い悪魔。エーリッヒ・ハルトマンを撃墜した女って」


「あ、あのだから……」


「いやぁ、すごいです。俺達空軍の誇りですよ神崎中尉は」


「あ、あのだから……」


凪は強く言える性格でないのでぺらぺらしゃべる整備兵に何も言えずただ時間だけが過ぎていくと思われた時……


「何をやっとるか貴様!」


すさまじい怒鳴り声が格納庫に響いた。整備兵はもちろん凪も飛び上がる声である。


「お、小川大尉……」


凪と話していた整備兵が震える声で言った。

鬼の小川という名の通り恐ろしい男である。

ハリアー3で紀伊の戦闘機隊を総括している男だ。

ちなみに年は31歳だったはず。



「柿沼、神崎と話している暇があるなら手を動かせ! たるんどるぞ貴様!」


「はっ、は!申し訳ありません!」


柿沼整備兵は慌てて走り去って言った。

次に小川が見たのは凪だ。

その瞬間、凪は蛇に睨まれたカエル状態になってしまう。

この人に逆らえるのは正直日向くらいなものな気がする……


「神崎、今日は休みだろう?なぜ、ここにいる?」


「あ……う……き、紀伊さんを探し……い、いえ!と、飛びたくて来ました」


小川の目がぴくりと動いた。

嘘だとばれたと凪は心の中で悲鳴をあげた。


しかし、小川が言った言葉は……


「駄目だ! お前は昨日満州から帰ってきたばかりだろ!ハルトマンに負けたからと言って根をつめるな」


あ、あれ? 心配してくれてる?


と凪は思ったがチャンスはチャンス。


「は、はい!今日は飛びません!」


慌ててその場を走り去ろうとしたが


「格納庫で走るな!」


「も、申し訳ありません!」


凪は早足で歩きながら扉に向かう。

あとすこしで扉というところで再び声が轟いた。


「神崎!」


「は、はひ!」


舌を噛んで凪は振り返った。

小川がこちらを睨んでる。


「す、すみません。悪気は……」


「46センチ速射砲だ」


「え?」


「早く行かんか!」


「は、はいい!」


凪は扉に飛び込むと扉を閉めた。




小川はまったくといいながら振り返った。


「これでいいんだな?」


壁にもたれ掛かっていた炎樹は頷いた。


「協力を感謝するわ」


「直接言えばいいんではないのか?」


「何となくよ」


小川は炎樹を見ながら


「俺はよくわからんが……お前はなにもかもしないのか?」


炎樹はふっと笑って言った。


「私は傍観者よ。たまに、口だしするね」


「そうか……」


小川はそれいじょう何も聞かずに歩きだした。

炎樹はその背を見ながら


「なにも聞かないでくれるあなた結構好きよ? 三笠に来たら?」


小川はなにもかも言わず左手をあげてひらひらと手を振った。

意味はいいである。炎樹は苦笑しながらそれを見て凪が去った扉を見て小さく呟いた。


「凛……潰れちゃ駄目よ……」











ザザアという海の音はいつの時代も変わらない。

2042年も1943年も変わらず海はあるのだ。


「明……」


凛は呟いた。

この水が繋がるどこかで眠る妹。

あいつが死んでも対したことないと思った。

いつも喧嘩し罵り合うだけの関係。

でも、心の奥底ではやはり姉妹だったということなのだろう……


「……」


凛は艦魂の力で自分の武器を取り出した。

神聖なる連合艦隊旗艦に代々受け継がれてきた剣。

撫子が薙刀なのはこの剣が象徴であり武器ではないことを言っている。

右手で剣を持ち首の後ろに回し左手で自分の自慢だった長い黒髪を掴み剣に当てる。


「明……桜……命長官……敵は絶対に討つ。だから、これは私の決意だから……見ていてね……」


凛は最後に微笑むとぐっと剣に力を込めた。










凪はようやく見つけた凛に声をかけようとした。

しかし……


バサ


凛の剣が下を向き消えていく。

左手にあるのは髪だ。

凛は


「り、凛さん!」


思わず凪は叫んでいた。

それに凪は一瞬だが、凛が明に被って見えた。

だって、凛の髪型は明の長さと同じだったから……



凛は目を閉じたまま髪を海に投げ捨てた。

目を閉じたまま口を開く。


「凪ね……何の用?」



「ず、ずっと紀伊さんを探していました」


「それで?」


冷たい声であった。今まで邪険に扱われるけとはあったがこんなにこの子の声は冷たかったか……


「き、紀伊さんが心配なんです!尾張さんが……」


「ふっ、私が心配?あんた何様のつもりよ」


凛は静かに目を開けて凪を見た。

凍りのような冷たい視線だった。

凪が気圧される程に……


「あ、あの私……日向長官に頼まれて……」


「恭介に……?」


ほんの一瞬、凛の顔が昔に戻るがそれは凪も気づかない一瞬のみ。


「ふん、頼まれたから来たの?」


「ち、違……」


「目障りよ。消えなさい人間……」


凛は凪の脇を歩き去ろうとした。


「待っ……聞いてください」


凪は慌てて凛の手を掴んだ。

そうしないと二度と掴めなくなりそうだったから……


凛は抵抗せず止まり冷たい視線を凪に向ける。


「ひ、日向長官はあなたのことを本当に心配しています! だから……復讐なんて……」


「うるさい……」


凛は睨み付けるような目で凪を見た。

凪の全身が警告を発す。

やばいから話せと理性がいう。

だが、凪は離さなかった。



「わ、私こんなことしか言えませんが復讐なんて考えたら駄目です! 分かるんです。私も……父を……」


「うるさい人間が!」


「き、きゃああああ!」


凛が腕を振ると凪は吹き飛ばされ46センチ速射砲にたたき付けられた。

頭に激痛が走るが凪は凛の姿をもとめた。

凪は分かるのだ。

昔、父が死んだ時、殺した敵国のパイロットを恨んだから……


「ふん……」


凛はゴミをみるような目で凪を見ると転移の光に消えて言った。


「駄目……です凛さん……」


凪は意識が遠くなり甲板に倒れた。







「……」


炎樹は転移で倒れた凪の横に現れ凛が消えた空間を見つめた。


「やはり……言葉は届かないのね……」


炎樹は凪をかつぐと医務室へと転移した。


作者「なんでこんなことになってしまったんだ……」


炎樹「あの子は髪を切りそれを復讐の決意にしたのね……妹と同じ髪型にして……」


作者「言葉は届かない……」


炎樹「あの子にとって意味のある言葉を話せるのは恭介君のみ……でも、多分今のあの子には恭介君の言葉も届かないわ」


作者「敵を討つしかないのですか?」


炎樹「分かるでしょ?復讐の後にあるのは満足感じゃない……」


作者「復讐か……フレドリクと凛様……エリーゼ様は今、限りなく近い場所にいますね」


炎樹「そうね……あの子には幸せになってほしい……傍観者の私でもそう思うわ」


作者「傍観者って凛様がやられそうになったら……」


炎樹「命をかけて守るわ。あの子も私の大切な義妹なんだから」


作者「炎樹様は明様のことを……」


炎樹「悲しい……怒りもあるわ……でも、私は復讐鬼にはならない」


作者「復讐か……私には縁のない言葉だ……」


炎樹「幸福なのよそれは……でも、知らないでいいことでもあるわ」


作者「そうですね……」

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