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第189話 死の衝撃

昭和18年2月22日、日本最大の危機となった戦いは終わった。

戦いの後、中国軍は満州防衛のために一部の軍を残して中国本土に引き上げた。大幅に戦力を削がれているとはいえ、共産党の存在も無視できないものであるからだ。


この後、奬介石は石原と共に日本に渡り正式に日中同盟を世界に向け発信した。日本は朝鮮半島を独立と共産党ととの戦いに全面的な協力を中国と約束するかわりに満州を独立国家として認めた。

日中同盟を纏めた後、更に日本は対ドイツに向け『大東亞共栄圏』を進歩させた『大東亞同盟』を発足させる。

これは日本の支援の元独立するフィリピンやタイなどの国家が加わることになる。

ただ、中国は大東亞同盟に加わらなかった。

理由はアメリカとの決着がついていないことである。

しかし、奬介石は日本がアメリカと休戦すれば大東亞同盟に加盟することを約束した。

大東亞同盟とは別の日中同盟は対ドイツ勢力との戦いを想定した同盟である。

まだ、中国が大東亞同盟に参加していないとはいえ、これにより世界は3つに分けられた。


日本を中心とする『大東亞同盟』


アメリカを中心とする『連合軍』


ドイツ第3帝国を中心とする『枢軸国』


だが、枢軸国のイタリアなどはすでにドイツの傀儡国家となっているのは明白であった。


ここで世界を見てみよう。

世界地図があるなら広げて欲しい。


ドイツの支配地域を2009年3月の時点の世界地図で言うとロシア連邦がある国土は全てドイツに支配されており現在のアフリカのようにバラバラにされてドイツの支配を受けている。

ヨーロッパは言うまでもなくスイスを除く国家は支配されているか傀儡国家となっていた。

史実では中立を守ったスペインもすでに滅ぼされている。


アフリカ言うまでもなくドイツの傀儡国家アフリカ連邦が樹立されている。

我々の歴史では合衆国アフリカを樹立しようとしている訳だが皮肉にもアフリカ連邦という名でアフリカはまとまった。もちろん独裁国家などは一つも存在しない。

そんなことをしようとしたりクーデターを起こした国家はドイツが軍を派遣して鎮圧し、関係者は皆、処刑されている。

大規模な反乱はアメリカ兵やイギリス兵の残党と組んだ反乱軍が出たがドイツはこれをラグナロクを中心とする圧倒的な艦隊で鎮圧した。

逆らった軍は皆殺しにされ、これ以後、大規模な反乱はおこらなくなった。

反乱を起こそうにもアメリカからの援助がまったくないのでできないからだ。


東に目を向けるとドイツの勢力は現在のパキスタンまで延びておりインド進撃も時間の問題となっている。

上はカザフスタンがあった場所まで制圧を完了している。

もっとも、イランがあるような中東方面はゲリラ戦を行う軍に手を焼いており、これがインド進撃を遅らせる原因となっている。


日本の方へいくなら樺太は占領され北方領土もロシア連合に奪われた形になっている。



アメリカを中心とする連合軍はオーストラリアに逃げ込んだイギリス艦隊と太平洋艦隊が中心となり反撃の準備を進めているがチャーチルの本音は日本とは戦いたくないということであった。

ただ、アメリカと敵対したいわけでもないので真に微妙な立場になりつつあった。

アメリカはといえば国民は連戦連敗の軍に腹を立てて日本との休戦をという声が高まりつつあったがルーズベルト大統領は日本と休戦する意志はまったくなかった。

それは大東亞同盟が結成されても同様である。

ルーズベルトは原爆さえ完成するばいくらでも覆せると思っているのだった。


原爆だが今、日本は実験により手に入れたが使用には制限がある。

使用には独立機動艦隊の許可がいるのだ。

無断で使えば独立機動艦隊は敵に回るとまで言われている。天皇が後ろ盾になっているので使用はされないだろうが…


アメリカは急いではいるが研究中である。


ドイツだがこの国は分からない未来のドイツでは核兵器は全て廃棄されていた。核融合炉などの機関や平和利用は別としてだ。

それを考えると核爆弾を作り上げるのは難しいことではないのかもしれない。


しかし、ドイツの戦力は核がないとしても強大である。

未来の艦は最低でも10隻。

それに対し日本は尾張を失い大和、紀伊、三笠、蒼龍、飛龍、赤城、加賀の7隻のみである。

日本連合艦隊は強化されているとはいえ機動戦艦相手では部が悪い。

それに再建された機動戦艦を除くドイツ艦隊も日本連合艦隊に匹敵する可能性があった。

練度では恐らく負けてはいないはずだ。戦力が同格なら日本連合艦隊は世界最強の艦隊なのである。ドイツの未来艦隊を撃破しない限り勝機はないのであった。










2月23日、午後8時。紀伊を始めとする独立機動艦隊は横須賀にいた。

その他の大きな戦力としては戦艦『近江』と空母『大鳳』がいた。

近江はロシア連合艦隊との死闘の後、大破漂流していたが森下達の懸命な努力によりなんとか火災を鎮火し近江を救うことができた。

横須賀まで曳航してきたのは『大鳳』である。

というのも、大鳳以外に近江を曳航できる艦は今の日本には独立機動艦隊や大和以外存在しないのである。

近江は信濃が作られたドッグで修理を受けていた。

あくまで横須賀では応急修理でその後、未来からの設備がある程度導入されている呉へ曳航されることになっていた。

琉球までいけば更に設備が整うドッグがあるが琉球は遠いためとりあえず呉が選ばれたのだ。


横須賀には今の日本の主力戦力が揃っていた。

独立機動艦隊に加え『大和』『近江』『大鳳』。

だが、そこにいるべき機動戦艦の一隻はいなかった。

『尾張』、未だに末端の兵士は尾張の撃沈を知らなかった。独立機動艦隊の中でも日向や大和の乗組員以外は知らない。

無用な混乱を避ける措置だった。

大本営発表でも機動戦艦の襲来が発表されたが『尾張』『大和』が撃退し北方の戦いでも『近江』『大鳳』の機動部隊と陸軍の奮戦でロシア連合軍を撃退したと発表されていた。

満州の戦いでもロシア連合軍は撃退されたと発表され被害は軽微だと発表されていた。

10万以上の戦死者が出たにも関わらず…











独立機動艦隊、旗艦『紀伊』の艦長室では日向がパソコンを扱っていた。

尾張の撃沈によ関係各所からの方向が集中していたのだ。

その内容は気の重いものが多い。


「ふー」


ため息をつきながら日向 恭介は椅子に背を預けた。

昨日は寝ていないのだ。

凛に対して明の死を言わねばならないが凛の姿を見ないため後回しになっていた。

それだけ事後処理が忙しかったのだ。


「言わないといけないよな…」


日向はそう思いながら机の上の通信機を手に取り紀伊から100メートルほど離れている機動戦艦『三笠』に連絡をとった。


「はい、藤森です日向長官」


兵に取り次いでもらい三笠艦長の藤森 冬花が出た。



「悪いな忙しかったんじゃないか?」


「いえ、大丈夫です。長官ほどじゃありません」


冬花は冬花で三笠の未帰還の烈風の数を纏めたりとやることは多い。

もちろん各空母の艦長達にしても同様であった。



「本当はさぼりたいんだけどな」


「駄目ですよ。紀伊が機能しなくなったら代わりに私に仕事が回ってきてしまいます。それはご勘弁ください」


「ハハハ…そうだな」


その言葉を聞き冬花は気がついた顔になった。


(やっぱり尾張は…)


独立機動艦隊の旗艦の役目は紀伊が沈めば尾張、尾張が沈めば三笠と決まっていた。

つまり、紀伊が旗艦でなくなるなら尾張になるはず。

しかし、日向は三笠に仕事が回ると言った。

それが意味するのは一つだ。



「長官、やはり尾張は…」


日向は頷いた。

元々言うつもりではあったのだ。


「後でデーターを持って行かせる」


「はい、用はそれだけでしょうか?」


「炎樹はいるか?」


三笠の艦魂炎樹のことを日向が聞く。


「いえ、横須賀ですから多分、戦艦『三笠』を見に言ったんではないでしょうか?もう帰ってくると思いますが…」


「分かった。いないならいい。夜遅くに悪かったな」


「いえ、気にしないでください」


日向は通信を切ると少し目を閉じた。


(やることが山積みだな…)


少しだけ目を閉じたつもりだったが日向の意識は途絶えた。










サザアと波が紀伊に当たる。

紀伊の艦魂、凛は後部、飛行甲板で海を見つめていた。


「『尾張』は沈んだ」


日向の言葉は聞き間違いだと凛は自分に言い聞かせ昨日と今日は他の艦魂からは逃げ回るようにして過ごしていた。

だが2日たっても不安は拭いきれない。不安を拭うには日向に直接聞けばいいのだが怖くてそれができなかった。

だから、凛は待っていた。


「来た…」


夜の横須賀の軍港に巨大な艦が入ってくるのがレーダーを通じて凛は見た。


『大和』である。


凛は転移の光に消え次の瞬間、大和の艦魂、撫子がいる第1主砲の前に降り立った。

撫子も隠れるつもりはないらしく凛と相対した。

その顔はあまりにも悲壮に満ちた顔だった。


「凛様…」



(聞きたくない…聞きたくない…)


「撫子…一つだけ…答えてくれる?」


凛は心が聞くなと悲鳴をあげるのを感じながら一言一言を静かに声に出した。


「はい」


撫子は手を前に揃えて凛を見つめている。


(聞きたくない…聞きたくない…)


心が痛かった。


「明は…死んだの?」


ザザアと強風が吹いた。

撫子は髪が乱れても直そうとせず凛を見つめたまま


「はい、明様は…明は死にました」


残酷な言葉であった。

この世にこんな言葉があったのか…

未来の連合艦隊が壊滅し…桜が死んだ時も味わったあの感覚…いや、あの感覚以上の悲しみが凛を襲った。


「嘘…よね…冗談よね」


震える声で凛は言う。

だが、撫子は優しく、残酷だった。


「死にました。明は私が駆け付けた時にはもう…」


「撫子ぉ!」


バキ


凛は怒りの形相で撫子に飛び掛かった。凛の拳が撫子の頬に叩き込まれた。


「う…」


撫子は一瞬、よろめいた。

口からは切れたのか赤い血がツゥと流れる。

凛を見ると怒りの形相で彼女を見つめている。


「なんでよ!なんで明が死なないといけないのよ!明は!撫子!あんたが…あなたが…なんで…いながら…」


凛は目に涙を流しながら必死に手で涙を拭うが涙は止まることを知らなかった。撫子は凛を悲しげに見つめながら


「凛様…罪は私にあります。殴りたいなら気の済むまで殴ってくださって結構です」


「っ!」


その瞬間の凛の目を見た瞬間撫子は思った。


『憎悪』


自分に向けられるそれは決してここちいいものではなかった。

凛は撫子の着物を両手で掴んだ。


「なんでよ!なんで明が死ぬのよ!おかしいじゃない!なんであいつが…あいつが…」



凛は右手を再び振りかぶった。


「なんで!明を守ってくれなかったのよ撫子ぉ!」


拳は再び撫子に当たるかと思われたが凛の拳は横からの手に止められた。


「や、やめなさい凛!」


三笠の艦魂炎樹であった。


「うるさい!離せ!離せぇ!」


凛は暴れるが流石は歴戦の元帥『三笠』の艦魂である。

簡単には放さない。

「ね、ねえお姉ちゃん…な、なんで凛あんなに怒ってるの?」


炎樹と同じく大和が帰ってきたため大和に来た飛龍の艦魂弥生は姉の蒼龍の艦魂星奈の背に怯えるように回りながら言った。


「撫子、説明」


星奈は撫子を見て無表情に言った。


撫子は頷いた。


「明様が…亡くなられました」


「!?」


その場にいた艦魂達の目が見開かれる。

「う、嘘だよね?」


弥生は息が苦しくなるのを感じながら震える声で言った。

しかし、撫子は再び首をよこにふる。


「私は間に合いませんでした」


「明…」


星奈は悲しげに呟いた。

炎樹は凛を止めながら涙を一筋流した。

「離せ!」


「り、凛?」


凛の豹変振りに炎樹でさえ驚き手を離してしまった。

凛は後ろに下がると撫子を睨みつけた。

「あんたが…撫子!あんたが!明を助けなかったから!」


「待ちなさい凛!それは逆恨みよ」


炎樹が慌てて言うが凛は怒りの目を炎樹に向けた。


「じゃあ?敵は?明を殺したのは誰!」


「それは…」


炎樹は撫子を見た。撫子は答える。


「ドイツの機動戦艦トロンベです。艦魂の名前はラキアと言っていました」


「くっ!」


凛は転移の光に包まれる。


「凛!」


炎樹がとめようとしたが凛は光に包まれて消えてしまった。追い掛けよとしたが紀伊に行ったらしく転移は拒絶されてしまった。


「ああ、もう!撫子も撫子よ!もう少し言い方ってものが…」


「明を救えなかったのは私の罪です。ですから私を恨んでくれるのは構いません」


「そんなこと言ってるんじゃ…ああ、もういいわよ」


炎樹はハンカチを出すと撫子の口元の血を拭った。


「艦魂だからね。船体に傷がないからすぐ治るけど…」


「すみません元帥」



撫子が言うと炎樹はふっと笑った。


「私はこの時代の三笠じゃないわ。だから、元帥はいらない」


「はい…」


炎樹は次に泣きじゃくる弥生を胸に抱えながらぽんぽんと頭を撫でる星奈を見た。


「弥生は任していい?星奈」


「任される」


星奈はこくりと頷きながら言った。


「後の二人にも星奈から言ってくれる」

こくりと再び星奈は頷いた。


炎樹は微笑むと紀伊がある方角を見た。


「さて…どうしようかしらね…」


100年近く生きている炎樹でも簡単に解決できる問題ではなかった。


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