第184話 『三笠』『金剛』、過去思う
ルーズベルト達が尾張撃沈を知る暗号はオアフ島の山本五十六に当てられたものだった。
「大和は間に合わなかったのか…」
報告を受けて連合艦隊司令長官山本五十六が言った第1声であった。
山本は紙を灰皿に入れると火をつけて燃やした。
しばらく、炎を見ながら山本はため息をついた。
「どうかしたのか?山本?」
「む?」
山本が振り返るとそこには日本海海戦の頃からの知り合いである三笠の艦魂、炎樹が腕を組んで立っていた。
生粋の武人。
体は日本にありながら彼女はここにいる。
魂は三笠という戦艦に縛られている艦魂だが連合艦隊の艦が近くにいれば陸にも上がれる。
むろん様々な条件は付きまとうがここでは言わない。
「炎樹か…尾張が逝ったよ」
炎樹は一瞬、目を丸くしたがすぐに瞳を閉じるとそうかと呟いた。
「そうかか…お前らしいな」
山本が苦笑して言うと彼女は腕を組んだまま
「死は平等だ。どんなに強力な艦でもいつかは死ぬ。くたばりぞこないの私のように長生きする例外もあるがな」
「悲しみの言葉や怒りはないのか?」
「ないと思うのか?連合艦隊司令長官よ」
目を開きじっと山本を見る昭和の炎樹の目は真剣な瞳である。
思わず気圧されそうになる感覚を覚えながら山本は言った。
「そうだな…悲しみや怒りは持たない方がおかしい…」
「悔やまれるのは私自身が敵をとってやれぬことだ。敵うなら再び海を駆け、ナチスの戦艦と戦ってみたいものだ」
「敵うかもしれんぞ?」
「なに?どういうことだ山本?」
「言わなかったか?尾張や紀伊とタイムスリップしてきた戦艦の名は『三笠』」
「艦魂は違うだろう?」
「いや、お前と同じだそうだ」
「ほう、では私は二人いると言うことになるな?」
「そういうことだな」
「そうか、しかし、今はどうでもいい話だ。士官には話すが構わないな?」
そう言って炎樹は扉に向かう。
彼女のいう士官とは武蔵や金剛の艦魂と言った士官である。
駆逐艦や潜水艦の艦魂は含まない。
「ああ、いずればれるだろうがくれぐれも一般の兵にはばれぬようにな」
「分かっている」
そういいながら炎樹は転移の光に消えた。
炎樹が消えると山本は立ち上がった。
「南雲や小沢…宇垣達の一部には話さんといかんな…」
山本はそういいながら机の上にあったお茶を一気に飲み干した。
「暇じゃのう…」
戦艦日向の艦魂京子は自分の船体で座って空を見上げていた。先程までは兵が近くにいたのだが今は誰もいない。
すでに日向の改装は終わっていて船体にはジェット噴射機が取り付けられている。
ちなみに彼女は日本の危機を知らされていなかった。
日本の危機を知っているのは士官でもごく一部である。
大和がハワイを出港したのも表向きは沖縄で整備を受ける名目になっているが実際はかなり極秘に出撃している。
訓練という名目で武蔵や翔鶴といった戦艦や空母まで連れていったが武蔵や翔鶴はすぐに戻ってきた。
京子は大和は整備のため沖縄に戻ったと聞かされても納得できた。
大和の機関である核融合炉の整備は簡単ではないのを知っているからだ。
「うむ…暇じゃ…凛もおらんし…明もおらん…星奈も弥生もおらんなぁ…」
ぼーと空を見上げながら
(あれ?我の友達って未来の艦魂ばかりではないか?いかんかもしれんのぅ…)
なんて、友達について京子が考えていると
「京子…」
「ん?」
京子は声がした方を見る。
「姉上?どうしたんじゃ?我は今、休憩時間じゃから怒られる理由はないと思うがのぅ」
思わず京子が言ったのは彼女の姉であり戦艦伊勢の艦魂剣の顔が厳しいものであったからだ。
「な、なにを怒ってるんじゃ姉上?我は何も…」
「明が死んだ…」
「え…」
一瞬京子は剣が何を言っているのか分からなかった。
ぽかんと口を空けて姉を見つめる。
「す、すまん姉上…よく聞こえなかった…もう一度言ってくれ…」
聞こえてはいた。
たが、京子は聞き違いだと自分に言い聞かせて言った。
剣は妹を見ながら同じ口調で
「機動戦艦、尾張の艦魂明はドイツの機動戦艦に敗れ撃沈され死んだ」
「嘘じゃ!」
京子は激昂して立ち上がった。
周りに2人以外の艦魂達はいない。
剣が人払いしてあるのだ。
「事実だよ京子…明は死んだ」
「な、なんでじゃ?なんで死んだ…」
「あなたには撫子司令の配慮で話していなかったけど…」
京子は聞かされた。祖国が今どのような危機に陥っているのかを…
「なぜじゃ!皇国の危機ならなぜ連合艦隊は日本に戻らんのじゃ!なぜ…大和だけ…我達が行けば…明は助かったかもしれんのに…」
死にはなれない。
京子にとって身近な死は戦艦『山城』の艦魂奏以来である。あの時も辛かった。それと同じ感覚。
いや、無敵と信じ、別れる時もまた、会えると思っていた明なだけに悲しみは深かった。
「動いてはいけない。今、連合艦隊が日本に戻れば米軍は大挙してハワイに押し寄せる。守りのためにも動いてはいけない」
剣のいうことはわかる。
もし、連合艦隊が日本に戻り米軍が押し寄せればハワイを守り切るのは難しいだろう。
そして、今の日本にはハワイをもう一度取り返すだけの余力はない。
いや、奪い返すことは可能かもしれないが確実に後のドイツとの戦いに悪影響が出るのは避けられないだろう
「でも…でも我は納得できん…我は…う…うう…うわあああ!」
京子は姉の胸に飛び込むと涙を流して泣いた。
剣は何も言わず京子が泣き止むまで待ちづづけるのだった。
「そうですか…尾張が…」
「ああ、立派な最後だったそうだ」
金剛の艦魂柚子は炎樹に尾張の最後を聞かされると静かに瞳を閉じた。
「なあ、柚子…また、若い者が逝ってしまったな」
炎樹が言うと柚子は目を開き金剛の第1主砲にもたれ掛かり頷いた。
「はい、私のような老齢の艦魂ではなく…この時代には本来生まれてもいない艦魂がいくなどあってはいけませんね」
「代われるものなら代わりたいものだ。記念艦などいざという時なにもできん。海を駆けることができる柚子、お前が羨ましい」
「私に出来ることは多くありません。ですが必ず敵は撃ちます」
「言うようになったじゃないかお嬢ちゃんが」
「や、やめてください。昔の話しです」
柚子にしてはめずらしく赤くなっていうと炎樹は笑いながら
「ハハハ、そうか?だが、鈴も翡翠もみんな始めは純粋だった。だからこそ艦魂が死ぬのを見るのがつらい。私はこれからもずっと日本を見守り数々の艦魂の死を見届けて行くのだろう」
「はい」
「いずれはお前の死も見るだろうな柚子。解体か撃沈かはわからんが」
「私は日本海軍の誇りを持ったまま死にたいですね」
「ああ、私もだ…」
炎樹と柚子は互いに空を見上げながら別れて言った艦魂達の顔を思い浮かべていた。未来を思っても分からない。
この戦いの先にある未来は闇なのか光なのか…
だが、艦魂である彼女達は戦い続けるしかないのだ。
いかなる犠牲を払ってでも日本を守り抜く。
「そうだろ…みんな」
「…」
呟きながら空を見上げている炎樹を柚子はいつまでも見つめていた。
作者「うう…書きたくない…こんな暗い話書いてるのすごくつらい…」
桔梗「そやな…姉さんは間に合わんかったか…」
作者「日本の北海道の戦いはほぼ決着がついてますが満州になだれ込んだロシア連合との決着もついていません」
桔梗「まあ、陸戦や…期待はしてへんよ作者」
作者「ひどい…まあ、陸戦に限らず私は下手くそですよ…」
桔梗「ハハハ、最近いろいろ大変やからな艦魂」
作者「私が悪いんです…私が余計なことしたから…」
桔梗「ほな、艦魂会を脱退するんか?」
作者「いや、そこまでは…黒鉄先生に出ていけと言われない限りは所属しますよ」
桔梗「そうか」
作者「さて、次話を書くか」
桔梗「書いて編のか?」
作者「ん?基本はストックなしで書きますよ最近は」
桔梗「ええ心がけやな。仕事しながら更新速度もそれなりに維持したら、ほめたるわ」
作者「フフフ、音楽があれば小説かける!」
桔梗「ん?なんや?ああ、ジパングのサウンドトラックやな。勝ったんか?」
作者「サウンドトラックって高い…ある手段使えばただで…」
桔梗「阿呆!それは放送禁止や!」
作者「や、やってない!てか、ネット環境携帯だ…ぎゃあああああ!」
ズドオオオオオオン