第183話 合衆国の意地
尾張轟沈から6時間後。
まだ、そのことを知らない合衆国大統領ルーズベルトがいらいらした顔でトントンと人差し指で机を叩いていた。
彼の不機嫌の原因は言うまでもない。
ドイツ及び日本にの快進撃による敗北の数である。
すでにユーラシア大陸からアメリカ軍はドイツ軍に蹴散らされ、アフリカからも追い出された。
一方、太平洋では日本にハワイが占領されるという有様で誰が大統領でも苛立つ結果であろう。
最近ルーズベルトは怒りっぽくなっていた。
そんな時、彼の部屋をノックするものがいた。
ルーズベルトは扉を睨んで入れと言った。
「失礼します大統領」
入ってきたのはキング海軍長官であった。
ルーズベルトと同じように苛立ちが目立っている男だが今日は微笑みすら浮かべる有様であった。
「どうしたんだ長官?今度はどこが落ちたんだ…大西洋艦隊が全滅したか?」
ルーズベルトはキングを見ると言った。キングはにこりと微笑むと
「お喜び下さい大統領。モンスター戦艦尾張が仕留められました」
「何だと!」
大統領は立ち上がりたい気分だったが足が悪いので声だけでおどろきを表現した。
散々苦汁をなめさせられてきたジャップのモンスター戦艦を仕留めたと聞けば喜びもする。
「日本軍お得意の撹乱ではないのだな?」
念を押すようにルーズベルトが聞くとキングはにっこりして言った。
「ありえません。奴らの希望たるモンスター戦艦の一角が沈んだなどと言うはずがありません。そんなことをしてもジャップの士気は下がるだけです」
日本の暗号解読により分かったこと。
それは、ドイツの日本攻撃により尾張が沈没したということであった。
アメリカがあげた戦果ではないが無敵のモンスター戦艦と言われたジャップ戦艦が沈んだのだ。
こんなにうれしい事実はない。
それにドイツと日本が互いに潰しあってくれればアメリカは最終兵器原子爆弾の完成の時間が稼げるというものだ。
「もう一つ。今、ハワイにモンスター戦艦は一隻もいません」
「チャンスではないか」
ルーズベルトは言った。
「ハワイを取り戻すことができるんじゃないか?ジャップはナチの相手に忙しいのだろう?」
「しかし、未確認の情報もあります」
「というと?」
「満州でジャップの新型爆弾が爆発し巨大な戦果をあげたという報告が…数万の兵が消し飛んだと」
ピクっとルーズベルトの顔が引き攣った。
「冗談だろう?」
「確定情報ではありませんので…」
キングは本当に確定していなのでそう言った。
ルーズベルト大統領は頭を押さえながら
「もし、あれだとすれば大変なことだぞ…」
「大統領あれとは…」
ルーズベルトははっとした顔になり首を横に振った。
「いや、気にするな長官。ハワイ奪還だが可能か?」
キングは顔をしかめた。
「無理だと想います」
「どうしてだ?モンスター戦艦は日本に戻ったのだろう?」
ルーズベルトは不思議そうな顔で言った。
「戻ったのは大和のみです。他の連合艦隊はハワイに留まったままです」
「戻らないのか?何を考えているアドミラル山本…」
ルーズベルトは山本五十六が怖かった。真珠湾奇襲は実はルーズベルトがわざと成功させた罠であった。
日本を叩き潰す罠。しかし、いざ戦いが始まってみると日本は連戦連勝。
これは予想外だった。
第1次ミッドウェー海戦では日本海軍の正規空母4隻を海の底に沈め大勝利かと思ったがなんと日本海軍は新型戦艦。つまり、モンスター戦艦でパナマを強襲し破壊し、日本艦隊を追撃するスプルーアンスの機動部隊をジェット戦闘機と誘導ロケット弾により壊滅させ一時、アメリカの空母は太平洋から完全に消え去った。
つまり、ミッドウェーにおびき寄せられたアメリカ機動部隊は壊滅したのである。
4隻の正規空母を沈めても割に合わない。
それにあのモンスター戦艦は戦艦が航空機に勝てないという常識になりつつあった論を叩き潰し、アメリカの航空主兵論を後退させる原因となった。
そして、新たに編成した新機動部隊は日本を強襲しようとしたがこれもジェット戦闘機と連合艦隊に敗れた。
カウンターパンチに真珠湾に突撃してきた紀伊に基地施設をぼこぼこにされた上で逃げられた。
そして、ついにジャップはハワイ、ミッドウェーに押し寄せハルゼー超機動部隊を返り討ちにしハワイ、ミッドウェーを占領してしまった。第1次ミッドウェー海戦の正規空母4隻喪失は流石に山本も予想外だっただろうがこれまでのことが全て山本五十六の手の平で踊っているようにルーズベルトは感じられるのだ。
国民の感情も後1度大敗してしまえばもはや日本との講話も真剣に考えなくてはならないレベルになりつつあった。
つまり、次の戦いが日本とアメリカの最後の戦いとなる。
次の戦いに敗れれば大変なことになる。もし、太平洋艦隊が日本海軍に蹴散らされ大西洋艦隊がドイツ海軍に蹴散らされるという悪夢の先にあるのはアメリカの滅亡である。
日本はともかくドイツは本気で世界を統一する気でいるのは明白なのだ。
「勝つのだ長官…勝つ以外我々に未来はない。ジャップの連合艦隊と紀伊を沈めドイツ艦隊を蹴散らしてヨーロッパを取り戻すのだ」
「…」
キングは哀れな目でルーズベルトを見た。
もはや、この状況で日本と戦いつづけることは愚かとしか言えない。
いや、皆分かっているのだ。
日本と休戦しドイツと戦うことこそ未来が開ける道だと。
日本と組めばうまくやればモンスター戦艦の謎も解け技術援助もしてもらえるかもしれない。
だが、出来ない。
アメリカは勝ち続けなければならないのだ。
意地といっていい。
「所で長官。太平洋艦隊だが…」
「はい、再編は順調に進んでいます」
ルーズベルトは頷いた。
「聞かせてくれ」
「はい、ジャップの誘導ロケット弾に対抗しうる最新鋭の装備を備えた戦艦『アンドロメダ』級を中核とする艦隊の再編は進んでいます。例の兵器も各艦に積んでいます。ジャップの誘導ロケット弾はくず鉄とかすでしょう」
「ふむ」
ルーズベルトは満足そうに微笑んだ。
「空母はどうなっている?」
「はい、甲板をジェット戦闘機シューティングスターに対応したエセックス級正規空母5隻が太平洋にいます」
「少ないじゃないか。情報ではジャップの空母は10隻以上だと聞くぞ」
「大丈夫です。大統領。エセックス級は続々と太平洋に現れるでしょう。アンドロメダ級も完成次第太平洋に回します」
アンドロメダ級はある装備と46センチ砲を備えた戦艦であった。
モンスター戦艦の登場により危機感を覚えたアメリカはパナマ運河の拡張工事をし46センチ砲搭載艦をパナマを通じて太平洋に回すことについに成功した。
「では、ジャップを迎え撃つ提督は誰にする?」
「ハルゼーに任せようと思いますが」
「ハルゼーだと?あのブルドッグにジャップの相手が務まるのか?」
ルーズベルトはハルゼーが日本艦隊との戦いで対した戦果をあげていないので不信感を持ち始めていだがキングは逆であった。
「ハルゼーはジャップに負けています。しかし、モンスター戦艦との戦いの経験はスプルーアンスと並び多いのです」
「スプルーアンスはどうした?」
ルーズベルトはコーヒーのマグカップを口に持っていきながら言った。
「スプルーアンスは大西洋にやりました。ドイツとの戦いであちらは戦死が目立ちますからスプルーアンスのような男が必要なのです」
「それでハルゼーか?まあ、いい。で?日本艦隊との戦いはどうするんだ?」
「物量作戦しかありませんね」
「というと?」
「陸海の圧倒的な数の航空戦力でジャップ艦隊を叩くのです。奴らは空母という小さな箱しかありません。逆にこちらにはアメリカという超巨大空母があります。数では我々は負けません」
「だが…モンスター戦艦は不可解な…バリアだったか?があるのだろう?それにシューティングスターは魚雷をつけられん。ロケット弾では戦艦はしずまんぞ?」
「それはアヴンジャー雷撃機やヘルダイバーなどを合わせて使うしかありません。シューティングスターはあくまでジャップの航空機を相手にするのです」
「航空機では戦艦には勝てんぞ?」
紀伊やラグナロクの出現によりこの世界に与えた影響は大艦巨砲主義の復活というものだった。
戦艦には戦艦を。つまり…
「分かっています。大統領。我々は航空機でジャップの戦力を削れるだけ削って最後は艦隊決戦を挑みたいと考えています」
「艦隊決戦…パワー&パワーか…すさまじい戦いになるのだろうな…」
「はい、未確認情報ですが奴らは51センチ砲搭載の戦艦を戦力化したという情報もあります」
「だが、大半は旧式戦艦だ?違うか?」
ルーズベルトの問いにキングは頷いた。
「長門、陸奥、金剛…どれも旧式ですね」
「しかし、恐ろしいのはやはり…」
「大和、紀伊、三笠、尾張、このいずれかは沈んだはずですが依然モンスター戦艦の脅威は残ります」
「やはりいまいましいな…なんという恐ろしい名前なんだ」
「よくありませんね…兵士達の中にはジャップのモンスター戦艦は神の国から来た神の戦艦だというものもいます」
「ハハハ!神の国か?馬鹿馬鹿しい。いっそ奴らは未来から現れた戦艦だという方が納得できそうだ」
「…だとすれば我々に万が一にも勝ち目はありませんな…奴らは未来を知っていることになります」
「冗談だよ長官。忘れるんだ。君はスチムソンと打ち合わせしてジャップ艦隊とナチ艦隊を破ることだけを考えてくれ。合衆国は負ける訳にはいかんのだ」
「はっ!」
「未来か…未来に我が合衆国は存在しているのか…教えて欲しいものだ…」
キングが去り一人になったルーズベルトは静かにつぶやいて言った。
作者「尾張が…明様の死の影響はアメリカにも出だした訳ですね」
エリーゼ「私達の未来では三笠はタイムスリップしませんでした。日本海軍の希望となったのは『紀伊』『大和』そして、尾張」
作者「…」
エリーゼ「今回の作戦により日本海軍の邪魔となる艦の一隻は消えました」
作者「…」
エリーゼ「こちらにはフリードリッヒ・デア・グロッセ、ラグナロクなどを始めとしてアメリカを始めとする各国から滷獲した艦を改造した大艦隊が整備中です」
作者「その規模は?」
エリーゼ「独立機動艦隊を抜いた日本連合艦隊をも上回る戦力です」
作者「駄目だ…絶望しか見えない…」
エリーゼ「言ったはずです。日本に万が一にも勝ち目はありません。紀伊、三笠がいなくなればあなたたちの希望は潰えるのです」
作者「ずるいぞ!未来を知ってるなんて」
エリーゼ「あなたがやったんですよ」
作者「しまったぁ!」
エリーゼ「感謝しましょう」
作者「ひっ!なんで感謝が砲…ぎゃあああああ!」
ズドオオオオオオン