第180話 絶望の砲弾『烈空弾』
「被害報告!」
ベルンハルトは衝撃に一瞬前のめりになりながらも叫んだ。隣にラキアはいない。
彼女は主砲の上にいるのだ。
ラキアは主砲の上で右手から血を流しながら憎悪に満ちた目ではるか彼方の尾張を睨んだ。
普段の彼女から想像もできないような変わりよう。
戦場は人を…いや、人と艦魂を変えてしまう狂気の場所である。
となりを見ればローレライの前部から炎が巻き上がっている。
あれではアテナ確実に軽くない怪我をしているだろう。
「よくも!ジャップの分際で!私をぉ!」
戦場においてやられればやり返す事例はいくらでもある。
ラキア痛みと胸の奥からまきおこる憎悪を返すため左手に持ち替えた西洋式の剣を肩に担ぎあげた。
「右舷第2ミサイルランチャー及びチャフロケット破損、第6CIWS故障!火災発生!」
「アイギスシステム再起動まで300秒!」
(なるほど、天城の烈空弾か)
ベルンハルトは兵士達の報告を聞きながら思った。
判断は一瞬。
(残念だったな天城、君は自分の作った烈空弾に敗れるのだよ。こんなに早く実用化にこぎつけたのは予測できなかった。私のミスだ。だが、我がトロンベを傷つけた代償はつぐなってもらう!)
すでにトロンベの前部三連装主砲2基は尾張に向いている。口径は46センチ砲。古めかしいスタイルだが砲は速射砲である。
その中に装展されている弾の名は
『烈空弾』
「撃てぇ!」
ズドオオオオオオン
轟音を立ててトロンベから主砲が放たれた。
尾張との距離5万
「敵艦発砲!」
尾張のCICでは烈空弾がアイギスを破り命中し、火災が起こっている機動戦艦を確認し喜びを見せる暇なく兵が緊張した声で叫んだ。
烈空弾は残り3発。一撃で仕留められない相手な以上無駄に使う訳にはいかない。
「アイギスを展開せよ」
椎名はバリアを張ることを選んだ。
舵をとる選択しはあったが速度を一時落としてでもまっすぐ機動戦艦に接近すり最短の航路をとったのだ。
敵のバリアを破った以上さらに接近し至近距離から砲弾を叩く。
レーダーの砲弾を示す光点が尾張と重なった。
それは明も見ている光景だ6つの砲弾がこちらに飛んで来るのが薄紫のアイギスの中からでもはっきり見える。
もちろん外は闇であるが尾張は赤外線やレーダーを通じて闇の中の目を持っている。
艦魂である彼女も当然見えるのだ。
(無駄よ)
明はなぜか時間がゆっくり過ぎていくような妙な感覚に陥っていた。
砲弾がやけにゆっくりに見える。
貫けるはずがない。仮に敵に烈空弾に並ぶものがあってもドーバー海峡の戦いではそれを確認できなかったではないか。
(大丈夫…大丈夫よね…凛…)
アイギスと砲弾が激突する。
その砲弾の周囲には薄紫のアイギス。
「なっ!」
明が叫んだ瞬間砲弾はアイギスを抜け尾張の艦僑に巨大な穴を開けた。
「うわあああ!」
胸をえぐられるような痛みを明は感じた。
遥か北の海。北海道で凛は嫌な予感にかられて南の空を見た。
「あき…ら?」
凛の見る先は闇。
未来の紀伊とて見渡すことの出来ない遥か南にいる妹の名を凛は口にした。
エリーゼ「さよならです明」
凛「え…あ…き…ら?」