第176話 絶望の中の決意
尾張のCICで椎名は黙って電子機器を見つめていた。
予想では後、1時間で敵艦隊との交戦エリアに入る。
トマホークの撃ち合いになる訳だが機動戦艦相手では相手の足を鈍らせるぐらいの効果しか得られない。
それに尾張は核融合炉に異常をきたしていた。
本来なら修復すべき場所だが時間が足りなかった。
全力航行をすれば何が起こるか分からないのだ。
従って尾張は最大の70ノットではなく50ノットで敵艦隊を目指していた。
アイギスを使えば速度は更に落ち30ノットになる。
この時代の改装前の空母よりも遅くなってしまう訳だ。
最終防衛ラインぎりぎりの状況でそれはできない。
日独両航空戦力も損害が激しく今は空に戦闘機はいない。
元々、基地防空に重点を独立機動艦隊は置いていない。
ほとんどのパイロットは『蒼龍』などに配備されているのだ。
アメリカと戦うだけなら神出鬼没の空母の航空戦力で十分だった。
しかし、未来のドイツが現れた以上はそうもいかない。
この戦いで尾張が破れれば琉球基地は間違いなく壊滅するだろう。
それだけはさせてはならない。
「孝介」
そんなことを考えているとCICの薄闇い部屋の中に光の粒子が集まり日本人形のような少女が現れた。
少し顔色が悪いのはやはり核融合炉に異常があるからだろう。
「どうかしたのか明」
誰もいない空間に話かける椎名を訝しがるものはいない。
『艦魂』、その存在を皆見えなくても知っているのだ。
「えっと…」
明はなぜか周りを見ながらいいにくそうに
「少し部屋の外に出れない?」
「何?戦闘中だぞ今は」
「少しでいいの。10分…5分だけでいいから…」
「…」
椎名は霧島を見た。
「どうか致しましたか艦長?尾張が何か…
「霧島、10分だけ指揮を頼む」
「はっ?」
霧島はぽかんと口を開けた。
唖然としたと言っていい。
艦長が戦闘中に席を外すとは。
確かにミサイルの射程外で航空機の反応はないとなればさしたる脅威はないが…
「それほど重要なことなのですか?」
「もちろんだ。艦をできるだけ最善にしておくのも艦長の仕事だよ」
「…分かりました。指揮を変わります」
「すまん」
椎名は席を立つとCICの鉄の扉を開くと明と出ていった。
10分と言ったが流石にCICか遠くまで離れる訳にはいかず椎名は近くにある部屋に明と入った。
そこは何も置いていない部屋だった。
機動戦艦という巨大戦艦だからこそ許される空き部屋だ。
「体は大丈夫か明?顔色が悪いぞ」
「これぐらい大丈夫…時間がないから簡単に言うわね」
「うむ」
椎名は頷いた。
明はそれを見てから
「孝介、あなたこの戦いに勝つ自信ある?」
「もちろんだ」
「嘘ね」
明は椎名の言葉を一刀両断する。
「なぜ、そう思う?」
長く生きてきた証、シワだらけの顔を明に向けながら椎名が言うと明はため息をついた。
「孝介は非情に徹しきれないから…」
「どういうことだ?」
「孝介。この戦いで私のことを頭から排除して戦って」
「何?」
椎名は訳が分からないと言った顔で彼女を見た。
「艦魂が見えるほとんどの艦長の最大の弱点は戦闘中に艦魂のことを考えてしまうことよ。艦僑にミサイルが命中したら艦魂が頭を怪我をしたとかね」
「私がそれを考えていたとしても…」
「ドーバー海峡の戦い。フリードリッヒ・デア・グロッセのミサイルが炎樹姉さんに落とされる直前あなたは何を考えた?」
「む…」
(ここまでか…すまん明)
考えたのは明のこと最後の最後まで諦めてはならない艦長がだ。
「明のことを考えてたな」
「それは嬉しくもあるけどね」
明はくすりと微笑んだ。
明が椎名に抱くのは恋ではない。
純粋な尊敬の気持ちと友情だ。
艦魂と人間の間には様々な絆がある。
『恋人』『憧れ』『親友』。
「孝介。私は死なない。死にたくないの。国連軍との戦いで散っていった命長官達のためにも…凜との約束を果たすためにも」
「約束か…どんな約束だ?」
「簡単よ」
そういいながら明は紀伊が出撃する時を思い出していた。
「死ぬんじゃないわよ凜」
他の艦魂が自分の艦に戻り明と凜だけになった部屋で消えようとしていた凜に明はそんな言葉をかけていた。
案の定、凜は訝しがった。
「当たり前じゃない。何のつもりよ明」
「たまにはお姉様にご健闘を見たいにいいたいだけよ」
「はぁ?」
凜は意味が分からないといった顔で明を見る。
そして…
「ま、まああんたも早く体治しなさいよ。べ、別に心配してる訳じゃないんだからね」
「ベタなツンデレね…一昔の秋葉オタクが見たら大喜びよ。あ、ここでは未来ね」
「つ、ツンデレじゃないわよ!喧嘩売ってるの!」
凜は顔を真っ赤にして怒った。
明はそんな彼女を見ながらなぜか抱き着いた。
「ちょ、ちょ!何よ明!」
凜はばたばたして逃れようとしたが無駄だった。
そして、明はすぐに彼女から離れた。
「何なのよ…」
凜は服をパンパンと叩くと明を見た。
「日向長官の予想だとこのタイミングでドイツは機動戦艦でここを強襲してくるわ。北海道にいる機動戦艦ももしかしたらエリーゼって奴かもしれないわね」
「だから何よ?私達は勝つだけよ。違う?」
「そうね…勝てるのよね…私達…」
「明?今日はどうしたのよ?おかしいわよあなた」
顔色が悪いのも助けて少し俯いている明を見てさすがに凜も心配そうに声をかける。
「なーんてね!」
「へ?」
「引っ掛かったね凜!べつに私はあんたなんか心配してないわよ。さっきのは慌てるあんたを見たかっただけ」
「あ、明ぁ!」
鬼のように顔を真っ赤にする凜。
明はアハハと笑いながら凜から距離をとった。
「この続きは帰ったらね。約束よ」
「うう…」
凜は時間を見てしぶしぶ頷いた。
紀伊の出港する時間だ。
「帰ってきたら覚えてなさい明!」
そういって彼女は消えた。
明は消えた空間を見ながら頷いた。
「そうね…約束よ姉さん」
「ハハハ!喧嘩の約束か?お前ららしい約束だな」
「いいじゃない別に」
「心配はいらん。その約束は必ず守らせる」
「非情に徹して…」
「いらん。私には私のやり方がある。お前のことを考えた上でドイツ艦隊を撃破してみせる」
「それじゃ意味が…ふー、もういいわそれで。死んだら孝介恨むからね」
「生き延びるさ。中国との戦争でも生き残った私の運を信じろ明」
「期待していいのかしら?」
明はうーんと目を潰って考えながら槍を手に持った。
そして、後ろを振り返り
「孝介愛してるわ。友としてね」
「そういう意味では私も愛しているよ明」
明が光の粒子となり消える。
椎名もまた己の戦場へ戻るため扉を開いた、
生き残るために
作者「なんていうか明様がヒロインみたい」
明「やっとわかったの?」
作者「何気に椎名に自をだしてたな…」
明「元々孝介は知ってるわよ」
作者「ほほう…では私には仮面を被った明様モードを」
明「やってあげようか?」
作者「まじ!ひゃっほーう!」
明「あら、草薙様。どうかなされたんですか?」
作者「おえ〜きも」
明「ふっとびやがれですわ草薙様」
作者「ぎゃあああああ!」
ズドオオオオオオン
明「それでは皆様ごきげんよう」