第167話 激突! アウトレンジ戦法
タンと音を立てて近江の艦魂零は51センチ砲の上に降り立った。
表情は無表情だがどことなく厳しい印象を受けるのは決意の証だった。
日本の守護神たる自分の使命と敵艦の願をかなえる決意だ。
時刻は黄昏れ時である。
茜色の空が闇に染まっていく海の彼方に日本を脅かす存在が見えた。
「必ず守ります」
零は日本刀を抜くと遥か彼方のスターリンへ向けた。
近江は50ノットの高速で敵艦隊との距離を詰めていた。
狙いはレーダー射撃によるアウトレンジ攻撃だ。
数に劣る近江が突っ込んでも魚雷のいい的になってしまう。そのため森下はアウトレンジ攻撃を選んだ。
「敵艦との距離5万!間もなく最大射程に入ります」
森下は頷く。
「最大射程で砲撃始めろ」
「了解!」
敵艦との距離が4万9千になった瞬間森下は怒鳴った。
「取り舵いっぱい!」
「取り舵いっぱい!」
兵が復唱し近江のジェット噴射が止まり艦が砲を使える向き。つまり横向きになる。
単艦なので少し違うが後、何艦かいれば東郷ターンになっていた。
ビービー
主砲発射の警報が鳴り響き機銃の兵達は艦内に飛び込む。
ゴウンゴウンと巨砲が上に傾いていく。仰角を最大にして砲を放つのだ。
当然装填されているのは対空用の三式弾ではなく対艦用の砲弾である。
ズドオオオオオオン
艦が少し傾き51センチ砲9門がロシア連合艦隊に向かい斉射された。
すさまじい爆風が近江の甲板を揺らした。
バタバタと髪を揺らしながら零は刀を振り下ろしていた。
「敵艦発砲!」
「この距離でか!」
スターリンの艦長は仰天した。
何しろスターリンの砲の射程は4万5千。敵は4万9千で撃ってきたのだ。
「馬鹿ですね当たるわけないのに」
参謀が馬鹿にしたように言った。
「こちらは最大射程で砲撃を始める。距離4万…」
ヒュルルルルルルル
その時、スターリンの艦長は腹の底に響くような嫌な音を聞いた。
そして…
ズドオオオオオオン
「うお!なんだ!」
突然の爆発音に彼は再び仰天した。
「駆逐艦キエフがやられました!轟沈です」
報告を聞くとスターリンの艦長は冷や汗を書いた。
「う、撃ち返せ!」
「まだ、距離がありすぎます!」
「馬鹿もの!撃て!命令だ!」
「了解…」
兵はスターリンの艦長の命令を忠実に実行に移した。
そして…
ズドオオオオオオン
スターリンの46センチ砲6門が火を噴いた。
近江と違い進みながら撃ったので前方の砲しか使えないのだ。
アリシアはバタバタと爆風でなびく髪を押さえながら嫌悪の目で艦僑を見上げてつぶやいた。
「ロシア人に私は使えない…」
こんな戦いが自分の最後の戦いになるとは…
アリシアは先程轟沈したキエフの方を見た。
ロシアの駆逐艦だ。哀れだと思うかと聞かれれば哀れだだとアリシアは思う…彼女達も奴隷なのだ…死によってしか解放されない…
アリシアは再び近江の方を見ると遥か彼方に水柱が見えたが当たらなかったようだ。
当たる訳がないが…
パッと近江から光が見えた。
アリシアはその砲弾が自分に突き刺さることを心より願っていた。
「早く私を殺して…ロシア人から…ドイツから私を…」
ズドオオオオオオン
今度はスターリンの後方400メートルを航行していた重巡が消し飛んだ。
当たらなかった弾は巨大な水柱を作り他の艦の甲板に雨を降らせる。
ズドオオオオオオン
再びスターリンが悲鳴をあげるように発砲した。
「馬鹿なことをする奴らだ」
次々近江の遥か前方でできる水柱を見ながら森下は言った。
「きっと怖いんでしょう。近江が命中を出し向こうは完全にこちらの射程に入っていると気がついたんですから」
副長がうれしそうにいう。
アウトレンジ戦法は正直あまり褒められる戦いではないが元々、大和などはアウトレンジ戦法をするために作られた戦艦なのだ。
当然大和の姉妹艦である近江もコンセプトは同じである。
優秀なレーダーを積んでいるため命中率も格段に高い。
もっとも、今はスターリンを狙って他の艦に命中している有様であったが…
「敵艦隊との距離4万5千」
水柱が次第に迫りつつある。
「艦長そろそろ」
「そうだな。砲撃をやめ!ジェットエンジン始動!これより近江は突撃する」
ビービーとジェット噴射の警報が鳴り響き兵達は慌てて何かに捕まった。
戦闘時の森下の操艦の荒さは有名だからだ。
ドーンと青白い炎が湧き出て近江は連合艦隊へ突撃を開始した。
前回までのあらすじ。
合格本島への特攻を目指す戦艦草薙であったが作者は大怪我をおってしまった。そして…
作者「う…」
加藤「気付きましたか艦長」
作者「こ、ここは…」
加藤「ドッグ艦の中です。今、草薙は修理を受けています」
作者「むう…そうか…」
加藤「今はお休みください」
作者「そうさせてもらう…」
作者眠る(生きてます)