第16話 ブラックコーヒーとチョコレート−戦艦『尾張』
ハルゼー艦隊が日本連合艦隊と激突するより少し前。
スルプーアンス率いる機動部隊は真珠湾より北へ進路を取った後東京を目指して進んでいた。
ハルゼー艦隊はスルプーアンスとは逆に南から呉を目指す振りをしているはずで少しスルプーアンスの艦隊よりも早く真珠湾を出港し1日の時間が置かれている。
「レーダーに反応はないか?」
正規空母ヨークタウンはエセックス級空母の2番艦である。
真珠湾に戻る途中に日本軍の潜水艦に沈められたヨークタウンの名を受け継いだ
空母で今回スルプーアンス艦隊の旗艦をつとめていた。
「反応はありません」
と兵士がスルプーアンスに言葉を返すとスルプーアンスはいささか神経質に
「警戒を怠るな!特に敵の航空機には細心の注意を払うんだ!」
「はっ!」
スルプーアンスは敗軍の将である。
ルーズベルト大統領の無謀ともいえる日本艦隊追撃の司令を務めたが逆に敵のジェット戦闘機の攻撃で空母を全て失うという大敗北を喫した。
今回の日本攻撃に対してもスルプーアンスは反対だった。
航空機は確かにそれなりに揃ってはいるが軍上層部はジェット戦闘機の力を過小評価
しすぎている。
東京空爆などはっきり言ってリスクが高すぎるのである。
大統領はアメリカは勝っているのだということを国民に知らしめるためにドリットルの東京空爆と似たようなことをさせようとしているみたいだが成功すれば確かに効果はあるだろう。
しかし、失敗すれば再び復活したばかりの機動部隊は壊滅してしまうだろう。
やはりここは真珠湾で戦力を整えつつがっちりと日本艦隊の攻撃に備え
攻撃できる戦力が整ったら全艦隊でガダルカナルに押し寄せるのが言いと思うのである。
それは太平洋艦隊司令官ミッチャーにも進言したのだが作戦は強行された。
従ってスルプーアンスは敵の襲来に備えていた。
「私は反対なのだ…」
「やはり長官もですか?」
スルプーアンスの隣に立っていた参謀長が言った。
彼はスルプーアンスと同じく追撃戦で地獄を見た男だった。
スルプーアンスはため息をつきながら
「大統領はジェット戦闘機の力を過小評価しすぎている。10機程度なら数で押し切れるだろうが量産されていたら我々は全滅してしまうかもしれない」
スルプーアンス艦隊には航空機が900機あるが全てレシプロ機であることからスルプーアンスは不安を隠しきれなかった。
「私も同感です。しかし、もはや引き返すことは出来ません」
「うむ」
スルプーアンスはうなずいた。
彼とて合衆国海軍の軍人である。
作戦が発動された以上完遂するつもりでここにいた。
「量産がされていなければよいのだが…」
スルプーアンスは小さくつぶやいたがその声が誰かに届くことはなかった。
第2機動艦隊は機動戦艦『尾張』を中核として原子力空母『加賀』を伴いスルプーアンス艦隊を撃滅すために日本東海岸から1000キロの地点を40ノットの高速で突っ走っていた。
最大戦速は70ノットを越える尾張だが核融合炉を積んでいない『加賀』を伴っているため
速度を落として航行している。
原子力空母加賀は最大で55ノットを出せる。
この時代では化け物のような速度だが巡航速度では40ノットほどである。
このような化け物のような速度の2艦に常時ついていける艦船は独立機動艦隊以外には
存在しないので駆逐艦などは随行していない。
変わりに2艦の周りにはシーホークヘリコプターが対潜警戒を行なっている。
すでにシーホークは数隻の潜水艦を撃沈しており通信なども許してはいない。
どうやらアメリカ軍は太平洋に潜水艦を今は集中配備しているようでシーホークは油断の
出来ない状態が続いていた。
トントンとノックする音が聞こえたので尾張艦長、椎名 浩介は入れと扉に声をかけた。
「失礼します」
と入ってきたのは参謀長の霧島 渉であった。
「コーヒーをお持ちしました艦長。それと、これは頼まれていた敵の艦船のデーターです」
マグカップを椎名の前に霧島は置いてからポケットからUSBを取り出すと椎名に渡した。
「ああ、ありがとう」
椎名は最低限の言葉を霧島に言ってからUSBを机に備え付けられているパソコンに差し込むとデーターを閲覧しだした。
ここは機動戦艦『尾張』の艦長室である。
対潜警戒でCICやシーホークのパイロット達はそれなりに忙しいが椎名達のような
トップはそれほど重要なことはないのであった。
作戦目標であるスルプーアンス艦隊も未だにレーダーに捉えられはいないため2人が艦橋にいる必要はないのである。
「では、失礼します」
「うむ」
霧島が艦長室を出て行く。
椎名 浩介という人物は最低限の言葉しかしゃべらない老人である。
そのため若い年齢の多い独立機動艦隊の兵士達は彼を苦手とするものも多いのである。
誰もいなくなった艦長室で椎名はコーヒーを飲もうとパソコンに目を向けたまま手を伸ばすがその手は空を切った。
「むっ?」
あるはずのコーヒーがない?
椎名は顔を上げるといつ現れたのか壁にもたれかかり椎名のマグカップを口に運んで
苦いのか嫌そうな顔をした13歳くらいのショートカットの少女がいた。
「砂糖ならそこの棚にある。シロップはそこの引き出しの中だ」
椎名はいきなり現れた少女に驚いた様子もなくいつもの口数少なく、しかし、少し穏やかな口調で言った。
「早く言ってください浩介…」
少女はコーヒーを飲むのをやめたらしくマグカップを椎名の前に戻してから口直しとばかりに艦長室に備え付けられた冷蔵庫を開けると板チョコを取り出して口に放り込んだ。
「勝手に飲もうとした明が悪い」
と椎名は言ってからコーヒーを口に運んだ。
もちろんブラックコーヒーである。
「あなたのものは私のもの私のものは私のものという決まりがあるのですがそれはいりません」
と、少女はぱりぱりとチョコレートを食べていく。
「唯我独尊的な考え方だな」
「当然です。私はこの船で1番偉いんですから」
と明は言った。
「紀伊は明ように唯我独尊ではなかったはずだが?」
「凜は素直でないだけです」
彼女の名前は『尾張』、真名は『明』という艦魂である。
全て自己中心的に考える天上天下唯我独尊の艦魂である。
「なるほど」
と椎名は言ってから再びパソコンに目を向けた。
「もう少し気の利いたジョークとか言えないんですか?」
「私にそのようなことを求めるのは無駄なことだ。霧島に姿見せでもすればどうだ?」
「彼は考え方が嫌いですから」
と明は言いながらチョコレートの最後のひとかけらを口に放り込んでから再び冷蔵庫を
あさろうとしたが…
「チョコレートはここにあるのはさっきので最後だ」
と、椎名が言うと明は
「ならすぐに持ってきてもらってください10個くらい」
「…」
椎名は黙って机においてある受話器に手を伸ばした。
ちなみにこの後怪訝な顔をした兵士が箱一杯のチョコレートを持ってきたのだが
椎名はその兵士の目を痛いと思いながらむっつりとした顔で仕事に戻ったのだった。
その横で明は幸せそうにチョコレートを食べていた。
凛「ついにあいつが出てきたわね…」
明「あら?あいつって私のことかしら凛?」
凛「!!!!!!!!!!!!!!」
明「何よ?そんなに私に会えたことがうれしいわけ?」
凛「そんな訳ないじゃない!消えなさい明!」
明「嫌よ。なんで私が消えないといけないの?」
凛「うるさい!早く消えなさい!」
明「や〜よ。私も今回から後書きに出るんだから」
凛「なんですって!恭介ぇ!私に何も言わないで」
明「さて、次回予告ね次回はこの尾張こと明様の私生活を…」
凛「しないわよ!次回はスルプーアンス艦隊との激突でしょ!」
明「ご意見・感想お待ちしてます♪できれば私に対する評価とかも…」
凛「しなくていい!」
作者「もうめちゃくちゃだ…」