第151話 『大鳳』と『近江』
連合艦隊の勇者達がいないこの日本を守れるのはわずかに残った艦艇と自分だけ。
彼女は高速で動く空母『大鳳』の甲板で敵のいるロシアの方角を見つめていた。
肩までの黒い髪は風でパタパタと揺れていた。
服装は日本海軍の軍服である。
彼女は『大鳳』の艦魂である。
真名は…
「…ここにいたの奈菜?」
大鳳の艦魂が振り返るとそこにいたのは大鳳を守るように航行している近江の艦魂『零』だった。
あまり表情を出さない零であるが就航した後に呉に来たとき彼女はよく面倒を見てくれた。
「零さん」
大鳳の真名は『奈菜』。真名とは親しい間柄や同じ存在にしか呼ぶことを許されない艦魂達にとっては特別な意味を持つものだ。
奈菜はびしっと敬礼する。
「…うん」
零は少し怯んだようにしながらも敬礼だけを返した。
実は奈菜は規律を遵守する艦魂であった。
金剛の艦魂柚子や長門の艦魂鈴辺りが指導に当たっていればよかったのだが2人とも
今はハワイにいる。
従って2ヶ月早く生まれた零が彼女の面倒を見ることになっていたのだがなんというか零は彼女のことが苦手だった。
零があまり人と話さないことも問題がある。
「?どうかなされましたか零さん?」
「…なんでもないです…」
少しうつむき赤くなりながら零は言った。
正直こういうときどういえばいいのか分からない。
初めての実戦に赴くことになった奈菜に一体自分は何を言えばいいのだろうか…
仲良しの青羽 淳一や近江の艦長の森下にも相談してみたが2人とも笑いながらそういうことは相手と話してみればいいんだよとしか教えてくれなかった。
だから、会いに来た訳だが…
「…ここで何してるの?」
「海を見ていました。この海の彼方に天皇陛下や皇国を滅ぼそうとしている悪魔がいるのですね」
奈菜の目は力強い目だった。
日本を守る。
その使命に誇りを持っていることを短いが接している零は知っていた。
日本が攻撃を受けているなど奈菜にとっては許しがたいことだろう。
零はこくりと頷いた。
「許せません。私の艦載機で返り討ちにしてやります」
「初陣なんだから無理はしないほうがいいと思います…」
零が無表情で言うと奈菜は首を横に振った。
「とんでもない!私は零さんのように戦艦ではありませんから敵が見える位置にまで行くことはありませんが命を懸けて戦います。私の命と引き換えにしても敵を葬ります」
零は再び首を横に振った。
「駄目。生きて返らないと行けないです…」
「しかし…」
「駄目」
なおも何かいいたそうにする奈菜を零はその無表情な黒い目でじっと見て言葉を封殺する。
「分かりました…」
納得はしていないだろうが一応返事を返してくれた奈菜。
基本的に上官には忠実な性格なのである。
近江といえばドイツの未来戦艦を打ち破った英雄として日本に残った艦魂達に見られていた。
ハワイには当然このことは伝わっており姉の大和の艦魂撫子、武蔵の艦魂桔梗達も彼女のことを誇りに思っていた。
「…」
「…」
しばらく無言の2人。
奈菜は基本的に言葉受ける側だし零にいたってはどちらもあまりしない。
これでは会話が成り立たない。
「…」
「…」
ただ風だけが2人の髪と軍服を揺らす。
近江、大鳳はジェットエンジンで全速で北海道へ向かっているので風がすごい。
「…」
「…」
いつまで続くのか分からない無言地獄。
まさか、敵が現れるまでずっと続くのかと2人が思い始めていた時
「なんだ?なんで女の子がこんなところにいるんだ?軍服なんか着て」
2人が振り向くとジェット戦闘機のパイロットに義務付けられている耐Gスーツを着た
男が立っていた。
年は20代前半ぐらいで髪はスポーツ刈りであった。
不思議そうに2人を見下ろしている。
「私達が見えるのか?」
奈菜が目を見開いて言うと男は首をかしげた。
「あ?当然だろ?見えるってお前ら幽霊とでもいうのか?」
「…当たらずも遠からずです」
「げっ!まじか!お前ら幽霊なのか」
零がいうと男は一歩下がった。
この頃の日本軍は女性の軍人の採用を行っていたがまだまだ、復旧はしていない。
それがジェット戦闘機パイロットと鳴ればなおさらで連合艦隊の艦にも女性はまだ、乗っていなかった時代である。
読者の方なら分かるはずだが護衛艦などは女性が乗っていない。
トイレや風呂など様々な問題が付きまとうのがその理由である。
大鳳は新型空母なのでそういう設備を取り付けることは可能であったが今回は見送られていた。
実際女性パイロットの育成は行われているのだがまだまだ実戦で使えるレベルではないというのが実情だった。
パイロットの育成には膨大な時間と金がかかるのだ。
そういう理由もありこの大鳳に女性が乗っているわけがないという結論に男は達して
女性=幽霊と見たのかもしれなかった。
零はそれを首を横に振りながら
「幽霊じゃありません艦魂です」
「艦魂?なんだそれ?」
「私達のような存在のことだ。1つの艦に1人は存在する船の精霊のようなものだ」
睨みつけるようにして奈菜が言う。
「へぇ」
本当に知らないらしく男は零と奈菜をまじまじと見つめた。
「じ、じろじろ見るな変態が」
「へ、変態はないと思います。奈菜」
「しかし、零さん」
男はにっと笑うと
「そっかお前ら奈菜と零っていうんだなよろ…」
その瞬間2人の艦魂の表情がこわばった。
空気が一変したといっていい。
「貴様…取り消せ!」
「取り消してください」
「え?何?なんだ?」
2人が怒っているのはろくに知りもしない男が自分達のことを真名で呼んだからだ。
親しき名でないものは艦名で彼女達のことを呼ばねばならない。
それがこの世界における絶対のルールだ。
本人達の前では絶対に呼んではならない。
それを破れば殺されても文句は言えないのだ。
「貴様ごとき下郎に真名を呼ぶことを許した覚えはない!訂正しろ!」
「私も許していません訂正してください」
「ちょ!」
男はさすがに2人から発せられる気が本気の殺気であることに気がついたのだろう。
慌てて
「ま、待て!奈菜と零って…グハア」
今度は男は問答無用で吹き飛ばされた。
奈菜のストレートが腹に決まり男は吹き飛んだのだ。
ザザザと空母の甲板を滑っていく男は滑稽だった。
さらなる追撃をかけようとする奈菜に対し男は大慌てで怒鳴った。
「悪い!訂正するからやめてくれぇ!」
「駄目許さない」
その後、男は奈菜にぼこぼこにされて気絶した男の額に零が肉と書いて彼が上官にぶっ飛ばされたのは別の話。
救援艦隊の1幕であった。
<合格本島特攻編>
兵士「少将!敵第1次攻撃隊が本艦隊へ接敵するまで後2日です」
作者「うむ…零戦艦隊と越後艦隊には感謝せねばならんな」
兵士「詳しくは紀伊の感想をどうぞ」
作者「誰に話しているのかね?」
兵士「はっ!独り言です」
作者「そうか独り言か…しかし、このまま行けば2日後には合格本島付近へ突入できる…」
果たして作者率いる『草薙』艦隊は合格本島へ突入できるのか?それは通知が来たら書きます。
凛「で?後2日なのに随分余裕じゃない」
作者「そんな…死ぬ思いですよ」
凛「他の作者の読者は進んでるようだけど?」
作者「いやいや、黒鉄先生のモンハンも20話前で止まってるし結構読んでないもんですよ」
凛「終わったら読むの?」
作者「合格本島へ突入できたらいいんですけどね」
凛「支援してあげようか?」
作者「はっ?どういう風のふきまわし?頭狂いましたか凛様?」
凛「ひ、人が優しくしたら付け上がるなんて!あんたなんか不合格の深海へ沈みなさい!」
作者「うぎゃああああああ!」
ズドオオオオオオン
凛「…馬鹿」