第12話 原子力空母『蒼龍』偵察す
「ついにジャップ艦隊に引導を渡すときが来た」
その男ハルゼーは戦艦アイオワの艦橋で拳を握り締めて言った。
彼の眼前にうつるのすさまじい数の空母である。
そのほとんどは護衛空母だが正規空母のエセックス級1番艦エセックスを始めとし
ヨークタウン、イントレピッドの同エセックス級の正規空母が港に停泊している。
史実ではエセックスすら就航していないこの時期にエセックス級の空母が3艦あるのは
大統領が就航を急がせたためだ。
そのため本来ヨークタウン、イントレピッドの名を与えられるはずだった空母は別の名がつけられることになるのは別の話である。
ともあれ、カサブランカ級の空母もおり日本から見れば目が飛び出るほど驚愕するほどの空母がそこにはいたのだ。
さらには戦艦、重巡、駆逐艦も多数いる。
この大艦隊は2つに分かれて日本艦隊を撃滅するのだ。
ここでその戦力を説明しよう。
まず、ハルゼー率いる艦隊の中核は空母エセックスである。
それに護衛空母が17隻と戦艦、重巡、駆逐艦と続く。
航空戦力だけでも500を超えるすさまじい大機動部隊である。
さらにこのハルゼー艦隊には就役したばかりの新型の戦艦、アイオワも戦線に加わっている。
次にスルプーアンス率いる艦隊である。
これはエセックス級空母2隻と護衛空母が25というハルゼー艦隊を上回る航空戦力を要する艦隊だった。航空機の数はなんと900を越える数を誇っている。
こちらは戦艦の数はハルゼー艦隊に劣っていたがそのありあまる航空戦力は主力艦隊
として日本と戦うこととなる。
作戦目標は日本連合艦隊の壊滅である。
そのために日本の戦力をあぶりだす必要があり太平洋艦隊司令長官チェスター=ニミッツが考え付いた作戦は東京強襲である。
まず、ハルゼー率いる艦隊が呉を目指すように見せかける。
ハルゼー艦隊のみでも日本から見れば大艦隊である。
これを囮と考えるなど貧乏根性の染み付いている日本人には不可能だろう。
従って日本軍は全艦隊を持って迎撃に出てくるはずだった。
しかし、いかに数をそろえているとはいえ零戦は優秀である。
さらに敵はジェット戦闘機を開発したというではないか。では、こちらも
ジェット戦闘機を投入しようという話はあったが残念ながらアメリカ初のジェット戦闘機シューティングスターが初飛行するのは史実では1944年のことである。
従って零戦を上回る戦闘機としてF4Fグラマンが艦載機として乗せられることとなった。
ジェット戦闘機にレシプロ機では無謀では?と考える人もいるだろう。
しかし、レシプロ機でもジェット戦闘機に対抗する手段はあるのである。
それはそうとハルゼー、スルプーアンスはこの作戦に疑問を持っていた。
戦力を2つに分けるなど愚の骨頂であるとハルゼーはスルプーアンスの報告を聞いてから思っていた。
2つの全戦力を合わせれば航空戦力は1400である。
いかに敵がジェット戦闘機を繰り出したからといって安々と迎撃できる数ではない。
それに後少し時間をずらせばエセックス級空母2隻と護衛空母が真珠湾に到着する予定なのだ。それをあわせれば2000以上の航空戦力が揃うことになる。
まさに鉄壁の布陣になるというのにニミッツは艦隊発進の命令を出し今2つの艦隊は別れそれぞれの敵へと向かっている。
「艦隊を2つに分けたことがあだにならなければよいのだが…」
ハルゼーは闇が深くなっていく空を見ながらつぶやいた。
独立機動艦隊所属の原子力空母『蒼龍』は半月ほど前からアメリカ艦隊の動向を探るため連日偵察機を飛ばしていた。
ジェット戦闘機『神雷』の航続距離は5000を誇る。
現在日本に存在するどの航空機よりも素早く広範囲をカバーすることの出来る偵察機としての役割を持っていた。
無論ミサイルは装備しており敵に遭遇しても戦うことが出来るようになっている。
もっともこの時代のアメリカ航空機に『神雷』に追いつくことの出来るものはいない。
原子力空母『蒼龍』には『神雷』を含めた航空機が320機搭載されているのだ。
「見つかりませんね艦長」
原子力空母『蒼龍』の艦長室である。
テーブルを挟んで2人の人物が将棋をさしている。
「そうね。アメリカの機動部隊の再建はすでに完了しているはずでしょうし」
パチっと『蒼龍』艦長、雨宮 葵は駒を進めた。
「もっと戦力を増強しようとしてるんじゃないですかね?1万を越える航空戦力で
日本を直撃するとか?」
と、参謀長の釘宮 雄大は言いながら角を動かした。
「そうね…」
そこで雨宮は考え込むようにして盤面を見つめる。
「まあ、レシプロ機が何万押し寄せようと『神雷』の敵じゃありませんけどね」
長考に入った雨宮を見て釘宮はにやりと笑った。
ここで人物の紹介をしておこう
雨宮 葵は『蒼龍』艦長で19歳の女性である。
異例とも言える若さだと思われるが独立機動艦隊の構成員は基本的に年齢が若い。
未来の日本が『クロノロード』計画を立ち上げたときに同時に孤児の子供達が集められ
専門の教育を施したのである。
そのため日向や椎名達は例外だが基本的に40歳を越える者は極端に少ないのである。
雨宮は女性だが能力重視の未来ではなんら抵抗なく艦長の席に収まったのである。
とはいえ昭和のこの時代ではさすがに女性艦長など全世界でもほぼいないといってもいい状態なので浮いた存在ではあったのだが…
ちなみに釘宮 雄大は21歳の男であり彼女の参謀長を勤めている。
「油断は禁物よ釘宮君。はい、王手」
パチッと飛車が動く。
「…」
ぐっと釘宮は息を飲んだ。
逃げ道のない王手である。
「ま、参りました…」
これで対戦成績は多分100敗以上になっただろう。勝は0で全敗である。
「もう一回やる?」
ふわっと長い黒い髪を後ろに回しながら雨宮が言う。
「やります…」
どうせ敵発見の報告があるまで2人は特にすることはないのである。
油断さえしなければ問題ないし確かに潜水艦の攻撃は激しいが対潜警戒でシーホークが辺りを飛び回っているので被弾は0。
敵からすれば空母が単艦で洋上に出ているなど信じられない状態ではあったが2045年の未来空母を撃沈することは出来なかった。
イージスシステムこそないが最新式のレーダーやミサイルを積んでいる『蒼龍』はまさに
鉄壁の動く城である。
とはいえ、不覚にも敵潜水艦に敵空母発見の報告を数回許してしまっている。
まあ、『蒼龍』の戦闘力でも太平洋艦隊と互角に渡り合うことは出来るだろうが
仮に1万を越える航空戦力をぶつけられたらさすがにまずい。
『紀伊』や『尾張』ならなんとかなるだろうが空母共通の装甲が薄いという弱点は未来でも同じであるが2戦艦と4空母には2045年でも日本しかもっていないある取って置きの
装置がある。
それさえ使えば勝てなくても絶対に負けないという結果になるのだが…
ピーピー
「ん?」
将棋の駒を並べていた雨宮は耳にあるインカム型の通信機についたボタンを押した。
「どうしたの?」
そして、それを聞いた雨宮はうなずきながら
「分かったわ。『蒼龍』は予定通り『神雷』を収容し終え次第予定の海域に向かいます。
『長門』、『紀伊』、『尾張』への連絡を忘れないようにね」
インカムの通信機を切ると雨宮は立ち上がると釘宮を見ていった。
「来たわよ。敵は艦隊を2つに分けて日本を目指してる。日向長官の読み通りなので
私達も予定に変更はないわ」
それを聞いた。釘宮はやはり日向長官は改めてすごいと再認識するのだった。
凛「ついにアメリカ艦隊が動き出したわね。でもあわれね。自分達が恭介の手のひらで踊ってるとも知らずに…。次回予告は日本連合艦隊と独立機動艦隊が動くみたいよ。後、ご意見・感想お待ちしてますと作者から伝言」