第112話 エースパイロットとして
神崎 凪が始めて戦闘機に乗ったのは15歳の時であった。
始めはF22ラプターであったが後に『神雷』へと乗り換えた。
天才パイロット、100年に1人の逸材などといわれて凪は周囲の期待にこたえようと必死にがんばった。
2042年と決別する瞬間多くの人々が思ったことを凪も思った。
護れなかった。
護りたい日本は国連軍に滅ぼされ再び日本連合艦隊は壊滅した。
日本を滅びから救う戦いに突入した後も凪は戦い続けた。
スプルーアンス艦隊と激突したときホーネットを沈めたのは凪の対艦ミサイルであった。
ワイルドキャット、グラマンを落として落として落とし続けた。
紀伊のハリアー航空隊は無敵ではない。
すでに5人の戦死をだしているのだ。
よく知る人もいたしまったく話したことのない人もいた。
これが戦争と実感する瞬間でもあった。
明日は自分が死ぬかもしれない。
そんな恐怖と戦い続けるのは兵士共通であろうがパイロットは戦死率が極めて高いのも事実だった。
天才パイロット、エース。それを背に戦う自分は常にがんばらないといけないのだと凪は自分に言い聞かせていた。
「がんばらないと…」
「起きたか?」
「!?」
頭上からの声に凪の意識は覚醒し急に起き上がり頭に何かがぶつかった。
ゴツン
「痛!」
「痛て!」
頭から火花が飛び散るかと思ったが頭を抑えて凪は涙目で相手を見た。
「日向長官!」
同じく涙目でこちらを見ている恭介がいた。
「いてて、いきなり頭突きはないだろ神崎」
「す、すみません!」
凪は慌てて立ち上がり辺りを見回した。
「え?え!私眠っちゃったんですか?」
「そうだな」
恭介はパラソルの下においてあるクーラーボックスからコーラーを取り出すと凪に投げて寄越した。
「あ、ありがとうございます」
ぷしゅと缶を開けてコーラーを口に恭介は含みながら
「俺がここに来たら神埼が寝てたんだよ。放っておいたら熱射病になるからパラソルを移動したんだが…」
「す、すみません長官」
「いや、いいって」
年若いといっても29だが恭介を寝顔を見られた恥ずかしさから顔を真っ赤にしながらふと凪は思った。
「日向長官はここで何を?」
「バカンスだ!」
と一発で返した。
「ば、バカンスですか?」
この非常時にと思ったが長官らしいとも凪は思った。
独立機動艦隊は日本軍から見れば天皇直属の艦隊といっていい組織である。
未来からの期待と全独立機動艦隊の信頼。
その重圧はすさまじいもののはずであるが彼が苦悩するところを見た人間は少ない。
「あ、パソコン」
机に置かれているパソコンを見て凪が言うと恭介は少し困った顔になった。
「あ、ああ…ゲーム用のパソコンだ」
「嘘ですね」
今度は凪がぴしゃりと恭介の言葉をさえぎった。
「ばれたか?」
嘘をついたことを悪びれたような様子もなく恭介は言った。
「本当は何してたんですか?」
「まあ、あんまり人には言うなよ?」
パソコンを凪に見せた。
「これは…」
そこには航空機の立体映像が描かれていた。
青い海を思わせる綺麗な戦闘機だった。
「烈風を上回る戦闘機、震電だ。三笠がタイムスリップに失敗した以上烈風並の戦闘機が欲しくて琉球基地の開発チームに作らせたんだ。ただ…」
恭介は言いにくそうに
「1機しかないんだよ…」
「い、1機だけですか?」
凪が驚いていった。
「量産は今の技術レベルでは不可能で恐ろしく金がかかる。金塊を未来から持ってきてなければ絶対に作れなかったと開発チームリーダーに言われたよ」
「そのデーターを見てたんですか?」
「まあ、それだけじゃないだけどな…神崎、この戦闘機のパイロットやってみないか?」
「え?」
「ハリアーは完全に上回っているし垂直離着陸も可能だから紀伊での運用は問題ない。希望するなら空母に移動させてもいいが紀伊がいいだろ?友達もいるしな」
「あ…」
恭介の言う友達とは藤宮 桜のことだろう。
全ての兵を把握しているわけではさすがにないだろうが…
「私は…」
また期待かと凪は肩に重圧がかかるのを感じた。
1機しかない戦闘機のパイロット。先輩達を差し置いての実力主義の配置。
断ろう。そう凪は思った。
「私は…」
「嫌か?」
普段は常に砕けた態度で接する長官。その恭介は今真剣な顔つきで凪を見ていた。
「自信がありません…私は日向長官のようには…」
こんな自分がエースだなんて笑える話だなと凪は思いながら言った。
「俺もないぞ自信」
少し砕けた口調に戻り恭介は言った。
「長官がですか?」
凪は素直に驚いた。
日向 恭介といえばいつも余裕の表情を浮かべ指示を行う名将というイメージが凪の中にはあった。
状況判断力や大局を見る目は山本長官に匹敵する。
その彼が自信がない?
「俺は周囲に期待されてるからやっているだけさ。いつも不安でびくびくしてるんだよ。
この判断はこれでよかったかとか間違ってないとかな。特にあのフレドリクって野朗が現れてからは本当に落ち着く暇もない。まあ、言いたいのは始めから自信満々の奴より少しくらい不安を抱えて努力を怠らない奴の方が機体の性能は引き出せるだろうしな。
夜中までシュミレーションで練習している奴とかな」
「あ…」
やはりばれてたんだと凪は思った。
今日はばれるのは仕方ないとしてもこの人は少なくてもパイロットに関しては目を向けていてくれたということか…
「今だって本当はこの後の戦略を考えてた。明日山本長官と調整する奴だ」
「い、いいんですかそんなこと言っても?」
凪は慌てたが恭介は笑いながら
「ハハハ、大丈夫だって中身は言ってないから」
「もう…」
そういいながら凪は自分が笑っていることに気がついた。
つい先ほどまであった重圧が消えている。
この人のおかげ…
自分より10歳以上年の離れた長官はん?と凪を見たので凪は慌てて顔をそらした。
(この人が期待してくれるなら私は飛べる)
凪は決意した。
「日向長官」
「なんだ?」
全てを見通しているかのような目。ああ、この人は自分が何を言おうとしているか
気がついてると凪は思ったが決意は変わらなかった。
「震電を私に下さい」
恭介はにやりと笑った。
「おう、やるよ」
とまるで子供おこずかいのようにあっさり了承。
「それとな」
恭介は続ける。
これ以上何があるのだろうと凪は思い。
「独立機動艦隊司令長官の権限で神崎 凪少尉を中尉に昇格する。後で書類を取りに艦長室にこいよ?」
「へ?」
間抜けにも凪は聞き返してしまった。
「今なんて?」
「いや、だから中尉に昇格だよ。新型のパイロットなんだから」
「あ!」
腰に力が入らず凪は砂の上に崩れそうになる。
「お、おい!」
それを恭介が慌てて支えた。
凪は顔を真っ赤にしながら
「す、すみません。驚いて…」
「だからって腰が抜けるか?パイロットの件考え直した方がいいかな?」
「そんな!私がんばります」
「嘘だよ」
「うう…」
あまり大きな文句はいえないので凪は恭介から離れようとしたのだが…
「ぬおおおおおおおおお!汝ら何をやっとるんじゃぁ!」
突然の轟音が轟き凪と恭介が声のした方を見ると水着姿の京子、星菜、弥生がたっていた。
ちなみに水着は京子はワンピースタイプ、星菜と弥生はスクール水着(最近の奴)を着ていた。
「お兄様うわさは本当なの?」
じわりと目に涙を浮かべる星菜
「き、恭介お兄ちゃんと凪って…嘘だぁ…」
ショックを受けている弥生
「認めん!我は決して認めんぞぉ!」
なんだか艦魂達にものすごい誤解をされているのに凪は気づいた。
今の格好は見ようによっては恭介と自分が抱き合っているように見えるかも…いや、絶対に見える。
「こ、これは…」
離れようと思ったが腰が抜けているので離れればこける。
離れられない。
「み、見せ付ける気なのか恭介!どうなんじゃ!否定してくれ!」
悲鳴をあげる京子であったが恭介は不思議そうな顔で
「はぁ?何騒いでんだお前ら?」
と超天然を発揮した。
「ぬおおお!この鈍感男がぁ!では凪はどうなんじゃ!恭介が好きなのか?」
「ええ!私は…」
「そりゃ好きだろ?」
恭介の爆弾発言に4人は凍りついた。
「ど、どういうことなのお兄様?」
星菜が泣きそうな顔で聞いてくる。
「司令として好かれてないとやってけないだろ?当然紀伊の乗員である神崎は俺が好きなはずだ」
と自信満々に言ってくれた恭介であったが…
3人の艦魂の少女はぷるぷると振るえ
「ん?」
「この超天然がぁ!」
と襲い掛かってきたので恭介はとっさに凪を砂に置くと回避。
「危ねえな!」
「ええい、気絶させてでも我のものにするぞ!」
「お兄様は私のもの!」
「違うよ!私のだよ!」
3人は恭介に飛び掛ってきたので恭介は全力で逃げた。
「なんか知らんがお前ら怖いぞ!」
「まだ言うか!」
ドドドと夕暮れに海岸を背に走り回る4人を見ながら凪は静かに思った。
「こんな日がいつまでも続くといいな…」
ちなみに艦魂新聞『桜』だが今回のことが問題になりしばらく休刊になったのはまた別の話。
京子「汝いいかげんにせ!」
作者「ぎゃああああ!」
ズドオオオオオオン
星菜「馬鹿!」
作者「うぎゃああああ!」
ズドオオオオオオン
弥生「死んじゃええ!」
作者「わあああ!」
ズドオオオオオオン
作者「うう…みんなひどい…」
京子「なんじゃ今回の話は!」
星菜「お兄様が…」
弥生「死んじゃえ馬鹿ぁ!」
作者「お、落ち着いてそうだこの先の話をしましょう」
京子「この先?おお、ついにハワイとは紀伊はおさらばじゃな」
作者「一時的にですけどね」
星菜「戦闘は?アメリカ艦隊との決戦まで平和?」
弥生「それもいいね」
作者「ありますよ。ガダルカナルです」
京子「ガダルカナルじゃと?奇跡の撤退作戦か?」
弥生「それはキスカだよ京子お姉ちゃん」
京子「おお!そうか」
作者「でも打ち明けると実は南太平洋の話って詳しくないんですよね…」
京子「戦記書きがか?」
作者「いや、ある程度は知ってますよ?南太平洋は史実のミッドウェーの時から変わってませんから。アメリカというかガダルカナルを攻めるならどこから敵が出撃してくるかよければ読者の方にヘルプを」
京子「情けないやつじゃ…読者よ協力してはくれんか?罰を与えるゆえ」
作者「ぎゃああああ!」
ズドオオオオオオン
星菜「よろしく」