表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

「マジでやばい感じのやつ」

―――――――――――――――――――――

(…ここはどこだ?)

二度目の気絶から意識を取り戻す。一度目とは違う、明らかな悪意のある誘拐だ。俺は静かに、そして慎重に周りを警戒する。今のところ、この場所に人の気配はないようだ。

俺はゆっくりと目を開ける。予想通り、周りに人はいなかった。

壁や天井、床にドア、少しも漏らさず全て茶色の木材で作られているその部屋の内装は、いたってシンプルなものだった。壁の隅には椅子が一つだけポツンと置いてあり、それ以外は俺の寝ていた固いボロボロのベッドだけだ。


俺はベッドから立ち上がろうとする。しかし、その左手にはかせがしてあり、自由に動かすことはできなかった。

これは、冗談でなく本当に誘拐されたようだ。マジでやばいやつの方だ。しかも、魔法や剣が当たり前なこの異世界で。

「おや、起きたようだね、先生」

どうにかして枷を外せないものかと思い動いていた音を聞いて気づかれたのであろう。ドアが開き、そこから校門の前で会った男が姿を現した。

格好は全く変わらないものだったが、その表情は全く違って、下衆げすな笑い顔になっていた。


「…何が目的なんだ?」

俺はその男を睨みながら質問をする。だが、その男は俺のことを全く気にせずに部屋の隅にある椅子へと歩いて行き、そこにどっかりと座り髪をいじりだした。

「全く、ありきたりな言葉を言うものだね。やはり教員とはマニュアルに沿って動くただのロボットのようなものなのかい?全然面白くないよ。うん、面白くない」

男は俺の質問を無視して勝手なことをべらべらと喋る。

「何を言ってんのか分かんねえが、さっさと要件を言えよ。ま、どうせ俺には何の権利もねえから、何もできないだろうがな」

少し自虐っぽく言い放つ。この男は、俺をさらう前に学校の関係者なのかどうかを確かめるような質問をした。つまり、おそらくあの学校に何らかの恨みがあって、それをはらすことが目的なのだろう。

しかし俺は、今日教員になったばかりどころか、今日この世界に来たばかりなのだ。嘘ではなく、本当にできることなど何もない。だから、先に俺には何もできないということを男に明確に伝えておく。


だが、男はそのことになにも不快に感じることなく、むしろ笑顔をより一層深めて笑う。

「ハハハッ!何の権利も無い?逆に誘拐犯が権利を持っている人間を誘拐すると思うかい?思うのかい?誘拐ってのは、ある人から金をもらったりなにかを変えてもらうために、その人の大切なものをさらうことを言うんだよ。ハハハッ、君は少しは常識とはずれたことを言うようだね」

男は立ちあがり、俺が寝ているベッドに近づき、体を180度近く横に曲げて、目を見開いて俺の目を覗き込みながら言う。

「面白かったから、君のその願いを叶えよう。叶えてあげよう。君への要件は、『何もするな』だ」



―――――――――――――――――――――

「クソッ、あの野郎、いったい何するつもりなんだ?」

男がドアの外に行ってから、再度枷を外せないかと試してみたが、外れる様子はなかった。

『君には何もしてもらわない。僕は、君らの長に罪を償ってもらいたいんだ。君はそのための人質さ』

ドアを出る前に男が言った言葉を思い出す。君らの長というのは、おそらく学校の長、つまり理事長であるイリエスのことを言っているのだろう。

イリエスのした罪、少し、いや、とても気になるところではある。見ず知らずの俺が追いかけられているのを助けてくれるような奴が何かするだろうか?

…スゲー何かしてそうだな。ガキだの幼女だの言われてキレたり、勝手に人を釣り上げたりしてそうだな。

しかし、人を誘拐してまでも晴らしたいものとはいったい何だろう?よく分からないが、とにかく今はここからどうにかして脱出、もしくは外部に連絡しないと…


その時だった。俺のズボンの右ポケットが光りだしたのは。

一体どうしたのだろうと、俺は不思議に思いポケットに手を入れる。その中には透き通るような水色の光る石が入っていた。

なぜこんなものが俺のポケットにあるのだろうか?いつの間にか入っていたそれは、なぜか突然光りだしたのだ。

数秒間それを見ていると、それからさらに別の色の光が出てきて壁に映像を投影した。そこに映ったのは…


「あ、アーヴェルス!?」

「誰が呼び捨てで呼んでいいつった、クソガキが」

そこには2m越えの獣人、アーヴェルスが映っていた。

「聞いたぞ。お前ごときのクソガキが教員試験に受かったらしいじゃねえか。本当は不本意だが、なぜか理事長はお前のことを気に入ってるみたいだからな。特別にお前が教員になることを許可してやる」

「なんで校長のあんたからの許可がいるんだよ…つーか、イリエスのどこに俺のことを気に入ってる要素があったよ?」

誘拐されているというのに、俺は少し拍子抜けする。

「だが、理事長との約束を破るとはどういうことだ。クソガキ、お前今どこに居る?」

そう言いながらアーヴェルスが睨みをきかせてくる。その覇気は、映像越しにも伝わってきた。

俺は今の状況をすべて話す。学校の前で誘拐されたこと、気が付いたらよく分からない場所にいたこと、そして、犯人は学校に何らかの関係があること。


そして、全て聞いたアーヴェルスは鼻を鳴らして言う。

「ハッ!正直お前が誘拐されただけならどうでもいいから放っておくが、学校に関係のあるやつならそうするわけにはいかないな」

「できれば関係なくても助けてほしいんだがな…」

そんな俺の言葉を無視して、頭をかきながらアーヴェルスはめんどくさそうに言う。

「ま、心配すんな。その通信石つうしんせきには場所が分かる機能もついている。お前のいる場所はすぐにわかる」

通信石…こっちでいう携帯みたいなものだろうか。便利な石があるなものだな。しかもGPS昨日までついているとは。

「つーか、はっきり言えば既に1人教員を向かわせている。そいつにすべて任せてあるから後はどうにかしろ、じゃあな」

「いやどうにかしろって…あ!ちょっと待てって!」

最後まで俺の話を無視して、アーヴェルスは一方的に通信を切る。もう一度通信しようと試みるが、こちらからどうすれば通信できるのかが分からない。叩いたり、もう一度ポケットに入れたりなど、色々試してみたが、やはり起動することはできなかった。

仕方なく、俺は通信石をポケットに入れて、再びベッドの上に座る。アーヴェルスが教員の1人を助けに向かわせたと言っていたが、本当に来るんだろうか?


その時、またドアが開いて例の男が現れた。

「やあ、元気かい?元気にしてたかい?今ようやく君の学校に連絡が出来たよ」

その嫌味な笑顔を見て、俺は通信石のことがバレてないのを知って安堵した。男はコツコツと足音を立てて、さっきと同じようにベッドの横まで来る。

「面白い情報が入ったよ。君、今日教員になったばかりのようだね。係の教員がそんなやつのこと知らないって言ってたよ。理事長さんは知ってたみたいだけど」

俺は気づかれないくらいの大きさで舌を鳴らす。こいつに俺が教員になったばかりだと知られたのだ。もし、この世界のことをほとんど知らないのもバレたら、価値がないと判断され殺される可能性だってある。


「まあ、理事長さんは君が誘拐されたと知ったら慌てふためいていたよ。あれは面白かった。うん、面白かったよ」

そうして男はハハハッと笑う。

「…そりゃどうも。あの無表情女が慌てふためく姿なんて想像もできないかんな。珍しいことを聞けてラッキーだぜ」

話を適当にそらして、俺は助けが来る時間を稼ぐ。今、コイツに何かされたら終わりだ。俺一人で、しかも左手に枷がはめられているこの状況で勝てる見込みはまず無い。このまま助けが来るまで耐えないと。


だが、そんな俺の考えをあざ笑うかのように、男は告げる。

「それでも冷静な判断をしたようだよ。『そいつが誘拐した証拠はあるのか』、だってさ。さすが一グループをまとめる長だとは思うが、つまらないね。全然面白くない。そうしたら僕がどうするかなんて分かりきってるのにね」

そうして男は最初と同じように、体を曲げて覗き込む。そして、ポケットからカッターナイフを取り出して言う。

「悪いけど、君の耳を切り取らせてもらうよ。ごめんね、でも君の長がいけないんだよ。つまらないことをするから。つまらないことで返さないと」

そう言って男は左手で俺の顔を固定して、右手でカッターナイフを握る。

俺は必死に抵抗する。しかし、男の力は外見以上に強く、全く無意味な行動となった。

そして、カッターナイフが俺の耳に近づく。俺はこの時点で悟った。もうだめだ、俺の人生は異世界に行ってただ教員になっただけで終わるんだ、と。


その時だった。ベッドの横の壁が、バギッ!と派手な音を立てて盛大に割れたのは。


突然のことで、俺どころか男すらも固まった。その隙をつくかのように、向こうから人影がとびかかってきて、男を吹き飛ばす。

「グウッ…」

男は反対側の壁に体をしたたかに打ち付ける。相当な勢いでぶつかったからだいぶ痛いだろう。

俺はその入ってきた人を見る。

それは金髪のロングヘアーで蒼眼の、まるで騎士のような美少女だった。背丈的には高校生で、フリル付きの水色と白のドレスを着ているその姿は美しいものだった。

「…って、あんたは…」

その女は俺の方を振り返り、そして驚きの表情を浮かべて言う。


「あなたは…あの時の変態さん!!」

「誰が変態さんだ!!」

次話は8話にしてようやくバトルに入ります。

展開が遅くて本当にすみません(>_<)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ