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「もしかして○○の方ですか?」

―――――――――――――――――――――

「いや、ごめん何言ってんのか分かんねえんだけど…」

「だから、あなたにこの高校の教員になってほしいのです」

どゆこと?聞いた限りここでは魔法を主に教えるはずだろ?出会った初っ端から逃げている姿であったはずの俺の姿を見て何故魔法の教員にしたいと思ったんだろうか。仮に勉強の方にしてもどう考えても外見的に授業受ける側だろ。まあこいつを目の前に外見のことなんて言えないのだが。

「えっと、言っておくけど、俺その魔法とかろくに使えないし、勉強も高校生レベルしかできないぞ?」

だから教員には向いていない、ということを先に言っておいた。

しかし、イリエスはまた小首をかしげた。

「魔法のことはできなくてもおかしくはありませんが、勉強はどう見てもできるでしょう?嘘をついても無駄ですよ」

「は?いや、嘘とか言ってねえよ。マジだからさ」

「何を言ってるんですか?だからあなた服を見れば分かるって言ってるのです」

「服?俺の?」

言われて自分の服を見る。パーカーを脱いだそこには「阿吽の呼吸」と書かれているクソダサTシャツを着ているだけだった。

これ見てどのあたりに勉強できる要素があるんだよ。バカ丸出しのTシャツじゃねえか。

そう思った俺とは違う考えがイリエスにはあるようで、まだ俺の服を見ている。バカと天才は紙一重と言うが、こいつはまさかこれで天才だと思ってるのか?

「お前さぁ…バカなの?」

「なんでそうなるんですこの小魚…だんだんあなたが馬鹿なんじゃないかって思えてきました」

無表情のままなのに何故か分かりやすく呆れた雰囲気が漏れ出すイリエス。

「だからですね、あなたの服の…」

と、イリエスがそこまで言いかけたとき。


ドンッ!ドンッ!

となにかを強めに叩く音がした。一体どうしたのだろうかと、俺が周りを見回していると、

「どうぞ」

と唐突にイリエスが、少し大きめの声で言った。すると、ドアが開く音がした。

俺はそちらの方を向いて、予想だにしない人を目にする。

そこにはオオカミのような獣人がいた。外見には似つかわしくないスーツを着ているその獣人は、左目に傷が入っているうえにむっつりとしたような顔で立っていて、はっきり言ってそっちの道の人にしか見えなかった。しかも身長が高すぎる。頭が天井すれすれなので大体2メートル50センチくらいだろうか。街の中にもこんだけの奴は見ていない。

そんなやつがドアの場所から俺を見下ろす。少し離れているはずなのに見下ろすことが出来ることからどれだけ身長が高いかが理解できる。

「あぁ!?誰だお前、なんでここにいる?」

俺の姿を見た瞬間から睨みつけたままの獣人が言う。

「へ…いや…そのー、ですね」

しどろもどろになる俺に、その獣人はさらに気迫をまして迫る。

「誰だって聞いてんだろうが!!」

「ひゃい!すみません!」

もうやだよ、何この人。めちゃくちゃ怖いんだけど。やっぱり幼女のイリエスが理事長っていうのもおかしいと思ってたが、もしかしてこいつがホントの理事長じゃないのか?

「おい、もっかいだけ聞くぞクソガキ…お前は…」

「やめてください、アーヴェルス先生」

獣人がそこまで言いかけたとき、イリエスが静かな口調で言った。

「その人は私の客人です。勝手なことはしないでください」

「しかし、理事長!」

「もう一度だけ言います。勝手な言動は慎みなさい」

今までのふざけた雰囲気とは完全に違って、そこには無表情のままなのにもの凄い気迫を出しているイリエスがいた。

その姿を見て思う。コイツはやはり理事長なんだと。

「っ、申し訳…ございません…」

幼女の理事長から出るその気迫には獣人の校長も恐怖を感じるのか、さっきまでの勢いをなくして深々と頭を下げた。

しかしあれだな。なんかこの2人が並ぶと色々な意味で異質だよな。身長違いすぎたり、獣人と人間だったりで、今にもイリエスが誘拐されそうな感じだ。

実際には獣人の方が頭を下げているわけだが。

そしてイリエスもこちらを向き、頭を下げる。

「我が校の校長が勝手なことをしてすみません。この人は初めて会った人にはいつもこうなのです」

「毎回皆ビビらせてんのかよ…」

今までの人たちめっちゃ不憫に思えてくるんだけど。

「この大きな人が校長のアーヴェルス先生です。先生、この人が新任のこざ…ユート先生です」

「はぁ!?こいつがですか!?私は反対です!」

「アーヴェルス先生、失礼ですよ」

「いや、俺まだ教員になるとか決めてないし…」

ていうかどう考えてもお前の小魚の方が失礼なんだけど。

そんなこと考えてる間にイリエスが俺の方に向き直る。

「それで話は戻りますが…何の話でしたっけ?」

「忘れるの早いなおい。俺の頭の良さの話じゃなかったのかよ…」

俺がそう喋ってとき、アーヴェルスが俺に対しての殺気を強めて(元から出ていた)睨んできた。その顔には『ケイゴデハナサントコロス』と表されていた。

「で、結局俺のこの服がどうしたんだ?」

が、わざと無視する。アーヴェルスは俺の行動にさらに機嫌が悪そうな顔をしたが、やはりイリエスに怒られるのを恐れているのかそれ以上何も言わなかった。やった後にイリエスがいなくなったらどうしようと思っているわけだが。

「そう、その服ですよ。そこに『阿吽の呼吸』と書いてあるじゃないですか。そのような難しい漢字を知っているならあなたは相当勉強できるのでしょう?」

長々と引きずった話を軽く話すイリエスだったが、結局意味が分からないことを言っていた。高校生くらいならこのくらい普通に読めるだろ。現に目の前の幼女ですら読むことが出来たわけだし。

そう思った俺は軽々しく発言をする。

「このくらいなら、別に小学生が読めても問題ないだろ」

しかし、その発言をしたときイリエスだけでなく、横にいるアーヴェルスですら顔をしかめる。まるで『何を言ってるんだ、こいつは?』と言いたげな顔で。

「…え?俺今なんか変なこと言ったか?」

普通なことを言ったはずなんだがな。

そして、少し間が空いた後、イリエスが口を開く。

「…まさか小魚、あなた今まで学校に行ったことがないのですか?」

「なんでそんな結論になるんだよ!」

漢字を小学一年生でも読めるっていう奴=学校に行ったことがない、となる過程が全くわからん。

ほんの少しだけ驚いた表情が混じっているイリエスは、話がかみ合わないために俺に説明する。

「…知らないかもしれませんが、普通小学校や中学校では漢字は習わないのです。そもそも、漢字は敵と戦う中でははっきり言ってほとんど意味がありませんし、それを習うくらいならその分の時間を魔法強化や戦闘訓練に使ってくれと言う意見も多いのです」

なるほど。ここは異世界なんだ。直接どんなのがあるか見ていないけど、魔法と言うものが存在するんだから、その方がいいかも知れない。

だが、多分現実でも一教科だけ多くできないように、こっちでも戦闘のみにすることはできないのだろう。

その後もイリエスは学校の情勢を詳しく喋り続ける。

「…というわけで、小魚にはぜひ教員になってほしいのです。お願いできませんか?」

最後にそう言って、イリエスは喋るのをやめる。

しかし、何度も言うように俺は17歳のバリバリ現役の高校生だ。そんな俺が教えるなど到底できないだろう。

「悪いけど、多分俺じゃ…」

その仕事は無理だ、とそう言って断ろうとしたとき、

「理事長の頼みですからね。断ることはまずありえないでしょう…ね?」

理事長の横にいるアーヴェルスが今までとは全く違う笑った表情でそう言ってきた。しかし、その殺気は全く変わらない。

おそらくよほど理事長に敬意を示しているのだろう。その理事長の頼みを断れば「本気で殺す」というオーラがひしひしと伝わってきた。

「アーヴェルス先生、落ち着いてください。それでユートさん、お願いできませんでしょうか?」

イリエスが再度俺に頼む。

しかし、しつこく言うが俺は17歳のバリバリ現役の高校生だ。そんな俺が教えるなど到底できないだろう。

悪いけど、多分俺じゃ力不足だ。


なんてことは、この威圧的な場面で言えるわけがなかった。




もしよろしければ、ブクマや感想等よろしくお願いいたします。

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